菜園から食卓まで 新鮮で清らかそして健康な食事

数日前、寒波が襲来した。雨が降りだす前にと、朝早く徳(ドーライ)師父と数人のボランティアの後ろについて、畑の草取りに行った。広大な敷地の中、静思精舎の協力工場の隣にある大きな畑は正方形で、一つ一つの畝の土がまっすぐ美しく盛られていたが、その全ては師父がボランティアを率いて耕したものである。

区画ごとに異なった野菜を栽培しており、冬にはレタス、サヤエンドウ、キャベツ、ほうれん草、春菊、油麦菜(ゆばくさい)、大根、芥藍(カイラン)などが栽培され、夏にはサツマイモの葉やナタマメが成長する。また、料理の味をグレードアップする台湾バジルとパクチーの存在も事欠かない。

青々とした畑の中に、一カ所だけ違っているが、それはパッションフルーツである。緑色の果実が棚の下に垂れ下がっていたが、幾つかはもう赤くなっていた。「二、三日したら収穫できます。天然のさっぱりした甘さで、新鮮でとても美味しいのですよ」。ボランティアリーダーの指さす方角を見ると、そこに赤くなりつつある実があった。収穫が楽しみである。

「私たちは農薬や化学肥料を使わないので、健康を害さなく、安心して食べられます。健康だから、もちろん上人の食事にも出しています」。「清らかな源」という理念に基づいて、自信を持って自然栽培法をしている師父が、傍らで説明を補った。

この上ない感謝の気持ちで食べ物に接する

四季の移り変わりによって、畑の野菜や果物は次々と入れ替わる。精舎の師父たちは、「一日働かなければ一日食せず」という静思家風を日々遵守し、自力更生の生活を続けると共に、世界各地から戻ってきた慈済人や来訪した善意の人たちを精一杯もてなしている。

草むしりに没頭している師父の携帯電話が突然鳴り出したので、近くで餌を探していた鳥たちがびっくりして飛び立った。

「こんにちは、畑にパクチーはありますか」。精舎で食事担当の師父からの電話だった。

「ありますよ」。

「今日のお昼におでんを作るので、彩りのためにパクチーが必要なのです。採って持って来てくれないでしょうか」。

「はい、分かりました」。

寒くなって来たので、師父たちはみんなのことを思い遣って、温かいスープを作ることにした。

普段のメニューは「一汁四菜」だが、塩味と薄味の料理が程よく配合されていて、見た目が良くて美味しい。一つ目は青野菜で、そのほとんどが精舎の菜園で採れた新鮮な野菜を使っている。二つ目は蛋白質の源である豆腐、湯葉など豆類のメニューである。三つ目は味の濃い料理で、煮込み冬瓜やサイシン、ゴウヤ、昆布煮などである。四つ目は彩りよい料理で、セロリとにんじん、銀杏など、五色の食材による様々な栄養が網羅されている。

午前十一時を過ぎる頃、厨房で調理されていた料理ができると、鍋から取り出し、素早く盛り付ける。師父たちはボランティアと協力して、秩序正しく料理を食卓に並べる。食堂には丸テーブルが五、六十卓あり、各テーブルには取り箸とスプーン、ステンレス製の鍋に盛られたご飯、光沢のある小さいお湯の入った急須が用意される。

自分が食べられる分だけを取り、食べ終わると小さい急須からお湯を茶碗に注ぎ、回して残ったものを飲みほしたら、食事終了である。食べ物は、ここ精舎ではこの上ない感謝の気持ちで大切にされている。

世界中で長期的に飢えている人は八億人を超え、おおよそ世界総人口の一割を占める。環境保護署の統計によれば、台湾では毎年約百三十五万トンの食べ物が廃棄されているそうだ。もし国民一人当たりの食糧を年間五百四十七キロと計算すると、二百四十万人余りがお腹を満たすことができる量だという。「金持ちの一食は、貧乏人の半年分」と言う言葉を思い出した。

世界を変えた食事

人間と自然のリズムが調和している状態が理想であり、目標でもある。食事はもはやお腹を満たすだけの行為ではなく、人類の肉食が生態へ及ぼす影響は、地球にとって深刻な脅威となっている。二〇二三年十一月十七日、地球の平均気温が初めて摂氏二度以上上昇した。最新の国連の報告によると、もっと積極的に有効な行動を取らなければ、平均気温が摂氏三度上昇してしまい、地球に壊滅的かつ取り返しのつかない影響を与える恐れがあるとのことだ。

「全粒穀物は健康を維持でき、最高の食べ物です」。

「地球を守るためには、誰もが菜食をしなければなりません」と證厳法師は切実な願いを語っている。

二〇〇七年、台湾に招待された国際自然保護活動家であるジェーン・グドール氏は、「あなたが食べる全ての食事は、世界を変えることができるのです」と訴え、食生活を変えることで地球を守ろうとしている。

食事の源である農地に対し、法師は自然に回帰しよう、と繰り返し訴えている。四季の節気に従って、その土地で耕し、その農作物を適時に収穫し、鳥が飛び交い、虫が走り回っていれば、古くから伝えられた農耕法の知恵が今も息づいている証と言える。

地元の旬のものを食べることは、食べ物の輸送距離を減らし、包装資材の製造による二酸化炭素と汚染を減らすことができ、家畜を飼育するための大量の水の消費と森林伐採も避けられるのである。世界で飢餓に苦しむ人々と日に日に悪化する環境に関心を寄せる、というこの基本的な人道精神は、日々の簡素な食事、つまり菜食への感謝から始まるのである。

(慈済月刊六八七期より)

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