「口舌の雄」になるよりも「模範を示す」

問:

計画的に子供の会話表現能力を身に付けさせるべきでしょうか。後々、学業や職業上で人に深い印象を与え易くなると思います。

答:アメリカの著名な人間関係学者であるデル・カ―ネギー氏は、言葉による表現について深く研究していました。彼は、「講演は芸術ではなく、技術である。それに、誰もが必要なスキルなのである」と考えました。いわゆる言葉による表現とは、明確に意思を伝えることができる能力であり、プレゼンテーションや自分を売り込むための能力でもあるのです。もっと掘り下げて言えば、勇敢に人前で話すことができる自信とスキルのことです。

現代社会では大学入試の面接試験であれ、就職の面接であれ、適切な言葉による表現能力が必要です。そこで世間にこういう類の訓練クラスが生まれたのです。競争が激しい時代において、計画的に会話能力を身につけさせる必要があるのかどうか、保護者が戸惑ってしまうのは確かです。
うちの子や教え子の成長を見ていると、次に挙げる幾つかのポイントは、人生を順調に送る上で役立つように思えます。

感謝の心は人を魅了する

洪蘭(ホン・ラン)教授はかつてこう言ったことがある。「人生での挫折は珍しいことではなく、順調こそが意外なのです。感謝することを知っている人は、一生うつ病に罹ることはないでしょう」。ここからも感謝がどれだけ重要かが分かると思います。

洪教授の取り上げた話は、警鐘だと言えます。「私の友人で、毎朝、子供のためにユニホ―ムと靴下をベッドに並べ、子供が起きてその通りに着れば、直ぐに学校に行けるようにしている人がいます。ある日の朝、電話が鳴ったので靴下を並べる前に電話に出ました。すると子供は、「私の靴下はどこ?どうして置いてくれなかったの?」と怒り出してしまいました。彼女は受話器を手にしたままびっくりして、何も言えませんでした…」。起床して服を着るのは子供の日常ですが、子供の睡眠不足を心配して用意していたのに、思いがけず、用意しなかったことを責められたのです。それ以降、二度と子供の時間を省く手伝いはしなくなったそうです。お宅でも、このようなことはありませんか?

感謝の心を教えるのは容易ではありませんが、感謝すべきことを当たり前にしてはならないことを忘れないでください。従って、教師は生従に「いつも感謝の心を持ち、何事にも感謝する」ように指導することです。それが時代の流れに即応する道なのです。

協力してやり遂げることが
できるかを自問する

證厳法師がかつて、「団体による仕事は長く続きますが、個人で作業をするのは無常です」と開示したことがあります。この言葉はグループワークの重要性を訴えています。

クラスや会社は、多くの幹部が協力することで、軌道に乘せることができるのです。さもなければ、班長やマネ―ジャーといったリーダーがいくら優秀であっても、クラスメ―トや同僚が力を合わせなければ、呼びかけだけに終わってしまいます。

以前、クラス対抗の綱引き大会で、私たちのクラスは決勝戦に進みました。当日は皆、胸をわくわくさせて優勝カップを手に入れたいと思っていました。両チームの選手が入場して相手の先頭と最後尾の選手の体格を見たとたん、味方は直ちに勢いをなくしてしまいました。なぜなら、味方の先頭と最後尾の選手の二人の体重を合わせても、相手の先頭選手の体重には及ばなかったからです。ホイッスルが鳴るや否や、私たちのクラスは、藁のようによろめいてしまいました。

その時、班長は皆に集ってもらい、気持ちの上で頑張ろうと言いました、「一、我々のクラスは今日、精一杯チームワークを見せつけてやろうではないか!二、掛け声をかけてやる気をアップしよう!」。班長の自信に満ちた励ましに力を得て、みんなで一致団結し、最後には2対1で相手を倒すことができたのです。

ですから、何事も協力してやり遂げる精神こそが力を結集でき、苦境を切り抜ける唯一の方法なのです。一致団結すれば、比類なき力を発揮します。

どこに行っても後光が差す

正しい価値観とは何でしょう。科学者のアインシュタインはこう定義しています、「人は社会に献身してこそ、短くてリスクの多い人生でその意義を見いだすことができる。……生命の意義は、相手の身になって考え、他人の憂いを憂え、他人の喜びを喜ぶことである」。

正しい価値観を持った人は、誠実さと思いやり、規律を持ち、他人に共感するようになります。このような人は皆に好かれ、愛され、信頼され、重要な責務を預ける気になります。

苦労を知らない人は、却って一生苦労することになります。子供を一生苦労させたくなければ、会話による表現能力は大切ですが、感謝の心、協力してやり遂げる精神、そして正しい価値観を学ばせること、それが子供を健康で楽しく、明るく、前向きな人間に育てる要となるのです。そうすれば、人を惹きつけるだけでなく、それ以上に、人生の道を穏やかに歩めるようになるのです。

(慈済月刊六七四期より)

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