サルコペニアは高齢者にだけ起きるものではない。
現代人は長時間座った生活をすると共に、科学技術による利便性から体の活動量が急速に減少しているが、多くの人は自分の筋力が不足していることに気づいていない。
しゃがんだ状態から立ち上がるのが大変だったり、物を持つ力がなかったり、振り返ることや手を挙げる動作が困難になるのは、サルコペニアかもしれない、と気をつけるべきである。
周宜群医師は、運動を習慣にして健康を取り戻した。彼は大衆に、普段からウェイトトレーニングすることで筋力を蓄え、サルコペニアにならないようにと呼びかけている。
現代人はスマホ一つで、衣食住の各種ニーズを解決することができる。ネットでデリバリーや買物ができ、立ち上がらなくても、リモコンを押せばクーラーが点けられるのだ。私はこれを「内外からの挟み撃ち」と形容している。内とは、自然な老化のことだ。誰でも老いは必ず進む。外とは外部の現代科学技術のことで、体を動かさなければないほど、筋肉はかつてない速さで衰える。
もし、全く運動していないのであれば、今からでもジョギングを始めたらいい。体にとても良いことなのだから。ジョギングや水泳は心肺を鍛えることはできるが、肌肉や骨、神経系統の増長は、ある程度まで来るとそれ以上増えないため、「重量」で増長を刺激する必要がある。
ウェイトトレーニングは怪我しやすい、と間違った考えを持つ人がいる。アメリカの統計によれば、ウェイトトレーニングによる重い怪我の確率は、バドミントンやテニスとほぼ同じである。バスケットボール、フットボール、サッカーなどの団体スポーツによる重い怪我の確率はもっと高い。正しい動作と姿勢の下に行えば、重量はコントロールでき、プロのコーチの指導があれば、本当はとても安全なのである。
ウェイトトレーニングにはもう一つメリットがある。それは「筋力の備蓄」である。一見して健康な高齢者の多くは、歩けるし、生活や庭いじりには問題がない。しかし、一旦重い病気をすると寝たきりになるのは、備蓄された筋力が少な過ぎるからだ。もし、普段からトレーニングをして、体が頑丈であれば、備蓄された筋力はいざという時に使うことができる。たとえ、重い病の後、病気する前の状態に戻ることができなくても、少なくとも元の生活スタイルを維持することはできる。
台湾社会の高齢化は益々深刻になり、サルコペニアの問題も増え続けている。アジアにおけるサルコペニアワーキンググループ(AWGS)の二○一九年の会議では、厳格な診断定義が提示された。検査と測定を基に診断し、「六十五歳以上の高齢者は、即ち、サルコペニア患者であり、六十五歳以下はそうではない」とした。しかし、一般の人にとって、六十五歳未滿であっても、生活上で既に明らかな症状が出ている場合がある。例えば、物を持つ時に力が入らない、しゃがんだ状態から立ち上がるのに苦労する、後ろを振り返ることや手を挙げる等の動作がうまくできないと感じた時は、要注意である。
サルコペニアでよく見られるのが、衰えと障害の進行であるが、病気による場合もある。例えば、癌や慢性病が引き起こす体質の悪化によって、代謝機能のバランスが崩れ、体は、筋肉と脂肪を分解することでしか必要なエネルギーを供給できなくなり、長期的に体重が減って、筋肉の流失と体脂肪の低下現象が起きる。
サルコペニアが引き起こす最大の問題は、障害の進行と生活の質の低下である。酷くなると、寝たきりになったり、生活における緊急事態での危険を避ける対応が難しくなったりする。例えば、突然正面から来た車を避けられなくなるのである。また、或る研究によると、肥滿型のサルコペニア患者は、体内で慢性の炎症が起き、慢性病や三高(高脂血症、高血圧、高血糖)、ひいては悪性腫瘍ができ易くなる。
多くのリューマチ免疫疾患患者は関節の痛みが起こり易く、発病していない安定期にできるだけ早く筋力を鍛えておけば、痛み緩和の効果がある。姿勢が正しければ、最も圧力がかかるのは筋肉であり、筋肉が良好な状態であってこそ、関節が守られるのである。しかし、急性発作が起きた時期は、暫くトレーニングを中止しなければならない。
三高患者の筋肉量はインスリンの阻害と関係がある。筋肉量が少ないとインスリンの生成が阻害され、将来的に肥滿、慢性病、癌を引き起こす確率が高くなる。病気に罹った後、前述のサルコペニアがもたらす悪循環にも直面しなければならない。
運動介入外來で診断してもらうことで、胸の痛みや息切れ、めまい、血管ブロックなどの状況をなくすことができる。一般的に、ほぼ全ての患者は筋力を鍛えるべきでる。
アメリカ・スプリングフィールド大学体育科の何立安教授はこう言ったことがある。多くの人は「病気でないことは即ち健康」だと思っている。例えば、ある七、八十歳のお年寄りで、一日中家で何もせず、お茶を飲んでテレビを見たりしている人が健康だと思われている。しかし、実は本当の健康とは、このような病の痛みがない状態とはかけ離れたものなのである。筋肉、骨密度、神経系統は負荷が掛かり続けることで、絶えず適応して行くのである。この筋力の備蓄プロセスがあって初めて、真の健康と言え、これも予防医学の概念である。
(慈済月刊六七六期より)