山に分け入り海を渡る

慈済ボランティアは雨の中、澎湖花嶼の狭い路地を進み、百キロを超える電動ベッドを必要としている家庭に届けた。

重さ百キロの電動ベッド、または持てば直ぐ歩ける多点杖など、慈済ボランティアは、多種多様な福祉用具をリサイクルし、洗浄、消毒、点検、修理してから届けている。

長年都市圏で奉仕しているので、仕事には慣れているが、数百件の福祉用具を離島や山奥に届けるのは、また別な意味でヘビー級の挑戦である。

「立ち型車椅子があれば、彼は自分で立ち上がりたい時は、ゆっくり立ち上がり、座りたい時はゆっくり座ることができ、人に介護してもらう必要はなくなります」。陳恵仙(チェン・フェイシェン)さんは、介護サービス事業所に勤めていて、高齢者の心身の活動を促進し、要介護になるのを遅らせる手伝いをしている。しかし、帰宅しても同様な仕事をしているそうだ。というのは、八十八歳という高齢の父親が五年前からパーキンソン病を患い、今では病状が進行して、立つことも座った姿勢を保つこともできなくなったからだ。

高齢者のベッドの上り下りや手洗い、食事はどれも介護が必要で、外国籍ヘルパーは一日に数十回彼を移動させて腰を悪くしたため、離職せざるを得なくなった。陳さんと介護士をしている姉は、順番に弟の家に行って、弟と一緒に父親の介護と年配の母親の世話をしている。

陳さんは、慈済のエコ福祉用具プラットフォームを通じて、電動ベッドと電動立ち型車椅子等の福祉用具を申請した。彼女は毎日、父親を立ち型車椅子に移し、胸と腰、足をベルトでしっかり固定してからコントローラーを渡し、自分で立ち上がったり、座ったりさせている。本人に適した福祉用具が手に入ったことで、父親は心身ともに好転し、一家の生活の質も改善した。

「初めは、政府の介護サービスも福祉用具を取り扱っているのに、どうして慈済が人手を掛けてやっているのか、と思いました。しかし、ここ数年、社会全体でこのようなニーズが本当に高まっていることが分かりました!」。

洪淑英(ホン・スゥイン)さんは、ご主人が退院して自宅で最期の療養をする前に、慈済に福祉用具を申請した。慈済人は医療用電動ベッドと車椅子、入浴用椅子等を用意した。洪さんがやることはドアを開けるだけでよく、ボランティアはそれらを室内に運び入れて設置した。

今年五月、旦那さんは病気が重くなってこの世を去った。彼女は一度、どうやってエコ福祉用具を慈済に返したらいいのだろうか、と心配した。ボランティアは、先ず旦那さんの葬儀を済ませてから、福祉用具を処理するように言った。その過程で、彼女は何もすることがなかった。「私は同じようにドアを開けただけでした。ボランティアの皆さんが来られて運んでくれました」。辛くても、多くのケアをもらったその過程を振り返ると、「私が受け取ったのは皆さんの奉仕でした。彼らは大きなチームで、それは無私の愛で、感動以外の何ものでもありません」と感謝した。

台湾では、へき地の多くで青壮年が大量に流出して高齢者の割合が比較的高くなり、車椅子での移動に頼ることが多い。それは現地の介護労力と福祉用具の切実なニーズを反映している。

慈善アクションで社会のニーズに応える

行政院国家発展委員会の推定統計によれば、台湾は二〇二五年に超高齢化社会に突入する。つまり六十五歳以上の高齢者の割合が二十%以上になるのである。しかし、年を取ることは、より良く年を取ることと同じではない。今の国民の平均寿命は既に八十歳前後だが、平均的な「不健康余命」は七年から八年に達している。言い換えれば、高い割合の高齢者が、要介護や寝たきりの状態で、最期の七、八年を過ごしているのである。

数百万人の高齢者や傷病による障害を負った人の介護ニーズに対応するために、政府が長期介護システムを構築するだけでなく、地方自治体でも福祉用具リソースセンターを設立した。現行の規定によれば、長期介護の資格に合致した人や身障者証明を有していて労働災害に遭った人は全て、政府に補助を申請し、新品の福祉用具を購入することができる。短期療養で一時的に必要とする人は、自治体の福祉用具リソースセンターから借りるか、無償で中古の福祉用具を受け取ることができる。

台湾の福祉用具リソースセンターの多くは、地方自治体が設立し、監視、管理の下に、民間の財団法人に運営を委託している。政府直営や公的な施設を民間が運営している福祉用具センター以外に、慈善を主体にエコを重視する慈済基金会があり、人口の老化に対応して、二〇一七年に「エコ福祉用具プラットフォーム」を設立し、ボランティアが回収した中古の福祉用具を洗浄、消毒、修理した後、貧困者と病人、立場の弱い人を優先して無償で提供している。

この時代に即した展開をしている慈善行動は、最も早いもので、一九九〇年に始まった慈済の環境保全志業に遡ることができる。ボランティアが證厳法師の「拍手する手でリサイクル活動をしましょう」と呼びかけたのに応えたもので、紙類、ペットボトル等の資源を回収して再利用した。しかし、中古の車椅子や医療用ベッド、歩行器等の福祉用具の多くは、使用者が亡くなったか、或いは回復して必要がなくなったかで、慈済のリサイクルステーションに持ち込まれた物だ。

当初、慈済ボランティアも福祉用具を一般回収物とみなし、状態が悪い物は分解し、使える物はきれいにしてから、七、八割新品に近い古着の例に倣って、「惜福(物を大切にする)」エリアに並べ、縁のある人が引き取りに来るのを待ったり、それらを必要としている慈済のケア世帯に贈ったりしていた。

その後、数人の電気修理ができるボランティアが、検査、修理を始め、それらを必要としているという口コミが寄せられた時に、届けるようになった。二〇一二年から、通信ソフトウェアが普及し、直ぐに参加意志があるボランティアたちが繋がって、互いに交流しながら、メンテナンス方法や洗浄テクニックを学ぶようになった。チームができたことで、ボランティアたちは街の至る所に出向くようになり、エレベーターのない古いアパートでも、より効率的エコに福祉用具を必要としている家に届けるようになった。

台湾で高齢化が進むにつれ、ボランティアは、定期的に慈善訪問をする中で対象者の福祉用具に対するニーズが益々高くなっていることを知り、適切に消毒し、修理した中古の福祉用具がその不足分を満たせることに気づいた。二〇一七年から、慈済エコ福祉用具プラットフォームが各地に続々と設立され、現地ボランティアが奮って参加するようになった。

高雄岡山志業パークでボランティアの曽堯山(ヅン・イャオサン)さんはトイレ椅子を修理していた。リサイクルして物を大切にする原則に基づき、時には一本のレンチ、数個のネジを使った技で、福祉用具の命を生まれ変わらせることができる。

🔎 Zoom in picture)

物を届けるのではなく、祝福を家に届ける

仮に送り届けた福祉用具を金額に換算したら、この数年で既に民衆は四億元(約十六億円)以上を節約したことになるが、それには慈済ボランティアの無償の奉仕コストは含まれていない。慈済基金会慈善志業発展処の呂芳川(リュ・フォンツヮァン)主任は、「エコと福祉用具とは、一つは大地の守護で、一つは人のケアです。エコ福祉用具は資源の回収になるだけでなく、物の寿命を延ばし、更に善の効能を発揮し、苦しんでいる人の声を聞いて、手を差し伸べているのです」と説明した。

福祉用具を素早く届けるために、ボランティアは臨機応変に、どんな問題にも対応できるようにしている。アパートの階段が狭くて、医療用ベッドの搬入が難しい時、それを分解し、百キロ以上もあるベッドフレームを幾つかの数十キロのユニットにして運びやすくし、到着してから再び組み立てるのである。そのため、ボランティアは運送の過程で、自身たちの安全にも注意し、アクシデントの発生を避ける必要がある。

四十数年間左官職人として働いてきた林金城(リン・ジンツン)さんは、最初、福祉用具は車椅子とトイレチェアの二つだけだと思っていた。去年、定年退職した後、新北市土城の福祉用具チームに加わって初めて電動ベッドと歩行器もあり、車椅子にも異なる規格があることを知り、今では二時間足らずで一台の車椅子を組み立てることができるようになった。彼は既に五百台以上の車椅子を修理し、百キロを超える医療用ベッドの運搬にも何度も参加した。二十三年間のボランティア生活の中で、リサイクル活動や訪問ケア活動等に参加してきた林さんは、「エコ福祉用具は最も大変な仕事です!しかし、私は全力で打ち込んでいます。なぜなら、多くの人が必要としていますし、最も直接的に人を助けることができると言えるので、後へは引けません」と率直に言った。

林さんによると、台湾全土で福祉用具が最も多いのはやはり大台北地区で、ボランティアが回収した福祉用具は主に慈済リサイクルステーションや病院、老人ホームから来ており、仮に病院などの設備更新の時期に運よく遭遇すると、古い医療用ベッドや車椅子等の物資が慈済に寄付され、最低一度に二台から三台のトラックで運ばなければならないそうだ。

「持ち帰った物は選別してから、できる限り長く使うという原則の下に、状態が悪いものは解体して部品の備品にし、使えるものは残しておき、メンテナンスが終わってから配送します。屏東や嘉義、更には離島の澎湖諸島や金門県にまで送り届けます」と林さんが補足した。

95歳での初心運転者

一人の高齢者が慈済ボランティアの提供した電動カートを運転して、自宅付近を自在に行き来していた。交通安全の確保するため、介護スタッフは特別に彼女の椅子の後ろに注意の標識を付けた。(撮影・蕭耀華)

今年四月、慈済環境保全志業は正式にイギリスの社会的価値(Social value UK)という組織の「社会的投資収益率」(SROI)の認証を取得した。エコ福祉用具プラットフォームは、一元を投じれば、81・18倍の効率を生み出すことができる。言い換えれば、慈済ボランティアがエコ福祉用具プラットフォームで使っているあらゆる労力は、社会で80倍以上の効率をもたらしているのである。これらポジティブな影響によって、それを必要としている人の経済的負担が軽減され、生活の質が改善されて、身心の安全感が向上していることが分かる。

エコ福祉用具プラットフォームは、病気で苦しんでいる人に適切な福祉用具の取得を手助けするだけでなく、福祉用具の資源を持続的に循環再利用させており、国連十七箇条の持続可能な発展目標の中のSDG3「すべての人に健康と福祉」を着実に実践している。エコ福祉用具プラットフォームは、慈済基金会が今年度第三回「TSAA台湾サステイナビリティアクションアワード」で獲得した三項目の金賞の内の一つである。

エコ福祉用具プラットフォームは、良縁を結び、幸福を呼ぶ。慈済人は送り出す福祉用具を品物ではなく、真心を込めた祝福とみなし、恩恵を受けた使用者も一緒に他人に恩恵を施し、大地を護る人になってほしいと願っている。

(慈済月刊六八五期より)

澎湖諸島のボランティアは、離島の花嶼に住んでいる一人暮らしの高齢者にトイレチェアを届けた。ここでは海運が主体だが、ボランティアは万難を排して自ら視察訪問し、ニーズをアセスメントしてから再び訪れ、必要なものを届けるのである。

    キーワード :