慈済は、頭を垂れて行う資源回収を始めてから国際舞台に上るまでの、台湾のリサイクルボランティアの善行を全世界に見てもらい、環境危機を緩和する最も簡単な方法を分かち合った。
アメリカ・ロサンゼルスのシニアボランティア、曽慈慧(ゾン・ツーフイ)さんは、二〇一八年に慈済を代表して「国連経済社会理事会(略称‥ECOSOC)のNGO特殊協議委員」として、ニューヨークで開かれた第六十七回国連広報センターのNGO会議に出席しました。
慈済はフォーラムの主催を要請されたことを受けて、曽さんが「地球の共有と共同責任」というテーマの論文を発表し、NGOなどの民間団体に、気候変動で起きている問題を直視する必要がある、と呼びかけました。また、気候変動による災害を減らすには、「清浄は源から」という概念が必要であり、心の問題から始めなければならない、と訴えました。
翌年三月の国連環境会議で、慈済は「資源を黄金に変える」と題した討論会を開き、会場に廃棄プラスチックから作った帽子・サングラス・衣服・建材などを展示しました。会議に参加していたアメリカ仏教平和団体「ブッディスト・ピース・フェローシップ」の代表は、「この会議の多くの計画は経済的な利益を主張するだけですが、慈済は私たちに、環境保全は愛と慈悲に支えられたもので、利益のためではない、と教えてくれたのです」と述べました。
ガーナ共和国ゴミ分別堆肥推進協会代表のマイリク・イラ氏は、エコ毛布の魅力に驚いて発言しました。「生地は柔らかくて綿製品のような手触りで、まさかペットボトルフレークから作られたものとは思えません。実に不思議です。私はこの技術を自国に持ち帰りたいと思います」。ケニアの環境発展監督協会代表のピーターソン・カルミ氏も「このような技術はケニアでも非常に役に立ちます。自分の国でエコ技術を発展させれば、若者にも新しい就職のチャンスをもたらしてくれるでしょう」とコメントしました。
近年、慈済は積極的に国際会議に参加し、各国の人たちに、慈済ボランティアが国際災害支援で奉仕する様子や、環境保全は気候変動が人類に及ぼす危機を緩和できることを紹介しています。このような重要な場では、単に理念を述べるだけでなく、具体的にはこうすれば良いという様々なやり方や人物伝、もしくは統計数値によってそれを検証することにしています。
民間の宗教慈善団体として、環境保全のために発言する慈済は、最も優しい親善大使と称されるに相応しいでしょう。
慈済人がよく口にする「環境保全をする」という言葉のキーポイントは「する」という行動です。證厳法師はいつも「人々が『共通の知識と認識』を持つのは難しくないのですが、『共に行動する』と問題が出てくるのです」とため息をついています。この三十年来、地道なリサイクルボランティアたちが腰を曲げ、頭を低くして共に歩んできたからこそ、今、胸を張って国連に出入りし、国際舞台に上がることができるのです。
2019年、慈済は国連環境計画のオブザーバーとして、ケニア・ナイロビで開かれた会議に出席した。慈済ボランティアの曽慈慧さん(左2)と蔡思一さん(左3)が会議でエコ毛布を紹介した。マラウイのアグリナ・ムッサ大使(左1)は、慈済が、回収したプラスチックを永く使える日用品に再生し、至る所で見られるプラスチック廃棄物の問題を解決してくれたと称賛した。(写真提供・黄静恩)
食習慣を変え、地球の温度を下げる
二〇一九年十一月、EUの欧州議会は正式に、EUと世界は「気候非常事態」に突入したことを宣言し、消極的な「気候変動」という表現に取って代わるよう迅速に必要な対策を取るべきだと強調しました。積極的に行動に移さなければ、全人類は甚大な損害を被るかもしれません。
しかしながら、救済は防災に勝ることはありません。防災の基本は、省エネによるCO2の削減と環境保全を日常生活に根付かせることです。慈済は環境保全教育に全力を尽くし、数十年来自前のメデイアを通して呼びかけ、リサイクル教育センターでは先頭に立つなどの方法で、日々、推進を促しています。
菜食を提唱し呼びかける宗教慈善団体として慈済は、菜食と生態の環境保全に密接な繋がりがあると語りかけています。二〇一九年、「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」も、肉食する人類に提供する動物の飼養を減少させれば、二酸化炭素の排出削減と地球の温暖化防止に役立つことに気がつきました。言い換えれば、菜食は地球環境に優しい飲食と生活習慣の一つなのです。
昨年放映された「ゲーム・チャンジャー」は、「タイタニック」や「アバダー」の監督をしたジェームズ・キャメロン氏が制作した、菜食に関するドキュメタリー映画で、人類の「肉食神話」の食習慣を打ち破ることを期待したものでした。
「人間として、もし気候変動問題を改善したいのなら、唯一できる大仕事は、動物を食べるのを止めることである」とキャメロン監督は強調しています。
大林慈済病院の林名男(リン・ミンナン)副院長は家庭医学科の医師であり、慈済を代表して多数回、国連気候変動会議に参加してきました。二〇一五年にフランスのパリで開かれた第二十一回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、「菜食」と「気候変動」を結び付けた議題で報告をし、結論として、私たちの飲食や生活習慣が気候に与える影響は非常に大きいとし、「世界を変えたいのなら、食生活から変えるべきです」と述べました。
慈済医療志業はアジアが最も完璧ですが、全世界第三位の「各世代に渡る菜食の栄養研究調査のデータバンク」でもあります。このデータバンクは、数千人の民衆を対象に十数年間追跡してきたもので、林副院長はその研究事業のリーダーなのです。
関連文献によれば、一キロの牛肉などの肉類から産出される温室効果ガスは、同じ一キロのブロッコリーなどの果物や野菜類の二、三十倍以上になり、しかも飼養の過程で大量の水と農薬、肥料、エネルギーを消費するのです。
林副院長の説明によれば、樹木は二酸化炭素を吸収しますから、もし大量に熱帯雨林を伐採して大豆やトウモロコシなどの経済効果の高い穀物を植えると、大気中に排出される二酸化炭素は増加してしまい、そしてこれらの穀物を豚や牛などの動物の餌として与えると、更にメタンガスなどの温室効果ガスを大気中に放出することになるそうです。
また、この三、四十年来、世界でエボラ出血熱やエイズ、H5N1鳥インフルエンザ、サーズ、H1N1豚インフルエンザ、マーズ、そして今年大流行の新型コロナウイルスなど、多くの伝染病が発生していることを取り上げ、その多くが生物の種の領域を超えて伝染していることに触れて、「それらは全て人類の食の欲や行為に大きな関わりがあるのです」と述べました。
ほかにも地球の気候変動や温度の上昇と関係のある疾病があります。例えば、デング熱やジカウイルス、チクングニア熱、マラリアなどですが、たとえ地球温暖化や温室効果ガスによる気候変動の影響があるとしても、「同じように人類の食習慣と関係があるのです」と林副院長は強調しました。
気候変動あるいは新型のウイルスという面から見れば、食習慣、特に菜食は、益々世界で研究対象として注目を集めています。今年の新型コロナウイルス感染症は、人類の健康と安全、人同士の交流と経済発展に大きな衝撃を与えましたが、逆に人類に、肉食を止めて菜食にしようと差し迫って反省を促していると言えます。
気候統計の堅い数字は、一旦生活に関係してくると、元には戻れない危機となるのです。慈済人は、地球という大宇宙は私たちの体という小宇宙と密接に繋がっていることを知っています。物の命を惜しむと同時に、もっと地球という大きな生命を大切にすべきではないでしょうか。(資料提供・牧帆洲、龍翔宇、王偉齡、謝明芳)