運送・設置・指導 慈善の精神でトータルケア

経済的に余裕がない家庭で誰かが病気に倒れると、自宅での介護が必要になり、患者の家族はさまざまな介護器具の準備に慌てふためくことになる。幸い中古品が見つかったとしても、それをどうやって家まで運んで設置し、使い方を習得すればよいのだろう?

病院の救急室で八年間にわたって警備員を務める彭振維(ポン・ツンウェイ)さんは、当直の際、救急室の外で患者の子供たちが言い争っているのをよく目にする。ある日とうとう耐えきれず、「親御さんが病気で臥せっているのに、なぜそんなに激しく喧嘩するのですか?」と尋ねた。すると彼らは、「お金のことですよ!」、「親が病気で倒れても、私たちは仕事を続けなければならないのです。一体誰が面倒を見ればよいのでしょう?」と答えた。

病気で倒れた家族を自宅で介護するために必要な福祉用具は、電動ベッド、車椅子、トイレチェアなど大小様々あり、合わせて数万元(日本円約二十万円)に達することもある。病状によっては長期にわたって酸素ボンベや呼吸器が必要になる場合もあり、ホームヘルパーを雇用する場合は更に多額の出費が必要になる。

家族の介護はしばしば家計を圧迫し、介護者の心身の不調をも引き起こすことが多い。台北慈済病院・脳卒中センターの陳美慧(チェン・メイフェィ)看護師長は、脳卒中で寝たきりになる患者を例に説明してくれた。「近年、五十五歳から六十歳の患者さんの入院が増えてきました。この年齢層は現役で働いている人や一家の大黒柱である人が多いので、彼らが脳卒中で倒れると、家計への影響は少なくありません」。経済的に余裕のない家庭が介護に直面すると、「福祉用具を買うお金をどうしよう?」、「これからどうやって介護すればいいのだろう?」、「福祉用具はどうやって申請すればいいのだろう?」といった数々の問題に慌てふためくことになる。

身体障害者が福祉用具を購入する際には、政府の補助金を申請することができる。要介護認定を受けた資格者も同様に「福祉用具サービス及び住宅バリアフリー環境改善サービス」を申請することができる。病院で要介護認定を受けるか、または専門家の自宅訪問による認定を経て証明書を受領した後、先ずは自分で購入費用を立て替え、その後にレシートを添えて補助金を申請することができる。だがたとえ家計が苦しくても、不動産を保有しているために中低所得世帯の認定を受けられなかったり、手続きの各段階の規制によって、最終的に補助金が得られないことも少なくない。

「手続きのために二~三週間かかり、それよりもっと時間がかかることもありますが、退院日が近く、福祉用具を今すぐ必要としている患者さんは、長い間待つことはできないのです」と陳看護師長が語った。

「一カ月の生活費を二、三千元でまかなっている家庭もあります。福祉用具を受け取るためには、車を借りて介護用品センターまで行くか、運送費を支払う必要がありますが、そのような経済的余裕がありません」。慈済ボランティアでもある彭さんは、エコ福祉用具プラットフォームに参加してはじめて、その理念の素晴らしさを知った。そこではボランティアたちが時間と能力の許す限り福祉用具を運搬している。彼らは皆、「苦しみから抜け出せない人がいるのなら、幸せな人がそこへ入っていくしかありません!」と口々に話す

高齢の夫婦は、寝たきりの息子を介護する中で、多くの苦労や不便を経験してきた。ボランティアたちが補助器具を搬入し、使い方を教えていた。

電動ベッドが自宅に届いた日

「陳おばさん、お元気ですか?」新北市汐止区の慈済ボランティアである何月澎(ホー・ユェポン)さんは、毎月陳おばさんを訪問しているが、この日は大きな「手土産」を持ってきた。

「見てください。こちらのおむつは信君が使うもので、小さい方はあなたが使うものですよ!」何さんは、朝早くからエコ福祉用具プラットフォームの倉庫に行き、寄付された成人用紙おむつやおむつシートを整理した。今はそれらを陳おばさんに一つ一つ説明していた。

「陳おばさんは倹約家で、使い捨ておむつシートも半分に切って使っています」と何さんは心を痛めながら言った。陳さん夫婦は出費を減らすため、介護用品を節約するだけでなく、一日三回の食事も友人が届けてくれる中華まんで済ませることが多い。

八十二歳になる陳さんは、国民年金を毎月三千元受け取っている。鉄道局を退職した八十六歳のご主人には、毎月二万五千元の退職金がある。本来、老夫婦が安心して老後を過ごすには十分な額だったが、五年前、まだ独身の長男である信君(仮名)に脳腫瘍が見つかった。信君は今では寝たきりになり、アルバイトどころか自力で生活することもままならない。在宅介護の費用、生活費、そして毎月三万元の住宅ローン。信君の貯蓄を使いきった後、老夫婦の退職金だけではその出費を賄いきれなくなった。同居している次男は資格試験の準備中であり、家計は日増しに苦しくなるばかりだ。

陳さん夫婦は不動産を所有しているため、低所得世帯への補助金を申請することはできない。かといって、福祉用具を買うための余分な貯蓄があるわけでもない。信君の身長は約百七十センチメートルあるが、小柄な陳さんにとって、自分よりも背の高い息子を介護するのはとても大変なことである。一日三回の食事の際は、信君の頭の下に枕をいくつか重ね、上体を支えてあげる必要がある。次男が家にいた頃には、入浴介助や体位の変更、おむつ替えなどを手伝ってもらうことができたが、今では年老いた夫婦二人が歯を食いしばりながらこの重たい介護の負担を引き受けている。

陳おばさんは、なんとか信君を清潔に保ってあげようと努力し、また家の掃除も欠かさなかった。しかし年齢を重ねるにつれて手足に力が入らなくなり、記憶が曖昧になることが多くなった。日々の介護による心身のストレスがどれほどのものであるのか、それは経験した者にしか分からない。

信君の病状は二〇二〇年頃から悪化しはじめた。以前はまだ簡単な言葉で反応できたが、今では何を聞いても返事をしない。そこで、陳おばさんの心労と生活苦を見かねた三十年来の友人が、慈済に連絡して支援のための評価を申請したのだ。

慈済ボランティアは、陳夫妻の自宅を訪問して緊急補助金を寄付したほか、エコ補助用具プラットフォームにて、信君のための車いす、トイレチェア、電動ベッドを申請した。また、信君の体の萎縮や不快感をやわらげるための簡単なマッサージを陳おばさんに教えた。

「こんなにたくさんの福祉用具を申請していただき、本当に感謝しています」。もう半年も前のことだが、陳おばさんは電動ベッドなどの福祉用具が家に届いたあの日のことを今でもよく覚えているそうだ。ボランティアたちはそれらを部屋まで運び入れ、その使い方を丁寧に教えてくれた。また背の高い信君を介護する際に自分が怪我をしないための介護技術も教えてくれた。車輪付きチェアトイレのおかげで、信君を浴室に連れて行くことも、より便利で安全になった。

以前は信君の食事に二時間以上かかり、夜の十時から十一時にようやく自分の夕食を取ることも珍しくなかった。信君は気分が悪いときには食事をとろうとしなかったが、陳おばさんには「ちゃんと食べなければ体力が持たないよ」と言って、息子をなだめることしかできなかったという。

「電動ベッドがあれば、枕を重ねて体を起こすという力仕事から解放されます」。言葉をしゃべることができない信君も、電動ベッドの上で嬉しそうにしていたと、陳おばさんは話してくれた。「電動ベッドが届いたあの晩、息子はいつもより夕飯を食べてくれたんです!」。

自宅介護に必要な福祉用具を買うことは、多くの家庭にとって重い負担になる。また無料の中古品を手に入れたとしても、それをどうやって運搬するのかという問題が立ちはだかる。

父をしっかり世話したい

訪問ケアと福祉用具を組み合わせれば、介護家庭が求めている思いやりとサポートを同時に提供することができる。被介護者の身体を助けると同時に、介護者の心を助けることができるのだ。

朝早く、基隆にある福祉用具プラットフォーム拠点のボランティアたちは、移動式トイレチェアと電動ベッドを車に載せ、訪問ケアボランティアたちと一緒に基隆の山の上にある陳さんという男性の家を訪ねた。ボランティアは二手に分かれ、一組は陳さんの父親の散髪と洗顔を、もう一組は部屋の掃除と電動ベッドの設置を担当することにした。

陳さんの父親は、半年前から病気で寝たきり状態となり、その介護の重い責任は、家計を支える陳さんの肩にのしかかっていた。重度の要介護状態にある父親の介護を一人で担っている陳さんは、看護の経験もなく、やる気だけでは体がもたなくなっていた。慈済ボランティアは、陳さんの依頼を受け、サポートとケアを開始することにした。

陳さんの父親の部屋は、長期の介護によりひどく散らかっていた。ボランティアは陳さんと一緒に掃除をし、故障していた電灯を修理した。それから父親の入浴を手伝い、電動ベッドを正しく設置し、その上に父親を注意深く寝かせた。ボランティアはベッドの上で体位を転換する方法を陳さんの前で実演しながら教えた。ボランティアの王許美麗(ワン・シューメイリー)さんは、入浴を終えた父親のためにお粥を作ってあげた。陳さんの父親は、お粥を食べたのは久しぶりだと嬉しそうに語った。

「父が病気になった時、家には私一人しかいませんでしたので、とても焦りました。不安のあまり、もう諦めようかと思ったこともあります。慈済のサポートを受けられて、本当によかったです。心から感謝しています」。陳さんは、介護のやり方を教えてくれる人がいたことで、生活に希望が持てるようになったと言う。「仕事から帰ると疲れ切っていますが、父親の面倒はしっかり見るつもりです。続けていけるという自信を持てたのは、ボランティアの人たちのおかげです。本当にありがとうございます」。

ボランティアたちが力を合わせ、100キログラムを超える電動ベッドを縦横に動かしながら、古いアパートの狭い階段を一段ずつ登っていく。申請者の部屋がある4階に到着したときには、背中が汗でびっしょりだった。(撮影・頼慧娟)

重い荷物を黙々と運ぶ

新北市の慈済ボランティアである謝国栄(シエ・グオロン)さんは、このプラットフォームが設立される以前から、補助器具のリサイクル回収と運搬に携わってきた。彼は長年の経験から、高齢の介護者が福祉用具の助けを借りずに介護しようとすると、ちょっとした不注意や姿勢の誤りで介護者もけがをしてしまうことに気が付いた。「介護者の皆さんからは、福祉用具のおかげで介護中に背中や腰の痛みを感じることが減ったという感想をよく耳にします」。

謝国栄さんによれば、高齢化と少子化の影響により、在宅介護の現場では「老老介護」が年々増加しており、年長者が若者を介護するケースも少なくないという。「申請者の家庭を見ると、四十~六十歳という中高年世代が七十~八十歳の高齢者を介護しているケースがとても多いのです」。

ボランティアたちは、福祉用具が急に必要となるケースにもよく遭遇する。ある時一人の母親から電話があり、特殊な車椅子を探しているという。幼い子供が難病を患い、政府の補助金はすべて使いきってしまったので、他に助けを求めざるを得なくなったのだ。またある時には、人生の最後のひとときを自宅で過ごしたいと願う末期患者のため、急いで福祉用具を調達したこともあった。

用具を届けた三日後に使用者が亡くなり、ボランティアたちが再び回収しに赴くこともある。或いは家の玄関まで届けたときには、もうそれを使う必要がなくなっていることもある。だがボランティアたちは不平不満を口にすることもなく、申請者一人一人に心を込めて対応している。

物の使用寿命を延ばしたい、貧困家庭を助けたいとの思いで誕生した「慈済エコ福祉用具プラットフォーム」は、その後しだいに多種多様な家庭をサポートするようになった。コミュニティケアも、そのような支援ルートの一つだ。

かつては「慈済エコ福祉用具プラットフォーム」のことをよく知らないボランティアも多く、「参加すると多くの時間を割かれ、その他の訪問ケアや環境保護活動に支障が出るのではないか」と心配する人もいた。だが慈済エコ福祉用具プラットフォームの活動は、他の慈善活動や医療活動とも結びつくものであることが理解されると、この善行のプラットフォームに参加する人が一人また一人と増えていった。

慈済エコ福祉用具プラットフォームは、必要に迫られた人、経済的弱者、助けが得られない人、そしてリサイクル資源を活用して地球を守りたい人など、あらゆる人々に開かれている。提供可能な福祉用具がある限り、その依頼を断ることはない。介護の道のりは長いが、慈済のボランティアたちが真摯な態度を保ち続ける限り、善行の力と地球を守る情熱が止まることはない。

(一部の資料提供・廖玉茹、葉晋宏)

(慈済月刊六五二期より)

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