物の価値を最大限に発揮─ペットボトルの変身に成功

大愛感恩テクノロジーの製品は、全てに生産履歴が付いている。

例えば、この服はペットボトルを何本使ったか、元来の原材料に比べて二酸化炭素の排出はどれだけ減少したか、石油と水をどれだけ節約したか、などである。

環境ボランティアと企業が協力して、物の寿命を最大限に延ばしている。

二〇一八年のサッカーワールドカップに参加した三十二チームのうち、十六チームが台湾製の「再生繊維」で作られたユニフォームを着ていた。その中にはベストフォーに進んだチームもあり、MIT (Made In Taiwan)の再生紡績技術が世界に知れ渡った。

「再生繊維」とは、回収されたペットボトルをリサイクルしたものである。先ずボトルをフレーク状に粉砕し、熱で溶かして液体状にしてから米粒よりも小さいエステルペレットに加工する。成分や性質は石油から精製された元来のPETペレットと変わらない。次のステップも一般的な製造方法と同じであり、吸湿性、通気性、弾力機能なども劣らない。

「エコ・ユニフォーム」は国際的な競技でその卓越さを証明したが、そのような材料は他にも応用されているのだろうか?

二〇二二年のアジア太平洋サステナビリティ万博で、大愛感恩テクノロジーは、一風変わった躍動的なエコ展示企画を行った。慈済が災害支援に使うエコ毛布やリュック、ボランティアがよく着ているポロシャツなど機能性豊かな製品、そして「伝薪(新)」シリーズと銘打ったモダンクラシック・ファッションも出展した。

臨時にモデル歩きを練習したボランティアたちは、色合いもスタイルもシンプルなそれらの服を着てステージに上がると、それぞれが快適さとゆとりを見せた。「総体的に、内外の調和を意識し、すっきりした無地の生地をシンプルでエレガントに仕立て、着る人の上品さと純真さ、謙虚さを引き出すデザインになっています」と司会者が説明した。

「私たちの洋服は全てペットボトルから再生されています。洗い易く、早く乾き、汚れも簡単に落とせます」と大愛感恩テクノロジーのデザインディレクター・洪若岑(ホン・ルオチェン)さんが説明した。「伝薪」シリーズの原料は全て、慈済のリサイクルステーションが回収したペットボトルである。服一枚に何本のペットボトルが使われたのか、元来の材料を使った場合に比べてどれだけ二酸化炭素の排出量が減ったのか、どれだけ石油と水を節約したか、それら全てが分かりやすくカタログの写真の下部に記されている。

染色による汚染と水の使用を減らす為、大愛感恩テクノロジーの製品は大半が黒、白、紺、灰、緑色を基調にしている。白色は透明のペットボトルをチップにしたものから、アップル・グリーンは緑色の、黒は透明のPETペレットを溶解して炭を混ぜて作る。紺も同じような手法で作られている。

エコ毛布の灰色は、白と黒の糸を織り混ぜてできた視覚効果だ。長さ二・三メートル、幅一・八メートルの大判毛布を例にすると、六十七本のペットボトルを使っている。元来の原料で、同じ伝統的な方法で作られた同じ規格の製品と比べると、約四・二キロの二酸化炭素の排出と百八十リットルの水の使用、そして一リットルの石油の使用を減らすことができるのである。

二〇一五年、大愛感恩テクノロジーは更なる進歩を遂げ、二次回収品を再生できる技術(Recycle to Recycle 略称R2R)を開発した。エコ毛布の生産過程で発生する余った生地を再度フレーク状にして熱融解し、均一処理後ペレット状にしてから、糸を抽出して織物にするのである。特筆すべきことは、本来灰色の生地にする白と黒の糸は熱融解の過程で完全に溶け合い、黒糸の中だけにある黒の染料が融解後に均一に混ざって、黒に近い灰色を出している。

大愛感恩テクノロジーは、R2R技術で再生した材料で毛布、ベスト、マフラーや防疫用ゴーグルのフレームなどを作り、物を最大限に活用することで、一歩進んだ環境保全の理想を実現した。

今年のアジア太平洋サステナビリティー万博では、大愛感恩テクノロジーのエコ製品、回収されたペットボトルから再生した衣服などが展示された。

利益率よりもはるかに勝る影響力

「商品開発の目的は、人々が生活の中で、些細であっても行動を起こすことで、地球を助けられるようにすることです」と大愛感恩テクノロジー経営企画室の張絮評(チャン・シューピン)さんが説明した。しかし、この繊維製品の分野で実践する環境保全という道は、初めの頃は紡績業界を悩ました。

二〇〇〇年以前に、すでに台湾の紡績業者はペットボトルを砕いて、熱で融解してから化学繊維を再生することを知っていた。慈済の実業家ボランティアたちは、その技術を使って様々な人道支援に使える紡績製品を作ることができると思っていた。しかし、二〇〇四年に量産の試運転をして気付いたのは、回収品を再生した場合、糸の歩留まりが三十パーセントにしか達しなかったことである。

問題点は、回収されたペットボトルの材質が雑多であったことにあった。再生に使えるのはPETだけであるが、回収時にPPでできたキャップとリングを取り除いてなかったのである。抽出される糸の直径は髪の毛の二十分の一に過ぎない。もし製造過程で他の材質が混入すれば、機械の抽出口が詰まり、糸切れするなどして、製造が中断してしまうのである。

台湾全土のリサイクルボランティアが、直ちにペットボトルのキャップとリングの分別作業に取り掛かった。それにより、歩留まりは九割近くに上がった。

二〇〇六年より再生繊維でできた慈済の「エコ毛布」が本格的に量産されるようになり、国内外の慈善活動に使われるようになった。その二年後、五人の実業家ボランティアが共同出資して、公益法人「大愛感恩テクノロジー」を発足すると共に、全株式を慈済に寄贈し、その収益を全部国内外の慈善と公益の活動に投入した。

発起人の一人である李鼎銘(リー・ディンミン)総経理が、丁寧に説明した。この会社は、慈済のリサイクル活動で回収した原材料を無償で供給してもらっているわけではなく、むしろ市場価格よりも高値で買い取っており、リサイクルボランティアが「ゴミを黄金に変える」という慈済の人文志業と慈善志業が続くように、慈善寄付をしているのだ。

創業十四年目となるこの会社は、投資回収率よりも社会に対する影響力の方をはるかに重く見ている。「かつてヨーロッパから環境保護を専門に取材する記者が台湾に来て、会社の売上と利益率を尋ねたことがあります」。李さんはそれら一つ一つに回答することなく、スタッフにその記者を慈済内湖パークに案内させ、ボランティアの回収作業を見てもらった。

売上や利益率について言及しないのは、大愛感恩テクノロジーが最も重視することが他にあるからだ。リサイクルボランティアの大地に対する思いやり、慈済が大愛を込めた奉仕をしてその思いやりが伝わり、世界がつながることにあるのだ。世間に見せたいのは善のリレーと感動と、その影響力であり、冷たい数字ではないのだ。

「リサイクルボランティアは『地球を愛する』気持ちだけで、一年、十年、または三十年続けることができるのです」。リサイクルボランティアは資源を回収する作業だけをしているのではなく、「人類のため」を思ってやっている、と李さんが続けた。彼らが回収したペットボトルはエコ毛布の原料になって、遠い国で苦難にある人たちを守ることができ、またエコ衣服となって、消費者が炭素排出の削減や資源の消耗を減らす手伝いができるのだ。

一部の慈済ボランティアのユニフォームや大愛感恩テクノロジーが生産した伝薪シリーズの服は背広に至るまで、全て回収物が原料だ。循環経済の実効性を実践して見せている。

不要な物を役に立つ物に変えるマジック

大愛感恩テクノロジーは絶えず研究開発を続けている。例えば、ソーラー・バッテリーとLEDライトが付いたBBキャップ、防水性と通気性を兼ね備えた防寒ジャケットや綿入りスボン、踏み抜き防止シューズ、ソーラーチャージ付き備災用リュック等々がある。慈済ボランティアが必要な装備は、頭から足先まで全部揃っている。たとえ電気や照明がない重被災地で人道支援活動をする時でも、基本的な安全が確保できるのだ。そして、一般消費者が使える商品の開発も続けている。

このほか、大愛感恩テクノロジーは協力パートナーを慎重に選んでいるので、労働者の権利を保障するなどの社会的責任も果たしている。会社は自前の生産設備を持っていないため、信用のおける、社会的責任に関する認証を受けている優良メーカーに生産を委託することで、リサイクル産業と環境保護のサプライ・チェーンを実現している。

「重視しているのは、やはり教育です。不要な物を役に立つ製品に変えるマジックを使って、仏法を語りかけているのです。これらの衣服は環境ボランティアと実業家ボランティアが苦労して成功させたもので、そこに至るまでの苦労話があるのです」。会社は利益が必要だが、かと言って、過度に消費を推奨してはいけない。回収するのが一番だが、使わないことに越したことはない、と李さんが強調した。もし生活必需品を購入しなければならない時は、消費者にエコ商品を選ぶように薦めている。不要な消費を減らし、物を大事に使ってその寿命を延ばすことは、人類と大地を利する善意の行動なのである。

「一人一人の力を無視してはいけません。やろうと思えば、この世界を変えることができる、と上人が言ったことがあります」。李さんは、期待を込めて語った。


(慈済月刊六七一期より)

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