「見返りを求めず奉仕すると共に感謝する」、「感謝、尊重、愛」などの静思語を見ていると、無意識に頬が緩んでしまう。
周照子さんが書いたメッセージカードの魔法である。
このメッセージカードは私が書いたものです。あなたに差し上げます」。手にしたカードに書かれた「慈悲喜捨」という四文字を見ていると、嬉しくなり、温かくなると同時に力が湧いてくる。
今年八十四歳になる周さんは、十何年もの間、国内外の人と良縁を結んできた話をしてくれた。メッセージカードをもらった人の中には、それを見ていると、知らず知らずのうちに「微笑む」人もいたそうだ。
「字を見てなぜ微笑むのでしょうね」。恐らく、書いている時が楽しく、そういう気持ちで書いた字に彼らは愛を感じ、ほえんだのでしょう、と彼女が説明した。
また、好奇心から、「あなたは字を書く時、呪文を唱えますか?」と聞いた人もいた。というのも、彼女の夫は仕事している時によく怒鳴り散らすため、彼女は「感謝、尊重、愛」と書いたカードを彼のオフィスのデスクに置く。何と不思議!次第に夫の怒りが治るのだ。
周さんによると、「祝福する」心を持ち、一心に字を書き、何も考えず、どんな呪文も唱えない、という。彼女が書くのは全て、静思語の良い言葉で、感謝すべきなのは證厳法師の法語のエネルギーなのである。一回書くたびに、法師が彼女に仏法を説いているようなものである。無数のカードを書いて来た彼女こそが、最大の受益者なのだ。
周照子さんは旧正月の間、静思精舎で書と挿絵を描いて人々と良縁を結んだ。(撮影・塗美智)
彼女は子どもの頃から書道が好きで、台北市松山区に住んでいた時、静思語ポスター作成を担当し、二〇〇七年八月に始まった「静思、善い言葉の町」というイベントを手伝った。そして、静思書軒の手伝いで、大衆が買った本に静思語と挿絵を描いたり、様々な縁結びのしおりを作ったりして広く良縁を結んだ。これも彼女が書道に打ち込ませた理由であり、筆を仏法の道具とし、静思語を広めたいと思っている。
毎年旧正月前後になると、彼女は書道チームと一緒に静思精舎に帰り、目の前で字を書き、それらを国内外の法縁者や訪れた人たちに差しあげている。
ある日、證厳法師が書道ブースに立ち寄った時、「あなたはここで字を上達させてきたのですね」と言った。精舎では、周さんに挨拶する人は沢山いるが、彼女が全員を知っているとは限らない。正月にあなたの書いた春聯(旧正月に貼る、めでたい言葉を書いた紙)をもらったことがある、と言う人もいる。
彼女はかつて、「アモイ仏事展」に八年間連続して参加し、現地の書道ボランティアを指導したことがある。慈済科技大学でも二十六年間、懿德ママ(学生の相談役)ボランティアをしていた。学校の親善大使チームと一緒にシンガポールとマレーシアに行った時も、行く先々で機会を逃さず、書道や挿絵の作品をバザールに出して、収益を現地の志業に寄付した。
ある師姐は病院の手術室でボランティアをしていたが、機器の検測に使った紙が捨てられているのを見て、それも良質の紙できれいだったので、もったいないと思い、職員の同意を得て持ち帰って、周さんに差しあげた。
周さんはまるで宝物をもらったように、その紙に「平安」と「吉祥」と書き、再びその師姐に手術室に持って帰ってもらい、スタッフたちにあげた。皆は驚いた。捨てるはずだった紙が作品になり、しかも「平安」と「吉祥」と書かれてあり、張り詰めた彼らの気持ちが安らいだのだ。ゴミが作品になるとあって、周さんは頻繁に使った後の紙をもらうようになった。皆は彼女がそれを魔法のように作品にしてくれると分かっていた。そして、ある印刷工場のオーナーは、彼女に何箱もの紙を持って来た。
何年か前、周さんの息子は仕事中に転落して脳内出血を起こし、脳死と判断された。その後、臓器を提供するに至った。親が子供の死を見届けるという心の痛みを経験した彼女は、「慟哭を祝福に変えたのです」。彼女は、「證厳法師は弟子に、それは既に引き戻せない凧のようなものなので、糸を切って彼を自由にし、解放させるべきだと教えました」と言った。情の糸を放さなければ、煩悩に変わる。手放すことこそが故人と肉親にとって一番よい方法なのである。
「見返りを求めず奉仕すると共に感謝する」、「感謝、尊敬、愛」は、周さんが好む静思語である。仏陀には八万四千もの法門があるが、彼女は書道を通して修行の法門とすることで、自分を悟りに導くと共に、多くの人を救ってきた。彼女は筆と墨、紙を持ち歩き、法師の祝福のように、必要な時にはいつでもそれを取り出して書くことにしている。それは「あなたの字は益々上手になっています。その能力を発揮し続けてください」と法師が祝福した言葉の通りである。
(慈済月刊六六四期より)