専門家の視点—台湾が食べることに困らないように

レソト王国は2023年、干ばつと凶作に見舞われた。民衆は、食糧不足の窮状を緩和するために、遠くから慈済ボランティアが配付した台湾の愛の米を受け取りに来た。(写真提供・慈済基金会)

農業生産は、商品作物だけに焦点を当てて主食や雑穀を無視してはならない。

食糧の自給率を維持、アップすることで、災害や疫病などの予測不可能な事態に陥った時、回復力を高めることができるのである。

すべての袋に「台湾からの愛」と印刷された台湾白米は、アフリカや中南米で支援を受けた人々を笑顔にしている。しかし、米による海外支援という慈善活動の背後には、無視してはならない食糧安全保障問題がある。

台湾の農業部の統計によると、台湾の食糧自給率は僅か三割に過ぎない。では、なぜ毎年海外支援に十分な量の米が蓄えてあるのだろうか。

答えは大衆の日常生活にあるという。

「一九八〇年代には一人当たり年間九十八キロの白米を消費していましたが、二〇二二年には四十三キログラムまで減少しています」。農業部農糧署稲作産業課の楊敏宗(ヤン・ミンゾン)副科長は、大衆の食生活の変化によって、台湾の米消費量は過去と比べて大幅に減少していると説明した。二〇〇二年に台湾は世界貿易機関(WTO)に加盟し、日本、タイ、アメリカなどからの「輸入米」も市場に出回るようになった。政府は食糧安全保障を考えると共に、農民の収入を確保して米の生産量を維持するために、「保証価格」によって米を買取るだけでなく、緊急事態に備えて一定量の米を備蓄しているのである。

楊副科長の話によると、現在、台湾の月平均米消費量は約十万トン(玄米ベース換算)で、政府は最低三カ月分の「安全在庫」、即ち三十万トンを備蓄しなければならない。現在の台湾における米の生産は供給過剰で、備蓄量が安全在庫量の基準を上回っているため、慈済など慈善団体が政府に公的食糧の海外支援を申請し、申請者が輸出入作業と輸送費を負担して海上輸送で各国に運び、飢餓や貧困に苦しむ人たちを助けることができる。それは台湾と海外の間に友好関係を築くだけでなく、備蓄米の利用効率を最大限に発揮することにもつながる。

食糧安全備蓄は量以外に、食糧自給率を確保し、台湾の農業生産パワーを維持することで、災害や疫病などの予測不可能な状況に直面した時、より高い回復力を示すことができるのである。

「例えば、アフリカの一部の国は、コーヒーやココアの産地ですが、常に食糧が不足しています」と、慈済大学サステナビリティと防災学科の邱奕儒(チュウ・イールー)主任が言った。農業の発展は自給自足を第一の目標とすべきだが、多くの開発途上国が食糧危機に陥っているのは、まさに農業生産が自給自足のためではなく、輸出して外貨を獲得する手段となったことが原因である。

「彼らの論理は、現金を稼げる商品作物を輸出し、稼いだお金で、国際市場で食糧を買う、というものです。しかし、国際食料価格は常に変動し、商品作物の価格も安定していません。もし、商品作物の価格が下落すれば、収入が減り、充分な食糧が買えなくなるのです」。

邱主任の説明によれば、自由貿易においては、少数の主要穀物生産国が、低価格の農産物を世界中で販売し、世界中の小規模農家の生存空間を圧迫しているため、多くの国では農家が廃業し、田畑は休耕状態になり、食糧の自給率が下がって、食糧危機のリスクが高まっているのである。更に、広大な土地を開墾して、単一の作物を植えるために、大量の農薬や化学肥料を使用するため、土地は徐々に痩せ、農業生産は回復力を失ってしまう。

今の世界的な「食糧の商品化、生産の集中化」から派生した危機に対して、人々は「食べること」で食糧自給率を維持することができるのだ。つまり、地元でとれた米や野菜などの農産物をより多く食べることである。

国立台湾大学農業経済学部の雷立芬(レイ・リーフェン)教授は、友好国のパラオを例に挙げて、食糧自給率の重要性を説明した。パラオの主食は、元々タロ芋だったが、日本とアメリカの統治時代に米が入ってきて、人々は米を食べるようになった。しかし、パラオでは米は生産していないので、アメリカのカリフォルニアから輸入されている。コロナ禍の間、海上運送が影響を受けて、米が輸入できなくなり、食糧不足に陥りそうになったが、幸いなことに、台湾が適時に支援米を提供し、この小さな島の二万人の住民は、食糧危機を避けることができた。

「食べ物がないことの大変さは、経験したことがなければ想像もつかないでしょう」と雷教授は指摘した。「農業生産を維持することは、即ち私たちの生態系を守ることなのです。天候不順で、世界中で食糧不足になった場合、台湾はどこで食糧を買えばいいのでしょうか。ですから、食糧自給率を維持するのは、非常に重要なことで、自分たち自身の農業を持つことです。米を食べる気があるなら、少なくとも台湾ではご飯が食べられるのです」。

(慈済月刊六九三期より)

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