八徳静思堂地下1階の桃園エコ福祉用具プラットフォームの倉庫には、様々な場所から回収され、整理を終えて一新された福祉用具が保管され、必要としている人々を助けると共に、物の寿命を延ばすのを待っていた。
「慈済エコ福祉用具」には、エアベッド、車椅子、歩行器、杖などがある…これらの物には、決まった持ち主がいるわけではなく、ただ「貴人」(困難な時に手を差し伸べてくれる人=恩人)がいるだけだ。
回収と修理を経て、様々な人生を巡り、障害者のリハビリと養生を支えた歳月がある。
静かな週末の午前、新北市汐止区にある静かな住宅街では、廃校になって久しい幼稚園が予想外の賑わいを見せていた。地面に描かれたポップスコッチのマス目をたどりながら中へ入ると、その明るい室内には、紺の上着と白いズボンを身に纏った十数人の慈済ボランティアが机を囲みながら、自分たちの体験を分かち合っていた。
「何人かのボランティアは、狭い階段に不満を言うこともなく、力を合わせて重い電動ベッドを階上に運んでいました。中風により長い間、不便な生活を強いられていた人を助けていたのです。とても感動しました!」とボランティアの曾美媛(ツン・メイユェン)さんが福祉用具の運搬作業について語ったが、その目にはまだ感動が残っていた。
曾さんが話してくれたその人は、三年ほど前に中風を患った患者で、住んでいる古いアパートは階段が狭く、以前にも他の団体に申請して、福祉用具を運んでもらおうとしたが、結局どのように運べば良いのか分からなくて、皆諦めてしまった。そんな時、「慈済エコ福祉用具プラットフォーム」に申請してみたところ、次の日に連絡をもらい、ボランティアが直接福祉用具を家まで届けてくれるということだった。
ここは慈済エコ福祉用具プラットフォームの倉庫の一つで、その日は慈済ボランティアの曾立文(ゾン・リーウエン)さんの要請で、病院・訪問ケア・リサイクル・地域担当というそれぞれのボランティアが、別々の経路で福祉用具プラットフォームと知り合い、関わった縁で一堂に集まっていた。
あるボランティアは、貧しい人が福祉用具を必要とする時、もう回収拠点を回って探す必要はなくなったと言った。また別のボランティアは、家で使わなくなっても、まだ壊れていないので捨てるにはもったいない福祉用具を、慈済エコ福祉用具プラットフォームに送れば、ボランティアが手入れや修理をして、必要としている人を助けることができるので、「友人たちも喜んでいます。家の福祉用具に行き場が見つかったからです!」と語った。
南投のリサイクルボランティア、洪錫財さんは手慣れた手つきで、車椅子のタイヤを交換した。側には、近所から持ってきたものやリサイクルステーションから回収された福祉用具が置かれてあった。
高齢化社会の訪れ 介護ヘルパー
福祉用具とは補助器具(Assistive Device)のことで、人々の日常生活や仕事、就学、通院でより自立でき、利便性に加えて、安全面でも役に立ち、介護者の負担を減らす道具である。国の福祉用具の分類基準は十一部門に分けられている。よく見かける補聴器や眼鏡などは、コミュニケーションと情報部門に属し、電動ベッドは住宅用家具類、車椅子や杖は個人の移動用具に属す。
高齢化社会は否応なく訪れる。二〇一九年の国民平均寿命は八十・九歳にまで伸び、歴代最高記録を更新した。それに伴い慢性疾患や機能障害も増え、それに中重度な心身障害者などを加えると、衛福部の統計によれば、二〇二一年、心身が不自由な人は約六十六万人を超えるとみられ、福祉用具の需要は年々高まっている。
人々の福祉用具への需要を満たすため、政府と民間が様々な方法を提供しているが、中でもよく見かけるのが「福祉用具のレンタル」だ。国際的には、例えばアメリカや日本の場合、「福祉用具のレンタル」を実施してすでに数年が経過している。日本政府は、十項目以上の汎用及び特殊福祉用具のレンタルを提供し、一定の収入がある人は二十~三十%のレンタル料を払う必要があるが、一般市民はレンタル設備の十%の費用を負担するだけでよい。
台湾の場合、政府は心身障害者と長期介護が必要な人に福祉用具購入の補助金を出している。また民間団体と協力して、自治体は福祉用具センターを設立し、問い合わせやレンタル、無料貸し出しなどのサービスを行っているが、自治体によって異なる。
初めて中古の福祉用具を見たとき、一部の人は「誰かが使ったものだから、清潔だろうか?」という躊躇いや戸惑いが起きるかもしれない。だが経済的に負担できない人や早急に必要な人にとっては、新しいか古いか考えている余裕はない。
お金を出して購入した福祉用具は、必要がなくなった時は置きっぱなしになるかリサイクルするしかない。だが実際は、自分よりも必要としている人がおり、中でも、ベッドや車椅子は、リサイクル福祉用具プラットフォームでは一番よく申請されている項目だ。(撮影・沈秀娟)
慈善サービスの延長 福祉用具プラットフォームの始まり
花東地区では、慈済ボランティアは弱者家庭や辺鄙な部落を長期間ケアしており、その過程で福祉用具の必要性が分かった。症状と病状の違いによって異なるが、二、三日から数週間或いは長期的、と使用期間は異なってくる。しかし、それらの値段は数千元(日本円約二万円)から数万元まであり、誰もが負担できるわけではない。その上、花東地区は広くて距離が遠いため、福祉用具センターに行くことも大変である。
リサイクルステーションには回収された福祉用具がたくさんあり、たまに、民間から寄付されることもある。ならば、それらの使える寿命を伸ばし、必要としている家庭に届けるのはどうか、とこの問題を解決しようとしたボランティアたちは考えを思いついた。
「始まりは北部から協力に来てくれたボランティアが、回収した福祉用具を北部から東部に運んでくれたことがきっかけでした」と、慈済基金会慈善志業発展処主任の呂芳川(リュー・フォンツヮン)さんが説明してくれた。時間の経過と共に、福祉用具の需要はみるみる広がり、他の地区にも行き渡るようにするため、「各地から物を集め、それを保管する場所を見つける必要があるのではないか?」という考えが出てきた。
二〇一七年三月、「慈済エコ福祉用具プラットフォーム」が花蓮で立ち上げられ、倉庫が静思堂の地下に設置された。
「このプラットフォームを広めることは、慈済ボランティアが社会的弱者をケアすることと同じです。ボランティアたちも、福祉用具を必要としている人が増えていることに気がつき、積極的に加入するようになりました。一人の善の思いが少しずつ結集して大きな力になっていくのです!」と呂さんはあの日の事を思い出して語ってくれた。東部エコ福祉用具プラットフォームが設立したばかりの時、花蓮慈済病院から大量の申請をしてきたのだ。理由は、多くの退院を控えた患者たちが、車椅子、電動ベッドや杖などを必要としていたからだ。
宜蘭静思堂前の空き地の軒下は、福祉用具の手入れと修理する場所であり、ボランティアが高圧洗浄機で車椅子を洗浄していた。
この他、慈済支部でも、民間の人から福祉用具の申請に関する問い合わせが多く入り、そのことを知ったボランティアが更に理解を深めると、申請者の多くは経済状況が良くないことが分かった。この時、エコ福祉用プラットフォームは慈善の機能を果たすことになったのだ。
回収された多くの福祉用具の状態は良く、ボランティアは「福を惜しむ」気持ちで再利用している。「エコ福祉用具のエコとは、物の使用寿命を延ばすことであり、大地を愛し守ることです」。呂さんはまた、エコ福祉用具が送り出される前に、ボランティアは必ず清潔度と安全性を確認しており、誰もがこのようなことを繰り返していくうちに、福祉用具の清掃と修理の達人になっている、と強調した。
他の福祉用具レンタルセンターとの最大の違いは、申請者がいくつ福祉用具を申請しようと、用具自体の値段に関係なく、「エコ福祉用具プラットフォームは一律無料!」であることだと呂さんが説明した。ボランティアが「見返りを求めない奉仕」という初心を持ち続けていることで、人の役に立つことだけを考えている。必要としている人がいると聞くと、直ちに連絡を取って、処理し、使用期間に関係なく、レンタル料は無料で、「運賃」さえも取らないのだ。この点が「この福祉用具プラットフォームの一番価値のあるところです」。
人的物的資源を揃え、台湾全土で奉仕する
エコ福祉用具プラットフォームが東部で設立されると、北部の大安、基隆、汐止、永和、中和、北投の各区と桃園、新竹等の地域、そして中部の南投及び東部の台東と宜蘭の、合わせて十三カ所にエコ福祉用具プラットフォームの拠点が設立され、保存する場所もできて、手入れや修理を行うようになった。必要としている人は、オンラインで申請ができ、専用ダイヤルで内容の説明を聞くことも可能だ。各地の拠点でボランティアがチームを作って、現地のニーズや慈済花蓮本部の窓口が発行したオンライン申請で受け付けた内容を直ちに処理し、その後の回収も行っている。
「高齢化社会である今、新しく購入する人もいますが、使わなくなれば、多くがそのままになってしまいます」。呂さんは、四年前にエコ福祉用具プラットフォームが設立されたばかりの時、社会が高齢化に向かうにつれ、将来的には、中古の福祉用具の回収と流通が日に日に増えるだろうと考えた。
二〇二一年一月までのデータによると、エコ福祉用具プラットフォームから送り出された用具の数は、すでに一万一千八百点に上った。ボランティアはそれぞれの家庭を訪問し、申請者が他に必要としていることを知ったので、現在は福祉用具プラットフォームへの申請書に、貧困者ケアや長期介護のケアの必要性を書く欄を増やした。これは一歩踏み込んだケアをするか、若しくは他の福祉や介護の施設へ紹介するためである。「将来的にはエコ福祉用具プラットフォームが地域に根付き、町長や村長が地域ボランティアと連携し、より多くの人の役に立つことを願っています!」と呂さんが語った。
(慈済月刊六五二期より)