至誠の愛

編集者の言葉

清明節(台湾では先祖の墓参りをする)の四連休初日、一台の作業用車両が花蓮県清水トンネル手前の線路上に落下し、特急タロコ号は急ブレーキをかけたが、間に合わず、衝突して脱線した。台湾鉄道史六十年において最多の死傷者を出す惨事となり、国内外に衝撃を与えた。

花蓮慈済病院は直ちに「レッド九号」(重大事故発生による緊急体制)を発動し、医療スタッフは救助のために現場に駆けつけ、慈済ボランティアは食糧や飲料水などの補給で後方支援し、負傷者への治療の付き添いや犠牲者家族への寄り添いを行い、後続の慈善ケアも発動した。

證厳法師は「今回の禍は、人々に悲しみをもたらしましたが、乗客が互いに助け合って困難な状況から脱出したり、社會各方面からも心温まる声援が届いたりして、輝く人間性の美しさを見せてくれました」と言った。また、法師は慰問の手紙で全世界の慈済人からの至誠と愛を伝え、犠牲者の魂が安らかになり、生存者の心が落ち着くよう願った。

慈済は創設から満五十五周年を迎える。今回の緊急災害支援で、苦難の人に寄り添う初志は、過去の経験の蓄積のおかげで、今まで通り支援活動ができた。慈済人は再び生命の無常を体得したことで、当然のこととして「今」を把握して奉仕したのである。

今月号の主題報道のテーマは「慈済の未来への展望」である。この半世紀の歩みの後で、絶え間ない社会の変化を見据え、どのような挑戦が待ち受けているのかを問いかけている。高齢化と少子化社会の人口構成の下で、慈済ボランティアも徐々に高齢化しているため、如何にして次世代に伝承し、永続発展させるべきか、そして、どのようにして社会ともっと頻繁にコミュニケーションを取り、大眾により慈済を理解してもらうことができるか、といった重要な課題について述べている。

近年来、慈済基金会は組織の活性化と改革を進めてきた。二○一六年からは、基金会の志業運営に関するあらゆる種類の情報をガラス張りにするため、「企業の社会的責任報告書」(CSR Report)を発行しており、二年に一回更新されている。その報告書は元々、商業活動をする組織が社会的責任を果たすことを目的としたもので、非営利組織は政府から義務付けられていない。慈済は社会から信頼を得るために、会計事務所に依頼し、社会的投資収益率(SROI)を出してもらうと共に、第三者の認証を取得して、慈善活動の成果を数値化することで、一般大衆でも一目瞭然にしている。

第一線のボランティアにとって、次世代との価値観の相違に遭遇することは避けられないが、彼らは親のような優しさと忍耐でもって包容している。「慈済家族」出身の二代目ボランティアでさえ抵抗することもある。それが往々にして自身の人生で苦を味わった時に、慈済人の寄り添いと無条件の愛が、彼らの頑なな心の壁を取り払っていくのだ。

證厳法師は、慈済の活動だけができて、宗教的情操や修行心が不足していれば、慈済はただの一般的な社会団体に過ぎない、と繰り返し念を押している。宗教的な修行とは、狭義的な宗派の区別や教義の定義をすることではなく、宗派や名を超越して、区別することなく、苦難者に至誠の愛を奉仕することである。仏陀の「無緣大慈、同体大悲」に源を発する精神こそが、慈済が着実に人間(じんかん)菩薩道を歩み続ける核心なのである。

(慈済月刊六五四期より)

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