五穀や野菜、果物は大地の恵み。人々に十分な栄養を与えてくれると共に、日々、変化する環境の鍵を握っている。
毎日の食事を機会に、菜食をして生命を大切し、地球を守り、変える力を発揮しよう!
「皆さん、こんにちは。私はシュー・ミンです。私と一緒にトッポギという料理を作りましょう」と、台湾に長年留学していた韓国出身の朴修民(プー・シューミン)さんは、カメラに向かって、今時流行りの自作動画を通して簡単な菜食料理を紹介した。今年に入ってから、彼女のホームページには「大学院生の一日」、「外食」、「自炊」など十数部の動画がアップロードされているが、その共通点は環境保護と菜食の日常だ。二十四歳の彼女は肉食を止めてから九年になる。
「私は自前のソーシャル・メディアを運営していますが、要はもっと多くの人に肉食を止めてもらうことを望んでいるのです」。朴さんは、台湾に留学していた時、「生命の叫び」という豚や鶏などの産業動物の一生を記録したドキュメンタリーを見て、大きなショックを受けた。毎日食べていた肉が食卓に上がるまでの事実、そしてその過程での動物たちの苦痛を初めて知った。「私は動物と子供が大好きです。人類の欲望の為に、普通に成長することができずに、家族から引き離されたり殺されたりする動物がいることを知って、とても残酷なことだと思いました」。
そのドキュメンタリーを見終わったあと、朴さんは自分の食習慣を反省し始めた。「実は肉を食べなくても、私は同じように生活をすることができるのだ」と彼女は気がついた。
朴さんは、菜食のレストランでビデオカメラに向かって料理の食感、味そして食後の感想を紹介している。編集してから動画をネットで配信し、より多くの人に菜食の良さをアピールしている。
焼肉の野菜包み、ピリ辛フライドチキン、ビビンバそしてタコの刺身、全てが有名な韓国料理である。もっと風味を出す為に使うナンプラーやシーフード、肉類は全て重要な食材である。韓国で友達と会食する時、純ベジタリアンのレストランは多くない。一般の人は「菜食」に対する観念が非常に低いと朴さんは言う。「友人に、あなたはベジタリアンですので、一緒に豚足を食べに行きましょう、と言われました」。何故なら、その友人は豚「足」は「豚の体の肉」ではないと思っていたからだ。
「友達が菜食の肉と偽って本物の肉を挟んで、私に食べさせたことがありました。私を尊重せず、とても不愉快でした」。菜食を始めた当初は猶予したり、周りのからかいを我慢したりしていたが、好きな動物の為に朴さんはやはり頑なに菜食を選んだ。
菜食を試してみた多くの人は、種類が少ないことと友人から仲間外れにされるかもしれないという理由で、中途で辞めている。食習慣と友情のどちらを選ぶか、確かにチャレンジと困難があったと朴さんは正直に言った。彼女は好物の天ぷらをやめられなくて心が揺れ動いたことがあったそうだ。外食した時は無理に友人に合わせることができなかったので、レストランに入ってから臨機応変に対応することにした。「食の選択肢が多くなかった状況下で、私は出された食事の中から野菜だけ食べることにしました。私の原則は、肉を食べないことですから」。
学生時代から、彼女はソーシャル・メディアを通して菜食やその手作り料理を共有してきた。就職してからは、仕事以外の時間に熱心に撮影のテーマを企画した。如何にしてネット上の友達の注意を引いて何万もの「いいね!」をもらうかは、彼女の目的ではない。むしろ、彼女はそれを機に、口にした食べ物が周りの環境とどのような影響を与え合い、結び付きがあるのかについて、もっと多くの人に考えて貰いたいのだ。
「私は資料を読んで初めて知ったのですが、家畜を飼うには大量の水を消費し、大気と土壌を汚染しています。菜食をすれば動物だけでなく、環境も守ることができるのです。それなら、日頃から環境に優しいライフスタイルを実践することで、環境破壊を減らすことができるのでは?と考えました」。そこで、彼女は生活習慣を変え、外出する時はマイ食器を持ち歩き、外食しても使い捨て食器の使用を拒んだ。使う化粧品も動物実験を必要としないビーガン化粧品を選んでいる。自分だけでなく、動物にも環境にとっても良いからである。
投稿へのコメントに、彼女の理念に賛同し、菜食と環境に優しいライフスタイルに興味を持ち、菜食を始めてみた、というのがあった。「それは私にとって大きな励ましでした。たとえ今日の賛同者が一人だけであっても、私なりのやり方で菜食を呼びかけ続けます」と彼女は感激しながら話した。
人類と動物は各々、ウイルスに感染する。人類が動物を殺し、食べることによって、ウイルスが宿主域を超え、DNAが組み換えられて新種のウイルスが生まれることは否定できない。人類と家畜に共通する伝染病をなくすには、菜食がとても良い選択肢である。
肉のない食事の「風潮」
時代の変化に伴い、菜食はもはや宗教団体や伝統的な習わしに属する堅苦しいものではない。五葷菜食(五葷を含むビーガン)や卵とミルクを含む菜食、そして純菜食(五葷を含まないビーガン)という耳慣れたこれらのカテゴリーに対して、近年では環境に優しくすること、健康を考えること、動物を愛護すること、という観点で肉食から菜食に転じる若者は少なくない。
朴さんは自分を「動物保護の為のベジタリアンの良い例」だと言う。彼女の両親は宗教の関係で早くから菜食してきたが、子供に食習慣を変えるよう強要したことはなく、子供らの選択を尊重している。「若者は拘束されるのが嫌いですから、一方的に肉を食べるな、と言えば、むしろ反発するでしょう」。自立した考えを持つことで、逆に彼女は自主的に変わることを望んだ。
長い間、菜食に関するテーマに関心を持ってきた朴さんによれば、近年、政財界の有名人やスポーツ選手、映画スター、モデルなどの著名人の呼びかけで、動物を食することや関連製品を使うことをしない「ビーガン」という言葉の存在が、若者の間で大きくなっているという。それは単なる流行やトレンドだけではなく、もっと動物の権利を重視し、地球に優しくするという意味がある。「若者の食習慣は周りの人や注目を集めている著名人の影響を受けやすく、『ビーガン・トレンド』は知らない間により多くの人に菜食を認識させ、理解させています」。
慈済志業体の若いスタッフたちは「食のライブ〜お腹から変わって菜食になる花蓮」というプログラムをソーシャルメディアで生中継している。3月、花蓮慈済病院エネルギー療法センターの許瑞云主任(左から2人目)を招き、菜食と免疫力について伺った。(撮影・黄靖茹)
二〇一九年、植物を材料にした代替肉のメーカーであるビヨンドミード社、オムニポーク社、インポシブル・フーズ社らが食品業界や株式市場でスターになり、多くのベジタリアンと非ベジタリアンの注目を集めている。市場環境が目に見えるスピードで変化している中、この流れも雑誌「エコノミスト」に世界のトレンドとして取り上げられ、二〇一九年はビーガン元年と呼ばれた。
台湾のベジタリアン人口は三百万人を超えており、環境に配慮した菜食の観念は多くの国に比べて進んでいて、友好的である。とは言え、肉の消費量も相当なもので、台湾農業委員会の二〇一八年の統計によると、豚肉と家禽類の年間消費量は一人当たり七十キロに達しており、日本、フィリピンなどの近隣諸国よりもかなり多い。気候変動の激化とコロナウイルスの世界的な流行に伴い、長年、菜食を薦めてきた慈済ボランティアは、より多くの人が菜食し、健康になるよう、更に力を入れて呼びかけている。今年、慈済志業体の若いスタッフたちは、「食のライブ〜お腹から変わって菜食になる花蓮」というプログラムをソーシャルメディアで生中継している。アメリカでは、慈済ボランティアが会員や住民に「百万膳百万善(六十日間毎日の食事のうち何食かを菜食にするという発願を募る)」を呼びかけて、コロナウイルスの沈静化を祈願しており、既に約二百万食分を集めることに成功している。
ビーガン・トレンドに影響されたか、或いは環境保全や生命を守るという理念から始めたかのどちらにしても、菜食の力は至るところで声をあげている。
「自分の口で」地球を救う
台北市大安森林公園近くの、あるレストランは、週末や休日になると開店前から行列ができる。明るくて清潔な店内では、早朝の運動を終えたお年寄り、子供連れの母親、若いサラリーマンが、様々な野菜を食材にしたカレーライス、焼き餃子、鍋料理を満喫している。
今年二十八歳のオーナーである劉妍希(リウ・イエンシー)さんは朴さんと同年代の若い世代だ。普段から環境問題に関心を持っている彼女は「新聞、雑誌、ネットに公開されたデータを見ると、地球の環境破壊を食い止め、気候変動から守るには、どれほど償いと言える行動を取っても、菜食による修復の速さには及びません」と自分の考えを共有した。
環境を守ることを初心とし、もっと多くの人に肉食を減らすよう呼びかけ、意識的に菜食するために、彼女は三年前から菜食専門のレストランを始めた。
「私の菜食の勧め方は、加工していない『野菜そのもの』のみを店で提供することです。一人ひとりのお客さんが店で一食すれば、その人は今日、一食の菜食をしたことになるのです」。劉さんは、この良好な環境の中で消費者が自然に菜食を好きになり、そして、食習慣が変わることを願っている。「以前、台湾の菜食は油が多いという印象が強かったのですが、食材の本来の味を生かして添加物と加工食品を減らせば、油っこいという心配もなく、食で環境保全をし、健康的で且つ地球の為にも尽力できるのです」。
多くの顧客は何回か食べるうちに常連客になるだけでなく、家族や友人も連れて来る。味の美味しさは入門の第一関門であるに過ぎない。持続して意味のある菜食をするには、根本から考えを変えることが必要だ。変えて初めて続けられるのである。
肉食が美食の主流という概念の中で、朴さんや劉さんのような若者がもっと増えて「環境保全、気候変動、動物愛護」などの話題を通して自分の食と生活の習慣を反省し始めている。また社会でも、かなりの数の人が同じような理由で、何年も前から変わっているのである。
慈済基金会は、8月に台北市政府と共同で大安森林公園にて「痕跡を残さない菜食ファミリーデー」を催し、来場者が各ステージをクリアしながら地球の温度を下げる最速の方法で、痕跡を残さない菜食、プラスチックの無い環境保全、種の保護を実践することを体験した。
三十年以上のキャリアを持つイタリア人のカメラマン・アルベルト・ブッゾーラさんは、長年、東南アジアやアフリカ及び中東など百を超える国を何度も訪れ、現地で見聞きして得た大量の情報によって、肉食の意義について考え始めるようになった。「一つの土地に動物を飼育しても、少数の裕福な人にしか供給することはできません。しかし、世界には食糧不足で飢餓に陥っている人口が八億人もいます。同じ大きさの土地に農作物を作れば、もっと多くの人を助けることができます」。その他、三十数年前にオゾン層に穴が開いたという報告から明るみになった環境問題も、アルベルトさんが菜食を選んだきっかけとなった。「肉を食べなくても、私は普通に生きられます」と彼は言う。
環境を守る為に、彼は長く菜食を続けてきただけでなく、長年に亘って「環境に優しい」ライフスタイルを実践している。ペットボトルの代わりにマイカップを持参したり、自転車通勤をして二酸化炭素の排出を下げたりしている。プロカメラマンとして彼は常に重い撮影機材を持ち歩かなければならないが、仕事以外の時間に運動を続けている。「菜食は私の体力と健康に負の影響を与えません」。
食卓の上の食べ物が何処から来たのかを理解することに始まり、その一食の選択はもう一つの命や地方の変遷に繋がっていく。肉なしの食事は動物に対する思いやりであり、気候変動を憂慮する気持ちを表し、心身の健康のためになるのである。多元的な理念に支持されて、菜食はもはや単純に食習慣の一つであるだけではない。新世代の若者にとっては、食卓から日常生活に至るまでの全てが一種斬新的な生活態度に発展していく。そして、「私は菜食しています。私はベジタリアンです」と気楽に言えるようになっている。
二十数年前、母親の健康を願って菜食を始めた。その数年後、自分が手術を受けた。その時、メスで百回切られたように感じ、動物が殺される時の鳴き声や衝動的な動きが頭に思い浮かんだ。それは動物たちが恐怖を表す方法なのだ。我々人間が彼らの生死を左右する資格はどこにあるというのか?
(慈済月刊六四七期より)