植物がもたらす希望─天と地の間にある癒しの暗号

生気溢れる大地の草木、自然界の植物は全てが良薬だ。
食事は飢餓を癒し、人のお腹を満たして健康にする。
薬草の特性を活かすことでも、健康を維持することができる。

ボランティアは毎日神岡ミソナオシ園で雑草取りをしている。以前はお守りとしての植物だったが、今では実質効果があることが証明されている。

一面緑で覆われた「大愛神岡ミソナオシ園」の方に向いて、六十人ほどの台中の慈済ボランティアが整列し、敬虔に両手を合わせた。「ミソナオシよ、ミソナオシ、私たちは今日収穫をします。すくすくと豊かに育ってくれて有難う。収穫して人助けの為に、あなたたちの良き効果を最大限に活かします」とボランティアを代表して、張淑娟(チャン・スゥージュエン)さんが挨拶をした。

コロナ禍で、殆ど忘れ去られていた台湾自生の薬用植物が、免疫力を高める効果を見直された。花蓮慈濟病院の中医学と西洋医学の共同研究チームは二〇二〇年十二月、台湾に自生する八種類の薬草から作られた「ジンスー本草飲」を発表し、防疫物資と共に四十余りの国と地域に発送された。原材料の薬草が不足しているのを知った台湾全土のボランティアが迅速に動員され、ヨモギ、ミソナオシ、紫蘇などの栽培に着手し、全身全霊で防疫任務に当たった。

張さんによると、二〇二一年二月までに慈済台中支部のボランティアが一週間以内にミソナオシ五万株分の種の寄付を募った他、神岡区の地主二人が快く農地を提供してくれた。「それまでは、風習としてミソナオシを魔除けや身を清める為に湯船に入れるとしか知りませんでした。人助けにも使えると分かってからは、心の底から敬意が湧いてきました」。

「ボランティアが植えた薬草は、尊い仏の名と《般若心経》、静思語を聴きながら育ちました。私たちは、木と草にも情けがあると信じ、畑仕事をしながら居心地はどうですか、喉が渇きましたかと尋ねたりしているのです」。ボランティアの林宗民(リン・ヅォンミン)さんが、ボランティアたちの薬草に対する愛着を語ってくれた。

中医学の智慧が現代に役立つ

「中医薬は免疫力を調整する力を持っているので、体が急性の炎症を起こした時に、抑制する効果があります」。三義慈済中医病院の院長である葉家舟(イエ・ジアヅォウ)医師の説明によると、「特定の症状に特定の薬を使えると、速くて効き目の強烈な、合成された化学物質の西洋薬とは違い、中医薬は自然の小分子化合物なので、多数の臓器と症状に効く機能を持ち、急性炎症の過程から素早く慢性炎症に移行し、免疫力が嵐を起こしたかのように臓器に与える危害を最小限に抑えることができます」。

葉院長によると,證厳法師はヨモギ、ミソナオシを魔除けに使う民間の風習をヒントに、他の植物も研究して応用するように、と花蓮慈濟病院の中医・西洋薬研究開発チームを啓発した。

葉院長は台湾の海抜の低い地域や平地によく生えている、スイカズラを例に挙げた。中医薬の材料である「金銀花」のことである。スイカズラを研究して十五年になる葉院長によると、この植物はサイトカイン(IL10)の分泌を促し、炎症の蔓延を阻止できる。また、その時生成される微小RNA2911が腸壁を通って全身に作用し、人体に侵入した新型コロナウイルスやエンテロウイルス、ロタウイルスのRNAと結合して、ウイルスが細胞に侵入した後に大量に複製しないよう、病気が誘発されるのを阻止することができる。民間でよく使われているヨモギにも大量の微小RNA2911が含まれており、同様に炎症反応を抑えることができる。

「アルテミシニンは中医薬のこの世への贈り物」。これは、二〇一五年にノーベル医学賞を受賞した中国の薬学者・屠呦呦(トゥ・ヨーヨー)氏の言葉だ。マラリアは、古くから今に至るまで重要な伝染病だが、屠氏は晋王朝の古い中医薬に関する文献『肘後備急方』から、青蒿(セイコウ。日本名クソニンジン)がマラリアに対して治療効果を持つという記載を見つけた。そこには「青蒿一握りを二升の水に漬け、搾り汁を飲めば良い」とあった。そこでカワラヨモギからアルテミシニンを抽出できることを発見した第一人者として、マラリアの新しい治療法を開発した。アルテミシニンを抽出するのは簡単なので、多くの貧困に苦しむ国の国民の命を助けることができるようになった。

古くから薬と食は同源だという説があり、一部の薬草は食材として使える。葉院長が例を挙げている。中医薬材の百合は甘味があるので、よく調理に使われるが、呼吸気道の乾燥や心神不安定を感じる時によく眠れるようにすることができる。目眩を治療できるオニノヤガラは、脳の血液循環を良くしたり、うつ病を改善することできる他、スープにすることもできる。黄菊は脾を清め胃の熱を下げ、白菊は肺の熱を下げるが、両者ともお茶として飲むことができる。

中医の観点では、病気とは人体の正気と病の邪気が戦っている過程である。外部の病気が侵入した時、薬で病原を殺すのではなく、正気を支えて邪気を追い出すことで、体を病原体の増殖に適さない環境にする。とはいえ、西洋の免疫学と中医学は、共に予防を最優先にしている。

しかし、科学的に作られた中医薬はやはり薬なので、個々の体質に応じ、長期に使用することを勧めない。長期使用する場合は、医師の指示に従うべきだ、と葉院長は強調した。

ハーブはお茶、調理、アロマ・マッサージ等に利用でき、その回復力を使って、体質の改善もできる。

大自然は天然の薬棚

東方では中医学の薬の原料として薬草を使うが、「最近の欧米諸国にも薬草学があります。そのコンセプトは中医に似ています」。英米両国の免許を持ち、アメリカでも臨床薬草師の資格を持っている郭姿均(グオ・スージュン)さんは、古代ギリシャ・ローマ帝国時代からセント・ジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)を緊張と焦燥の緩和に使ったり、ラベンダーを湯に浮かべて浸かったりしていたと指摘する。考古学の専門家も、古代エジプト人がハーブの配合を発見している。

「外科手術と抜歯以外の体の不具合は、全てハーブで症状の緩和や改善を得ることができます」。郭さんによると、台湾で医者にかかるのは便利で安価なので、人々は病気になると、西洋医薬に頼りがちになる。アメリカは医療費が高いので、民間で予防医学や自然治癒を提唱している。体の修復効果を持つハーブを日常のサプリメントに使えば、不必要な薬の使用を減らすだけでなく、薬物アレルギーの問題も減らすことができる。

様々なハーブには、異なった自然治癒力が宿っている。例えば、どこでも見られるタンポポは、むくみの解消、血液の浄化、肝臓や腎臓のデトックス力を強化とする効能があり、ニワトコには風邪の症状を和らげる効果がある。そして鑑賞植物としてよく知られているムラサキバレンギクは、「免疫力の王様」という称号を持ち、コロナ期間中は多くの人が免疫力強化のサプリメントとして愛用した。

西洋の薬草学も、季節ごとの健康な生活を重視している。「季節の変化に従って、五臓の健康を促進し、体質を改善することができます」。郭さんの著書『ハーブの自然治癒力』を読むと、薬草学では、春にデトックスを重視し、肝臓の養生をするために、タンポポの若葉でサラダを作ることを提唱している。夏は気を補い、心臓と免疫系統の養生を訴え、ローゼル、ローズヒップ等赤い植物を摂取することを勧めている。秋に肺を潤い、肺と呼吸器系統ケアの代表的な植物としてレモンバームを挙げており、免疫力を高め、冬のインフルエンザに備えることができる。冬は体を休める為に、腎臓と内分泌を整える。それにはイラクサをスープにして飲むと良い。

アロマオイルや薬草を使う方法は、あくまでも補助的な療法で、個人のニーズや体質に合わせて、専門の薬草師の処方と品質認証を受けたハーブを使うように、と郭さんは特記している。ヨモギを薬草や食品に使う時、少量なら構わないが、通経作用があるので、妊婦や子宮筋腫の人は使用を避けるべきだそうだ。ヨモギから抽出されたアロマオイルは濃度が高く、痙攣や震え等の副作用を起こす恐れがあるので、脳に損傷を負ったことがある人やパーキンソン病、癲癇の患者は、使用を控えるべきである。

大地の草木には生気が溢れる。この時代の流れと共に歩んできた学問の実用性を理解し、薬草の特性を知って、季節に応じて生活の中に取り入れてほしい。天と地が育む中医薬やハーブは、より自然な方法で病気を未然に防ぐことができる。

(慈済月刊六八三期より)

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