世界は共善しなければならない失敗は許されない

慈済のベテランボランティア、曾慈慧(ヅン・ツーフエィ)さんは、慈済の国連SDGsにおける活動を推進してきたパイオニアである。長年、慈済の国連担当チームを引率し、国際舞台で慈済の実践してきた人道支援や気候変動、環境保全、宗教間の協力及び女性のエンパワーメント等について紹介し、提言を行ってきた。

アメリカ在住が四十年以上に及ぶ彼女は、現在、慈済アメリカ総支部の執行長を務めている。何度も国連の関連会議に慈済の代表として出席し、地球環境の持続可能性について世界のエリートのコンセンサスと懸念を見極めてきた。彼女の目に映る慈済の発展は、SDGsとどのように関連し、対応し、融合しているのだろうか。

質問:二〇一五年に国連が「持続可能な開発目標」(SDGs)を掲げましたが、慈済志業とどこが通じていると思いますか?またどの項目が自己精進に役立つと思いますか?

回答:慈済は宗教団体の観点から、地域社会に関する慈善活動を推進してまいりましたし、国連は国家規模で、環境政策とリンクしながら持続可能性を推進しています。

二〇一五年のパリ協定以降、気候変動の危機が目に見えるものになってくると、それらを前提として、国連が推進している十七個の目標SDGsに一六九のターゲットが追加され、世界で延べ四千回近い普及活動が行われると共に、様々な国や機構で多種多様な改善プロジェクトが発表されました。

慈済は重点、直接、尊重、実用的等の原則をコミュニティに取り入れ、国連は策略、企画、普及活動を主な方向としています。両者は異なるレベルの運用と考え方で行っていますが、一つに融合できるのです。

例えば、慈済の「仕事を与えて支援に代える」と「腹八分目にして二分で人助け」という慈善活動は、「目標1・貧困をなくそう」に対応していますし、菜食を勧める活動は、「目標3・すべての人に健康と福祉を」と「目標14・海の豊かさを守ろう」と「目標15・陸の豊かさも守ろう」に対応しています。また、アフリカでの井戸掘り及びトイレの建設による衛生の改善は「目標6・安全な水とトイレを世界中に」に、環境保全活動から始まった循環経済の推進は「目標9・産業と技術革新の基盤を作ろう」に当てはまります。そして、慈済が様々な団体と連携して地域社会を守り、国境のない大愛の絆を繋いでいることは、即ち「目標17・パートナーシップで目標を達成しよう」になるのです。

これらSDGs指標のアクションには、深さ、幅、広さにおいて夫々特色があり、如何にしてコミュニティの草の根のデータを用いて説法し、政策面のニーズに呼応し、コミュニティの成長と変革への完全な促進を行うと共に、目安となる運用メカニズムを作り出し、他の組織や国に提供して参考にしてもらう事が、私たちが努力しなければならない方向なのです!

SDGs夫々の目標は相互に影響し合う。ジンバブエでは、一本の井戸が住民に清潔な水源を与えると同時に、健康と福祉、飢餓問題を改善する。(写真提供・朱金財)

質問:慈済のどの志業発展項目がSDGsと結びつき、あなたに深い印象を与えましたか?

回答:慈済志業と国連SDGsの目標及びターゲットとの関係についてですが、私たちがアフリカで実施している様々な貧困支援プロジェクトは、「目標6・安全な水とトイレを世界中に」、「目標5・ジェンダー平等を実現しよう」「目標4・質の高い教育をみんなに」、「目標3・全ての人に福祉と健康を」、「目標2・飢餓をゼロに」と結びつけることができます。シエラレオネ共和国や中南米のハイチ及び南アフリカ等の国々でも、力を入れて取り組んできました。

特にシエラレオネ共和国では、二〇一五年にエボラウイルスの感染が蔓延した時から支援を開始し、緊急段階で香積飯(即席飯)、福慧ベッド(折りたたみ式多機能ベッド)、エコ毛布などを提供すると同時に、公共衛生教育を推進し、現地の食糧生産を増やして飢餓の減少に努めました。更に助産師の養成プロジェクト、婦女の保健及び救済のエンパワーメントにまで支援の範囲を広げ、頻繁に発生する水害や火災等に対応しています。また、ポール盲学校を支援して、井戸をソーラーパネル付きに建て替え、安全な水資源を提供できるようにしました。

シエラレオネ共和国の慈済ボランティアはたいへん少ないのですが、現地の国際カリスタ、ヒーリー国際救援基金会(Healey International Relief Foundation)、ランイ基金会(Lanyi Foundation)、国連人口基金(UNFPA)、ユニセフ及び農業食糧署と連携し、共に地球環境のニーズに対応して一歩ずつ企画を進めて来た結果、現地には改善の兆しが顕著に見られるようになりました。まだ道程は長いですが、学生の学習の場と教育の機会へと広げており、貧しいシエラレオネ共和国には反転するチャンスがあります。

極端な気候災害が頻繁に起きる中、長年国際支援に打ち込んできた曾慈慧さん(中央)は被災地でニーズを聞き取り、NGO組織と連携して、支援を適時に届けている。

質問:慈済は二〇一〇年から「国連経済社会理事会との協議資格を持つNGO」として承認され、国際会議に参加し始めました。更に次々と国連環境計画(UNEP)のオブザーバー、国連信仰に基づく評議会(Multi-faith Advisory Council)の共同議長などを務めて来ました。慈済は台湾でも開発の遅れた地域を拠点にして発展した慈善団体ですが、今は世界の仲間入りを果たしています。各方面でSDGsを推進していくに当たって、あなたはどの経験が参考に値すると思いますか?

回答:慈済は二〇一〇年に「国連経済社会理事会NGO特別諮問委員」に登録され、初めて国連女性の地位委員会に出席しました。この十四年間、慈済の国連担当チームは、創設初期の「竹筒歳月」精神、即ち三十人の専業主婦が毎日買い物のお金の一部を貯金して人助けを行ってきた話を、この委員会で広めています。

毎年三月に開かれる女性の地位委員会は、二百カ国のNGOと私的グループが集まって、世界の女性の権益とジェンダーの平等のために、交流の場を提供しています。慈済は一九六六年に創設された後、證厳法師は花東(花蓮県・台東県)地域の原住民女性の苦境を目の当たりにし、一九八九年に慈済看護専門学校を創設して、少女たちの教育と社会的地位向上に尽くしたことは、既にジェンダーの平等を実践していたのです。

三十人の専業主婦による一日五十銭の貯金から、女性ボランティアによる人道支援に至るまでの歴史の軌跡と、今年の女性の地位委員会のテーマが繋がっているのです。毎年女性の地位委員会に参加しているため、慈済はよく五つの宗教団体と協力して、共同で宗教間会議を開催しています。

ここに至るまで、私たちは證嚴法師の指示に従い、問題の発見をアシストし、共通認識を築き、実際の行動を提案して来ました。例えば気候変動の危機に対し、慈済は二〇一二年に「国連気候変動枠組条約」に加入し、オブザーバーから正式メンバーになり、愛と善で以て、地球環境を変えられるようにと期待して、「111世界ベジタリアン啓発デー」(Ethical Eating Day)を提唱しました。

慈済は国連環境計画のオブザーバーになると、二度にわたり、ケニアで開催された総会に出席し、慈済の環境保護における成果を報告しました。特に重要なのは「この場を借りて、拍手する手でエコ活動しましょう」と呼びかけたことで、アフリカ諸国が次々と自主的にその理念を実行に移したことです。

国連のSDGs目標17は、「パートナーシップで目標を達成しよう」ですが、その詳細は、多元的にパートナシップを作って、持続可能性のビジョンを促すことです。そして、慈済が提案した「世界で共善する」は、正に正信を信仰する原則に基づいていますし、異なる組織と協力する意味を持っています。

慈済はコロナ禍やロシア・ウクライナ戦争の避難民支援という試練の中で、元来の直接行動である「自らの手で布施する」ことから、一千万ドルを提供してユニセフと協力し、辺境で難民の子どもや女性をケアすることまで実践しながら、十一の組織とグローバル・パートナーシップを築き上げました。今年は更にパートナシップを三十にまで広げ、世界医師会(WMA)、シエラレオネ共和国の国際カリタス基金会、カミリアン修道会、ノーバス(NOVUS、ウクライナ食糧組織)等と協力して支援を続けています。彼らとの協力は、国際的に重要な場で慈済を新たなレベルに引き上げるものであり、このようなボーダレスの大愛は、歴史においても重要な意義を持っています。

西アフリカのシエラレオネ共和国で、エボラ出血熱が流行してから9年間、慈済はフリータウンのカリタス基金会、ヒーリー国際救援基金会等と共に、現地に温かい食事を提供し、地域に就学リソースを増やそうと協力している。

慈済は政府に人道支援米を申請して21年間、既に20カ国に食糧支援を行って来た。モザンビークでは、愛の米が現地ボランティアによって定期的に配付され、普遍的に貧しく生活必需品も購入できない人々にとって、大きな助力となっている。そして今、多くの受益者がボランティアになっている。

質問:国際会議に出て、SDGsの趨勢と雰囲気をどのように感じましたか?二〇三〇年まであと六年しかありませんが、多くの目標プロセスの動きが遅いため、悲観的に感じていますか?

回答:二〇一五年九月の国連持続可能な開発サミットの時、一九三の加盟国が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採決して、二〇三〇年までに精一杯、目標を達成することに同意し、会場で「人類の未来と私たちの地球の未来は、私たちの手中にある!」と宣言したことを覚えています。

今、時間は既に半分が過ぎました。半数以上のSDGsで、確かに具体的な進展は非常に遅く、三割の国は停滞或いは後退さえしています。とりわけ貧困、飢餓及び気候という肝心な目標でそのような状況になっています。

パンデミックとなったコロナ禍を経験し、気候変動、生物多様性の喪失及び汚染という三重の危機により、発展途上国は持続可能な開発目標に向かって、直ちに投資することができない状態です。例えば、健康と福祉、再生可能エネルギーなどで、多くの国と組織が多大な債務に喘いでいます。

持続可能な開発目標は、経済と地政学的な分岐を取り除き、更に信頼の回復と団結の再建に繋がります。しかし、この普遍的に認可されている路線図には、顕著な進展は見られません。つまり不平等が広がり続け、世界の分裂を拡大させるリスクがあるのです。それでも、どの国も2030アジェンダの失敗は許されないのです。

国連SDGsの進捗状況を振り返ると、予期した効果には達しておらず、多くのマイナスの声も聞こえますが、この指標の確立により、世界が協力し合ってこそ、より善い明日を創造するチャンスがあるのだと感じるようになりました。たとえ速度が緩やかで、気候変動の問題が改善できなくても、前に進むことこそが成功への第一歩なのです。

今、危機は転機でもあり、地球と人類の持続可能な開発は、皆で心を一つにして協力する必要があります。慈済が担っている役割は、コミュニティへの取り組みの継続にとどまらず、二〇三〇年になる前に、ビッグデータの成果分析により、学術界を統合し、国連が異なる分野を通して訴え、より多くの変化をもたらすべきなのです。「慈済の論述や国際認証」の提唱は、宗教観において重要な影響力があります。

上人が仰っているように、心して向き合い、一歩一歩着実に取り組んでいきます。前進し続け、正しいことを、実行するのです。

(慈済月刊六九二期より)

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