淨水を探して、命の渇きを解決する

ジンバブエ・東マショナランド州ゴロモンジの村。露天の水場にある濁った水に頼って住民たちは暮らしている。(撮影・ジンバブエ慈済ボランティア・フレンギシレ・ジヤネ)

水、それは万物を生かし育む、欠かすことのできないものだ。世界中で相次ぐ干ばつと洪水。気候変動は世界に水危機をもたらしている。

水源が涸れた地域では一杯の水を手に入れることさえ容易ではない。地表に存在する淡水は想像するよりもずっと少ない。水道の恩恵にあずかる私たちも、水をもっと大切にしなければならない。

(撮影・フレンギシレ・ジヤネ)

すみません。ウォーターサーバーはどこですか?」「あちらですよ」

台湾の駅やスポーツ施設、商業施設、病院といった公共施設には、必ずと言っていいほど無料のウォーターサーバーが設置してあり、今やトイレと同様に基本的な設備となっている。ボトルさえあれば、どこでも飲み水が手に入る。

豊かな先進国では飲み水の心配をする必要はなく、人々の話題は「何を飲む?」である。しかし、同じ地球上には、一杯のきれいで安全な水さえ手に入れることができない人が今なお億単位で存在している。

国連経済社会局が二〇二三年に発表したSDGs報告によれば、世界で安全に管理された飲料水を利用できない人は二十二億人いる。また、水不足もますます深刻さを増しており、毎年世界の半分以上の人が一カ月以上の深刻な水不足を経験することになる、と国連は警告を発している。

ジンバブエで百万人に千本の井戸

干ばつで非常事態に陥ったアフリカ南東部のジンバブエ。太陽の照りつける中、首都ハラレに程近いドンボシャワでは、井戸の周りに水汲みの行列ができていた。赤ん坊を背負った母親や小さな子どもたちが重いバケツを下げ、歩いて家まで帰っていた。自転車のある人はごくわずかだ。

大変そうに見えるが、以前に比べれば、はるかに良くなった。井戸ができる前は、水を汲むために十キロ以上歩かなければならなかった。しかし、今は二、三キロで済む。

ジンバブエに在住して三十年になる朱金財(ヅゥ・ジンツァイ)さんは、井戸がない地域や井戸が壊れてしまった地域では、川や荒れ野のくぼ地まで水を汲みにいかねばならないという。

「とても遠い不衛生なくぼ地に溜まった水を探しに出かけるのです。そこでは多くの悲劇が起きています」と朱さんは唇を噛んだ。

川に潜むワニ、途中でたむろするハイエナイヌや水牛、草むらに隠れている毒蛇など、水汲みは命がけだ。おまけに危険を冒して持ち帰った水も安全ではない。野晒しの水場には野生動物もやってくるので、濁った水には動物の排泄物も混じっている。しかし、水不足の人には選択肢はないのだ。水源の不足に給水システムの機能不全が重なって、下痢やコレラの流行がしばしば発生する。

「ですから、私は現地ボランティアによく言うのです。井戸掘りは命を救う仕事なのだ、と。井戸がなければ予測できない細菌で多くの命が奪われてしまいます」と語る朱さんは、二〇〇八年に、一人の患者がコレラを発症して病院に運ばれてから、たった七時間で息を引き取るのをその目で見たという。

二〇〇八年、ジンバブエではコレラの流行で、七万九千人以上が感染し、三千七百人余りの死者が出た。それから十五年後の二〇二三年十月、再びコレラが流行し始めた。しかし、朱さんは病魔から人々を守る切り札を手にしていた。二〇一三年以降、朱さんは井戸掘り専門チームを立ち上げて深井戸を掘り、住民はきれいな地下水を飲むことができるようになったのだ。そのため、コレラが再流行し出した時、五つの州知事が助けを求めてきたという。

「工業汚染のないジンバブエの地下水は、基本的にきれいなのです」と朱さんは言う。朱さんの説明によれば、新しい井戸を掘ったり、古い井戸を修理したりする時、候補地の地下に帯水層があること、公有地であること、村から遠すぎないことをあらかじめ確認しておく必要があるという。このような場所でなければ住民はきれいな水に容易にアクセスできないのである。

「以前、井戸チームは一チームだけでしたが、昨年、コレラの大流行を受けて五チームに増やし、今年八月末までに千八十本の井戸を修理し、これまでに修理した井戸の数は全部で二千三十本になります。以前は井戸を一つ掘るのに十九時間かかっていましたが、今は五時間ほどで掘れます」。

慈済チームの掘る井戸は十分な深さがあるため、地表の汚染物が混ざりやすい浅井戸や池の水よりもきれいで安全であり、なおかつ水量も安定している。新しい井戸ができたり、修理が終わったりするたびに、近隣の住民たちから大きな歓声が上がるという。

深井戸ができて、以前よりもはるかに水が豊富になった今も、住民たちは相当、水を節約している。一家を五人として計算すると、一戸あたり一日に使う水はおよそバケツ五~七杯ほどであるから、一人当たりでは一日二十リットルにも満たない。しかも、それらの水を使うのは人間だけではない。

「鍋や食器を洗った後の汚れた水は、鶏や家畜に与えます。鶏たちがその水を、首を長くして待っているのを見るたびに、私は水を渇望するその様子に衝撃を覚えます」。

ジンバブエでは井戸事業は救命活動に等しい。仮に一本の井戸で千人から五千人分の水をまかなえるとすると、朱さんたちが新たに掘削したり、修理したりした二千本以上の井戸は、少なく見積もっても二百万人以上の命を救っていることになる。

国連SDGs6「安全な水とトイレを世界中に」のターゲットの第一項は、「二〇三〇年までに、全ての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ平等なアクセスを達成する」である。国際人道支援組織は長年にわたり水の確保、浄化、節水、水源保護など水をめぐる課題に努力を傾けてきた。慈済でも洪水と干ばつに襲われるアフリカで、複数の支援プロジェクトを進めてきたが、二〇二四年八月下旬にはモザンビークで初の「緩速ろ過池」が運用を開始し、水質浄化は次のステージに進んだ。

サイクロン・イダイに襲われたモザンビーク。現地ボランティアが被災したニャマタンダ郡ティカを訪れると、住民が簡素な井戸から水を汲んでいた。(撮影・蔡凱帆)

モザンビークで浄水技術を活用

「ルルルル……」

モザンビーク・ソファラ州クラ大愛村の住民たちは巻き舌で喜びを表現すると、ろ過された水を容器に汲むために列を作った。遠く台湾からやってきた慰問団が、代表してこの命の池の使用開始を告げた。

サイクロン・イダイの後、慈済によって建設が始まったクラ大愛村は、昨年から徐々に住民の入居が始まり、今年は住民の飲み水となる緩速ろ過池が建設された。主任技師の謝曜聯(シェ・ヤオリエン)さんによると、大愛村には電気が通っていないため、太陽光発電で揚水モーターを回して貯水槽に水を貯め、その水を緩速ろ過池に送って浄化するという。日が沈めばモーターは止まり、二十四時間動かして水位を保つことができない。万一、水を使い切ってろ過池が干上がってしまえば、浄水機能を回復させるのに一カ月ほどかかる。そのため、住民には節水を呼びかける必要がある。

緩速ろ過は決して新しい技術ではなく、十九世紀には既にイギリスで実用化されていた。現代の塩素で消毒する水道水と違って、緩速ろ過池は自然の「アレロパシー(生物阻害作用)」を利用して、水中にある人体に有害な病原菌を除去する。

慈済は台湾自来水公司(台湾の水道会社)と連携協定を締結し、技術提供と建設指導を受けた。同社の陳文祥水質処長の説明によると、緩速ろ過池のろ過層は砂、砂利、レンガの層を重ねてできている。そこに水を通した後、ある程度の時間が必要で、最上の砂の層に微生物群や藻類が生えてくるまで待ち、「生物ろ過膜」が形成されると、病原菌を除去したり、不純物を吸着したりできるようになる。

「この生態システムはアフリカの熱帯雨林に似ています。本来の住処と異なる環境に入ってきたコレラ菌などの病原細菌は、エサにされるのです」と陳処長は緩速ろ過池の仕組みを弱肉強食のジャングルの法則に例えた。「天敵」を利用する緩速ろ過池は塩素消毒の必要がなく、フィルターを交換する必要もないため、電気機械や技術者への依存が大幅に減る。砂と砂利とレンガ、そして家を建てられる職人さえいればよいのだ。原水を緩速ろ過池でろ過すると、大腸菌群の数は七千余りから二十未満に減少し、台湾の飲料水の基準である六未満に近い数値になる。浄水の除菌性能は十分であり、これで住民をコレラの脅威からかなり遠ざけることができる。

実のところ、慈済はこれまでに様々なハイテク技術を活用した浄水設備を開発している。たとえば、有害な細菌をろ過する「限外ろ過膜」と逆浸透(RO)膜を組み合わせ、海水を淡水化して飲み水にする設備もある。しかし、これらの設備を維持していくためには精密部品や技術者を必要とするため、開発途上の国や地域で長期間使用するのに必ずしも適しているとは言えない。それに比べて、緩速ろ過池ははるかに扱いやすい。材料はすべて身近にある物で、誰でも維持管理ができる。「定期的に砂層表面を削り取って、ろ過砂を補充し、手入れするだけでいいのです」と陳処長は補足した。

緩速ろ過池の技術は今後、ジンバブエ、ネパール、インドでも徐々に導入される予定だ。モザンビークで最初の緩速ろ過池が完成し、次の計画も進んでいる。ジンバブエの慈済も現在政府に設置申請中であり、早く承認されることを願っている。

同じく水道の普及していないジンバブエのハラレ州エプワース。慈済が掘削した井戸で水を汲む住民(写真提供・ジンバブエ連絡所)。

モザンビークのクラ大愛村。慈済が建設した四角の緩速ろ過池は自然の力で水を浄化しており、長く使い続けることができる(写真、撮影・謝曜聯)。

「重量級」の雨水利用

干ばつの地域は水不足に苦しんでいるが、台風や洪水になると、海のようになった濁った水しかないため、同じように安全な飲料水が確保できない。フィリピンの台風ハイエンやラオスのダム決壊による洪水被害の時、慈済ボランティアは浄水装置や貯水装置を携えて行った。きれいな水は困難を乗り越える希望になる。

それに比べて水道網が高度に普及した台湾では、水がなくなる心配はほとんどない。しかしながら、地形の関係(山地が多く急勾配である)や豊水期と渇水期の差が大きいことなどから、地上に留まる水は年間降水量のわずか約十八%である。二〇二一年の歴史的な水不足も記憶に新しい。そのため、節水をいかにして暮らしの中に根付かせ、かつ企業や市民が一丸となって取り組むかが重要な課題となっている。

慈済基金会営建処の林敏朝(リン・ミンツァオ)顧問は、慈済の建築物に雨水利用や節水設備を設置し始めたきっかけについて振り返った。「あの日、花蓮は大雨が降り、私たちは慈済花蓮病院の会議室で会議をしていたのですが、会議の後、師兄の一人が、『花蓮で一日に降る雨は甘粛省の干ばつ地帯で一年に降る雨量よりも多いのです』と言いました。すると、證厳法師は、『雨水は天然の資源ですから、大切にしなければなりません』とおっしゃいました」。

一九九〇年代後半は、雨水利用や節水、グリーン建築などの概念が台湾でようやく知られ始めたばかりの頃で、参考となる前例もほとんどなかった。そこで、慈済建設チームは慈済花蓮病院から試行錯誤を始めることにした。

「トイレを一回流せば十二リットルの水を使うため、一回九リットルの節水トイレに換えて、三リットルの水を節約しました」。林さんは続けて雨水利用について説明した。普通は、建物に降った雨水をベタ基礎の貯水槽に引き込み、モーターで揚水して上層階の貯水槽に蓄える方式を採るが、慈済では貯水設備を上層階に分散して設置したという。

「たとえば、五階から三階まで流れ落ちれば、モーターで汲み上げる必要はありません」。

「各業界における水の利用効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な供給と再利用を確保することで、水不足を解決する」ことも、SDGs6のターゲットの一つである。慈済花蓮病院の雨水利用システムは早くも二〇〇〇年に完成し、水や電気の浪費をかなり抑えることができた。このような革新的かつ実用的な節水方式は、時代の先駆けと言えるだろう。

二〇〇〇年以降に建設された慈済の学校や病院のうち、比較的大規模な建築物には、すべて節水および雨水利用システムが備え付けられている。中でも慈済台中病院は節水と省エネで優れた成果を上げ、二〇一五年に「グリーン建築シルバー認証」を取得した。

「集めた雨水の使い途は、以前は植物の水やりだけでしたが、今は空調にも使われています」。

慈済台中病院工務室の余許富(ユゥ・シュウフー)上級職員は、屋根裏の狭い空間を、身をかがめて通り抜け、敷地左手の建物の屋根裏部屋に入った。外からは慈済独特の「人」の字形の屋根が見えるだけで、中に特別な工夫があると気づく人はほとんどいない。

「三トンの貯水槽が二十六基、左右合わせて五十二基あり、貯水量は百五十六トンにも上る」と、余さんは黒いプラスチックの貯水槽を指差しながら説明してくれた。以前は貯水槽が雨水で満タンになってしまえばそれまでだったが、一部を空調に利用し始めてからは、貯水槽が満タンになったことはないという。

「エアコンは毎日使います。特に夏場は使用量が増えて、毎日五、六百トンの水が必要になります」。

大型公共建築の入念に設計された「見えない」貯水槽に比べ、慈済リサイクルセンターの雨水利用設備は、その「容量の大きさ」が一目瞭然だ。

南投県草屯鎮南埔リサイクルセンター責任者の林金国(リン・ジングォ)さんは、同センターの貯水設備について、誇らしげに説明してくれた。大小九つの貯水槽に加え、容量六トンの地下貯水庫もあり、満タンになれば雨が降らなくても半年は持つという。「七月末には残り四、五十トンまで減ったのですが、台風三号のおかげで満タンどころか、溢れてしまいました。でも、仕方がありません。最大容量が九十六トンしかないのですから」。

雨水利用によって水道水を大幅に節約できたことで、同センターでは水道料金を二カ月で僅か二百元余り(約千円弱)に抑えることができた。その成果は水道の「検針票」に表れただけでなく、その後、林さんは経済部水利署からも節水の達人として「節水公益賞」を授与された。政府関係者や慈済の法縁者が多数見学に訪れた時や静思精舎や他のリサイクルセンターの雨水利用設備の設置の際も、経験を活かして協力した。

林さんは、「リサイクルセンターの設立当初から、私たちは環境教育をすべきだと考えていました。天の恵みである雨水を大切にし、大いに貯水して活用することを子々孫々にまで伝えていきたいと思いました」と話した。

慈済台中病院の雨水利用設備は外から見えないように、巧妙に建物の陰に設置されている。上層階の露天スペースに大型の雨水集水タンクを設置しているため、揚水するための電力も不要で、水の使用効率も向上した。(撮影・蕭耀華)

南投県南埔リサイクルセンターのボランティア林金国さんは、大小の貯水槽で雨水を回収して利用するシステムを作った。ろ過処理した雨水をセンター内で使用することで、水道水の使用量は大幅に減った。(撮影・蕭耀華)

思っているより少ない地球上の水資源

水道の普及率が高く、水道料金も安い台湾では実感しづらいが、実は台湾は世界の水不足の国ワースト二十に入る。また、地球上では水不足のため故郷を離れざるを得ない人が、今なお億単位もいる。国家環境教育賞優秀賞を受賞した慈済ボランティアの陳哲霖(チェン·ヅーリン)さんは、水資源がいかに貴重であるかを「見える化」するため、千本のペットボトルを使ったインスタレーションアート作品「水キューブ」を制作した。

千本のペットボトルは地球上のすべての水を表している。そのうち淡水は二十五本だけで、残りは海水である。しかし、その二十五本のうち、十七本は南極と北極の氷、七本が地下水で、人類が実際に利用できる地表水はたった「一本」だけである。

「地球の水は一見多いと思われがちですが、私たちが利用できる淡水はその千分の一しかありません。ペットボトル千本と一本を見比べてみれば、水資源がいかに少ないかがわかるでしょう。だからこそ、『水を黄金のように大切に』しなければなりません」と陳さんは呼びかけた。

法師が「水は大いなる生命の源」とおっしゃる通り、どんな生き物も水なしでは生きられない。国連でも「水は持続可能な発展の核であり、社会や経済の発展、エネルギーと食糧生産、健全な生態系、人類の生存そのものにとってきわめて重要である」と強調している。

気候変動の衝撃と日増しに深刻さを増す水危機に対して、私たち人間は今、水の使い方を見直す必要に迫られている。貴重な水資源を永遠に残していくために、まず一滴一滴の水を大切に使うことから始めようではないか。(一部資料提供・古継紅)

(慈済月刊六九五期より)

水不足による災害 慈済の緊急援助

水不足による災害
慈済の緊急援助

干ばつ支援
  • 貯水槽の建設支援
    1998年から2009年まで中国甘粛省の6県で19,060基の貯水槽を建設、10万人が恩恵を受けた。
  • 井戸やポンプの設置
    ジンバブエ、シエラレオネ、インドネシア、ネパール。
    ジンバブエでは、2013年以降2,000本以上の井戸を掘削・修理し、200万人以上の生活を支援した。
緊急災害支援
  • 給水設備や浄水システムの支援
    ベネズエラ、インドネシア・アチェ州、フィリピンの台風30号ハイエン被災地、ラオスのダム決壊被災地、台湾新北市烏来の台風ソウデロア被災地、台湾蘭嶼等の台風コイヌ被災地。
水源の改善
  • 緩速ろ過池
    2024年、モザンビーク・ソファラ州クラ大愛村に海外初の緩速ろ過池を建設。
  • 雨水収集
    ラブビンティ・インターナショナルと協力し、ウガンダに11基の雨水収集システムを建設。
    ベトナム・ベンチェー省に貯水槽とろ過装置3000台を寄贈。
  • 学校にウォーターサーバーを寄贈
    2021年、四川涼山州喜徳県の30校にウォーターサーバーを寄贈、教師や生徒14,000名が利用。
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