子供に愛の傘を差す─『関心を寄せる言葉は優しく話そう』作者の序文

母親の愛が、家庭内暴力に遭っていた一家を支えた。

先生が愛で進学を支えてくれたおかげで、私の人生は変わった。

世帯を持って独立した後、その愛に倣って教え子と家族を愛した。愛を妨げるものは何もない。

二十七年間続いた教職から定年退職した後も、敎育による愛を広めたいという気持ちは変わらなかった。そこで、高雄の慈済静思堂で「希望が見えた」と題した中学生の課外補習クラスを立ち上げた。敎育愛を持っていたことで、「慈済月刊」から要請されて、「親と教師と子、三者の本音」というコラムの執筆を始めてから四年になる。月刊誌編集チ―ムの心遣いにとても感謝している。数多くの親や教師、生徒間の問題を集めて、私が教育理念を表現できるようにしてくれた。今それが一冊の本になり、「何気なく挿した柳の枝がいつの間にか陰をなす(意外にも良い結果が導かれることの喩え)」ことの証しだと言える。

自分の敎育愛の由来を顧みると、育った家庭で啓発されたのだと気づいた。人が憧れるような幸せな家庭ではなく、そこにはいつも暴力が溢れていた。私の両親はいつも風雨の夜に口論し、手を出すようなこともあった。その後、母はよく数日間ほど家を空けた。彼らの喧嘩の原因は貧乏にあった。父は収入がないと、酒で憂さ晴らしする夫であり、母は気が晴れない不遇な人生を送る主婦だった。このような家庭環境でも、我が家の四人の子供は道を逸れることなく、皆、中等教育か高等教育を終え、本分を守って自分のやるべきことをやっている。この幸福は容易に得られたものではない。家の中に子供たちのことをとても愛している母親がいたからである。

母親は、夫にいくら暴力を振るわれ、家を数日間離れても、必ず荷物を持って帰って来て、子供の世話をした。そして、たとえ友人に借金してでも子供に教育を受けさせた。四人の子供の誰かが悪いことをしようものなら、必ず棒で叩かれた。そうやって愛の傘を差して、一家を支えたのである。

また、小学校三、四年生の担任は、私をとても可愛がってくれた。リコーダーを吹くことを教えてくれ、さらに学校のリコーダークラブに入れて、発表会にも出してくれた他、勉強するよう励ましてくれた。だからこそ私の人生は良い方に変わったのだろう。五、六年生の担任は、作文で私を導いてくれた。私の作文を校刊誌に発表してくれただけでなく、年に一度奨学金を受け取る機会に恵まれた。高校の担任は、私を自分の妺のように大事にしてくれた。台北の勤め先に転勤すると、私に台北の大学を志望するよう期待した。そうなったら、私が安心して順調に学業を終えることができるように、彼女の家に下宿して、生活費の面倒も見るとまで言ってくれた。

『関心を寄せる言葉は優しく話そう』

作者:李秋月
イラスト:鍾庭嘉
定価:350元
出版社:水霊文創
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同じ教師である主人は、結婚後から私を娘のようにかわいがってくれ、家庭教育の面で私のやり方を支持してくれた。子供に対してはいつも、彼が優しいパパの役を務め、私が厳しいママの役になったが、そうやって協力し合い、楽しく暮らした。新婚の時、二人で結婚後の合意書を書いたが、それは金銭の分配書ではなく、心を一つにしてこの家を守るというものだった。私たち共通の座右の銘は、「一つの家族を破滅させるには、数分間で充分だが、一つの家庭を築いていくには、一生かけなければならない」である。これらは全て自分が育った家庭の啓発によるものだった。「言い争う家庭は要らない、和やかな家庭がいい」。

慈済に参加した後、證厳法師は教師たちにこう開示した、「教師の心は、菩薩の心」、「愛情深く教えることが全てです」、「世の若者を我が子のように思い、親心でもって愛し、菩薩の智慧でもって世の衆生に奉仕しましょう」。それは私の教育愛の理念と方向性に大きな影響をもたらした。

その教育愛は深く己の心に刻まれた。私も担任から受けた愛をそのままに、勤め先の学校で仁愛基金を設け、貧困家庭の生徒に救いの手を差し伸べた。生徒を兄弟や我が子のように思い、彼らの得意なことを見付けて、才能を発揮する機会を与えた。メモに書いて生徒と心を通わせ、先生であり友でもあるような付き合いを保った。愛にあふれる家庭敎育は、喧嘩しない親がいる家庭を築く。何十年にもわたる教育愛は、私が招かれてコラムを執筆した時、それを文章にし、愛の教育を広めて行った。

この書籍で紹介しているのは全て、家族、生徒、同僚、隣人、新聞雑誌など真実の生活断片であり、この本を読んだ教育関係者が、愛があれば、何も遮る物はないことを信じて、伝承する気持ちを一層強く持ってくれることを心から願っている。この本を読んだ親が、子供の側にいて彼らの本音に耳を傾けてほしい。そして、この本を読んだ子供は、目上の人の愛を川の流れの如く感じ取り、それら全てが子供の心田を潤すものとなることを期待している。

言葉には限りがあり、愛と感謝を言い尽くすことはできないが、「慈済月刋」のおかげで、一畝の良田を耕すことができたことに感謝したい。また、編集チ―ムが寄り添って支えてくれたことと、挿絵を提供してくれた鍾庭嘉(ヅォン・ティンジア)さんが本の価値を高めてくれたことに感謝したい。全ての感謝の気持ちは言葉では言い尽くせない。

(慈済月刊六七〇期より)

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