編集者の言葉
「大きな災害は自然が人類に与えた大いなる教育です。大災害に直面した時、『認識し目覚める』べきで、自分に対して警鐘を鳴らし、天と地に対して謙虚になることです」。新型コロナウィルス感染症(covid-19)の発生以来、證厳法師は、この疫病は警告であり、大自然が与えた「大いなる教育」であると繰り返し言ってきた。
歴史を振り返ると、疫病を治療する人類の能力は大幅に向上している。十四世紀初頭に黒死病がユーラシア大陸から人口の四分の一以上の命を奪った時は、その伝染病を前にして為す術を知らなかった。だが現在、科学者は新型コロナウイルスの遺伝子配列を迅速に解明し、ウィルス検出方法を開発し、また、社会崩壊を回避するために公衆衛生などの対策を迅速に推進している。台湾は半年以上、比較的安全で安定したものだった。
イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏はメディアのインタビューに答えて、人類に疫病の流行を抑える「能力」があっても、この能力を適切に使う「智慧」があることを意味している訳ではないと述べた。
この観点は熟考に値する。国際間の有効な協力態勢が足りなかったために、防疫に抜け穴を作ってしまったことがわかる。個人の自由を提唱する欧米諸国では、疫病予防策を厳格に実施することは困難であり、冬を迎えたこの時期に再び感染拡大という危機に直面している。
したがって、疫病は必ずしも致命的な天災ではなく、人災がそれを悪化させているのである。最大の敵はウイルスではなく、制御が難しい人心なのである。
一方、コロナ禍でインターネット技術が際だって重視されているが、技術に頼るあまり人心が自省を欠いた上に正道を踏み外すようになってしまっている。この二年間、世界は鳴り物入りで5Gネットワークの普及が進み、無人化・自動化、AI(人工知能)とビッグデータによって生み出される「知恵の時代」は実現に近づいているが、多くの懸念も生じている。
ハラリ氏は『二十一世紀のための二十一の教訓』という著書の中で、人々が直面する最大の問題は、経済発展が生態環境の崩壊につながり、社会の矛盾や対立を引き起こすことだと書いているが、それでも経済成長がそれらを解決することを期待している。彼はまた、ビッグデータは個人の行為を分析することによって「同じ趣味や考え方の人とつながる」ことで、自分と同じ意見が全方向から反響して増幅される「エコーチェンバー現象」を作り出すため、人々は自分の意志で外の世界を理解できると誤解しているのだと指摘した。人々が自分の心の認識を欠いている限り、テクノロジーが人間の奥深い情緒や欲望を操るのは益々、容易になる。
今年、慈済人はコロナ禍の中、多くの集会や活動をキャンセルしてきたが、最前線の慈善支援には今でも数々の困難を乗り越え、努力を注いでいる。三月からは世界中の慈済人がウェブ会議で法師に各地の業務を報告し、また、オンラインで勉強会を開いて、人類の命や生活に深刻な打撃を与えた疫病の流行が起きた原因を考え、いかにして心念とライフスタイルを調整するかについて反省している。
未来は予測できないが、内面を観照した上で、衆生が生命共同体であることを悟り、自分の利益に焦点を絞るのではなく、外に向けて謙虚さを地道に表す必要がある。これこそ人類が直面している共通の課題である。
(慈済月刊六四九期より)