衣服に学ぶ持続性 ファッション災害を救う

新北市にある回収業者の倉庫。古着が山のように積まれ、作業員が忙しく選別作業をしていた。

台湾で毎年廃棄される衣類は、一人当たり少なくとも十枚以上に上る。

しかし、世界の古着市場は飽和状態に近く、輸出するのも難しい。「ファストファッション」の流行は消費者の購買意欲を掻き立てるが、浪費を招き易い。

紡績業が引き起こす環境汚染の規模は、既に石油化学工業の次に大きい。

デパートの服売り場には、時折バーゲンのアナウンスが流れ、消費者に迷わず買い物するよう促している。お手頃なブランドの価格は二、三百元から千元(約千円〜四千円)で、運が良ければ百元(約四百円)のバーゲン品を見つけることもでき、服一着がランチよりも安いのである。

紡績産業の発達のお陰で、キリスト教終末論で言う後千年王国の世界のように、たとえ国民所得の低い貧しい国でさえも、国境を超えて集まる愛をこめた寄付や、或いは低価格で購入した古着を輸入することで、最低限の体面を保つことができるようになった。

大量生産と低価格で手に入りやすくなった衣類は、「ちまちましたものでも、それを作り出すのは容易ではないことを、常に心に留めておくべきである」と言われるように、終戦後の台湾でアメリカからの支援を受けた時期には、小麦粉の袋で衣服を作っていたとは想像しがたい伝説となっている。二〇一〇年以降、「ファストファッション」の流行が欧米から台湾にも広がると、デザインの企画から販売までわずか十四日間という速さから、流行に追随する消費者たちに買い物の楽しみが浸透していく一方で、淘汰される量も年々増え続けている。

環保署(行政院環境保護署)の二〇二〇年の統計によれば、台湾全域の古着回収量は七万八千九百五十一トンに達し、一キロを三・二枚に換算すると、一人当たり一年に捨てた服は十一枚になる。年々大幅に数が増える古着の処理は難しく、何処に送ればいいのか見通しは定かではない。

世界的な古着の供給過剰

古着の処理はどれほど困難なのか。新北市五股山区にある古着回収工場を訪れた。色とりどりの古着が山のように積まれたトタン製の倉庫は、目測で四階建てに相当する高さがある。作業員が古着の山の「麓」に座って衣類を選別しているのだが、何処にいるのか、よく見ないと分からなかった。

「入荷と出荷は毎日あります。ひと月で四、五百トンになるでしょう。最近回収される古着は品質がだんだん悪くなっているので、ゴミになる比率が増え続けています」と回収業者の呉基正(ウー・ジージョン)さんが言った。以前台湾の景気が良かった頃は、質の良い服が好まれて売れていたので、古着の質も自ずと悪くならなかった。「ファストファッション」が主流になると、人々は、価格が安ければ素材や加工は粗雑な製品でも大量に買うようになった。それにつれて回収された古着の質も落ちてきたので、販売できる物はおよそ三、四割なのだそうだ。

「世界的にも、古着が必要な国や地域は少なくなっています。十数年前はほとんど中国に販売していましたが、今は中国も経済が発展しました。同じく東南アジア諸国も、古着を輸出するまでになっています」と呉さんが振り返った。以前、台湾の古着はとても歓迎されていた。たとえ名前や学籍番号が付いた制服でも、買い手は喜んで受け取ってくれた。しかし、今は世界中で古着は供給過多となり、多くの同業者は続けられなくなって廃業した。「これから先、アフリカにも輸出できなくなったら、何処に持っていけばいいのでしょう」と彼は心配そうに言った。

ファッション業界は古いものを新しいものに素早く置き換え、低価格で消費者の異なったニーズに対応している。

美の産業に暗雲が立ち込める

世界の古着市場は飽和状態に近づいている。台湾の古着回収業者は元々、高い人件費と家賃を負担している上に、コロナ禍で従業員の感染に直面したり、海運コストが暴騰したりと、内外で差し迫る問題に直面し、今までになく困難な時期を迎えている。

「私の会社には百人余りの従業員がいますが、ほとんどは中高齢者や心身障害者の方です。また、十から二十の社会福祉団体にお願いして古着回収箱を設置してもらっています」。従業員が古着の仕分けやフォークリフトの操作に没頭し、梱包した古着を積み重ねているのを見ながら、呉さんは率直にこう言った。「廃業してこの作業場を他人に貸した方が、生活はもっと楽になるのですが、今歯を食いしばっているのは、少しでも社会で役に立ちたいと思っているからです」。

「もし私たちがやらなければ、政府が処理することになり、即ち焼却炉行きを意味します」。台湾のゴミ焼却炉は比較的古いタイプで、燃焼温度を制御できないものが多く、古着を燃やすと設定温度より高くなるため、焼却炉本体の損傷を避けるために、一般ゴミの中に古着を少しずつ混入するのだそうだ。「この業界が成り立たなくなって、古着の輸出が出来なくなれば、ゴミになって、全部焼却炉行きになるほかないでしょう。私たち同業者がいれば、少なくとも輸出して再利用できるのです」。

世界に目を向けると、過度な衣類の消費と生産は、もはや人類と環境に深刻なダメージを与えている。アパレル産業がもたらす汚染は、石油化学工業に次いで世界第二位を占めている。多くの紡績会社は先進国の厳しい環境基準を避け、環境規制や管制が緩やかな貧しい途上国へと生産ラインを計画的に移したので、現地に取り返しのつかない環境破壊をもたらしている。

大愛テレビの取材チームは、二〇一八年に長栄大学の環境工学専門家と共に、既製服の生産大国であるバングラデシュに行って実地調査を行ったことがある。一行は首都ダッカ近郊にある紡績工場に行き、排水口から廃水サンプルを採取すると、その廃水は濃紺色で、透明度がゼロに近く、PHは10を超え、すでに強アルカリ性のレベルに達していた。研究員は採取の時、不注意にも噴き出してきた排水に触れてしまい、灼けるような熱さを感じたそうだ。廃水は付近の農地の潅漑用水源にも影響を与えており、重金属による土壌汚染だけでなく、農作物が成熟しにくく、枯れたものもあり、住民の健康までもが脅かされている。

幸いにも近年、国際社会は企業の社会的責任を重視するようになった。かなりの数のアパレルブランドは既に、従業員への保障や環境保護、コミュニティの永続的な発展を支持する行動を取ることを公約している。しかし、突き詰めて考えると、消費者こそ「清浄は源から」を始めるべきであることに気づく。

慈済と協力パートナーは、西アフリカのシエラレオネ共和国で、古着と毛布を配付した。民衆が並んで受け取った。

着られない服を贈るわけにはいかない

「ファションは、必ずしも流行を追い求め続ける必要はなく、気品を養い、品質を重視することの方が大事です。消費者は本当にそれを必要としているのか、それともただの欲望なのかに気付くべきです」。衣類の購買に関し、慈済科技大学・マーケティングと物流管理学科の陳皇曄(チェン・ホワンイエ)教授は、人々が「グリーン消費」という考えを持ってしっかり選ぶことを提案している。「好きな商品を目にしたからといって衝動買いせず、理性的に考えてから選んで買い、それと同時に買う数量を減らして、過度の消費を避けるのです」と言った。

また、古着を買うことで、その回収流通経路を通して、自分の着られなくなった衣服を他人に譲ることができる。「衣服は、できるだけ質が良くて長持ちするものを買い、奉仕の気持ちで寄付をするなら、きちんと整理することです」。呉さんによると、積み上げられた古着の中には、ボロボロの服や犬の毛がいっぱい付いたものがあり、再利用できないばかりでなく、ゴミとして出すための余計なコストが掛かったことがあったそうだ。「既に廃棄物になったのであれば、廃棄物として処理すべきです」と彼は人々に注意を促した。「己の欲せざる所は人に施す勿れ」が、人助けとして古着を寄付する時の基本原則である。

二十一世紀の台湾では、人々は一九七〇年代までのように極度に勤勉、倹約、困難を乗り越える生活をする必要は無くなったが、物欲を制することは、自分の持ち物を「寿命の尽きるまで使用する」ことであり、そうすれば不必要に資源を消耗することなく汚染を減らすことができるのである。衣類もその一つで、品質を選ぶだけでなく、正しい洗濯方法で良く手入れすれば、長く使用して物の寿命を延ばすことができ、最後に古着を良い状態のまま、思いやりを持って寄付することもできるのだ。

物資が豊富な現代社会に「衣生活」から学んだことを根付かせるのは、決して難しくはない。必要と欲求についてもう少し考え、「何か買わなくては」という衝動買いを控えれば、やり遂げられるのだ。


(慈済月刊六七一期より)

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