竹筒歳月にこめた一念

(絵・陳九熹)

一日五十銭を貯めて、困難な中で慈善を行いました。 その初心の誠実な一念には何の偏りもありませんでした。 それから五十五年が経った現在、 慈済人のいる所には必ず「竹筒歳月」の教えがあります。 小銭でも大善に繋がり、その愛は地球を巡っています。

二〇二〇年の歳末祝福会は十一月に始まり、私は台北から台中まで各支部を回ってから、また台北に戻り、十二月六日に花蓮に帰ってきました。この三十数日間、私の周りには大勢の人と温かい愛に囲まれ、どこを見ても皆、菩薩に溢れていました。皆さんから聞いた「あの年は忘れるなかれ」、「あの人を忘れるなかれ」という諸々の話は全て、見返りを求めない大愛の奉仕でした。また、過去にあった愛憎のもつれや、家庭内の様々な問題も、縁によって慈済に入り、迷いを抜け出して悟りが得られ、凡夫から菩薩の心に変わったと話す人もいました。

人生の歩みの中で起きた誠実な話は、最も価値のある物語です。今回の行脚で聞いたこと、見たことはすべて形容し難いほど美しいものでした。慈済が始まって五十五年になりますが、その間に慈済人と志業の感動的な物語が一つ一つと綴られてきました。それはまた人々を教育する良い教材になったのです。
 
台中で行われていた歳末祝福会で、二十数年間も慈済に投入してきた、南投ボランティアの曹美英(ツァオ・メイイン)教諭が十一月十一日に亡くなり、献体して「無言の良師」になり、「最期まで慈済志業をする」願を実現したという知らせを受け取りました。「慈済志業はどれだけしても悔いはありません」と彼女は言い、いつの世でも師匠に随って慈済の菩薩道を歩むことを願っていました。

映像で彼女が人生の最期に行き着いたのを見て、私は大きな喪失感を感じました。しかし、彼女は一心一志を発願し、時を逃さず実行に移してきた人生は最も美しいものでした。

曹先生だけでなく、体に病気を持っている慈済人や生活環境が悪くても、一念の心で慈済志業を続け、人後に落ちない善行をしている人が何人もいます。これは私に対する最大の供養であり、大きな力を与えてくれています。

近頃私はいつも、この生涯に悔いはないと言っています。五十五年前、世間の無常と貧困の苦難が多いのを知った丁度その時、恩師に嘉義に来るよう言われました。しかし、花蓮には私が離れることを望まない人たちがいたため、私はこう言いました、「もし皆が私のする慈善を手伝って貧苦に苦しむ人たちの世話をするなら、花蓮に残る人生は価値があります」。そしてまた、毎朝市場へ買い物に出かける前に五十銭を竹筒に入れるよう言いました。その貯金が「仏教克難慈済功徳会」の救済活動の始まりでした。

皆の少しずつの愛が寄せ集まり、川となって大海に流れこむように、僅かなお金が大きな善行を行い、如何なる所でも善人が善行するようになり、その愛が世界を巡っています。慈済人のいる所なら必ず「竹筒歳月(竹筒貯金箱)」があり、当時の「五十銭」は五十五年後の今日も受け継がれています。世界六十三の国と地域に慈済の拠点があり、ボランティアたちがその近隣で奉仕し、その足跡は百十九カ国に及んでいます。

人の助けを待つよりも、人を助ける方が幸福な人生です。トルコに滞在しているシリア難民の子供たちも呼応することができ、海外の災害や台湾の花蓮と台南の震災など、進んで寄付して支援しています。白紙に一元と書いた「小切手」を入れた子供もいました。彼らにはお金がなくても真心があります。子供たちはとても誠実で、大きな力を持っており、それは最も人を感動させるものです。

五十数年前、私の一念は今のこの子供たちの一念と同じように真っ直ぐに今日まで歩みを進め、何ら方向の偏りがない上、こんなにも多くの人の誠実な良縁に恵まれました。何時も世の災難を見る度に心配になり、心が重くなります。しかし、多くの慈済人が心を一つに奉仕しているのを見ると、私も再び生命の価値を奮い起こして用いなければ、と思うのです。五十五年前、もしもその一念がなかったら、皆の愛を結集することはなく、これほど多くの人を助けることはできなかったでしょう。また、それよりも重要なのは、どれだけの物資を支援したかではなく、彼らの心の愛を啓発して、現地で調達して奉仕したことです。

皆さんが世のことをもっと理解して、苦難の人に関心を持つことを願っています。今は読書会だけでなく、慈済のネットプラットフォームにアクセスすれば、携帯を手にし、指先でタッチするだけで皆さんはいつでも私に繋がり、私は直ぐに皆さんにお話をすることができます。

太陽が最も美しくて温暖な時間が過ぎて、日が沈んでいくのは、人生の無常に似ています。一年が過ぎ、命は一日一日と減って行きます。しかし毎日、福を造れば、それだけ多くの福が得られます。皆さんの精進を願っています。


(慈済月刊六五〇期より)

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