世界は即ち教室─慈済大学✕持続可能な発展

キャンパス内の「食在永続消費合作社」を利用して、自然農法で作物を作っている小規模農家を支援したりとか、「持続可能な地球を多方面から観察~環境に配慮した暮らし方」を学んで、毎日国連が提唱する持続可能な発展目標に、より近づこうとしている。

台湾東部に位置する慈済大学で、彼らは大志を抱き、世界を教室として、人類生存の危機を解決する方法を見つけるのだ。

(㊟合作社は日本の購買部に類似)
(Food for Sustainable Consumption Cooperative=FSCC)

環境破壊、極端な異常気象、貧富の不均衡、都市と地方の格差、少子化…世界規模の生存危機が至る所で発生し、人類の「持続可能な発展」が試されている。二〇一五年、国連は十七項目に亘る持続可能な発展目標を提示した。それは、徐々に目覚め始めた人たちが「グローバル市民」として、自分から取り組むだけでなく、政府や企業、NGOに対しても、「自然と共に歩む」方向を目指すよう、明確に要求した結果である。人類のシンクタンク、人材のゆりかごである高等教育機関は尚更、その責任から免れることはできない。

慈済大学(以下慈大)は慈済教育志業体の最高学府として、二十九年前の大学創設時にはすでに、持続可能な発展に関心を持っていた。劉怡均(リュウ・イージュン)学長は、「仏教の教義では、縁起はお互いに由来していると強調しており、人はこの世に生まれてきた時から、万物衆生、そして宇宙という大きな環境と相互依存関係にあるのです。上人は、慈済大学を創設した時から既に、環境保全と生命の保護、そして菜食という考えを持っておられました。これは全て持続可能の概念です」と説明した。
劉学長は、近年持続可能という言葉が国連で特に強調された理由は、地球環境が劣悪になったからであり、それ故に、以前から行っている多くのことに一層積極的に取り組み、深め、時代と共に進む必要がある、と説明した。

慈済大学は「環境管理、環境教育及び菜食キャンパス」を、大学の持続可能な発展の三大重点分野としている。その中の、省エネ、節水、廃棄物処理、温室効果ガス排出を削減するという環境管理について、身を以て教え、「ネットゼロ」という持続可能な目標を達成する決意を示している。

慈大本キャンパスの校舎と学生寮の間は、僅かながら土地が起伏しているが、景観の美しさだけでなく、同時に遊水地の機能も備えており、大雨の際に洪水を防止すると共に、地下水補填の役目も果たしている。

持続可能な発展目標とは?

持続可能な開発または維持可能な発展(sustainable development)は、一九八七年に始まり、環境と開発に関する世界委員会が国連第四十二回総会で公表した「我ら共有の未来」宣言で、「持続可能な発展は、現代人がニーズと願望を基本的に満足できるようにすると同時に、将来の世代にも発展のチャンスを確保するモデルである」と指摘した。

二〇一五年、国連で「我々の世界を変革する‥持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、十七項目の持続可能な発展目標(Sustainable Development Goals,SDGs)が定められた。人々に持続可能な発展の認知と実践があって初めて、比較的明確な重点と方向性ができるのである。

この十七項目の目標には、貧困をなくす、飢餓をゼロにする、気候変動に対するアクション、質の高い教育、良好な健康と福祉、海洋と陸上の生態系の保護、持続可能な都市と地方、多元的なパートナーシップ、不平等を減らす、消費と生産への責任などが含まれ、どれも人類の目の前にある、解決を急ぐ環境、社会、経済問題と一致している。

一滴の恵みの雨も余すことなく使う

慈大が学内各部署の温室効果ガス排出量を点検した際、二〇二一年度の排出量の九割近くは電気の使用からのもので、一部は汚染処理施設と浄化槽から生じたメタンガス、電気設備から漏れ出したガスと公用車の排気ガスであることが判明した。

省エネと排出ガスの削減のために、慈大は毎年電力と燃料油の消費削減に努めている。キャンパス内にある多くの設備への配電を止めるわけにはいかないし、模擬手術用献体の冷凍室や動物実験センターも一定の温度と湿度を保たなければならない。しかし、工夫をこらせば、他のところで省エネを行うことができるのだ。

一般教養センター主任で、慈大ネットゼロ排出ワークショップ講師の江云智(ジアン・ユンヅー)さんは、キャンパス内に設置されているスマート電源管理システムについて、簡潔に語ってくれた。

「大部分の教室のエアコンは授業時間にしか点けず、それ以外の時間は、スイッチを押しても作動しません。冷房は空調用チラーから出ていますが、総務部がコントロールし、一時間使用する毎に五分間の節電を行っています。室温は少し上がりますが、人が感じ取れるほどではありません」。

慈大は慈済科技大学、慈大付属中学校と一緒に、グリーンエネルギーの生産に参加し、校舎の屋根をエネルギー企業に賃貸して太陽光パネルを取り付けてもらい、台湾電力公司に電力を販売して規定の収入を得、学内の積立金に充てている。

目に触れない屋根や配線管、地下室の節電設備に対して、目に見えるアイデアにも工夫が凝らされている。慈大キャンパスには、その二十年余りの歴史を通して、幹線道や駐車場の全てに工の字型インターロッキングブロックが敷かれており、校内敷地面積の約一割を占める。このようなブロックは透水性と通気性に優れ、慈済の各キャンパスや病院、連絡所に広く使われている。

宿舎エリアと教学エリアの間に位置している遊水地は、普段はカーペットのような緑の草が広がっているが、豪雨の時は小さな池に変わり、キャンパスへの浸水を防ぐと同時に、貯水がゆっくりと土に浸透して、地下水を補填できるようになっている。各ビルの屋上には、雨水回収システムが設置されてあり、雨水を貯めて、トイレや灌漑に利用し、一滴の恵みの雨も無駄にしないようにしている。

「水道水は電気を使って高い所へ送るので、その度にCO2が排出されます。節水すれば省エネだけでなく、CO2削減にもなるので、屋上の雨水回収システムからキャンパス内の遊水地に至るまで疎かにせず、グリーンビルディングの実現に努力し、そして作り上げました!」。江さんは自信ありげに、将来大学の全てを教育の領域にして、学生が学園生活を送る中で考え、ネットゼロへの転換を着実に生活に取り入れるよう、学生を導くつもりだ、と話した。

職員がヒートポンプユニットを巡視していた。ユニットで宿舎、体育館などのお湯を提供してから、毎年約34万リットルの燃料の使用を削減し、変換された冷気は室内の冷房に供給している。

食在永続消費合作社は大地への配慮と社会の生産とマーケティングのモデルを推進し、SDG12の「責任ある消費と生産」を実践している。

慈済大学の「食在永続消費合作社」について
  • 二〇一九年六月に設立され、農産物や一部の日用品の販売を行っている。現在の運営状況は、合作社の職員が参加している他、慈済大学のUSRチームのサポートを受けている。
  • 消費者の力を結集させ、花蓮の農家が環境に優しく良質な食物を生産する信念をサポートし、「地元での循環経済」を生み出し、フードマイレージを減らす。
  • 教師と学生が参加して運営し、産地の食物の源を辿る小旅行を企画している。仕入れ先の農場、工場での体験学習、食の安全や環境などの問題を深く理解し、解決することが目的である。
持続可能の概念を
生活に取り入れる

大学という所は、主に教育、研究、奉仕を行う重要な場所であるが、持続可能、エコ意識を持った未来の市民を育む場所でもあり、関連人材の育成が、もう一つの重大な任務である。

劉学長は、慈大の各学部やプログラムの専門教育の中には、持続可能な発展に関する知識が入っていると言う。例えば、生物医学科の必修科目である一般生物学では、生物の多様性に触れている。国際間及び領域を超えた大学の間では、災害管理関連の講座も開設され、単位の取得ができるようになっている。

「専門知識と生活を結びつけてこそ、学生に持続可能な発展と自分との関係を理解させることができるのです」。

専門教育以外に、コミュニティに入って「実践から学ぶ」こともとても重要だ。大学の社会的責任(University Social Responsibility 略してUSR)を果たすために、慈大はUSR教育研究センターを設立し、アカデミックのプロが花蓮という都会から離れた場所で地方創生を推進し、地元で循環経済を築いたり、オーガニック認証の提供やグーリンマーケティング、サステナブルツアーなどの方法で、小規模農家の生計維持を助けたり、就職の機会を創出したりすることによって地域の空洞化を遅らせたり、好転させることを目標にしている。

プロジェクトの実施と同時に、関連した選択科目の講座を開設している。「独創的な農村大作戦・グリーン地元経済プラクティス」、「持続可能な地球を多方面から観察~環境に配慮した暮らし方」など、各学部学科の学生が実際にフィールドワークの現場に足を運び、問題解決による学術研究の方法で実践学習を進めている。熱心な教師たちは、キャンパス内に「持続可能な食・消費協同組合」を立ち上げ、小規模農家たちのマーケティング・チャンネルを広げるだけでなく、教育の理論を実践へと、より緊密に結びつけている。

江允智さんによれば、一般的な慣行農業は、大量の化学肥料と農薬を使用し、大量のカーボンフットプリントを出して環境に大きな負荷をかけていた。もし自然農法や有機栽培ができれば、カーボンフットプリントを大幅に減らせるだけでなく、「二酸化炭素吸収源」になることも可能で、空気中の二酸化炭素の吸収に役立ち、「慈大の教師と学生で立ち上げた協同組合がリードしながら、消費により自然農法による商品を支持することは即ち、低炭素またはカーボンネガティブのアクションになるのです」と説明した。
持続可能性と防災に携わる人材のニーズが増えていることに対して、慈大は関連講座を開設した。「持続可能及び防災修士課程」の新入生の募集が始まり、今年九月に第一学期のコースがスタートする予定である。

また大学は著名な国際検査認証機関を招き、大学で国際標準化機構(ISO)認証取得養成コースを開設し、在校生や慈済の慈善と医療志業体の職員の参加を促した。昨年は試しにISO14067カーボンフットプリント認証及びISO50001エネルギー管理システム認証の養成コースを開いたが、さらにISO14064ー1温室効果ガス調査コースを開設する計画がある。「今年は開催範囲を広げ、学生と学校、USRが共同パートナーとなって、温室効果ガス調査をサポートできるようにします。これは私たち慈大がしなければならないことなのです!」と養成コースの事務を担う江さんが言った。

一九九四年の創設から今日に至るまで、慈大は既に「環境保全」と「持続可能」の方面で賞を受賞してきているが、厳しい環境危機、社会経済問題を目の前にするとき、教師や学生は一層努力して、「持続可能なキャンパス、グリーン大学」という理想を着実に実践していかなければならない。そして志のある人たちが学習と研究に参加することを歓迎している。

(慈済月刊六七六期より)

太魯閣の青年農業従事者である林秀瑛(リン・シュウイン)さんは栽培している山蘇(サンスー)を調べていた。慈科大生物医学チームと慈大の共同組合のサポートのもと、元来は鮮度を保つのが難しく、収益も限られていた山蘇を高付加価値商品に開発し、販売ルートも広がった。

2020年慈済大学と慈済基金会は共同で防災・救済体験キャンプを催した。その中の1組の学生たちは災害支援用のプレハブを組み立て、その晩はそこで寝泊まりした。(撮影・鄭啓聡)

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