シニア向け 読み聞かせ講座からステージに立つ

慣れない状態から上手に物語を語れるようになったシニアの語り手は、さまざまな場所で絵本を通してあらゆる年齢層の人々と交流している。

第一回受賞団体
ロックじいさんばあさん

  • シニア向けに読み聞かせの語り手を養成する講座を開設する社会企業が2017年に設立された。

  • 台湾全土で600人以上のシニア世代が参加。その読み聞かせ活動は1200回を超えた。

二〇一六年のニュースの中に、台湾全土の自殺者のうち六十五歳以上が二十五・九%を占めていた、という報道があった。それを見た林宗憲(リン・ヅォンシェン)さんは、高齢者の精神的健康の問題が深刻になっていることに気づき、長年専念して来た絵本の読書や読み聞かせトレーニングはその対策にぴったりなので、役立つだろうと思った。そこで二〇一七年、「ロックじいさんばあさん」チームを立ち上げ、五十歳以上のシニア世代を対象に、絵本の読み聞かせをしたり、ステージで朗読をしたりする人を養成する講座を開いた。シニア世代に今までとは違う人生を始めてもらおうというものだ。

読み聞かせ係の鍾(ヅォン)さんは、「ロックじいさんばあさん」チームが設立された時、養成講座の参加者が読み聞かせに行くと、手当として三百元の「紅包(ホンパオ、台湾のポチ袋)」をもらっていたことを思い出した。それは講座参加費用を完全に補うことはできなかったが、お年寄りにとっては大きな励みになった。

「その紅包には意味があるのです。あなたはプロであり、いい加減に話していいわけではなく、出ればもらえるわけでもないことを、そして、専門技術を提供しているのですから、あなたの奉仕には価値があることを、参加者に知らしめたのです」と林さんが説明した。

林さんは、高齢者だからといって水準を下げるようなことはなく、参加者への要求は厳しい。また、他の公益団体のように、高齢者に無料で参加してもらうというやり方をせず、受講料をとっている。そして、語り手として自分を表現できる様々な場所とそのチャンスを探し続けている。去年までに、林さんはあらゆる奨励措置をなくした。毎月、全土で開いている「正念絵本クラス」は、それぞれで教える絵本が異なるが、それでもクラスに参加する人は後を絶たない。それは、多くの人がクラスで新しい技法を学び、友人もでき、心も晴れやかになるからだ。

今やインフルエンサー「階下のお婆ちゃん」と呼ばれるようになった参加者によると、以前は読み聞かせの時にただ本を読むことしかできなかったが、林さんのようなベテランに指導を受けてからは、スキルが大幅に上昇し、大人や高齢者に対しても語れるようになったそうだ。絵本を読んで、内容を理解することで、語るスキルが向上しただけでなく、心も癒されたと言う。

七十歳を超えた「階下のお婆ちゃん」は、「同級生には旦那さんが亡くなった人が何人もいますが、お互いに絵本の読み聞かせ講座に参加してから、少しずつ乗り越えてきました。私も自分の内面と対話したことで、ようやく母の死の悲しみから抜け出すことができました」と、慌てず落ち着いて語ってくれた。

「私は以前、幼稚園の先生をしていて、よく子供たちにお話をしていました。『ロックじいさんばあさん』チームに参加してからは、新たな人生の扉が開かれました。語り手になることがこんなにたくさんの意味を持ち、語り方や歌など、様々な方法で表現できるのだとわかりました」。

「ロックじいさんばあさん」チームによる七年以上の実験と実践で、林さんとパートナーたちが作り上げたビジネスモデルが成り立つことが証明された。シニア世代でも、真面目に受講すれば幼い子どもたちに物語を語って聞かせることができるようになるだけでなく、大学生や社会人に対しても絵本を広げて「語ること」ができるようになった。そして、人生経験を交えた表現や演技能力も社会に認められるようになり、昨年は、詐欺防止の知識を宣伝するために、金融保険業者がメンバーをコミュニティに招いたこともあった。

「不可能でもやればできる」という起業の経過を振り返ってみよう。林さんは、第一回「青年公益実践プロジェクト」というコンペに参加し、この事業をテーマとして助成金を獲得すると、百万元を数える賞金を使って会場を借りたり、物語を語ったメンバーたちに報酬を与えたりした。この助成金により、彼は起業した頃に紅包を出すことができるようになり、メンバーが受け取ることで歓迎されているかどうかを確認したので、市場調査にかかる時間と労力を大幅に節約することができた。林さんは、慈済の助成金がなければ、現在の成果を達成するにはさらに一年から二年かかっていただろうと率直に語った。

現在、「ロックじいさんばあさん」は台湾の各領域で地位を築き、既に六百人以上の中高年の語り手を養成し、文化祭やデパート、喫茶店、デイケア拠点、介護施設などで、読み聞かせをしている。その対象者は〇歳から九十九歳までさまざまで、高齢者に「年を取っても役に立つ」ことを感じてもらい、生き甲斐のある人生を確かなものにした。

「青年公益実践プロジェクトのお陰で、若い起業家は模索期間を短縮できるようになりました。慈済はこのプロジェクトを通じて若い起業家に資金を提供し、ESGとSDGsを進め、台湾の社会企業を支援しています。素晴らしい方法だと思います」と林さんは讃嘆した。

(慈済月刊七〇〇期より)

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