公益の実践、立ち上がる青年起業家

2024年12月に第7回「青年公益実践プロジェクト」の成果発表会が行われ、プロジェクト発足に尽力した慈済基金会理事の馮燕教授(左2)が各チームと交流し、青年起業家たちに創意を発揮してほしいと励ました。(撮影・呉孟恩)

この七年余りの間、慈済は七十組以上の青年起業家を奨励してきた。NPOやソーシャルビジネスの形態で公益活動を推進し、世界により多くの福祉と希望をもたらしている彼らが、それだけでなく、「自利利他」(自分の利益と他者の利益を兼ね備える)という非凡な人生を築いていけるように、後押ししている。

【慈済の活動XSDGs】シリーズ

年、環境汚染や気候変動、社会構造の変化などに大きな影響を受け、志を持つ若者たちは、現代のテクノロジーや持続可能な考え方を活かして問題を解決できないかと模索し始めている。特に二○一六年に国連が17項目の「持続可能な開発目標(SDGs)」を発表すると、青年起業家は目指すべき方向性と目標を更に明確にしていった。

青年によるイノベーションと起業の重要性を認識した慈済は、二○一七年に「青年公益実践プロジェクト」というコンペを開催した。革新的かつ先進的な企業を選抜し、助成金を提供することにより、若手起業家による社会企業やNPOに対し、業績を上げて、社会において更に大きな影響力を発揮できるよう支援するものである。

これは、慈済の二大プロジェクトのうちの一つである「FUN大きな視野で未来に向けて・青年公益実践プロジェクト」にあたり、もう一つの重要なプロジェクトは、「慈悲のテクノロジー・イノベーションコンペ」である。高校から大学院までの教員や学生が、独特なアイディアを活かして慈善と医療の分野で「革新的なツール」を開発することを奨励するものだ。

前述のプロジェクトを発足させた慈済基金会の理事であり、国立台湾大学社会福祉学部名誉教授でもある馮燕(フォン・イェン)氏は、その経緯を次のように語った。二○一六年に公職を退いて慈済に参加すると、彼女は證厳法師に、慈済の持っているリソースを、より多くのアイデアと創造力を持った若者に提供できないかと提案した。「彼らは、既存の枠に当てはまらない若者たちですが、新たな枠組みを創り出す力を持っています。このような若者たちは一体何を求めているのでしょうか。それは『チャンス』です」。

「ソーシャルビジネスとは、簡単に言えば革新的なビジネス手法で社会問題を解決することです。また、若者にとって利他の実践であると共に、何らかの社会問題を解決、予防するために生まれたビジネスモデルでもあるのです。従って、収益が得られ、生計を立てることができるビジネスであっても、実践するのは善の行いなのです」。

「青年公益実践プロジェクト」は、慈済基金会が外部組織と連携して行っている大規模かつ革新的なプロジェクトである。二〇一七年の初回から第七回目まで、七十七社の公益実践に取り組む企業に実質的な資金援助をしてきた。慈済基金会の顏博文(イェン・ボーウェン)執行長が把握しているところでは、毎年約二百以上の企業が応募し、十社ほどの助成枠を競い合っているそうだ。

また、他の多くのコンペティションとは異なり、助成金を受け取れば終了ではなく、ステージで受賞した瞬間からがスタートなのだという。慈済基金会のスタッフで窓口を担当する田智賢(ティエン・ヅーシエ)ン氏は、一歩踏み込んだ説明をした。「慈済が担っている役割は、いわば『公益インキュベーター』のようなもので、この企画は主に、公益活動に取り組みたい、或いは社会的な影響力を生み出したい若者たちに寄り添って、共に長い道のりを歩んでいくものです」。

起業は難しくない
経営が難しい

二〇二四年の第八回で選出された十一社を例にとると、十二月上旬のオーディションを経て選ばれ、二〇二五年一月から一年間の育成プログラムに参加し、六月には中間発表を、十二月には最終成果発表を行う予定である。

「選ばれた企業は、およそ月に一回のワークショップに参加します。ビジネスモデル、ブランドマーケティング、プロジェクト管理などがあり、講師は一日に六時間から八時間をかけて企業を指導し、完成させます。また、このような育成講座の他に、関連分野の専門家によって八回から十回の個別指導も行われています」と田氏が補足した。

講座の初回は、旧正月休みの一週間前に開催された。土曜日の午前中だったが、参加者たちは台北市重慶南路にある「NPOハブ台北」で顔合わせをした。その後、分担して、「逆風劇団」、「Story Wear サステナブル百貨店」、「小紅厝・月経博物館」という三つの企業を訪問した。いずれも過去に本プログラムの支援を受けた卒業生である。

「最近、詐欺が深刻な問題になっていますが、昨年十二月、かつて詐欺グループの『出し子』だった若い子がその時の経験を活かし、詐欺被害に遭った高齢者と協力して詐欺防止の劇を演じました」。逆風劇団の代表である成瑋盛(ツン・ウェイスン)氏はパートナーたちと共に、演劇を通じて若者に寄り添い、不登校などの問題を抱える若者を正しい道に戻す可能性について、分かりやすく説明した。

また、青少年の無免許運転を防ぐために、逆風劇団は「運転免許の取得」や「社会貢献」をクールなイメージにしようと取り組みを工夫した。そして、「逆風連隊」というバイクチームを結成し、免許を取得しなければ正式メンバーになれないルールを設けた。彼らは、出かける際に清掃道具を携えて海岸の清掃を行ったり、調理器具を携えて交通が不便な地域のお年寄りに食事を振る舞ったりしている。「若者が自分の好きな方法で社会貢献に取り組んでいるのです」。

企業の参加者たちは、先輩たちの経験談を聞く中で、経営管理の基礎も学んでいる。日曜日、新店静思堂で行われた講座では、コンサルティング会社のチーフコンサルタントである陳秀涵(チェン・シュウハン)氏が、参加者たちに「自分の起業ビジョンと使命はどこにあるのか」を改めて考え直すよう導いた。

「ソーシャルビジネスとNPOの最大の共通点は、社会に影響力を与えていることです。運用しているリソースが異なるだけで、一方は『売上』、もう一方は『支援金』と称しています。しかし、両者とも資金の流れや企業の運営能力、直面する『痛みを伴う問題』やニーズは根本的に一緒です」と、陳氏が説明した。

各企業と指導者及び顔博文執行長(前列左4)が成果発表会に参加し、社会に影響力を発揮していこうと互いに励まし合った。(撮影・呉孟恩)

経済と環境の両立
持続可能な未来へ

「青年公益実践プロジェクト」が寄り添う企業のうちこれまでに七十七社が、一年間の育成カリキュラムを修了している。そのうち約六割が社会企業の形態で運営しており、その分野は、環境保護、循環型経済、革新的な慈善活動、地域コミュニティ作りなど多岐にわたる。これらは全て、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の十七項目に呼応しており、三大テーマである環境・社会・経済と結びついている。

この七年余り、国際的ソーシャルイノベーションのネットワークに属する「インパクトハブ台北」は、慈済と協力して一年間にわたり選出された企業に寄り添い、その成長を応援してきた。若者の活力と斬新なアイデアを取り入れ、公益インキュベーションの育成プラットフォームを構築する過程では、多くの心躍る場面と摩擦があった。

「八年ほど前に『我的老天鵝啊!(なんてこった!)』が流行っていたので、それをキャッチフレーズにしたのですが、慈済に提出したら何度も差し戻されました(笑)。」インパクトハブ台北の共同創設者である張士庭(ヅァン・スーティン)氏が、創立初期に慈済とすり合わせをした時のエピソードをシェアすると、会場でどっと笑いが起こった。しかし、「総合メンター」を務める彼は、貴重な支援なのだから有り難く思うように、と厳しい口調で注意を促した。

「皆さんは、慈済の資金源は大企業の寄付から来ていると思っているかもしれませんが、データを見ると分かるように、90%以上の寄付が千元以下の個人寄付なのです。皆さんが受け取った助成金は、数えきれない人たちによる善意の寄付が積み重なったものなのです」。

プロジェクトの初心に立ち返り、馮燕氏は次のように語った。

「支援の対象は青年層であり、目標は公益です。肝心なことは、若者の夢を叶えるのではなく、実践することです」。また、慈済基金会の顏執行長は、青年たちにこう呼びかける。「一人なら速く進めるかもしれませんが、私たちと一緒なら、ずっと遠くまで歩んでいけます。社会革新の道は決して楽ではありませんが、私たちは皆さんに寄り添って、一歩一歩進められるよう、全力で支えます」。

(慈済月刊七〇〇期より)

FUN大きな視野で未来へ向けて

青年公益実践プロジェクト

台湾初の公益インキュベーター

(第9回の募集要項は9月に発表予定)

●主催者|慈済慈善事業基金会公益

●インキュベーター|インパクトハブ台北

●助成企業数|台湾の企業8〜10社、アジア太平洋地域の企業1〜3社、卒業生企業1〜2社を毎年選抜。

●助成内容|公益活動助成金及びインキュベーション育成カリキュラム、専属指導者を提供

●公益テーマのカテゴリー

【台湾の企業】
新しい慈善、医療ケア、新しい教育、環境保護、世代間共創、循環型経済、フードバンク、災害防災の変革、地域創生とコミュニティづくり

【アジア太平洋地域の企業】
医療ケア、新しい教育、環境保護

1年間の支援プログラムを修了した企業数:計77社

FUN大きな視野で未来へ向けて

青年公益実践プロジェクト

台湾初の公益インキュベーター(第9回の募集要項は9月に発表予定)

●主催者|慈済慈善事業基金会公益

●インキュベーター|インパクトハブ台北

●助成企業数|台湾の企業8〜10社、アジア太平洋地域の企業1〜3社、卒業生企業1〜2社を毎年選抜。

●助成内容|公益活動助成金及びインキュベーション育成カリキュラム、専属指導者を提供

●公益テーマのカテゴリー

【台湾の企業】
新しい慈善、医療ケア、新しい教育、環境保護、世代間共創、循環型経済、フードバンク、災害防災の変革、地域創生とコミュニティづくり

【アジア太平洋地域の企業】
医療ケア、新しい教育、環境保護

1年間の支援プログラムを修了した企業数:計77社

    キーワード :