関渡静思堂を参観─親しみやすさと清らかさ

「人文薬用植物園」に囲まれた関渡静思堂広場では、「宇宙大覚者」が晴れた空の下に屹立し、すべての命に慈しみの目を向けている。

開放的な志業パークには塀がなく、靴を脱がずに入場できる。

親和関係の構築を第一に建てられ、すべての来訪者を迎え入れる。

人文薬用植物園に立つのは、地球を慈しむ宇宙大覚者という仏の像だ。子を護る母にも似て、背筋を伸ばした姿で永遠に屹立する。

関渡静思堂は二〇二三年の元日に開所式を迎えた。慈済人文志業センターも同年ここへ遷ることになっている。大愛テレビ局のニュースで、この志業パークには「塀がない」ことと、「靴を脱がずに静思堂に入場できる」という特色が報じられたこともあり、これまでの三カ月間に多くの人々が訪れた。

関渡平野を一望するランドマークとも言えるその姿は、その他の慈済志業パークと同じく、壁面に洗い出し仕上げを施した荘厳な建築だが、最も深い印象を受けるのは、正面の広場に立つ高さ五・五メートルのオフホワイトの仏像、「宇宙大覚者」だ。芸術性と仏法精神を兼ね備えた、現代的な仏像である。

左手に托鉢の鉢を掲げ、右手は清らかな水で地球を清めて労る、というその構図は、證厳法師が当初から掲げてきた考え方であり、ブッダの大いなる慈悲を具現化している。慈済人文志業センターの合心精進チーム代表・姚仁禄(ヤオ・レンルー)氏によると、二〇二〇年十一月十日、静思堂の竣工を前にして、法師から、広場は植物の柔らかさと美しい緑を存分に取り入れたものにしてはどうか、という提案があったそうだ。道行く人に気軽に立ち寄ってもらえるように、また、立徳路で信号待ちをする車から見た人が、広場の静かな景観を見て心が和むようにと期待したものである。そして、植栽は薬用植物を主体に設計され、広場の水路は「水が上に流れる」ようにして、困難を乗り越える、という意味を表している。

姚氏はこのような指示を受けると、「和気藹々」として「荘厳さ」を湛えた広場にするべく構想を練った。二〇二一年には何度も法師に報告して調整を加え、五月五日に、完成し彫像は屋外に据えることを確認した。

そのため、彫像チームを立ち上げて作業を分担協力することにした。造形の芸術面での指導と彫像、3Dデータの作成と3Dプリンターによる造形、ブロンズ塑像と表面の仕上げ、台座の製作、仏像の歴史などの作業を行った。芸術指導を担当した姚氏は、塑像で最も難しいのは衣服の柔らかさを表すことでも体の姿勢でもなく、顔の部分だったと言う。顔には表情だけでなく、年齢も表れるため、故意に三十代から四十代に見えるようにして、仏教は若い人が創始した宗教であることを表したそうだ。仏像を塀のない広場に安置することで、訪れる人々を迎え入れている。景観を彩る様々な薬用植物は、人々の好奇心をくすぐり、パークのことをもっと知りたいと思うようになるだろう。

造形は仏法を語る・現代の経典

北投区の慈済委員である許瑞珍(シュー・ルイヅン)さんは、いつもここで訪問客を出迎えている。

「宇宙大覚者の台座は六角形をしていて、六波羅蜜池と名付けられています。布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧という六段階の菩薩修行を経て、自分も人をも悟りに導くことを意味しています」。

仏像の前には「高きに流れる法脈の湧水」がある。

「その水路の両側にはそれぞれ『慈済史要点』と『世界史要点』が刻まれています。慈済の歩みと世界の出来事を照らし合わせることで、《増一阿含経》の叙述、すなわち、諸仏は皆この世から出るのであり、天上で仏と成るのではないことを明らかにしているのです」。水路は三十七メートルあり、修行の第一歩である《三十七助道品》を意味しており、「助」とは一歩一歩着実に菩薩道を歩む修行者を助けることを表す。水路の中にある二十基の照明は、人に二十の難あることを象徴する。水路の底に敷かれた大理石には、慈済のこれまでの歴史が刻まれている。

許さんによると、「高きに流れる法脈の湧水の様子は、仏法は水の如し、と言われるように、仏法に宿りし精神を清める力が人々を潤すのだという喩えです。慈済法脈は途絶えることのない湧水のように、遠い源から流れてきていると表しています。水が高い所へと流れているこの水路は、まるで困難を乗り越えて行く菩薩道のようです。慈済の志業も同様で、変化する中で智慧が試され、困難の中で強靭な力が刺激され、逆境という増上縁によって勇猛に前進するのです」。

室内に入ると、そこは無量義経堂だ。《無量義経》は「静思法脈と慈済宗門」が拠り所とする大切な法蔵である。四十六枚の五十五インチLEDモニターから成った巨大な円弧型スクリーンに映し出されているのは、法師手書きの《無量義経》の経文だ。ページをめくる必要はなく、LEDスクリーンウォールにゆっくりと経文が流れていく。「六瑞相」の音楽を聴きながら檀香の香りに浸り、心を落ち着けると、八十分で経文を一読することができる。

元日の開所式では、姚氏と慈済人文志業執行長の王端正氏が手を携えて、「慧命を護る盤石」を無量義経堂の床に嵌め込んだ。盤石の前に立ち、《無量義経》に向かって顔を上げると、丁度スクリーン中央の上の方に、夜空で唯一つ動かない北極星を見ることができる。「およそ二千五百年前、ブッダは夜空に明るい星を見て真理を悟り、一切の衆生は如来の智慧と徳を持っていると言われました。ブッダの教えの通り、心を守り続けて、とてつもなく長い間、修行すれば、大きな智慧を得て、あらゆる物事が分かるようになるのです」と許さんが解説した。

無量義経堂の円弧型スクリーンに映し出される経文は自動で進む。そこには法師の思いやりあふれる指示がある。「読経したい人がページをめくらなくても、全てを読み終わることができるように」。

人文の道標 
あらゆるものには情がある

人文特別展が行われている感恩堂を参観し、宇宙と仏法の奥義を理解してから、次世代型の静思書軒へと足を進めた。書籍棚を成す四角形で、天井に取り付けられた六つの丸い灯りは六波羅蜜を表す。更に奥に進むと、特別に設計したと言う机と椅子がある。白と黒のモノトーンを基調としてシックな雰囲気を演出している。

「書籍の陳列ですが、印刷物から徐々に電子版へと移行していきます。カフェでは、一杯のハンドドリップコーヒーを注文すれば、一日中ここで心を落ち着かせて過ごすことができます」。将来的には親子の読書スペース、読み聞かせの計画もあり、ここに来て読書の楽しみを味わってほしいと、スタッフが話してくれた。

関渡静思堂は慈済人文志業の本部でもある。大愛テレビはもちろん、視聴覚メディア、ネットラジオ放送、雑誌出版など、その部門は多岐にわたる。またそれ以上に、地域の人に生涯学習を提供する教育の場として、様々な内容の講座を開講して、パートナーシップを結ぶことを目指している。

その他、「大愛環境保護科技人文館」と「ファミリーマート・ベジタリアン食専門店」の店舗もある。人文志業が初めて経営するベジタリアンレストラン「常不軽食堂」はまだ準備中だが、《法華経》の常不軽(じょうふきょう)菩薩に学び、その精神に、すべての命を尊重して大切にし、感謝するという意味が託されている。店の名前は英語で「Dandelion」という。タンポポのように善の種を風に乗せて運び、根付いて芽が出るようにという願いがそこにある。タンポポの「私は遠くからあなたの幸せを祈っています」という花言葉のように、ここ関渡を拠点にして、新しいベジタリアンフードの考え方を世界に広めていきたいのだ。

広場に戻ってみた。今植えられているのはプルメリア、セージ、モクセイ、ジャノヒゲ、紫蘇など四十種類の薬草で、すべてに薬用の価値がある。薬用植物園は景観の美しさだけでなく、すべての植物には不思議な力があることを伝える教育的意義も備えている。

「小さな薬草に大きな力があります。すべての植物は薬であり、良い効果をもたらします。小さな薬草の姿に自分を映してみてください。人間も一個人の力を軽んじてはいけないのだと分かります」と許さんが言った。

法師はかつて、仏像を作るのは人々に拝んでもらうためではなく、ブッダの精神を具象化することにある、と言われたことがある。関渡静思堂内の参観を終え、地球を慈しむ宇宙大覚者のところに戻って来た。それはブッダの慈悲心で親しみを感じてもらい、人々を近づけ、その智慧を授けているのだ。深々と礼拝した。これからここを訪れる人々も、自分の中には清らかな仏性が宿っていると、気づいてくれるような気がした。(資料提供・杜紅棗、張翎慧、劉月娥)

(慈済月刊六七七期より)

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