プラントベースの原材料から薄切り代替肉ができるまでの距離はさほど遠くはない。現代のフードテックにより、大豆、小麦、エンドウ豆はどれも肉の代替タンパク質になる。
世界で炭素排出削減が叫ばれる中、菜食は新しい飲食革命の風潮をもたらし、口を動かすだけでも地球を愛することができるため、菜食を試してみてはどうだろうか!
肉汁が溢れ、油の香りが漂い、口を大きく開けて噛み、満足した様子が顔に出る。肉ハンバーガーのリーダー格であるマクドナルドが最初のMcPlant植物系ハンバーガーの販売を決定したことは、プラントベースミート(ビヨンドミート)時代の到来を予告しているのだろうか?
ファストフードからベジタリアンまで
二十万個のハンバーガーのテスト販売が終了する前日に間に合うように、私たちは、台北市林森南路のマクドナルドを訪れ、一体どういうものか見てみようと思った。プラントベースのハンバーガー(単品124元)はミートベースのもの(単品70元から80元)より高い。面白いことに、実はそのハンバーガーは「菜食のようで菜食ではなく」、わざわざ五辛の玉ねぎと乳製品と卵(チーズ、マヨネーズ)の表記している上、他のミートベース食品と調理用フライパンを共有しているため、ヴィーガン食品ではないと書かれてある。では、その「ベジタリアンハンバーガー」を打ち出す目的は一体何なのだろうか?ベジタリアンに代替肉を頬張ってもらうためだけだろうか。
店を観察していると、実際に購入した人はそれほど多くはない。ランダムに一人の若い消費者に聞いてみた。彼の回答は、「ベジタリアンハンバーガーの方が健康では?ダイエットにもなるし」。広報部次長の郭映荷(グゥォ・インホ)さんによると、非公式の統計によれば、多くの人はもの珍しい心理で試食しており、中でも若者グループには比較的受け入れやすくなっている、とのこと。
実際のところ、国内のコーヒーチェーン店ルイーサも朝食の六つの主要メニュー(ハンバーガー、トースト、マフィン、ライスバーガー、ベーグル、フォカッチャ)にプラントベースミートを使用している。とりわけ宣伝しているのは、使用している油の違いである(プラントベースミートは肉汁を増やすために、植物性油の融点を上げている)。植物性タンパク質が動物性タンパク質に取って代わり、更に植物性脂肪を動物性脂肪の代りにしている。現代フードテックの発展により、人類は地球を傷つけることなく、安心して空腹を満たしながら生きることができるのだ。
外見、香り、味の全てが揃った牛肉麺は、食感が実に本物に近い。
代替肉は
プラントベースミートなのか?
二〇〇九年アメリカのプラントベースミートブランドのBeyond Meatが登場してから、Impossible Foodも大々的に市場に打って出た。各種プラントベースミート商品がコンビニやスーパーの陳列棚に並べられているだけでなく、アジアからのオムニポーク(Omunipork)も「虎視眈々」と東洋市場に向けて入念に準備していた。
菜食の歴史といえば、実は東洋の方が西洋よりもずっと早い。世界菜食人口一位のインドの他、台湾の菜食者数は総人口の13―15%(三百万人以上)を占め、上位に食い込んでおり、ベジタリアンベース(菜食食材)の加工製造技術も菜食文化も、どちらも勝るとも劣らない。菜食人口が多い台湾は、早い段階から「素三牲」と呼ばれるベジタリアン食材のチキン・ポーク・魚などの製品が存在し、菜食加工技術は既に三十年以上の歴史を有している。
現在世界各国でプラントベースミート市場の将来性が見込まれている。台湾でも国産プラントベースミートの大型メーカーが出現している。例えば、元々ベジタリアン製品加工メーカーである松珍、全廣と穀物加工から起業した三機及び肉類製品で名を馳せた大成、台蓄も次々とそれぞれ個性を生かしたプラントベースミート製品の開発を始め、異なる消費ニーズに合わせている。
「プラントベースミート」と聞いても少し馴染みがない?プラントベースミートはベジタリアンミートなのか?
食品業界で二十年以上の経験がある大成プラントベースミート工場の工場長である温昭凱(ウェン・ヅァオカイ)さんは、こう説明した。「ベジタリアンミートの起点は主に宗教であり、信仰心のある人は殺生しないことを原則としています。宗教によって異なる菜食のニーズがあります。菜食製品は主に簡単な豆類と麺製品で、外見は肉のように見せかけることなく、わざわざ香りや食感を要求することもありません」。「プラントベースミートのターゲットは、菜食者と肉食者を含めた一般大衆であり、原料は大豆タンパクだけにとどまらず、プラントベースミートの模倣性に対する要求が高く、色や香りも追求し、それを食する中で楽しさを味わってほしいです」。
プラントベースミートの模倣技術
プラントベースミートは本当にフレッシュでジューシー、しかも、もっちり感に富み、ほどよい油分、リアルな食感を生み出すことが可能なのか?三機プラントベースミートシリーズは以前街頭でベジタリアンバーガーのランダム試食テストを実施したところ、結果はほとんどの人が、肉バーガーではないことが信じられなかった。
見分けがつかない(ベジタリアンミート)ことは、最大の賛美だと思う!
植物をベースにした菜食製品は、初期は大豆が主であったが、近年はさらに小麦、エンドウ豆、米等の選択肢がある。ある人は、東洋と西洋の菜食者による異なった食習慣から来た区別であり、後者は遺伝子組み換えやアレルギーの問題を避けるようにしている。異なる植物ベースのタンパクパウダーも実はそれぞれ最も適した肉類を作ることができる。例えば、大豆タンパクは豚肉に適していて、エンドウ豆タンパクは魚ステーキに適し、小麦タンパクは鶏肉の味に最も適している。
三機の謝孟晃(シェ・モンフオン)副総経理によると、小麦と大豆を潰した時の繊維が比較的長く、安定しているという。なるほど、豚や鶏、魚、牛に似せたベジタリアンミートの製造にはコツがあったのだ。調味技術だけでなく、繊維質が肉 (筋肉)の特性にもっと影響するのである。「豚肉に似せるのは容易だが、鶏肉は部位によって異なる。例えば、鶏もも肉は鶏むね肉よりも難しく、難度が最も高いのは牛肉だと思います」。
植物を一枚の模倣ベジタリアンミートステーキにするには、一体どうやって作っているのか?
本物の肉に似せるために、業者はビートを加え、切り身の肉から肉汁が溢れる効果を出しており、本物の肉に似せている。失敗したベジタリアンナゲットは、食感がパサパサしているだけでなく、中身は締りがなく、接着機能をもつカルボキシメチルセルロースを使って粘度を増やす必要がある。またベジタリアンフィッシュステーキはシーフードの味を出すために、普通は海藻を加え、栄養面ではDHAを補填している。
プラントベースミート工場長であると同時に新食成研究開発本部長の温さんは、プラントベースミートは一種総合的な食品科学であり、大成は中壢のプラントベースミート工場に「デリシャスラボ」まで設置して、プラントベースミートの模倣技術の研究を続けている。「慣れた分野から始め、動物の肉を理解することから、肉の成分を分解して再構築し、各種基礎的な物性研究を進めています」と言った。私たちのテストの結果は、チキンナゲットの食感は本物に近いことを発見し、さらにプラントベースミートでできた牛肉麵は菜食歴が長い慈済ボランティアの陳文桜(チェン・ウェンイン)さんが絶賛を博している。
伝統的な市場で売られているベジタリアンベースの食材は、人々に過度の添加調味料、濃い味、不健康というイメージを与えている(上)。近年の食品加工工場は食品安全基準に見合うよう化学添加物の削減に努めている(下)。その理由は、台湾全土の三百万の菜食人口と肉食から菜食へシフトする消費者層の拡大である。(撮影・陳弘岱)
加工食品の原罪
形状や味は同じだが、栄養成分まで肉と同じなのだろうか?プラントベースミートの模倣技術は、菜食の推進からすれば、一つの功徳であるかもしれないが、そのプロセスは過度のエネルギー消費があるのではないだろうか。
プラントベースミートはホールフードのような自然食品ではなく、加工過程が繁雑で、過度の調味料(品)の使用等の理由から、消費者が疑問視したり排斥したりしており、これは加工食品の逃れられない原罪なのである。
温さんによると、一代目の肉は大豆タンパクが原料で、豆の生臭さを消すために数多くのものを添加する必要があり、それが今の大衆が印象に残っているベジタリアンミートである。原因は過度の健康的でない食品の添加物にあるという。二代目の肉は複合タンパクが原料で、特に慎重になって、主に自然の添加をメインにしたり、菜食者に不足しがちな栄養素を補填したりしている。例えば、ビタミンB12や高繊維、鉄分など、調味は野菜や果物を優先的に使い、うま味と繊維質の模倣は、酵母菌で鮮度を維持し、他の植物エキスを使っている。人工化学添加物を減らすことで、「クリーンブランド」を目標に努力している。
よく一般向けに菜食推進の講演をしている謝孟晃さんはこう言った。菜食するのにも知識が必要であり、よく健康のために菜食をしていると聞くが、それどころか健康的でない食べ方をしている人が多い。彼は「菜食の賢い食べ方」を強調している。例えば、ベジタリアン食品のナトリウム含有量の表示に気をつけ、ビタミンCの高い食べ物と食べ合わせれば、不足しがちな鉄分を補うことができる。「私たちは一週間に食べている二十一食の中で、もし一食か二食を菜食に変えることができれば、大きな進展といえるでしょう」。
菜食でなくても、
全植物性食物を多く食べる
推定によれば、台湾の三百万以上の菜食人口の内、八割は宗教上の理由で菜食をしている。実は菜食は細かく分類されている。ヴィーガン、ラクトベジタリアン、オボベジタリアン、オボラクトベジタリアン、五辛(五葷)菜食、制限が緩いセミ・ベジタリアン(準菜食)まである。だがたとえ宗教、不殺生あるいは大地を労るカーボン排出削減のための飲食であっても、現実的な数学の観点からすると、飼育動物に対して提供できる食肉の比率の低さと大量に消費する水資源を考えると、地球資源が有限な今日、菜食の推進は必要なのである。
「地球を慈しむから菜食するという理屈は奥が深過ぎます。それはプラントベースミートが美味しくなって初めて話ができるのです」。
天母大葉高島屋のGino Green 菜食レストランを訪れ、菜食グルメ家の陳文桜さんが絶賛していたトリュフバーガーを食べてみることにした。一般的に、菜食が人に与える堅い印象は、苦労と制限であるが、目の前にあるハンバーガーは人々に喜んで食べてもらえるもので、みずみずしいレタス、果汁滴る真っ赤なトマトと玉ねぎと一緒に、ハンバーガーの肉質もしっかりしていて、一口噛めば、口に馴染んで、さくさくと柔らかく、ジューシーであるため、言うまでなく舌鼓を打ってしまった。Neo foodという新しいプラントベースミートブランドは、低脂肪、ノンコレステロール、豊富な食物繊維と植物性タンパクを謳っており、商品の種類もすでに原料肉、製品として宮保鶏丁、タイ風チリポーク、麻婆豆腐などの味に調理されたレトルト食品を作り出している。
食感や美味しさだけでなく、価格も重要な決定要素の一つ
プラントベースミートの生産コストは高く、外国のプラントベースミートは一キロ八百元 (Beyond Meetの場合)で、台湾での価格も二百元あたり(大成のNeo Foodの場合)になるため、ハンバーガーにすると庶民的な百元のもあれば、三、四百元の値段がつくのも珍しくない。今、販売価格が低くないのは、一つには国内市場が大きくなく、量で値段を制することができないからだ。また一方では、研究開発費用は高止まりしており、食感と調味方面での追求は続いている。
新食成研究開発の詹金和(ヅァン・ジンホ)社長はこう言った。将来プラントベースミートの価格が食肉に近くなることを期待しており、今、牛肉は既に達成されたが、鶏肉と豚肉は国内販売価格が低く且つ変動的であるため、まだ目標は達成されていない。「創業者がプラントベースミート市場を開発した時の初心は、消費者に手軽に食べてもらえるようにしたいことでした。『手軽に食べられて、初めて意義がある』のです!」
総合的に菜食をする心理とは、宗教、健康、祈祷還願、贖罪、カーボン削減、ファッションまたは一種の生活態度の実践、ある種意義のある価値観なのである。Gino Green 菜食レストランのシェフである陳敬炎(チェン・ジンイェン)さんは、「私たちの主張は、菜食主義者にならなくても、全植物性食物を多く食することはできる、というものです」と言った。
フレアスカートに似たみずみずしいレタス、上に載せられた一枚の模倣プラントベースミート、こんがり色をしたハンバーガーの美味しさは肉食に負けず劣らない。菜食者も口を大きく開けて食べて楽しむ西洋ファストフードは、変化が少なくて、我慢しながら、面白みのない菜食という固定観念を打ち破っている。
食べ物のもう一つの選択
プラントベースミートは既に一世を風靡するように世界各地で旗揚げしている。そして苛められている嫁のように菜食コーナーで縮こまっているのではなく、逆に自分専用の「肉」類の陳列棚も持ち始めている。日本のプラントベースミートの種類は目を見張るばかりであると共に、専門的且つ便利であり、カナダではプラントベースミートはAlternative Meat(代替肉)と称されている。既に出回っていても、明言しなければ、肉だとは分からない。しかし、一部の菜食主義者は二極化した見方を持っている。「菜食は菜食であり、なぜ模倣の肉を食べるのか?」菜食を尊重し、自然食物だけを食べている外国籍カメラマンの安培淂(アン・ペイド)さんは、こうコメントした。
大成の詹金和社長は、プラントベースミートがターゲットにしている市場は菜食者とは限らず、逆に87%が肉食者である、と言った。「大半の菜食者は既に決った飲食スタイルがあり、プラントベースミートが開発すべき対象は、逆に菜食を避けているか、よく理解していないで肉を常食している人々なのです。実際は肉食から菜食へシフトする過程において、もう一つの柔軟な選択を提供しているのです」。
多くの人はプラントベースミートに対して「プラントベースミートは肉ではなく、加工食品であり、健康的ではない」という固定観念を持っている。温昭凱さんは、実は現代のフードテックによる設計を通して、プラントベースミートをきわめて健康な食べ物にすることができると述べた。「これは私たちが運転している電気自動車のように、単なる別種の乗り物にすぎないのです」。
一本の植物から一個の模倣プラントベースミートになるまで、現代のフードテックは巧みに植物と肉の距離を縮めている。プラントベースミートは、人類が以前持っていた肉の食感に対する記憶を書き換え、人類のために一種の新しい飲食の未来をもたらし、更に生命への態度を見つめ直すことでもある。もし殺生しない「肉」という食の選択があるなら、気軽に菜食として試してみてはどうだろう!?
(経典雑誌二九一期より)