慈済大学と慈済科技大学の統合—一という力

(撮影・顔霖沼)

三十五年前、社会のニーズに応えて慈済看護専門学校を創設し、更に医療人材育成のために慈済医学院㊟を設立し、そこから徐々に慈済科技大学と慈済大学へと発展を遂げた。

今、時代の進展に対応するため、二つが一つになることで、教育の力が一層結集した。より多くの世界に役立つ、ボランティア精神を備えた人材の育成に尽くしていく。

㊟学院は慈済大学の表記を尊重した。日本の大学における学部と一致するとは限らない。

慈済大学劉怡均学長独占インタビュー
教師と学生を誇りに思う大学にする

インタビューの編集/周傳斌
撮影/蕭耀華
訳/御山凛、江愛寶

劉怡均(リュウ・イージュン)

  • アメリカ南カリフォルニア大学神経科学研究所博士、アメリカインディアナ大学微生物学修士、国立台湾大学植物病理学部学士(現在は国立台湾大学植物病理と微生物学部)
  • 1993年慈済医学院設立準備チームに参加、2014年に教務主任、2017年に副学長、2019年に学長、2024年慈済大学と慈済科技大学統合後の初代学長に就任。

慈済大学と慈済科技大学の統合により、高等教育と職業技能教育を融合したアドバンテージが得られた。これは慈済教育史上重大なマイルストーンであり、「慈済大学」の名称を引き継ぐことで、慈済唯一の高等教育学府となった。

一九九三年という早い時期に慈済医学院開設準備チームに参加し、教務長、副学長、学長を歴任してきた劉怡均(リュウ・イージュン)教授は、統合後の初代学長に就任した。両校統合の最終段階では、さまざまな部門と集中的なミーティングを行い、役員らと統合後の法律に則った学則や組織、人事等の細かい事務について話し合い、さらに研究と入学試験要綱にも目を通す必要があった。七月のインタビュー当日、劉教授はちょうど慈誠懿徳会メンバーとの座談会を終えたばかりだった。

「慈済科技大学の懿徳会メンバーは私のことを知っていますが、これまで一緒に活動する機会はありませんでした。今日は統合にあたり、皆さんと向き合って課題について話し合いました。彼らも私に、慈済科技大学と慈済大学の違いを話してくれたので、まるで教師と学生のやりとりのようでした。両校の発展プロセスは異なりますので、統合後は過渡期を迎えることになるでしょう」。

看護学部を主とした職業技能系の慈済科技大学と、高等教育系の慈済大学は、コミュニケーションを通して、チーム全体が協力し合う体制を整えた。統合後の学生総数は六千名を超え、より多くの学院を抱えることになるため、如何にして初心を忘れず、より競争力を有した慈済大学にするかが課題である。彼女の目に映る慈済大学のビジョンは、どのような輝きを放つのだろうか。

質問:慈済大学と慈済科技大学の統合までの歩みはどのようなものだったのでしょうか。如何にして1+1=2以上の効果を達成できるのでしょうか?

回答:実際のところ、両校の統合は、二〇〇〇年から話し合われていました。一九八六年花蓮慈済病院が開業した当初は、医療従事者の募集が難航していました。そこで上人は地元の花蓮地区で医療人材を育成することを決心し、それと同時に原住民籍を持つ学生に就学と就職の道を提供するために、当時の状況に対応した形で看護専門学校を創設しました。しかし医師の人力は依然として不足していました。以前、職業技能教育と高等教育は全く別で、医師を養成するには医学院(医学部)の設立を申請しなければなりませんでした。しかし、上人の心には、慈済の高等教育は元々、一つであるという考えがありました。

大きな環境の変化を経て、看護専門学校は技術学院に改制され、更に科技大学に昇格し、医学院も数段階の転換期を経ました。そういう時期に既に統合を希望していましたが、当時は規制があって、統合することはできませんでした。近年徐々に法令が改正され、今まさに統合の契機を迎えたのです。

社会の変化は速く、学校の発展は時代に沿う必要があり、そうでなければ未来の人材を育成できません。慈済志業はグローバルに広がり、慈済教育が四大志業の一つであることから、私たちも慈済のため、社会のため、世界のために人材を育成する必要があり、人工知能(AI)を用いて、持続可能という概念とリンクさせることにしたのです。

慈済大学(略、慈大)発展のポイントは、元々あった優秀な基礎医学と看護をよりしっかり定着させ、人文素養のある専門人材を育成する点にあります。私たちは両校の看護学院を建国キャンパスに集約し、人文伝播と社会科学学院、智慧永続管理学院を介仁キャンパスに、医学院を中央キャンパスに統合しました。類似分野の学科は同じ学院に統合し、さらにAIを用いてカリキュラムをリンクすることで、異なる領域における一般教育がより重要になるのです。

AIは道具であり、どのように使ったら良いのかを知る必要があるため、私たちはこれを基幹科目にすることにしました。時間割をリニューアルし、各学院の学生全員がAI応用カリキュラムを学べるようにしました。学校のいくつかの学科はAIをつくる能力があります。例えば生物医学と工学科、医学情報科には、電子工学とプログラミング等が含まれており、教師は彼らにどのようにAIを使うかを教えることができます。しかし、技術以外に、私たちは倫理をより重視しており、カリキュラム内でAI世界の道徳倫理及び法的資質を強化するつもりです。

総務長は統合後の環境の制定に尽力し、シャトルバスとTCUBikeで三つキャンパスをつなげることにしました。また、各学院の学院長はカリキュラムの制定に尽力しています。大環境の下、各方面で少子化問題に直面し、両校統合で五つの学院の教師の質と量を高め、カリキュラムは時代と共に歩むことで、学校をより魅力ある場所にしてまいります。

慈済技術学院原住民専科を卒業した察芳瑜(ツァイ・フォンユー)さんは、現在、花蓮慈済病院肝胆胃腸科病棟の看護師長を務めている(写真2撮影・蕭耀華)。慈済の学校は、数多くの花蓮及び台東地域の学生を医療人材に育成してきており、彼らは東部に住んで住民に奉仕している(写真1提供・慈済花蓮本部)。

質問:統合後、慈済科技大学時代の職業技能教育への取り組みは残りますか?

回答:両校統合後、慈済大学は五専、二技、四技、大学部、修士及び博士課程を有する、非常に整った高等教育体制となります。職業技能教育への取り組みはそのままで、宜花東(宜蘭、花蓮、台東)地域の学生が高等教育を受けられる道を確保しています。私たちも宜花東地域の中学及び職業高等学校の校長先生たちに宣伝し続けますので、近い将来慈済の職業技能教育は、より良い方向へ発展するでしょう。

ドイツの職業技能教育は世界に名を馳せており、私たちはドイツ・カールスルーエ応用科学大学等と提携し、学生が工学、電気自動車、コールドチェーン技術等を実践しながら学べるようにしています。興味がある人はより深く理論を勉強することもできます。

慈済大学は五つの学院に加えて書院がある他、「天空学院(TCU Sky)」を設立し、オンライン教育のプラットフォームを通じて、医学健康講座、社会心理講座、情報工学講座等のカリキュラムを提供しています。これもSDGs4「質の高い教育をみんなに」の核心精神であり、「誰でも教育を受けられ、公平な質の高い教育を保障し、生涯学習を提唱する」ことに対応しています。

個別募集を行っていた慈済科技大学原住民專科には、30年近く奨学金制度があり、統合後は毎年原住民籍の学生75名に学費免除を継続する。(写真提供・慈済大学)

慈済大学は台湾で初めて模擬医学センターを立ち上げたことで、医学生は基礎的な解剖学と高度な手術が学べるようになった。また、医学界に模擬手術講座を開放し、献体者への尊重と感謝の気持ちを育んだ。

質問:慈済大学の五つの学院の内、医学院と看護学院は、慈済の志業体において先天的に有利であり、学生に実習による完璧な医療体制を提供していますが、他の三つの学院にはどのような個別の優位性があるのでしょうか?

回答:生物医学科学技術学院には、遺伝子の研究や医学工学のような、多くの新しい技術と科学の研究が行われています。如何にして医療補助器具を進歩させられるかを研究開発しています。医学とバイオテクノロジーの分野を結合した研究開発は、医療と看護の領域における発展をサポートすることができます。

智慧永続管理学院には医療事務と健康管理科、情報技術と管理学科等があります。今日の大きな環境における管理もAIを使う傾向にあり、統合は新しいことを教えるとても良いきっかけとなっています。

人文伝播と社会科学学院では、学生が将来の職業ニーズに沿って、カリキュラムを選択でき、様々な異なる組み合わせにすることができます。例えば、心理学と管理学を履修していれば、各方面の組織の中で必要で資の高い人材になれるでしょう。もしコミュニケーション学に加えて文学コースを履修している場合は、企画編集人材もしくは文章を書く記者に最適なのです。社会福祉学科の学生が心理学分野のコースを取れば、将来、非営利組織で働く時に役立ちます。従って、人文コミュニケーションと社会科学科及び経営管理学科等を介仁キャンパスに集め、学生が異なる分野を履修できるようにしています。

学習の場はキャンパスに限らず、学生も「海を越えた人道医療」等海外のボランティア施療チームで奉仕を学んだ。(撮影・呂佩玲)

質問:統合後初代の学長として、慈済大学にどのような展望を描いていますか?

回答:私はまず、慈済大学の将来が世界に向けたボランティア大学となることを望んでいます。ここで学んだ学生がボランティア奉仕精神を備え、卒業後に自発的にボランティア精神を持って世界へ出かけて奉仕するようになってほしいのです。

次に、私たちは、世界中のボランティアが学びに訪れることを歓迎する、開かれた大学でありたいと思っています。

最後に、国内外の向学心溢れる若者に知られる存在になりたいです。学びたいのであれば、慈済大学で学んで欲しいのです。家庭環境など何か不足があるから入れないのではないかと心配する必要はありません。つまり、世界のため、社会のために思いやりのある人材を育成する大学になるということです。

今年8月1日大学統合の前夜、慈済大学の校訓から名付けられた慈悲喜捨ホールで、劉怡均学長と学院長らが互いに励まし合った。(写真提供・慈済大学)

質問:持続可能な開発は慈済大学が重視する所ですが、統合プロジェクト、各学院の専門性、教育ビジョン、学校のガバナンス又はジェンダー問題など、慈済大学は国連のSDGsにどのように繋がっていますか?

回答:実際SDGsの中核となる価値観は、普遍的価値なのです。十七の持続可能な開発目標は、国連が人々にその価値に対する理解を深めてもらうために定めたものです。

SDGs第一のターゲットは「貧困をなくそう」ですが、上人は五十年前という早い時期から貧困による病、病による貧困の悪循環を目の当たりにし、貧困がもたらす苦しみや困難をなくすため、慈善志業を始め、病院を建設しました。慈済大学で優れた教育を受ければ人生を逆転させることができます。これも貧困をなくすことに繋がります。また、官庁と民間企業の協力を仰ぎ、同時に世界中の慈済人とも協力することは、まさにSDGs17「パートナシップで目標を達成しよう」に繋がっています。

慈済の教育は、高等教育、中等教育、初等教育、幼児教育を問わず、すべて仏教の教義に基づいた、上人のお考えから創立されました。菜食で生きとし生けるものを護ること、地球環境に配慮すること、人と調和を取ること、これらは慈済が尽力して来た面であり、すべてのSDGsに繋がっています。これからも国連の持続可能な開発目標と共に学問に励み、人類の未来、地球の持続可能性のために尽力してまいります。

(慈済月刊六九四期より)

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