基隆刑務所での歳末祝福会—感動を遮るものはない

警備体制下で開かれた歳末祝福会では、十九名の基隆刑務所慈済読書会メンバーが、一年間の読書の心得を慈済手語劇で表現した。彼らの歌声と心の声の間には隔たりがなく、ただ「胸一杯の感動」があるだけだった。

歳末祝福会の慈済手語劇の様子。最後列で大きな字のカンペを掲げて、舞台上の読書会メンバーを助けた。

会場となった基隆刑務所の活動センターには、元来卓球台が置かれてあったが、二〇二三年十二月十五日、刑務所職員同行の上で、慈済ボランティアが巧みに配置を施した。画面が投影される壁の前には、青いベルベットの布で覆われたテーブルの上に瑠璃の三尊仏が置かれ、ピンク色の蓮の花と緑の植物が彩りを添え、澄みきった水の中に咲く清らかな蓮の花を思わせた。

百名近い「同級生」が整然と隊列をなして活動センターに入り、矯正科主任が臨席し、警備員も立ち会って、古筝(こそう)の演奏が優雅に流れる中、歳末祝福会の幕が開けた。

「慈済ボランティアは何年も基隆刑務所と交流していますが、ここで歳末祝福会を開催するのは今回が初めてです。私たちは皆さんに幸福と慧命(えみょう)を贈り、證厳法師からの祝福を届けたいのです」。慈済ボランティアの洪金玉(ホン・ジンユゥ)さんは「福慧お年玉」を開けて、そこに貼られた稲穂を指差しながら、多くの実を結ぶので幸福の種と呼ばれることを紹介し、出所後の未来が恩人に出会う機会のある明るいものになるようにと祝福した。

古筝の演奏がゆるやかに終わると、場内は静まり返った。そして《開経偈》の音楽と共に霊山法会が始まった。壁に二〇二三年「慈済大蔵経」が投影され、世界中の慈済メンバーが行ってきたことを皆と分かち合った。トルコ・シリア地震で災害支援に投入するシリア難民ボランティア、ハワイの大火災で負傷者を慰めるボランティアなど、入所者たちは皆、姿勢を正し、顔を上げて見入った。ビデオ放映が終わると、司会の詹玟倩(ヅァン・ウェンチェン)さんは、こう述べた。「慈済ボランティアは、小さなホタルのように精一杯光を放ち、その小さな光を結集させることで、人々を助けているのです。皆さんは自分の力で人々を助けたいと思いませんか?」

「したいです!」というはっきりした返事が会場の一人ひとりを震撼させた。

矯正施設では八番目の閲覧室

基隆刑務所の廊下の壁には『静思語』が貼られている。長期的に寄り添ってきた慈済ボランティアチームが、二〇二二年末に『静思語』を張替えに来た時、刑務所側に読書会を開く構想を提案すると、肯定的な反応が返ってきた。二〇二三年二月七日から毎週金曜日の午後に九十分間行っている読書会は、今でも続いている。ボランティアの陳淑華(チェン・スウーフワ)さんが皆に読み聞かせ、陳麗貞(チェン・リーヅン)さんが慈済手語を教えた。

基隆刑務所の受刑者の刑期は、大方三年以下ということから、人の異動が頻繁にあるので、読書会の教材を選ぶ時は分かり易いことが原則だった。静思語の良い言葉や證厳法師の語る仏教の物語、そして慈済の歌、慈済手語劇及び月刊誌『慈済』などを選んで紹介した。また、二〇二三年十一月に、台湾の矯正施設としては第八番目の静思閲覧室を同刑務所内に設置し、五百冊の良い本を揃えた。読書会の参加者は、初めは六、七人だったが、その年が終わる頃には十九人になった。

参加者の年齢は二十代から七十代まで幅広いが、皆真面目に学んでいる。慈済手語に触れたことがなかった彼らは、最初はお互いの動作を見ながら何とか手を動かしていたが、やがて歌詞の意味を手で機敏に表現できるようになった。一句一句の意味を理解できた時は目を赤くした人や、題材の感想を述べたことによって、寛容と放下を学んだ人も出てきた。

證厳法師が出家した時のストーリーを聞き終わった参加者Aは、家を離れて出家した自分の姉を許せる気持ちになった。参加者Bは、ガールフレンドの死をなかなか忘れられなかったが、因縁果報の道理を理解して放下したことで、顔つきが明るくなった。他の参加者も、人と争いになって、拳を振り上げようとした時、静思語やボランティアの励ましを思い出し、争いを止めることができた、と皆で分かち合った。

受刑者たちの「出所したら慈済でボランティアをします」という言葉を聞いて、ケアチームは喜んだ。今回の歳末祝福会では、読書会参加者を慈済手語劇の舞台へ導き、一年間学んできた成果を披露してもらった。

ボランティアは一人ひとり受刑者に「福慧お年玉」を手渡した。皆、その小さな赤い封筒に入っている、「一から無量が生れる」ことを象徴した善の種子を見つめた。

新年からの読書会参加を歓迎します

歳末祝福会で人々が最も期待するのは、福慧お年玉を頂くことなので、皆それを開けてじっくり見つめた。続いて読書会のメンバーが二列に並び、経蔵劇を始める準備をした。参加者たちが緊張してセリフを忘れてしまうことがないようにと、ボランティアたちは大きな字でカンペを書き、客席の最後列で椅子の上に立って高く掲げた。指導した陳さんは木の板の上に立ち、メロディーに合わせて舞台上のメンバーにヒントを与えた。

「輪廻の道を歩く時、道中で足ることを知るべき……」という《自如》のメロディーに合わせて、同級生たちは両手を挙げたり合掌したりしていた。経蔵劇『徳行品』の偈頌を演じた時、彼らの動作が一糸乱れず整然としていたので、座席にいた同級生たちも感化され、一緒に手を動かし始めた。最後列にいた同級生は、ボランティアがカンペを持っているのを見て、自主的に手伝いを申し出て両手で掲げた。時には少し低くして、舞台の演技を見逃さないようにした。

舞台にいた七十歳近い同級生が、慈済に読書会を開催してくれて有難うと感謝の気持ちを述べ、会場に出席していた同級生たちにも参加するよう呼びかけた。すると、会場から賛同の声と拍手が起きた。矯正科主任も慈済ボランティアチームに感謝した。

「所長と秘書の許可を得てから各部門も協力してくれたので、初めて所内で歳末祝福会を行うことができました。同級生たちの良い行いを目にすることができてとてもうれしく思います」。

同級生たちは、合掌して「この世に災害が無くなるように」と祈り、来たる年に願いをこめた。

やがて新しい年を迎えるが、ここにある良い言葉と良い本が、ここで心を落ち着かせる力となって欲しいものだ。

(慈済月刊六八七期より)

    キーワード :