免疫力は高まる─季節と体質に合わせた食生活

腸は人体最大の免疫器官であり、毎日体内では防衛戦が繰り広げられている。

新種の伝染病に対処するには、免疫力を高めることが重要であり、最尖端の武器は必要ない。日常の食卓に上るご飯や野菜・果物・豆類が
即ち、千日かけて軍を起こし、有事の際に備える功労者なのである。

コロナ禍が落ち着いて暫く経つが、各項目の規制も緩和され、マスクは必需品ではなくなり、人々はすでにウイルスと共存している。しかし、新種の伝染病が消えたわけではなく、次のウイルスが数日もしないうちに世界の脅威になるかもしれない。如何にすれば体の免疫力を高めて英気を養い、次の伝染病に対処できるのだろうか?

「一九七〇年代以降、世界は何度も新種伝染病に見舞われました。七割以上は人畜共通の伝染病で、多くは私たちの飲食行為と関連があります」と大林慈済病院副院長の林名男(リン・ミンナン)医師が指摘した。病気に対抗するには、飲食の仕方を変えることが必須である。

毎日、体内では攻防戦が繰り広げられている。人体の免疫システムの中で、腸は最大の免疫器官である。林医師によると、人体の七割の免疫細胞は腸内にあり、食べ物が入ると、栄養は腸から吸収されて血液内に送られる。細菌やウイルス等の病原体も食べ物と一緒に消化器官に入るが、その時、T細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞等腸内の免疫大軍が、病原体を呑み込み、敵を消滅させるのである。

如何にして腸の免疫機能を高めるか?林医師は、腸内細菌のバランスが崩れると、いくつかの病気の原因になるので、免疫力を高めるには、腸内の善玉菌を増やすことが必要だ、と言った。プラントベース食には豊富な食物繊維が含まれており、腸内の微生物にとって重要な栄養源なのである。腸内の善玉菌は食物繊維を代謝して発酵させた後、短鎖脂肪酸及び他の生物を活性させる物質を生み出し、短鎖脂肪酸が免疫力を高め、病原体に対抗して、体の炎症を和らげることができるのである。

食物繊維に富んだ五穀、野菜、果物は、正に体の免疫力を守る重要な鍵を握っており、「全植物性飲食は私たちの腸内環境を変えることができるので、メリットがたくさんあります」。

腸内の善玉菌は菜食を好む

全穀類、豆類、ナッツ類、野菜、果物には豊富な食物繊維が含まれている。セルロースは人体では消化できないが、腸の蠕動を助けることができ、腸の粘膜細胞を守り、さらに腸内の善玉菌の最良の食べ物となる。

飲食の中で食物繊維が不足すると、腸内の善玉菌が減り、悪玉菌が増え、粘膜を侵すようになる。粘膜は腸壁の第一の防御線である。粘膜が丈夫でないと、病原菌が腸の上皮細胞を侵し易くなり、ひいては炎症を起こして、免疫システムに影響する。

植物性タンパク質は頼もしい仲間

抵抗力をつけるには、同時にタンパク質が必要で、タンパク質は免疫系統にとって優秀な仲間なのである。林医師によれば、タンパク質の主な功能は、筋肉、皮膚、神経伝達物質等を含む、組織の形成のみならず、健康維持に必要な各種抗体をも作っている。例えば、体が細菌やウイルスに対抗する場合の免疫グロブリンは、とても重要な抗体で、免疫システムの正常な働きを維持しており、体内で分泌されている何千種もの化学反応に必要な酵素の主成分もタンパク質なのである。

どの食べ物に豊富なタンパク質が含まれているのか?専門家によって説は分かれるが、伝統的な概念では動物性タンパク質が植物性タンパク質より「優れて」おり、栄養価が高い、と言われて来た。科学的に見て、本当にそうなのだろうか?

「一部の動物性タンパク質には免疫に影響する物質があって、逆に体の炎症反応を引き起こしやすくしてしまいます」と林医師が説明した。アメリカ癌研究センター及び世界癌研究基金会が二〇〇七年に発表した報告によると、赤肉や加工肉には大腸がんを引き起こすグループ1とグループ2Aの発がん性物質が含まれていることを確認した。

この報告は八十七件の研究の分析を基にしており、一致した結論として、赤肉の摂取量が増えると、大腸がんに罹る確率(罹患率)も高くなるということである。赤肉が心血管疾患と癌による死亡率を上げ、すい臓がんや食道がん、胃がんなど他のがんにもなりやすいことは、早くからすでに多くの科学文献で実証されている。

三義慈済中医病院院長の葉家舟(イェ・ジヤヅォウ)医師は次のように説明した。肉類を食べると、同時に動物の体内に蓄積されていた、各種毒素を摂取していることになる。例えば、深海魚の生物蓄積による重金属は、多様な疾患を引き起こす。「大学院に通っていた頃、ある会食の席で、ある人が豚のレバースープを頼んだのですが、ある病理科医師が暫くスプーンで掻き回し、結局食べるのをやめてしまいました。皆が不思議に思っていると、彼はこの豚は肝臓がんを発症しており、肝臓に硬い部分が見えると言いました」。

コロナ禍の間、六カ国の二千八百八十四人の医療従事者の飲食習慣の統計を出したところ、非菜食者、菜食者を問わず、感染確率はほぼ同じだったが、さらに分析していくと、菜食者の重症化率が、なんと七十三%も低くかったのである。

豆腐、豆干(干し豆腐)等の豆製品を穀物類と合わせて摂れば、体に必要な豊富なタンパク質となることができる。研究報告によると、豆製品ときのこ類にはプリン体が含まれているが、植物性プリン体は痛風の症状を悪化させることはなく、肉類のプリン体より代謝されやすいことが実証されている。

豆製品、きのこ類を誤解しないでほしい

「食べ物は私たちのお腹を満たすだけでなく、生理や心理状態にも影響し、病気の予防や健康維持にも役立ちます」。積極的に全植物性飲食を広めている栄養士の高韻均(ガオ・ユンジュン)さんの著作『特定栄養素を補う全植物性菜食料理』の中で、適切な組み合わせであれば、全植物性飲食は体に必要なあらゆる栄養素を満たすことができる、と書いている。

人体は二十種のアミノ酸が必要であり、その内の九種類は体の中で生成することができない。それらは食べ物から得る必要があり、「必須アミノ酸」と呼ばれている。異なる供給源のタンパク質は、アミノ酸に分解される。互いに補完する原則が分かれば、完璧で豊富な栄養を得ることができる。

例えば主食の米、麦等の穀物類は、「リシン」の含有量は少ないが、「メチオニン」を豊富に含む。ひよこ豆、小豆、緑豆、藤豆等の豆類は、「メチオニン」の含有量は少ないが、「リシン」の含有量が豊富なので、豆類と穀物類を組み合わせて主食にすれば、得られるアミノ酸を相互補完することができ、タンパク質の摂取効率を高めると言える。そして、いわゆる「相互補完」とは、一食に限定したものではなく、一日の内であれば良い。

菜食者のタンパク質の供給源の一つが大豆である。「大衆はプラントベース飲食に対して少し誤解があると思います。例えば、『痛風の人は大豆を食べてはいけない』といううわさは、実は間違っています」と林名男医師が説明した。アメリカ・ハーバード大学は五万人ほどの、元々は痛風を罹っていなかった中年男性の健康状態を十二年間追跡調査した研究で次のことを発見した。肉類と海鮮の摂取が高い人ほど、痛風に罹る確率が高く、毎日一皿分の肉類が増えれば、痛風に罹患する確率が二十一%上がり、毎週一皿分の海鮮が増えると、確率は七%上がった。

研究報告によると、痛風を患った後、肉類の影響は更に顕著になり、腎臓の尿酸排出機能の低下が見られた。

またプリン体の含有量が多い食材でも、プラントベース飲食をしていれば、痛風の発症率に影響しないばかりか、むしろ発症しにくくなるとのことだ。豆類、きのこ類は高プリン食物に分類されているが、植物性プリンは肉類のものより代謝されやすいのである。

熱々の小豆スープは胃を温め、栄養が良い。各種豆類と穀物類を一緒に主食にすれば、一食でなくても、一日の内に食することができれば、相互の栄養成分を補うことができる。

漢方医の扶正(ふせい)と袪邪(きょじゃ)に学ぶ

腸内の善玉菌は菜食を好み、過度に加工されていないホールフードの全植物性飲食がベストな選択である。ルールに則って、中医学にある養生の知恵に学べば、「体質によって、季節によって」正しい食べ物を口にすることができる。

葉医師によれば、漢方での病気に対する基準は「正氣内存、邪不可干」(正しい気が体内にあれば、邪気は侵入できない)にある。人体は正気を形成して、外から来る邪気に抵抗する必要があると述べた。食べ物にはそれぞれ異なる属性と作用があり、人の体質も「虚、実、寒、熱」四種類の状況が交互に作用しており、自分にとって最適な飲食方法を見つけて、人体の中に正気を溜めてこそ、健康を維持できるのである。

葉医師は、種類と色、形の多様な食べ物を選択し、バランスの取れた飲食をするようアドバイスしている。中医学では食べ物を三種類に分けていると説明した。

寒涼性の食材には鎮静、清熱、瀉火、解毒作用があり、熱性体質者に適しており、不眠や腫れ、炎症を改善することができる。例えば、アワ、緑豆、苦瓜、ヘチマ、トマト、グレープフルーツなどである。

辛い物や温性・熱性の種類は、体を温める作用があり、体質が寒証の人に適していて、衰退沈滞、貧血萎縮の機能を改善する。例えば、もち米、ニラ、パクチー、リュウガン、ライチなどである。

あっさりしていて吸収し易い種類は、平性な食べ物で、一般の人の食用に適しており、寒・熱証どちらの体質でも摂って良い。例えば、トウモロコシ、小豆、ほうれん草、ブロッコリーなどがある。

体質に適応すると同時に、季節に合わせ正しく食する必要がある。時と場所に合わせて旬の物を食し、「五臓応四時、各有収受」(五臓は四時に応じ、それぞれに帰属する)と言われ、大自然の法則に順応して養生するのである。台北慈済病院中医部の寥振凱(リャォ・ヅンカイ)医師は、節気の五色の食べ物に順応すれば、人体と大自然の環境が呼応して、食療の最大効果を発揮することができる、と指摘した。

時節が秋になると、白色の食べ物を多く食するのは、中医学の五臓の概念では肺臓にとって有益である。例えば、長芋、百合、シロキクラゲ、白菜などである。冬は黒色の食べ物を多く食せば、腎臓にとって有益である。例えば、黒豆、黒ゴマ、きのこ、海苔、昆布、キクラゲなどである。春の訪れを待てば、命が芽吹き、肝臓にとって有益な緑色の食べ物が豊富となる。例えば、ほうれん草、緑豆、枝豆、アスパラガスなどがある。

心臓は、中医学の五行の中の火に属し、その色は、同じく中医学の五色では赤に当たる。初夏には赤色の食べ物を多く食せば心臓にとって有益で、例えば、にんじん、小豆、レッドキヌア、ビートルート、クコの実、ナツメなどである。長い夏には中医学の五臓で言う脾臓(消化器系)を養う黄色の食べ物を多く食するようにする。例えば、大豆、かぼちゃ、さつま芋、くり、ハスの実などである。

細菌やウイルスは至る所に存在するのだから、養生に努めれば、病気に罹りにくくなる。レジリエンス(回復力)の高い体質にするには、正しく食することがその方法の一つである。身心を調和させ、環境ともバランスを取り、肉食を減らし、野菜を多く摂り、体の免疫力を高めて万が一の時に備えよう!

(慈済月刊六八三期より)

『黄帝内経(こうていだいけい、中国最古の医学書)』曰く、「五穀為養」(五穀は体を養う)」。五穀に多様な食材を加え、オールプラントベース食は栄養の需要を満たす。

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