第二十六回国連気候変動サミットに参加して 慈済の提唱:日々の食事を軽く見ない

今回の気候変動サミットの共通認識は、メタン削減である。

慈済国連代表チームは「植物性飲食」をすることで、畜産業で排出されるメタンガスを減らして、誰もが地球の温暖化を遅らせることに貢献できる、と提唱した。

国連気候変動枠組条約第二十六回締約国会議(COP26)は、昨年十月三十一日から十一月十二日にかけてスコットランドのグラスゴーで開催され、参加した約二百カ国が、二○一五年に締結された「パリ協定」から現在までの各国におけるカーボンニュートラルに向けた取り組みの検証を発表した。また、約十年後の二○三○年までに炭素排出を半減し、この先十年間にメタンの排出を三割削減することや、森林伐採の停止、石炭燃焼の禁止などで合意に達し、多くの項目で締結された。

慈済は長年にわたって、気候変動を緩和するために、環境保全と菜食を提唱して来た。今年もまた、国連から世界で最も重要な気候変動サミットに招待された。台湾、アメリカ、マレーシア、ドイツ、イギリスから計十五人が出席し、開催期間中、代表者たちと如何にして、国連食糧農業機関(FAO)と協力し合い、飢餓に苦しむ国々を支援するかについて話し合った。また各国の宗教リーダーたちと、宗教を越えた相互協力について議論を重ねて関連テーマのシンポジウムを開催すると共に、多くの記者会見を通じて見解を発表した。慈済が気候変動サミットに参加するのは、今回で七回目である。

大林慈済病院の林名男(リン・ミンナン)副院長と慈済アメリカ総支部の曽慈慧(ゾン・ズーフイ)副執行長、そして台湾人気象専門家・彭啓明(ポン・チーミン)博士が、「仏教思想に基づいたカーボンニュートラル(Buddhist Path to Carbon Neutrality)」と題した一回目の記者会見を開き、慈済志業を例に、仏教団体による気候変動改善への努力と実践について説明した。

慈済国連代表団は11月3日、気候変動サミットの「気候ファイナンスデー」で、1回目の記者会見を開いた。(撮影・楊健正)

世界保健機関(WHO)が主催した「グローバル食糧需給システムの転換モデル」と題した座談会では、林副院長が台湾にある七つの慈済病院で提供している「植物性飲食」が、脱炭素に貢献しているだけでなく、病気を減らすことにもつながっていることを紹介した。また、気候変動サミットで繰り返し言われている「行動」に触れ、行動は日常生活から始めなければならないと訴えた。「三食から見直すことが、最も速く且つ気候に影響を与えることができる行動なのです」。林副院長は、一個人の食事がもたらす影響力を軽視してはならないと強調した。

昨年八月九日、COP26の開催前、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が「第六次気候変動評価報告書」を発表した。この報告書では、産業革命以来百年余りの間に、人類の活動で排出した温室効果ガスにより、地球の表面温度が摂氏一・〇七度上昇したことや、「二○四○年までに警戒ラインである一・五度を超えて上昇する可能性が極めて高い」ことが指摘された。

専門家たちは、気候変動が「確かに存在する」こと、そして明らかに「人類の活動によるもの」であることを改めて明言した。今回の報告書ではメタンガスの影響に関する具体的なデータが示され、畜産業との密接な関係も報告された。二○○八年という早い時期に、前IPCC議長であったラジェンドラ・パチャウリ博士は、自身の発表したレポートでこのように述べている。「簡単なことです。肉を食べる量を減らせば良いのです。このような生活スタイルの変更は、誰でも実行できることなので、肉を食べる量を減らして、畜産業の規模を縮小させることこそが、温室効果ガスの排出を削減する有効な手段なのです」。レポート末尾に博士は強調した。「世界を変えるには、まず自分が変わることだ」。

これまで慈済メンバーと共に何度も気候変動サミットに参加してきた彭啓明博士は、COP26の大会前夜、IPCC「第六次評価報告書」をこのように読み解いた。

IPCCによる報告の発表は、一九九○年に初回発表をして以来、既に六回目となる。以前の報告書には「まだ確定的ではない」、「議論の余地がある」と書かれていたが、今回の報告書では多くの項目が「非常に明らかである」に変わった。例えば二○一三年の第五次報告書では、人類は平均気温の上昇を摂氏二度までに抑えると書かれていたが、二○一五年末のパリ協定では一・五度に下方修正された。そして最新の第六次報告書では、そのラインを「守りきれない」とはっきり報告している。

つまり、二○四○年までに人類がいかに温室効果ガスの削減に努力しようとも、一・五度を超えてしまうということである。だが私たちは、目先の二、三十年だけを見据えていればよいわけではない。二十一世紀末に生きる子孫たちが地球に希望を抱いて受け継ぐには、さらなる努力が必要だ。

所謂一・五度と言っても、現在すでに一・〇七度上昇しているのである。これは産業革命からの百年余りの間に、人類の活動がもたらしたものである。

一・〇七度という数値の内訳を見ると、二酸化炭素による上昇分が〇・七五度、メタンガスの「貢献」による上昇分が〇・五度、両者の合計が一・二五度となっている。そこから硫黄酸化物の粒子による冷却効果〇・三度を減算し、その他の温室効果ガスによる上昇分を加算すると、一・〇七度という結論が導き出されたのだった。

化石燃料の燃焼から出る二酸化炭素が一位、メタンが二位を占めるが、どちらも人類の活動に深く関わっている。メタンは畜産業、天然ガスや石油の採掘過程、ごみの埋め立てなどから発生する。中でも畜産業がその半分を占め、家畜の消化器から出る発酵気体(おなら)がその三割を占める。世界における食肉の消費量は、過去五十年で四倍に増えている。人口が益々増え、肉食の割合が増えるにつれ、将来畜産業で発生するメタンガスの割合はさらに上昇するだろう。

朝晩の気温差が十度だと聞いても、人々は大したことはないと感じる。だが地球の温度が一度上昇することが、人間の正常収縮血圧が百二十から百四十に上がるようなものだと聞けば、少しはその重みがわかるだろうか。それが長く続けば、徐々にさまざまな合併症が現れてくるのである。

報告書によれば、二酸化炭素の濃度は、過去二百万年の間で最も高く、四百二十ppmの水準に達しており、また海面上昇の度合いは、過去三千年で最も高い水準に達している。これを食い止めなければ、低地はもっと頻繁に深刻な水害に見舞われることになるだろう。そして北極海の海氷面積は過去一千年で最も少ない水準に達しており、山岳氷河の消失は、過去二千年のうち最も速いスピードで進んでいる。

このような例はいずれも、具体的な「千年の証」なのである。人類の産業革命から百年余り、地球の温度が摂氏一度上昇しただけで、生態系はすでに大きな影響を受けるのだ。例えば森林火災の中には、大自然の正常な循環の一部だと言えるものもあるが、人類が森林と争い続ければ、今まで以上に火災が発生しやすくなり、気温の上昇もまた、森林火災を助長する。

大雨が益々頻繁に降るようになり、降水量は増加している。二○○九年八月の台風八号(モーラコット)では、三日間の降水量が三千ミリ近くに達した。ここ数年は、台風が来ない時でも、驚くほどの大雨が降っている。

干ばつも明らかに増加しており、過去二年間の台湾も例外ではない。以前は九~十年に一度、干ばつが起こる程度だったが、今は二~三年に一度起きている。熱波の頻度も増えており、夏はほぼ毎年猛暑となる。昨年の台北市を例にとると、正午の気温が摂氏三十五度を超えた日が八十八日もあったが、昔は平均二十日程度だった。これらの急激な変化は、人類の生活を脅かしている。

気候変動会議には約25000人の代表者が参加し、地球温暖化の緩和のための計画やテクノロジーの展示で意見を交流した。慈済ボランティアは、リサイクル品から作ったエコ毛布など各種製品を紹介した。(撮影・邱垂傑)

メタンガスは排出量こそ二酸化炭素より少ないが、気温上昇に影響する強さとスピードは、他の気体のいずれをも上回る。COP26で、各国が食肉加工業や食料サプライチェーンの変革で具体的に同意することは、温室効果ガスの削減にとってかなり重要なことである。そして、これも一人一人ができることなのである。

野菜は保存期間の問題があるため、肉類とは違い、容易に国境を越えた輸送はできない。アメリカ、オーストラリア、日本の牛肉が世界のどこでも食べられることからわかるように、肉類の炭素排出量は伝統的な農作物よりもずっと多いのである。

畜産業には根本的な問題がある。一つは、それが地球温暖化への影響であり、もう一つは畜産業そのものが抱える問題だ。家畜が増え続ければ、その餌はどこから来るのか。調達するためにより多くの耕作地が必要となることは想像に難しくない。

「食の安全」という観点から見ると、地球は今まさに「臨界点」にある。例えば異常気象が発生し、農作物の成長期や収穫期に突然干ばつや台風に見舞われれば、農作物が被害を受けて食糧供給に問題が起き、価格変動が起きる。裕福な国はそれほど影響を受けないとしても、比較的発展の遅れた国では食糧の値段が高騰し、容易に社会不安が起きる。

畜産業が炭素排出に占める割合を見れば、人類が今まさに選択を迫られていることは明らかだ。もちろん、これに反対する国があることは否定できない。畜産業が経済の柱となっているからだ。これについては、日々の食事において菜食主義を提唱していくのが良いと思う。人類はGDPの成長と共に、畜産業が急速に拡大しすぎないよう、努力すべきである。もし、現状維持をすることができれば、その後は少しずつ減らしていくという方法が有効かもしれない。

IPCC評価報告書は、健康診断のレポートに喩えることができる。採血やエコー検査などを終えた後、医者から「全身が問題だらけですよ!」と言われたようなものである。それに続く大事なことは、その状況を緩和することと体調管理である。例えば体重や血圧がオーバーしているなら、今すぐ体重を減らし、少なくともこれ以上悪化させてはならない。化石燃料に対する依存度を減らしても、ネット・ゼロ(実質のCO2排出量がゼロ)には届かないかもしれないが、少なくともカーボンニュートラル(炭素中立)を目指すべきである。電気の使い方を変え、NEZ(省エネルギービル)に住むことは、今すぐ取るべき考え方と行動の一つである。

この報告書の最も重要な意義は、これ以上脅迫的な宣伝をするのではなく、私たちに変革を呼びかけていることにある。

(慈済月刊六六一期より)

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