ソーシャルワーカーの劉さん(左から二人目)は右手を上げて、椅子に座っていた林おばあさんに、ハイタッチする動作を示した。その動作で、腕から肩の筋肉が伸ばされるので、ボランティアたちは横でおばあさんを励ました。(撮影・周伝斌)
慈善活動は、伝統的に定義されている経済的な援助だけではなく、相手のニーズや社会の趨勢を見つけることである。
例えば、ソーシャルワーカーの発想による「中高年向け健康促進プロジェクト」では、高齢者をより安全に暮らせるようサポートするだけでなく、ボランティアにもよりよい生き甲斐を持たせている。
八月のある朝、朝日に映えた宜蘭県羅東の町で、慈済ソーシャルワーカーとボランティアが八十歳の林おばあさんの体操に付き添う準備をしていた。彼女は痩せて、既に自力で歩くことができず、理学療法士は、足手を上げたり、歩行する動作をすることでリハビリするよう勧めた。
林おばあさんは、「中高年向け健康促進プロジェクト」のケア対象の一人である。ソーシャルワーカーは専門家を招いてボランティアに体操に関する知識とスキルを提供してもらい、二〇二二年より在宅ケアに取り入れている。
「おばあさんは高齢なので、骨粗しょう症を患っている可能性があります。先ほど立ち上がる時に介助をしましたが、私たちは支えることに重点をおいており、怪我させないように、彼女を無理矢理引っ張り上げるようなことはしません」。ボランティアの劉宜君(リュウ・イージュン)さんは、学んだことを真剣に皆と分かち合った。「以前は体操に関する知識が少なかったので、幾つかの動作が悪影響を与えるかもしれないことも知りませんでした」。
ボランティアの林秀鳳(リン・シュウフォン)さんが、年配者と交流する時の注意点以外に、スポーツ障害の講座では、日常生活における習慣的な動作の矯正ができたことをシェアした。「例えば立って食器を洗う時、両足を肩幅に開いて正しい姿勢を保てば、膝の怪我防止に役立つのです」。つまり、講座は、おじいさんやおばあさんたちの役に立つが、自分にも役立つのだ。
プロジェクトを通じて資源を統合
莊博仁(ヅォン・ボーレン)さんは、劉静蕙(リュウ・ジンフウェイ)さんがそのプロジェクトを開発した初期段階で直面した問題を話していたのを今でも覚えている。当時の劉さんは、志が一致した専門分野の人と一緒に開発することを目指していた。「豊富な知識を持っているだけでなく、ボランティアの特性を理解し、積極的に取り組んでくれる人が必要でした」。
莊さんと劉さんは、同じく慈済東区慈善志業発展処福祉推進チームのメンバーで、莊さんは指導役として同僚を育成したり、精神的なサポートや事務のサポートをしたりすることが主な職務だった。そして、プロジェクトを推進する過程で、各方面からボランティアの時間の使い方について話し合ったり、専門家のスケジュールに合わせたり、実務を進める上で、ケア対象者にとって都合の良い時間も考慮している、劉さんの実務能力に気付いた。
慈済ボランティアはいつも多方面の役割を担っている。慈善、環境保全、介護ケア等、「彼らはとても忙しいのですが、それでも積極的に健康促進プロジェクトに参加してくれるということは、人助けをしたいという熱意を表しています」と莊さんが言った。「この企画は良いことだと思います。奉仕対象だけでなく、ボランティアのためにもなるので、成功させようと思うようになります。若い人は体力があるので、多めに奉仕しても大丈夫です」と劉さんが誠実に言った。
「中高年向け健康促進プロジェクト」は、「認知症の進行を遅らせるプロジェクト」から派生したものである。このプロジェクトは、慈済が長年ケアしている台湾東部の独居高齢者を全面的に調査した上で、ソーシャルワーカーが宜蘭、花蓮、台東各地の栄養士、薬剤師、理学療法士、作業療法士を招き、一緒に支援を必要としている高齢者を訪問し、健康状態を理解して、相談やアドバイスを提供している。
林おばあさんの例を見ると、栄養不良とサルコペニアの傾向があり、当時、栄養士と作業療法士が、ボランティアと一緒に在宅ケアに行き、役に立っていた。実際、彼女のようなケースは少なくない。これがソーシャルワーカーの「中高年向け健康促進プロジェクト」開発の動機にもなった。先ずリハビリの知識とスキルを備えたボランティアを養成し、その後で、高齢者が運動習慣を維持して健康を改善できるように、更に支援していくのである。
莊さんは、慈済ソーシャルワーカーとして十年間の経歴があるが、最近ようやく個々のケースの複雑さに気付き、プロジェクトを通して、各方面の資源を統合することで、各ケースのニーズに適切な対応ができているのだと、彼は謙虚して言った。
「慈済ソーシャルワーカーとして働き始めた頃は、性急に仕事して、何でも引き受けていたので、やっている時は、なぜそれをやるのかを考えているとは限らず、ただやり遂げることだけを考えていました」。一人暮らしの高齢者に対応した時、身辺の世話をしてくれる人がいないことや、孤独死のことばかりを心配していた。そのうち、高齢者の実際のニーズを理解し、それらを根本から解決し、更にどうすれば高齢者が安心して暮らせるようになるかを考えるようになった。
呼びかけと募集を通して、現在三十名以上のボランティアが、既に八回のリハビリ関連コースを受けている。ソーシャルワーカーからの要請で、二、三人が一組となってお年寄りの家を訪れ、理学療法士や作業療法士の処方に従って、高齢者の運動に付き添う。一カ月半継続した後、療法士らは再度訪問して、状況が改善したかどうか、更にどのようなリソースが必要かを評価する、という内容である。
林おばあさんはいつも無口だが、ボランティアが付き添いに来ると笑顔で積極的に反応するようになった。彼女にとって容易でない、手足の上げ下しなどの動作を頑張って行っている。「あなたたちが来てくれると母はとても嬉しくなるのです。母は好きな人の前だから、こんなに頑張っているのですよ」と、林おばあさんの息子が言った。
慈済の慈善活動では、ボランティアとソーシャルワーカーは協力関係にある。慈済は嘉義県六脚郷の自治体と協力して、コミュニティで高齢者に関心を寄せている。ボランティアはおばあさんを訪ね、生活状況を理解した。一方、ソーシャルワーカーは記録を作成し、状況を観察してニーズを判断をした。(撮影・蔡易儒)
一枚一枚のコインに書かれた感謝の気持ち
「高齢者の運動に付き添う時は、補助器具のような各種ニーズも評価して、ソーシャルワーカーの賴紀珠(ライ・ジーヅゥ)さんに報告します」と、ボランティアの林語宸(リン・ユーチェン)さんが特別に言及した。
賴さんは、慈済基金会の宜蘭ケアケース管理ソーシャルワーカーの一人で、社会福祉部門に所属している。莊さんや劉さんがケアケースを受け持つのと違って、彼女は主に最前線の訪問ケアボランティアと協力する慈済ソーシャルワーカーのリーダーである。ケースに関する報告を受けると、ボランティアと話し合ったり、一緒にケア世帯を訪問したりし、どのような支援を提供するかを相談する。補助金や物資、福祉用具の提供、または専門的なサービス提供の検討などである。例えば、「中高年向け健康促進」に関する資源を提供したり、他の機構と連絡を取り合って、資源の重複がなく、且つ相互補完できるようにしたりしている。「慈済ソーシャルワーカーとは、ケアケースの問題を解決する人員のことだと言えます」と、賴さんは、自分の仕事内容を一言で説明した。
プロジェクトやケース担当のソーシャルワーカーはボランティアと協力して、より適切な支援を提供しているが、それ以上に、善意がケア世帯の心に届くようにしている。その過程での苦労は避けられないが、時にはその全てに価値があると感じる仕事でもある。
賴さんは林おばあさんの心温まる振る舞いを思い出した。「私たちがおばあさんに竹筒貯金箱を渡すと、おばあさんは、『毎日小銭を入れるからね』と言って、感謝の気持ちと私たちへの感動を表したのです」。
「私は人助けの仕事にやりがいを感じました」と、頼さんが笑顔で言った。
(慈済月刊六九五期より)