東西医学の融合と地域介護─三義慈済中医病院が開業

12月中旬、住民の期待と祝福の中で、三義慈済中医病院が開業した。

多くの高齢者と家族は、病院に行くことに困難を感じている。

高齢者人口が多い苗栗県では、中医が在宅医療をするのに相応しいという特性を使って、往診と在宅ケア、長期介護サービスを融合し、医師が患者の家に行って治療している。

また、中医の「未病を治す」という理念を取り入れ、不必要な医療行為を減らすために、住民に健康維持と促進を呼びかけている。

二〇二二年末、台湾北部は低温と雨の多い天気に見舞われたが、苗栗県三義郷広盛村の省道台十三線沿いにある慈済三義志業パークは、賑やかで活気に溢れていた。

一部の建物はまだ建設中だったが、中医病院では既に準備が整えられ、十二月十二日、開業式典が行われた。苗栗県政府高官、台湾医学界の名士、慈済各志業体の代表者及びボランティア、地元の住民たちが一堂に集まり、慈済医療志業における八番目の病院であると同時に、初めての中医専門病院の開業を祝った。

「仲冬の季節は、冬ごもりの萬物が生気に満ち溢れる春の到来を予知すると言われます。この季節の変わり目にあたりまして、皆様方のような、善意の人に一堂にお集まりいただき、共に三義慈済中医病院の開業式典を祝ってくださることに感謝申し上げます」。次いで台中慈済病院の中医師チームによる伝統的な養生法気功「八段錦」演技が披露され、静思精舎の徳勷(ドーラン)法師が證厳法師の祝辞を代読して朗々と法師の言葉を伝えた。

各界の協力で、当病院が建てられたことに感謝すると同時に、このような東洋と西洋の医療を融合した中医病院は、これからも慈済三義志業パーク、人文茶書院、コミュニティーセンター、デイケアセンター及び三義慈済茶園と共に、中医学の「未病を治す」予防医学の概念を取り入れて、共に地域住民の健康を守っていく病院となるであろう。

診療室では、病床には番号が付けられている(左)。葉家舟院長の説明によると、インテリジェント医療情報システムと携帯機器を導入することで、医療ミスのリスクを下げるだけでなく、環境保全にもなるそうだ。

コミュニティーに入って「未病を治す」

苗栗県は以前から雇用の場が少なかったため、若者が大量に県外に流出し、人口は少なく、分布も不均等で、五十数万人の県民は高齢者の割合が高い。県内の主な医療資源も分布不均衡の問題があり、多くの住民はやむをえず、近隣の台中、桃園、新竹、更には新北市または台北市まで行かなければならなかった。一日に延べ七千人余りが県を跨いで医者に掛かったという驚異的な記録が生まれたこともある。

県境の南に位置する三義は長年、住民の通院が不便な田舎町の一つであり、現地では二十数年前から、この地に病院を建ててほしいという希望が寄せられていた。慈済もその必要性を熟慮し、一九九六年に地元の名士たちの協力の下に、今の三義志業パーク用地を整合した。

中医学を重視している證厳法師は、東西医療合同診療の理念を推し進め、慈済は衛生福利部など管轄部門から認可を得て、西洋医の基本的な診療科である、家庭医学科、内科、リハビリ科なども中医病院に開設できるようにした。政府の長期介護2・0政策と歩調を合わせながら、慈済は以前から行ってきた訪問ケアやコミュニティー高齢者の住居安全支援などの経験を活かし、「安心して暮らせる家、暮らしやすいコミュニティー」プロジェクトを続けると共に、在宅医療を重視した。

二〇二二年八月十二日から、大林及び台中慈済病院の中医部門の医療チームは、苗栗県で大規模な施療と往診を行った。三義慈済中医病院の葉家舟(イエ・ジアヅォウ)院長もチームを率いて、慈済の長期介護専門人員、コミュニティーボランティア及び市町村のトップたちと合流してコミュニティーに入った。今回の往診は十一月まで続けられ、サービス範囲は三義、大湖、頭份など多くの郷鎮に至った。また、慈済苗栗志業パークのデイケアセンターでは、高齢者たちに衛生教育が行われた。

十一月中旬、葉院長は三義郷広盛村で往診した時、山の麓で一人暮らしをする八十何歳の彭お婆さんを訪ねた。「お体は『湿気』が多いようですが、舌を見ますから出してください。口が乾いて舌がザラザラしますか?」と葉院長は「望聞問切」という中医学の診察を行なった。広盛村の呉家達(ウー・ジヤダー)村長は、ボランティアと一緒にバスルームの設備を点検し、手すりなどのバリアフリー設備が必要かどうかを確認した。

葉院長は彭お婆さんに、毎日どれだけの水を飲んでいるかと聞き、彼女の体重から一日に必要な水分摂取量を算出した。「ペットボトル二本分で約1000ccですが、体重が六十キロあまりだから、約2500ccの水分が必要ですね。つまり、今までの倍以上の水を飲む必要があります」と彭お婆さんに言った。

また、彭お婆さんは二カ所の病院に通っているのに気付いた。同じ薬が二つもあり、もし同時に服用すると、摂取量が多すぎるので、「この二つの薬は同じものです。中性脂肪が低くなりすぎますから、同時に飲まないでくださいね」と念を押した。

次は、家族と同居している九十代の老夫婦を訪ねた。夫婦の状況を理解した後、かかりつけ医に在宅医療の条件に符合するかどうかを評価してもらうことにした。「そうしてもらえれば、私たちも助かります。お年よりの外出は大変ですから」と嫁が待ち望んだように言った。

漢方の古医書《黄帝内経》の記載に、「上医は未病を治し、中医は病の発端を治し、下医は既に病みたるを治す」とある。医療チームは長期介護チームと慈済ボランティアと共にコミュニティーに入り、「未病を治す」カテゴリーで力を入れることに期待した。

三義慈済中医病院準備委員会は12月5日から5日間の施療を行った。中医師の張景翔先生は、患者の膝関節を診療していた。(写真提供・台中慈済病院)

開業前、葉家舟院長は(右2)コミュニティーへ往診に来ていた。在宅医療と長期介護及び地元の慈済ボランティアによる訪問ケアを結び付けることが三義慈済中医病院の主な役割である。

インテリジェントシステムでポカヨケ

医療情報システムの中で、「ポカヨケ」(ヒューマンエラーを防ぐ)に効果的な鍼灸の針を数えるシステムは、患者の安全にとって最良の保障と言える。中医師が患者に鍼灸治療を施す前に、指示とデータを入力すれば、システムが自動的に患者の病床をアレンジし、データを同時に関係医療スタッフに転送することで、紙のカルテへの記入や送り届けによるミスと紙の浪費が避けられる。鍼灸治療が始まった後は、医療用タブレットで患者の姓名、主治医、看護師などのデータが一目瞭然で分かり、医療行為関連の同意書も患者がタッチペンを使ってスクリーン上にサインすれば済むようになっている。

中医師は患者に鍼灸を施した後、データを入力すれば、画面に現れる人体図が色分けされて、針を施した部位と本数が表示される。治療終了後は看護師が表示通りに針を抜く。もし抜き漏れた針があったり、入力数字に誤りがあれば、コンピュータースクリーンに表示された、針をさした部位が鮮やかな赤色に変わり、医療ミスの予防に有効的に作動する。

葉院長は自信ありげに「このシステムは患者の体で針の抜き漏れが発生し易い部位を看護師の参考として提供することができ、もし暈針(針灸による体調不良)や出血などの症状があれば、全て記録できるようになっています」と言った。快適な医療空間やインテリジェント化された医療情報システムを見て、開業式典に訪れた来賓は讃嘆の声をあげ、地域住民も質の良い医療サービスが身近に受けられることを喜んだ。

年配者や患者が他の県や市に行く苦労は、地元の慈済ボランティア蔡永賜(ツァイ・ヨンツゥ)さんにはよく分かっていた。「以前、台中慈済病院の中医科に車で通っていましたが、駐車時間も入れると、片道で少なくとも五十分かかっていました。今は近くの三義で診てもらえるのです」。

広盛村前村長の呉さんは以前、公務以外の時間を利用して、台中慈済病院の送迎バスに随行するボランティアをしていた。「多くの住民は、いつ頃開業しますかと聞いていました。三義、大湖、卓蘭、銅鑼だけでなく、苑裡、通霄の住民たちを含めて、皆が期待していました」。

開業前、呉さんはソーシャルメディアで宣伝文を出したが、多くの年配者はネットが使えないことに思い至り、宣伝車を使って街で呼びかけることにした。「皆に、この『未病を治す病院』は病気になった時だけ行くのではなく、脈をとってもらい、健康状態を見てもらう所だということを知って欲しかったのです」と彼が言った。

三義慈済中医病院が開業する前は、医療チームが施療を行っていた。葉院長は年配者の家へ往診に行って脈をとっていた。

住民たちの期待と喜びは、十二月五日から九日までの試験運営期間に表れていた。僅か五日間の施療で、七百人以上の住民が訪れたのである。蔡さんの話では、その期間は毎日三、四十人のボランティアが出動して住民に奉仕したが、忙しさのあまり自分たちの診察予約を取る時間もなかったという。

医療チームも住民の期待に応えて、短時間で数名の年配者の長期的な痛みを取り除いた。慈済基金会の林静憪(リン・ジンシエン)副総執行長がこう言った。「ある八十代のお婆さんは頸椎の手術を受けた後、数カ月経っても頭を擡げることも動かすこともできなかったのですが、葉院長が鍼灸すると、顔を上げて真正面からテレビを見ることができるようになり、二回目の鍼灸の後は、頭を動かせるようになりました」。

「現代医学にも盲点と限界があります。鍼灸のような伝統医学は、時にはその不足を補うことができます。双方が互いに補充し合うという概念は、證厳法師が長年言い続けてきた東西医療の合同診療なのです」と慈済大学大学院中医学部の林宜信(リン・シンイ)主任が説明した。更に「中医の治療法と簡単な西洋医学の治療が連携すれば、複製性が上がります。私たちが模範となり、必要があれば、理念と知識(know-how)も伝達します」。

三義慈済中医病院の規模は小さくても精緻で、「健康を守り、生命を守り、愛を守る」使命を以て、医療チームとボランティアが心を一つに、心温まる医療をコミュニティに深く行き渡らせ、伝統と現代医学を整合して、模範となり、新しいページを展開していくだろう。

(慈済月刊六七四期より)

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