菜食が大地を護る

編集者の言葉

昨年「植物肉」が発売されて以来、傳統的に食されてきた本物の肉に比べ値段は高いものの、多くの消費者に歓迎されている。イギリスの 『エコノミスト誌』は、二〇一九年を「ビーガンの年」として菜食が新しいトレンドになることに言及した。

台湾は、世界の中でも菜食を提供するのに好ましい環境を持つ国の一つであり、菜食に必要な食材にも事欠かない。約十年前に外食産業と食品業界が菜食の概念を導入すると、それに伴ってベジタリアン人口も増加し、今では三百万人を超え、台湾の総飲食人口の約十三%を占めるまでになった。

以前は菜食というと満腹感が足りないとか、栄養の不足や偏り、或いは単調な味などの型にはまったようなイメージがあったが、今ではメニューが豊富なだけでなく、味も美味しくなった。栄養学に関する情報に個人の経験も加わり、菜食は体に有益であると判明したのだ。菜食をする理由は、もはや宗教に限定されることなく、健康の維持、動物愛護及び環境保護等も含まれるようになった。

食事の好みや食習慣は個人によってまちまちだが、食材の産地と生産方法は人類全体の生存に関わっているため、厳しく監視する必要がある。

食品産業のグローバル化が進み、産地と販売地の距離が次第に離れて、流通と供給の範囲が広がったため、生産者の収益は抑えられてしまった。また、コスト削減を図り、食品の味の劣化と腐敗防止のために人体に有害な添加物を入れたりする食品偽装も出現している。肉食に関して言えば、飼育する家畜が増え続けるにつれ、家畜が動けるスペースが狭くなり、肉の生産量を増やすために、成長ホルモンを使用して成長を早めている。同時に飼料用作物の作付面積も過度に拡大している。

一方、菜食の食材は、環境へのダメージや負担がはるかに少ない。しかし、耕地の減少、土壌汚染、および気候変動により、食糧の供給不足が懸念される。その解決策は、自分の体とそれを養う土地とを改めて結びつけて考えることにあると言える。

日本の江戸時代に「食養生」という和食の伝統が出来上がった。それは仏典「身土不二( しんどふに)」と道家(どうか)思想の医食同源(いしょくどうげん)の概念からきている。地元で採れるその季節の、自然農法で育てられた農産物を食べることに加え、人々に自分の体が求めていることに耳を傾けて、正しい食事を選ぶよう促している。人間が土地と改めて密接に繫がるだけで、食べ物がどこから来て、どう善用すればいいかを知ることができ、適切な食事で自分を癒し、心も平和で静かになる、と述べている。

今期の主題報道では、慈済ボランティアの謝景貴(シェ・ジングェイ)さんのことを紹介している。長年にわたって国際災害支援活動に参加してきた中から、食糧危機について深く感じるところがあった彼は、自ら自然農法を学び、退職して専業農家になった。彼は、より多くの人が環境や土地の問題に対して関心を持つことを期待している。また、以前、養豚農家だった駱鴻賢(ロ・ホンシエン)さんは、牧畜業が環境を破壊していることに気づき、養豚場を動物シェルターに変えると共に、菜食を始めた。生命維持のためには農耕環境を大切にする必要がある。食材そのものの味をいかした菜食を重視することは即ち、清らかな心でもって大地に向き合い、恩返しすることを意味する。これは「心が清らかであれば、国土も浄化される」という言葉について、最も新しい強力な解説となっている。


(慈済月刊六四七期より)

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