編集者の言葉
「ネットゼロ」への行動は、もはや世界的な共通意識になっているだけでなく、そこには差し迫った必要性がある。高炭素排出産業の一つである繊維産業も、我関せずではいられない。今年六月、ニューヨークで開催されたワールドテキスタイル・デジタルサミットにおいて、多くの多国籍アパレル企業が、環境保護という持続可能な目標を具体的に実現するために、「ゼロ在庫」を提案した。
伝統的な織物の生産は、市場に出回る六カ月前には製品の開発に着手しなければならない。流行やシーズンの到来により、市場に出回る新製品の全てが消費者に好まれるとは限らない。そのため、毎年平均すると、新製品の三着に一着がゴミになっているのだそうだ。その上、新製品の開発過程で在庫となった布地やサンプルなどもあり、これら資源の浪費は、繊維産業百年来の原罪とも言える。
幸いにも、デジタル技術は改革の契機をもたらし、布地の繊維成分、価格、環境に影響をもたらしているデータなどをデジタルファイル化することが可能になった。川上と川下に含まれるそれぞれの業種は、このプラットフォームを通じて情報交換をすることができる。また、サンプルを作る代わりにデジタルシミュレーションを使って、リアルタイムで生産することで在庫を減らし、更にはゼロにすることも可能である。
二十数年前の西欧社会に流行の端を発した「ファストファッション」は、短期間に少量生産し、低価格で新しいファッションを売り込む方法である。斬新さと変化を追求する消費者の心理を満足させ、業界もびっくりするほどのメリットさえ生み出して来たが、耐久性がなく、メーカーや環境に悪影響を与えることも多く、古着が急激に増えすぎて消化しきれないなどの問題で、社会に有形、無形の負担をもたらしている。だが、この問題は、衣料の源を改善することから解決できるのだ。
台湾の化学繊維産業は、機能性繊維製品の国際市場において、確固たる地位を築いている。一九八九年には、既に回収されたペットボトルからポリエステル繊維を抽出する技術を開発し、四年前の調査では、台湾全土のペットボトルの八割以上が、リサイクルされて新しい生地に生まれ変わっていた。しかし、再生による生産だけで市場のニーズを満たすことはできないため、依然として石化原料の輸入に頼っている。
台湾は、廃棄物から繊維製品を再生する技術を持っているが、素材が複雑で回収されていない物や、何度もリサイクルできないという課題にも向き合う必要がある。世界中で見ると、繊維製品のリサイクルはまだ二割足らずしか進んでいないが、その主な原因は、リサイクルコストが高すぎることと循環経済システムが効果的に確立されていないことにある。
今期の主題報道では、回収デニム生地を使って新しい服を作る社会的企業「ストーリーウェア」と、回収ペットボトルを再生して災害支援用毛布を作る大愛感恩テクノロジーの二社が、廃棄物からの再製作に全力を注いで慈善と公益とを結びつけていることを紹介している。
一枚の服も一つの物も、製品になるまでの過程は容易なものではないことをふまえて、今日の人類と地球環境の関係を考えてみるべきである。物の寿命を大切にしなければ、いつかはその報いが返って来るのである。
(慈済月刊六七一期より)