慈済のCSR報告書─愛の奇跡 一元の力

一般大衆の慈済ボランティアに対する印象は、「人数が多い」、「動員が速い」、「熱心に善行する」、「費用を自己負担し、休暇をとって活動に参加する」である。

だが、それらの形容詞を目に見える数字で表すことはできるのだろうか?慈済に寄付された台湾ドル一元は、どれほどの影響力を生み出しているのだろう?

『慈済の永続報告書(CSRレポート)』がその問いに答えてくれる。

師姐(スージエ)、一日に何時間リサイクル活動を行っていますか?」。ここ板橋静思堂で、安侯永続発展顧問公司の葉怡秀(イエ・イーシウ)マネジャーが膝を曲げ、八ページにおよぶアンケートを片手に、北京語と台湾語を交えながら一問一問丁寧に質問していた。その答えに、板橋静思堂SROIプロジェクトチームのメンバーは驚いた。

年配のボランティアは、毎朝五時にリサイクルセンターで「法の香りに浸る」お諭しを聞き、その後朝食を済ませ、そのまま正午までリサイクル活動を行い、昼食後はまた夜の七~八時まで活動を続けると答えた。「帰る時間は自分の気持ち次第です。十分にできたと思ったら帰ります」と笑って答える人もいた。旧正月にはリサイクル資源の回収量が急増して山のように積み上がるため、彼らも「残業」する。休日は特に忙しい。

プロジェクトチームが作成した社会的投資収益率(Social Return on Investment:SROI)のアンケートは、国際認証の規範に基づいて作成されているため、一人一日あたりの時間数は最大八時間までしか算入することができない。『CSR報告書』の分析編集を担当している葉マネジャーは、ボランティアたちから寄せられる「私のしたことは、全部記録してくださいね!」という要望に、「記録に入れることができない時間数は、菩薩のところに預けておきます。菩薩は見てくれていますよ!」と答えるしかなかった。

2020年末、台風22号(アジア名‥ヴァムコー)の被害を受けたフィリピンの災害慰問金の配付会場で、寄付金を受け取った被災者が愛の恩返しとして、更に人助けをする募金集めを行った。50数年前、證厳法師が主婦たちに1日50銭の寄付を呼び掛けた「竹筒歳月」。小額のお金で大きな善を為す模式が国境を超えて広がっている。(撮影・郭嘉奨)

一元硬貨が五十倍の効果をもたらす

一般大衆が慈済ボランティアに抱く印象は、「人数が多い」、「動員が速い」、「熱心に善行する」、「費用を自己負担し、休暇をとって活動に参加する」である。だが、このような形容詞を目に見える数字で表すことはできるのだろうか?竹筒に入れた台湾ドル一元は、どれほどの影響力を生み出しているのだろう?

形ある物に値段があるように、形のない愛も数字で表すことができる。コストパフォーマンス(費用対効果)という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。専門機関が計算する「善行」パフォーマンスは、人々が寄付をする時の参考になるはずだ。

慈済は二〇一五年、大手監査法人である安侯建業聯合会計士事務所(KPMG)と契約を結んで組織改善を進め、台湾で慈善基金会としては唯一『永続報告書』を出版し、これまでに三冊を出版した。『二〇一八~二〇一九年慈済慈善事業基金会永続報告書』では、社会的投資収益率(SROI)を初めて導入した。安侯建業が二〇一八年の板橋静思堂を例として分析した結果によると、人々が慈済に寄付したお金は、慈済の各種慈善サービスを通じて、一元あたり八・五元の社会貢献を生み出しているという。もしボランティアが無償で負担する項目を計算に入れたならば、数値はもっと大きくなるはずである。

安侯建業聯合会計士事務所の于紀隆(ユー・ジーロン)主席は、「SROIが八・五倍以上に達しているのは、一般的な慈善機構としてはかなり上位を占める結果です。加えてボランティアが自己負担した費用や休暇など無償の効果を算入すれば、SROIはさらに高くなり、五十倍を超えるはずです。」と説明した。このような専門分析の結果はチームを驚かせた。また、このプロジェクトは、社会的価値と影響力を評価する国際専門機構「イギリス社会価値協会(Social Value UK)」の審査を経て、二〇二〇年八月にその認証を受けた。

半年の調査を経て、影響力を数値化

「静思堂が慈済の拠点だと思っている人も多いのですが、実際には地元コミュニティのケア、環境保全活動、高齢者の介護なども含む、異なる年齢層にわたって活動が行われる場所であり、その範囲はとても広いのです」。安侯永続発展顧問の黄正忠(ホワン・ジェンジョン)董事兼総経理によれば、これまで台湾の様々な公益団体や活動の社会影響力評価をサポートしてきたが、一つの拠点で六種類の活動を計算する板橋静思堂の事例は、複数分野を算入した成果を表しており、複合的プロジェクトの先駆けとなるものだという。

安侯永続発展顧問の葉マネジャーとそのチームメンバーは必要なデータを収集するため、二〇一九年四月以降、百人以上を対象とした調査とインタビューを進めてきた。慈済の板橋地区における活動が非常に多いため、先ずはそれら慈善奉仕を「貧困支援と新芽賞奨学金」、「人道的ケアと災害支援」、「福祉サービスと心身の健康」、「コミュニティケアの現地化」、「職員及びボランティアの受け入れと育成」、「価値観の宣伝と理念の伝承」からなる六つの領域に分類した。アンケートやインタビューの対象には慈済の会員だけでなく、支援を受けた組織やボランティア、地元コミュニティの代表者である里長・隣長(里・隣は台湾の行政区画)などが選ばれた。

各種ボランティア活動の中でも、在宅ケア、機関へのケア、災害支援の三つが慈済の慈善活動の重点であり、支援を受けた弱者の家庭や養護ホームもインタビューとアンケート分析の対象となった。

退役軍人のケア施設である「栄民の家」の主任も葉怡秀さん率いるプロジェクトチームのインタビューを受け、このように語ってくれた。かつて国民党政府と共に台湾へ移住してきた外省籍軍人の多くが、年老いて栄民の家に入居したが、身体が弱って身寄りのないお年寄りたちは、まるで冷たい建物に閉じ込められているようだった。学生団体が時々訪れ、歌やレクリエーションを披露してくれるが、退職軍人のお年寄りにとって彼らはあくまで「お客さん」である。だが慈済ボランティアは、雰囲気が少し違う。月次や節句ごとの慰問では伝統的なお菓子をふるまい、温かく幸せな気持ちにさせてくれる。長期にわたって生活に寄り添うことで、家族のように親しい関係を築いているのだ。

慈済に加入して三十二年になり、板橋区で長年ボランティアを務める何瑞真(ホー・ルイジェン)さんもインタビューとアンケートに参加した。彼女は一九九六年の台風九号(アジア名‥ハーブ)による災害や、板橋ガス爆発における支援活動を回想した。現場での支援活動の時間数は数えていなかったが、一日あたり十数時間は活動していたという。やるべきことを終えなければ安心できなかったのだ。時間を忘れて打ち込む人もいたが、それはその人の「本分」だからだ。

曹聡賢(ゾン・ツォンシエン)さんは災害支援の現場には必ずボランティアとして駆け付ける。支援活動において人手と物資を中断させてはならないため、朝七時から夜八時まで働くことも多い。ボランティアはいつも、「真っ先に到着して、最後に帰る」のだ。

インタビューでは、地元コミュニティの代表者である里長も慈済の地元ケアについて語ってくれた。コミュニティには弱者の家庭も少なくないが、政府の福祉政策には法的な制限があり、全ての世帯をケアすることは難しい。だが慈済は通知を受ければ、直ぐに人を派遣して世帯を訪問し、それぞれの家庭における具体的なニーズを把握する。評価後は定期的に訪問し、必要に応じて経済的な支援や生活物資を提供する。そのような慈善活動は、安心して生活や仕事ができるコミュニティ創りの役に立っている。

交通が不便な偏境の地にある家庭を訪問する時には、ボランティアが自費で果物などを購入し、縁を結ぶ贈り物にする。プロジェクトチームがSROIを計算するためにその値段を尋ねたところ、「一年に何度も行くので、どう計算すればよいか分かりません。どれも行き当たりばったりで買ったものです」との答えが返ってきた。

無償のボランティア、自前の寄付金、費用の自己負担、休暇の自己負担、そして自前の贈り物。葉マネージャーはインタビューを重ねれば重ねるほど、慈済のボランティアが投じている時間と思いやりは、一般の人々の認識や想像をはるかに超えるものだと気が付いた。

SROI

●社会的投資収益率(Socail Return on Investment:SROI)とは、社会投資報酬率とも呼ばれ、「イギリス社会価値協会(Social Value UK)」および「国際社会価値協会」(Social Value International)が推進している。SROIを計算するにあたっては、利害関係者の参加状況を取り入れ、社会と環境の価値を貨幣価値に置き換え、実際のデータを示すことで、社会的影響力を数値化することが求められる。
●投入された資源を貨幣価値で算出し、生み出された効果の数値を投入資源を貨幣にした数値で割ると、1元で何倍もの効果を作ることができるのと同じである。

㊟ボランティアは無給であるため、2018年の法定最低賃金(時給)をもとに人件費を計算した。

個人の成長 奉仕で得られるもの

コミュニティ訪問から、新芽賞奨学金、緊急災害支援、そして機関へのケアまで、慈済のコミュニティサービスが生み出す社会的価値は、ボランティアの奉仕サービスや受益者にもたらされる直接的、感情的な利益だけではない。活動がもたらす個人の成長や家庭への影響なども、社会的影響力の項目に含まれるのだ。

葉マネージャーはインタビューを進める中で、このようなことに気が付いた。「男は外、女は家」という伝統的な考え方の中で、退職した男性が妻の家事に口を出し、子供も独立して家にいないため、しばしば夫婦間に摩擦が生じがちになる人もいる。だが慈済への参加で相互の関わりが促され、変化が生じる。「かつて塾や工場の経営のため、お酒やタバコ及び接待に関わらざるを得なかった男性が、今では奥さんと一緒にボランティア養成講座やリサイクル活動に参加し、悪習を断つようになりました」。

またボランティアの多くは元々主婦で、家庭を守っていた自分が壇上で経験を共有したり、パソコンを勉強したり、活動記事を作成することになるとは思いもしなかったそうだ。ある女性ボランティアは、慈済に加入した後に人々から「文章が上手ですね」と褒められた。思いがけない言葉に励まされた彼女は、コミュニティの素晴らしい物語をもっと記録したいと考え、デジタルカメラや映像編集を学び始めた。

「子供たちも母親の変化に気づき、もう時代に遅れているとは思わなくなりました」。葉マネージャーは、善の循環による影響力を説明した、「年老いた母親たちに自信を与え、さらなる達成感をもたらしているのです」。

板橋静思堂の「新芽賞」授与式典で、高校生たちがシニアボランティアたちから賞状と奨学金を受け取った。専門家の評価によれば、慈済の貧困支援と新芽奨学金の2項目は社会的貢献が最も大きいものだという。(撮影・呂瑞源)

デジタル時代 数字に語らせる

これまで、慈善の生み出す影響力は感動的な物語の一つ一つによって人々に伝えられるだけだった。だが、かつてハイテク企業で経験を積み、二〇一七年に慈済基金会の慈善志業執行長に就任した顔博文(イエン・ボーウエン)さんは、統計や分析などの数値を重んじる現代社会にあって、慈善組織にも数字とデータが重要だと考えた。「数字にすれば、組織の運営効率をより分かりやすく説明することができるのです」。

慈善組織に対する世の中の期待が高まる中、基準は日増しに高くなっており、効果的で根拠のある数字で成果を表すことが人々の期待に応えることになる。「数字に語らせる」ことは必要不可欠なのだ。

板橋静思堂のSROIは慈済の永続報告書の一部分にすぎない。百ページ以上からなる報告書には、組織の財務状況、公益活動関係者とその主要テーマの分析、台湾における慈善の軌跡、三十年にわたる環境保全活動など、慈済の慈善志業の重点内容や方針が詳しく分析されている。

台湾全土の慈済ボランティアが、コミュニティの弱者の家庭をサポートしており、交通費は自前で無償の奉仕をし、さらには寄付を行う。写真は基隆のボランティアたちが身体障がい者の住む古い家屋を修繕しているところ。70名のボランティアたちが5階にある廃材を取り外し、屋外に運び出していた。(撮影・黄筱哲)

また報告書によると、二〇一九年末から新型コロナウイルスの感染が拡大したため、国際支援のニーズが高まったとあり、慈済が最も早く緊急ケア活動を開始したことについても、「団結で防疫編——全世界で福を造り、善を行う」と題する記事によって慈済が全世界の公民として発揮した慈善の行動力を報道している。

永続報告書は二〇二〇年九月と十一月、台湾検験科技公司(SGS台湾)による「CSRアウォード・精英賞」と台湾企業永続学院(TCSA)による「CSR報告賞・金賞(政府・NGO部門)」および「社会共融(共同体)賞」という栄誉ある賞を受賞した。

近年、慈済の持続的発展に関する努力が、徐々に人々に認められるようになってきた。ボランティアの曹さんは、実感を込めてこう語った。今はデジタル時代なので、私たちもそれに合わせる必要がある。ボランティアの働きを数値化すれば、自分たちが本当に活動しているのだということや、どのくらい活動しているのかということを人々に説得することができる。「私たちの行動を社会に信用してもらうためには、行動したことを話し、話したとおりに行動する必要があるのです」。

国際舞台で認められ、客観的な審査機関により賞を受賞したことは、長年慈善に取り組んできたボランティアにとっても大きな意義がある。何さんによれば、永続報告書が認められたことが「呼び水」になるのだという。永続報告書とSROIによる数値の算出が国際的に認められたことにより、他の慈善組織も慈済の方法をモデルとすることができると共に、さまざまな災害支援活動の成果を共有することも可能になる。曹さんにとっても「正直に言うと、賞を獲得したかどうかはそれほど重要ではありません。受賞は『一時の』栄光感を与えてくれますが、体を使って奉仕する事こそが『常なること』だからです」。

『2018年~2019年慈済基金会永続報告書』は、台湾企業永続賞の政府およびNGO部門において、慈善基金会としては唯一「永続報告書賞・金賞」および「社会共融(共同体)賞」を受賞した。慈済基金会の顔博文執行長(左)と張済舵副執行長(右)が代表して受け取った。(撮影・顔福江)

(一部資料提供・大愛テレビ局番組部門・楊景卉)
(慈済月刊六五一期より)

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