慈済福祉用具チームは、桃園市復興区に車椅子や歩行器など700点以上のエコ福祉用具を届けた。地域住民にとって、山道を行き来して運ぶ苦労が軽減された。(撮影・蕭耀華)
台湾は今年、超高齢社会に突入した。慈済は、高齢者が転倒や事故を起こすことなく、最も慣れ親しんだ環境で、安心して暮らせるよう、住環境の改善や福祉用具の提供を行っている。これらは地域を問わず提供されており、都市と地方の格差縮小にも寄与している。なかでも、エコ福祉用具の循環利用は資源の浪費を抑える上で大きな役割を果たしている。
こうした取り組みは、予防的な慈善ケア活動であり、国連の持続可能な開発目標における目標三、目標十、目標十二の具体的な実践でもある。
【慈済の活動XSDGs】シリーズ
八万世帯に届いた福祉用具
慈済エコ福祉用具プラットフォーム
各業界から提供されたり、リサイクルされたりした福祉用具を洗浄・消毒・整備した上で、必要とする家庭に提供。
台湾全土の各県・市に一つのプラットフォームがあり、計134のエコ福祉用具拠点を設置し、地域の枠を超えた利用が可能。
二○一七年三月の設立以来、八年間で延べ134,363点の福祉用具を89,057世帯に提供。
「
母の日のお祝いとして介護補助を申請し、今すぐ歩行車を持ち帰ろう」―台北市南港展覧館で開催された福祉用具・長期介護展では、各社が自慢の製品や技術を余すことなく展示していた。
精巧で多様な福祉用具に加え、様々な補助金制度を積極的に紹介する衛生・社会福祉機関のブースもあり、時代とともに発展する台湾の福祉用具・介護産業の一端がうかがえた。多くの企業が「福祉用具のレンタルと購買補助」に対応する特約メーカーとなっており、介護資格に適合する人は、政府が発行する補助金決定通知書を提出し、補助額との差額を支払いさえすれば、車椅子や歩行補助車などの介護用品をその場で持ち帰ることができる。
都心や地方都市の「中心部」に住む住民は、このような福祉用具のリソースの利便性を享受できる。しかし、山間部や離島などの遠隔地は、未だにその恩恵が届きにくい。しかも、福祉用具を最も必要としている高齢者や障がい者は、往々にして移動が困難で、情報へのアクセスも限られた恵まれない立場の人でもある。その上、曲がりくねった山道や揺れの激しい道に隔てられたこれらの地域では、都市部の住民に比べて、緊急に必要なリソースを手に入れることは困難であった。
桃園市復興区での福祉用具の配付。澎湖諸島から来たボランティアの許文虎さん(右)は、台湾本島のボランティアや地元の介護士(左)とともに、地域の利用者をサポートしていた。
福祉用具七百点を一挙に山村へ
福祉用具・長期介護展が活況を呈する中、慈済のボランティアたちは、車椅子、トイレチェア、歩行器などの軽量福祉用具、さらには重さ百キロもの電動ベッドを車に積み込み、慈済三峡志業パークを出発して、桃園市で最も山奥にある村へと向かった。
「この復興区羅浮(ラハウ)里にある合流という集落では、十年前、土石流で十四戸が埋まりましてね。前夜に全員が避難していたのは、不幸中の幸いでした。合流集落の永久住宅は、後に慈済の支援で建設されたものです」と、二○一五年台風13号(ソウデロア)後に、慈済が被災者のために永久住宅を建設した功績を振り返ったのは、復興区の蘇佐璽(スゥ・ズオシー)区長である。今回、ボランティアたちは、地域の高齢者や移動が不便な人のニーズに応えるため、各種福祉用具七百点以上を届けた。「皆さんは、政府と協力して高齢者を支える、とても重要な存在です」と、蘇さんは称賛した。
「原住民集落のお年寄りは、若いころからずっと働き詰めなのですが、年をとって腰や背中が痛むようになっても、我慢強い彼らは、限界になるまで医者にかかりません」と語るのは、今回の連絡業務を担当した北部地区慈済ボランティアの謝国栄(シエ・グオロン)さんだ。謝さんによると、慈済では、以前、阿里山郷などの山間地域で役場と連携して実施した全戸ニーズ調査と福祉用具配付の経験を踏まえ、高齢者に対し、杖などの生活補助具を日常的に活用して、自分の体を守るよう呼びかけているという。
急峻な山々の間に点在する集落は、医療資源が届きにくい。復興区の「後山」と呼ばれる東部地域のような山奥の集落からは、山を下りて市内に行くだけでも、車で二時間以上かかる。ましてや、トラックを借りて、車椅子やベッドなど中・大型の福祉用具を家まで運ぶとなれば、容易なことではない。だからこそ、慈済が自分から各集落に福祉用具を届けにやって来たとき、多くの人が満面の笑みを浮かべたのである。
加拉(クァラ)集落の文化健康センター(原住民地区における地域密着型の介護・福祉拠点)では、アユン・ユミン牧師が説明してくれた。ここでは腰痛ベルトや膝用サポーターの需要が多いという。なぜなら、寝たきりの人はすでに長期介護制度のもとで在宅介護を受けており、センターにやって来ることができるのは、まだ動ける人だからである。
八十歳を過ぎた林(リン)さんは、障がいのある娘の車椅子を押しながらやって来た。その車椅子を見て、ブレーキが緩んでいることに気づいた慈済ボランティアの許文虎(シュウ・ウェンフー)さんは、すぐに適当な工具を探して修理した。他のボランティアは林さんに腰痛ベルトの着用法を教え、彼の昔語りに耳を傾けた。
爺亨(イェヘン)集落に住む介護士の高麗枝(ガオ・リーヅー)さんは、父方の伯母のために電動ベッドとマットレスを申請した。こうした重量のある福祉用具を申請者が自力で持ち帰るのは難しい。ボランティアたちはトラックで玄関先まで運び、ベッドを押して中まで搬入した。市内の古いアパートの狭い階段を上るのに比べれば、今回の搬入作業は楽な方だった。
「伯母は高血圧と喘息があります。寒い日によく喘息が出ます。それ以外には、これといった病気はありません」と高さんは言う。彼女の伯母は九十一歳という高齢で、歩行車を押せば歩けるが、付き添いが欠かせない。体調がすぐれない日には電動ベッドを使うことで、介護する家族の負担が軽くなると高さんは話した。
もう一人、高さんという男性は農作業用の車で福祉用具を取りに来た。今まさに働き盛りの彼には、八十一歳の母親がいる。膝の関節が弱り、痛風も抱えているという。「部屋からトイレまで遠くてね……。それで、トイレチェアを申請することにしました。ベッド脇に置いておき、母が使い終わったら、私たちが処理するようにすれば、ずっと楽になります」。
腰を守って、支える腰痛ベルト。その効果を十分発揮できるよう、慈済ボランティアがお年寄りに正しい着用法を指導していた。
心身を尽くして資源をつなぐボランティア
台湾は今年、超高齢社会に突入した。つまり、人口の五人に一人が六十五歳以上の高齢者である。お年寄りや障がいのある人々のニーズに応えるため、現行の長期介護二・〇政策では、「福祉用具・住宅バリアフリー改修サービス」を提供している。満六十五歳以上の高齢者、五十五歳以上の原住民、五十歳以上の認知症患者、要介護状態の障がい者であれば、自宅のバリアフリーリフォームや福祉用具のレンタルと購入費用として、三年以内に最高四万元の補助金を申請できる。
政府の補助により、福祉用具を必要とする人々の経済的負担は軽減された。しかし一方で、不要となって放置されたり、捨てられたりした福祉用具が環境に少なからず影響を与えている。
「私はずいぶん前からトラックを運転しています。最初は、環境保護の一環として回収した物を運んでいたのですが、福祉用具が回収されることもありましてね。それを、必要な人に届けて、役立ててもらうことにしました。最初は関山地域だけだったのですが、その後、花東縦谷全体に広がっていきました」と、台東に住む慈済ボランティアで、八十歳になる陳卓瓊華(チェンヅォ・チュンホワ)さんは語る。車を運転して福祉用具を運ぶだけでなく、洗浄や消毒作業もこなすという陳卓さんは、「私は『運転手兼荷物運び係』」と笑った。
環境保全ボランティアが回収した福祉用具の多くは、まだ十分に使用できるもので、社会的にも膨大なニーズがあると感じた慈済は、二〇一七年三月、花蓮で「エコ福祉用具プラットフォーム」を設立し、台湾全土の各県・市に展開していった。ボランティアたちは、福祉用具をきちんと清掃・消毒・整備した上で、必要とする人々に無償で提供している。慈済の介護施設からも、在宅介護の利用者への支援を依頼されることがよくある。
「私たちは台中慈済病院や犯罪被害者保護協会と連携し、或るケースを支援しています。その人は交通事故で頸椎を損傷し、半身不随となった人ですが、チームが訪問した際に新しい電動ベッドが必要だと分かり、翌日の土曜日に福祉用具プラットフォームに連絡すると、日曜日にはもうベッドが届きました」。
100キロを超える電動ベッドの運搬は、山間部でも市街地でも数人がかりだ。
車椅子を押して離島の蘭嶼に上陸
二〇一七年から今年四月末までに、十三万四千点余りのエコ福祉用具が八万九千以上の家庭に届けられた。その範囲は台湾本島の各地域のみならず、金門、馬祖、澎湖の各県と蘭嶼、緑島、小琉球などの離島にも広がっている。
今年四月、福祉用具チームは蘭嶼を再度訪問した。福祉用具を車に積み込み、慈済三峡志業パークを出発したボランティアたちは、宜蘭、花東縦谷を経て、一路、台東へ向かった。台湾を半周以上旅した後、明くる日の早朝に船で二時間ほどかけて、ようやく現地に到着した。
「ここ蘭嶼には、改善すべき点が山ほどあります。一番必要なのは、杖と車椅子です。慈済が来てくれて、本当に感謝しています。これで蘭嶼も少しずつ元気になれそうです」と話すのは、地元蘭嶼に住む八十三歳の見習いボランティア・陳茂男(チェン・マオナン)さんだ。陳さんは島の慈済会員たちと共に会場設営やデータの照合、誘導など、地元住民が福祉用具を受け取る手伝いをした。漁人社区発展協会の羅大偉(ロー・ダーウェイ)理事長は、配付を手伝うかたわら、年配の「牧師夫人」李さんのために四点杖を申請し、自ら家まで届けた。
「お年寄りは七十、八十になると、子や孫がいたとしても、迷惑はかけたくないと思っているのです。だから、できる限り自分の手を動かして、タロイモやサツマイモを植えたりしているのです」と、苗栗県の山間地域の出身で、数十年にわたり蘭嶼で暮らしてきた「蘭嶼のお婿さん」こと羅さんが言った。若者の多くは生活のため、蘭嶼を離れて台湾本島で働いている。そのため、島には高齢者が多い。一人暮らしや老夫婦だけの世帯の大半は自力で生活しており、周囲の支援が切実に必要になっている。
この島に暮らすタオ族の伝統では、亡くなった人の持ち物を使うと、亡霊に取り憑かれるという。慈済のエコ福祉用具も、当初、このタブーに直面した。ボランティアたちは現地の文化を尊重し、衛生所(地域保健センター)や社区発展協会と連携しながら、宣伝し続けてきた。それから三年、今では蘭嶼にある六つの集落全てが、少しずつエコ福祉用具を受け入れるようになっている。
福祉用具の配付に二度参加した東清社区発展協会の陳雯珊(チェン・ウェンサン)理事長は、慈済が提供したエコ福祉用具によって、地域の医療用具不足が緩和されたと話す。「島には医療機器や福祉用具を取り扱う店がなく、入手するには島外へ出る必要があるため、費用がかさみます。そのため、住民は利用を諦めてしまうのです。慈済が届けてくれた車椅子は、協会の事務所に何台か置いておき、誰かが急に怪我をしたり、家庭で必要になったりした時に貸し出せるようにしています」。
台東市富岡漁港の埠頭で、各種福祉用具を写真のような様々な方法で船に積み込み、海を渡って蘭嶼に届けるボランティアチーム。3日にわたる長旅だが、待っている人がいる以上、一刻も無駄にできなかった。
エコ福祉用具プラットフォームは、県や市の枠を超えて利用することができ、離島にも拠点が設けられている。金門の慈済ボランティアは、古民家で暮らすおばあさんにトイレチェアを届けると共に、生活の様子を気遣い、話を聞いた。
健康関連資源の格差を縮小
都心や地方都市において、福祉用具プラットフォームは通常、利用を希望する人から連絡を受けた後、在庫から用具を手配し、ボランティアに連絡して配送してもらうか、利用者に拠点まで取りに来てもらっている。一方、山間部や離島など、アクセスしにくく、人口も少ない過疎地域では、役場や地元のリーダーと協力し、まず全戸を対象にニーズ調査を行って名簿を作った上で、日時を決めて大規模配付を行い、住民のニーズに応えている。
この取り組みは、ニーズに合ったエコ福祉用具を届けることで、病気の苦しみを和らげると同時に、物の寿命を大切にし、ごみを減らして環境を守るという功徳につながっている。国連の持続可能な開発目標の十七の目標に照らして見ると、慈済エコ福祉用具プラットフォームは、目標三の「すべての人に健康と福祉を」が掲げる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(すべての人が基礎的な医療サービスを受けられること)」や、目標十の「不平等をなくそう」に応えており、健康格差や社会参加の機会の格差を縮める取り組みとなっている。また、目標十二の「持続可能な消費・生産形態の実現」にも寄与している。
一つひとつの活動により、支援を待つ僻地の高齢者や障がい者に、都心や地方都市に暮らす人々と同様の福祉を届けている。慈済人は、たとえどんなに遠く、到達しにくい場所であっても、支援を求める人たちを決して見逃すまいという一心で、困難に挑み続けている。
(慈済月刊七〇三期より)


