編集者の言葉
冬に入り、濃霧に覆われた苗栗県三義郷で十二月中旬、慈済医療志業初の中医学専門の病院である、三義慈済中医病院がオープンした。
高齢化している台湾では、老年人口の知的障害や多重慢性病等の問題が日増しに大きくなり、医療資源の消耗も激しくなっている。その原因を探った許中華(シュー・ジョンホワ)氏ら中医師は、認知症患者の状況変化に直面した介護者は、気持ちが焦って救急外来に連れて行くことが多く、それが医療システムの負担を重くしていると指摘する。また医学的知識の不足や介護人員不足で良好な介護を受けられないことから、長期的に入退院を繰り返す場合もある。頻繁に繰り返す入退院は、患者と家族にとっても心身の大きな負担であり、発病率と死亡率の増加に繋がっている。
中医学は、高齢者を介護する上で有用だと言える。例えば、長年寝たきりでいることによる慢性便秘や鬱症状を改善し、中風患者の再発率及び併発率を減らすことに役立つ。また、西洋医学では難治の頑固な痛みを緩和する等、医療資源の乱用減少にも繋がっている。
高齢者には西洋医学も中医学も必要だというのに、医療は病院に行かなければ受けられないのが問題だ。そこで政府は、二〇一九年に中医学での医療を「総合在宅介護計画」に編入した。健康保険署の統計によれば、その計画による介護の利用率は、高齢者の多い花蓮・台東及び中南部の方が高くなっていることがわかる。
中医学と西洋医学を在宅医療にも施す目的は、患者の再入院を減らすことであるが、中医学の編入時期が後回しになったため、多くの民衆はその申請方法が分からなかった。また、医師にとっても事前の準備や往診の所要時間などが負担となっている。その他、現行制度では、中医師と西洋医師が合同診察する機会が制限されているため、在宅医療で両方を続けていくことが困難になっている。
證厳法師は、三十数年前花蓮に慈済病院を建てた時、既にこの二つの医学を同時に診療に活かすという心願を提起していた。一九九〇年代になると、慈済はアメリカでの医療志業の一環として中医学の診療所を開設し、医療保険に入っていない社会的に恵まれない人々に施療を行った。台湾の各慈済病院では中医師と西洋医師が協力して合同診療を行い始めただけでなく、台中慈済病院では二〇二一年に、台湾で初めて中医学の一般内科を開設した。大林慈済病院は近年、地域医療と在宅医療に中医学を取り入れるよう力を注ぎ、そのことで表彰された。慈済が医療志業にどれほど尽力しているかが分かる。
今月号の特別報道では、三義慈済中医病院の葉家舟(イエ・ジアジョウ)院長の話が紹介されている。その病院では、何より医師の仕事に在宅医療が組み込まれていることが特徴的だ。「出向く病院」なのだ。しかも、在宅患者への薬の処方も、中医師と西洋医師の両方が判断するので、安全性が高くなった。
或る中医師によると、患者の家に行くと生活環境が理解できるので、病気の原因を探り出すことができるそうだ。中医学の「簡、便、廉、効」の特性を活かせば、深く地域に密着した長期的介護を進めることができると言える。
(慈済月刊六七四期より)