無償で設置された手すりにしっかりつかまり、足元の障害を取り除いて安心して歩けるようにする。一見些細なことのように見えるが、実は超高齢社会を迎えた台湾の介護における大きな課題なのである。
台南市の3分の2は交通が不便な場所だ。東山区高原里では、アリの大軍のような慈済ボランティアのお陰で、「高齢者と古い家」の双方が支えられている。
その日は天気が非常に悪く、台中市北屯区に到着すると、ザーザーと大雨が降っていた。大坑路を進み、新しく建てられた別荘型住宅が並ぶ地区を通り抜け、突然現れた細く曲がりくねった山道を上ると、雑木林の外れに一軒の農家が見えた。八十六歳の徐玉秀(シュ・ユゥシユウ)さんが、一番美しいブラウスを着て私たちを出迎えてくれた。彼女は一人で山の竹林を守っているが、タケノコを採り終えたばかりで、草刈りに忙しかった。
山あいにある東山里には、数軒の住民が長年簡素な生活をしながら暮らしている。想像しがたいことだが、二年前は、おばあさんがトイレに行くのに、家の外へ出て、ぬかるんで歩きにくい場所を越えなければならなかった。
古い家とそこに住む高齢者に潜む二重の危機
農業から発展してきた台湾は、二〇二五年、本格的な超高齢社会へ突入した。国民五人のうち一人が六十五歳以上の高齢者である。都市部を除けば、伝統的な農村部では、何枚かの田や畑を隔てて一軒の家や極めて簡素な農舎が点在している。古い家では、トイレの設計が最も軽視され、階段下の狭い空間に設置されていることが多く、各階に設置されているとは限らない。或いは徐さんの家のように、屋外に設置されている場合もある。夜間でもいつものように外へ出る彼女は、「慣れているから」と言う。すでに五十年間、その家に住み続けているのだった。その年、東山里の里長である邱財源(チュウ・ツァイユェン)さんが慈済ボランティアを案内して各家庭を訪問し、現地調査を行った。その結果、徐さんを含む一帯の五〜六世帯が、このような郊外の場所で生活をしていることが分かった。「もう長くは生きられないから、どうでもいい」と高齢者は言う。
内政部不動産情報プラットフォームの調査によれば、台湾全土の住宅の築平均年数は三十七年で、高齢者が古い住宅に住むという二重の危機が、益々深刻化している。緊急対策として、各家庭の状況に応じて柔軟に対応し、使用者の事情に合わせて「オーダーメイド」の修繕・補強を行うことで、一人一人のニーズを満たすようにしている。
徐さんの家は、窓や扉が壊れ、屋根は雨漏りして室内は暗く、蛇や小動物が隙間から出入りしていた。二○二○年、元々金物工場を経営していた蔡明模(ツァイ・ミンモ)さんは、父親の事業が二度も興衰したことで、若くして商売の厳しさを知り、若い頃から成功を志して中国本土へ渡った。周囲にゴルフを楽しむ年上の実業家が集まる中で、彼は気前が良く、豪快で闘志に満ちた存在だった。早くから慈済の慈善活動にも触れていたので、その後、病気の父親を看病するために台湾へ戻り、慈済ボランティアの寄り添いに感銘を受けて以来、国際災害支援活動に何度も参加し、最終的には台湾で地域の慈善活動を推進するようになった。今回、里長の案内で徐さんと出会い、彼女から「必要ない」と修繕を拒否されても諦めず、続けて四〜五回訪問した。お茶を飲みながら会話を重ねて信頼関係を築いた結果、彼女はようやく雨漏りの修理とトイレの改修に同意した。
しかし、トイレを屋内に移すには、まず浄化槽を設置する必要があった。工事の規模が小さいため、ボランティアは手で持てるドリルで地面を掘り、やっと次の室内改善工事へ進むことができた。
徐さんの家の屋根瓦の修繕は容易ではなかった。枝を切り落として苔の除去を終えた後、慎重に足場を組んで新しい瓦を設置することができた。(撮影・蕭耀華)
家から始める支援
安心して住める家・善きコミュニティ」(略して安美プロジェクト)は、慈済基金会が地域を訪問し、家庭内の小さな環境改善から始め、よりきめ細かく心身のケアへ繋げていくプロジェクトの一環である。小さな思いやりこそが、人々の心に深く響くのである。東山里は、このプロジェクトの模範地域の一つである。
外回りの工事が完了した後、屋内に入ると採光が悪いことがわかり、電気コードも老朽化していて安全面に不安があった。当初は二〜三項目の改善を予定していたが、最終的には十項目以上にまで増えた。これらの水道・電気工事は、技術的には難しくないが、やろうと思う人が必要である。慈済は台湾の民間団体の中で、地域ボランティアが最も多いNGOであり、地域密着型の活動に強みを持っている。
徐さんの家でのもう一つの修繕作業は、雨漏り対策だった。築五十年以上の屋根瓦は苔に覆われているため、まず高圧洗浄機で苔を除去し、室内の光を遮っていた木の枝を剪定し、その後、瓦の補修を行って、最後に屋内から雨漏りの修理をする。室内が暗すぎて電気スイッチの位置がわからないままでは、徐さんが床に置かれた雑物につまずいて転倒する危険があったため、ボランティアは物を片付けるだけでなく、いっそのこと壁を白く塗り直すことにした。これにより、工事の範囲がさらに広がった。
工事が完了すると、家は見違えるほど明るくなり、緊張していた徐さんの表情も和らぎ、笑顔がこぼれた。
変化には大きな勇気が必要である。徐さんの古い家は、過去六十年間、これほど多くの人が一度に訪れたことはなかった。安美プロジェクトの支援を受けるようになってからは、「子どもたち」が頻繁に彼女を訪ねるようになった。山の麓に住む魏淑美(ウェイ・スウーメイ)さんは、数週間ごとに様子を見に来ている。「お婆ちゃんは、まだ三輪車に乗って大坑のロータリー付近までタケノコを売りに行けるのです。日用品を買うとまた山を上っていくのです」。徐さんが力を込めてペダルを漕ぎ、疲れたら自転車を押して急な坂を上る姿が目に浮かんだ。「以前は道に苔がいっぱい生えていましたが、幸いに前回、全面的に清掃したことで、比較的滑らなくなりました」と蔡さんが言った。今回の訪問では、ボランティアが壊れた台所の木製扉の寸法を計り、新しいものに交換することにした。これで少なくとも、蛇が「隙を突いて侵入する」ことができなくなる。
新北市平渓区も超高齢化が急速に進み、六十五歳以上の人口が三割に達している。二〇二〇年、慈済ボランティアは、衛生福利部の「高齢者に優しい住宅政策」に呼応して安美プロジェクトを始動した。この地域は山に囲まれ、住民は広範囲に分散して暮らしているため、住所の確認が難しかった。当初は、地元で最も活発で人望があり、菁桐駅で長年清掃員として働いたり、伝統音楽「北管」の楽団に所属して媽祖(マーズー)の神輿の巡行に同行したりしていた詹明珠(ヅァン・ミンヅゥー)さんに案内をお願いしようと思っていた。安美プロジェクトの修繕支援を受けた李緞(リー・ドゥァン)さんのところへ連れて行ってもらおうとしたのだが、僅か数年のうちに詹さんは緑内障を患い、今では外出が全くできなくなってしまっていた。
平渓区の李緞お婆さんの家には段差があり、手すりを設置したことで台所への出入りが楽になった。
状況と人に応じた柔軟な対応
ローカル線が一日に十数本行き来する菁桐駅の傍にある詹さんの家は、今では玄関から奥まで、手すりが設置されている。かつては他人の世話をしていた彼女も、今では外国籍介護者の助けを受けている。ため息をつく彼女の大きく開いた目に光は入らず、瞬きもしないが、涙が浮かんでいた。連日の雨で家の中は湿気がこもり、浴室とトイレはまるで水洗いしたかのように濡れているのが気がかりだった。寝室へ入る所には段差があり、外国籍介護者の支えが必要である。足をぶつけないように簡単にビニール袋を貼ってあるだけだったので、「スロープを設置した方が歩きやすいのでは?」と尋ねると、「慣れているから」と答えた。徐さんと同様、詹さんもそう言った。かつて彼女は、三つ年上の李さんを含む複数の近隣住民に、居住環境の改善を説得したことがある。その際も、李さんは「慣れているから」と言い、ボランティアの善意を一度は拒んだ。
詹さんの案内がないのなら、漠然と山道を進むしかなく、家を見つけては尋ねていくうちに、偶然にも、近所でおしゃべりしていた李さんに出会うことができた。彼女の住む築百年の古い家へ行くには、とても急な坂を下りなければならなかった。五年前は、詹さんの案内で古い家を調査し、手すりの設置を勧め、「無料ですよ」と説明したが、李さんは「これも要らない、あれも要らない」と拒否した。「慣れているから」だけでなく、多くの高齢者は出費を心配し、騙されるのではないかと警戒するのだ。「最初は500元と言っても、後で1000元になるかもしれない。世の中に本当に善意で家を修繕してくれる人なんているのだろうか?」と疑うのだ。詹さんが根気よく説得を重ねたので、李さんはようやく首を縦に振った。施工者は、彼女の身長や、トイレから立ち上がる際に手が届く距離を考慮し、レンガの壁に手すりを設置した。彼女の家のトイレも屋外にある。母屋に隣接しているとはいえ、夜間に用を足すには懐中電灯を持って暗闇の中を歩かなければならなかった。現在八十四歳の李さんは、夜間の排尿のためにベッドの下に便器を置いている。
築百年の古い家には多くの段差があり、リビングから台所へ行くにも大きな高低差がある。すでに足腰の弱っている李さんのために、ボランティアは台所の壁にも手すりを設置した。今では、彼女は先ず手すりをしっかりと握ってから足を踏み出すようにしており、安全性が高まった。浴室の小さな浴槽は滑るのが怖いので使わず、小さな風呂椅子に座ってシャワーを浴びている。洗面台の横にもW字型の手すりを付け、体重を支えることができるようになっている。これらの工事が終わった時、李さんは直ぐに、いくらかかるのかと尋ねた。「無料ですよ」と詹さんは何度も強調した。
「命を守るために転倒を防ぐのです。高齢者に安全な住環境を提供するには、治療よりも予防が大事です」。これは、高雄の左営に住むボランティア、黄文能(フウォン・ウェンノン)さんが、長年安美プロジェクトを実施してきた中で得た感想である。手すりの設置だけでなく、和式トイレを洋式に取り換え、床のタイルに滑り止めを貼り、跨ぎにくくて滑りやすい浴槽を撤去し、入浴用椅子を提供するなど、小さな工事にも大きな配慮を心がけている。これらはまるで高齢者の老後を支える「手」のようなものであり、地域で安心して老後を過ごすためのポイントなので、軽視してはならない。
弘道基金会と統一超商は、二○一四年に経済的に困難な高齢者のための住宅修繕プロジェクトを発動した。かつて、二階にしか浴室がない家に住む巫(ウー)お婆さんを支援したことがある。彼女は急で狭い階段を登ることができず、共に暮らしていた息子も長年の透析治療で体が弱っていて、母親の入浴を手伝うことができなかった。巫さんは三カ月間つらい時期を過ごした後、やっと住宅リペア職人のお陰で、一階の屋外スペースに簡易浴室を設置してもらうことができ、問題が解決した。これにより、ボランティアに頼って、お風呂に入るために養護施設まで送ってもらう必要がなくなった。
かつて支援のきっかけを作った詹明珠さんは、現在は視力を失い、自身も手すりを必要としているが、「要らない、慣れているから」と繰り返し言う。
予防型の慈善活動
「まだ必要ない」段階で住環境の小規模改修を行うことは、まさに「予防型の慈善活動」である。問題が発生してから対応するよりも、社会的コストを大幅に削減できるのだ。
転倒は、六十五歳以上の高齢者にとって二番目に多い死亡原因であり、そのうちの四割以上が住環境に起因している。特に浴室での事故が多く、次いで寝室が続く。防滑施工がされてない、固定された手すりがない、ベッドのそばに懐中電灯が置かれていないなどの理由で、事故が起こるのである。
台湾がまだ高齢社会に突入する前、多くの人は「老い」の問題について考えたことがないか、「考えたくなかった」はずである。長栄大学看護学部の副教授である陳彩鳳(チェン・ツァイフォン)さんは、近年「高齢者の住環境安全」に関するセミナーに招かれ、各地で講演を行っているが、そこで初めて、人々は気づかされた。地方の村で、日常的に行き来している人の半数以上が高齢者であり、住んでいる家はほとんどが古い住宅で、玄関前は高い段差が多い。「今日はあの家で転倒事故があり、明日は別の家で転倒が起きる」といった状況である。都会で働いてきた五十代の聴講者は、この問題は若年や中年層には想像もつかないことであることに気づき、瞬時に共感した。「ベッドの手すりはどちら側に設置すべきか?どうやって設置するのか?」といった質問が相次いだ。それら具体的な疑問に対し、陳さんは一般的な回答しかできなかった。「使用者の身体状況によります。片側に麻痺があるのか?ベッドは中央に置かれているのか、壁際なのか?高齢者の起床後の動線はどうなっているのか?などの状況によるのです」。これは、安美プロジェクトが長年積み重ねてきた経験と一致している。事前に一軒一軒訪問し、現地調査を行い、使用者の生活環境、習慣、身体状況、家族の要望を理解した上で、個別に対応する必要がある。これは一般の施工業者にとっては採算が合わない作業であり、「関心と現実にはギャップがある」と陳さんは言う。だからこそ、民間のNGO団体やボランティアの自発性によって、費用を度外視して心を込めて取り組むことで、理想的な住環境の改善が実現できるのである。
注意深く自分たちの日常生活を振り返ってみると、普段は気にも留めていないところに危険が潜んでいることに気づくかもしれない。例えば、照明が不十分、廊下が長すぎる、トイレに行く時に段差がある、台所が湿っている、玄関が平坦ではない、リビングの家具が通行の妨げになっている、曲がり角に積まれた箱にぶつかったりつまずいたりする可能性がある等だ。手当たり次第に物を持ってきて踏み台にしたり、滑り止めにタオルを敷いたりすることもあるだろうが、有り合わせのものでは雑すぎるのである。
陳さんは、視覚障害を持つ人々にも注意を促している。「白内障の手術をする前、最も怖いのは、次のような階段です。例えば、各段の色が似通っていて、縁がはっきりしない場合は、見上げると階段全体が平らに見えるものです」。彼女は、夫が両膝を折って、両手をつき、「ゴン」という音と共に頭を床に打ち付けた瞬間を目の当たりにしたという。わずか二、三秒の出来事だったが、本当に恐ろしい体験だった。高齢者が「転倒」するのは一番怖い。一度転ぶと、二度と立ち上がれないことがよくあり、寝たきりとなって、そのまま人生の終わりを迎えることもある。
平穏な時には危機に備える
当然のことながら、九割以上の家庭の浴室やトイレには、手すりが設置されていない可能性が高い。必要性を感じていないからとか、見た目が良くないからという理由だろうが、「しゃがめない人、しゃがんでも立ち上がれない人はどのくらいいますか?」と問いかけ、「それはすでに手すりが必要だというサインですよ」と陳さんは笑いながら言った。
「新幹線のトイレで手すりを見て、なぜこんな変なものを付けるのかと思いました」。
「以前は手すりが邪魔で、見た目も悪いと思っていましたが、今はその意味がよく分かりました」。
「今日初めて知りました。高齢者にとって、起き上がるという些細な動作がこんなにも大変だとは。ベッド脇に手すりがあるだけで改善できるのですね」。
「まだその時ではない」と必要性を感じていない人にとっては本当に理解できず、思いつかないことかもしれない。しかし、立場を変えて考えることで、家族や隣人同士を助け合えるようになる。「ベッドの下にある小さなナイトライトは、本当に思いやりのある設計です。祖母の部屋にも設置したい」とある女子大学生が言った。
陳さんは高齢者の家族に対して、「バリアフリー化を大げさに考えすぎてもいけないし、軽んじてもいけない」と助言する。少しの設備を追加し、動線を改善するだけで、高齢者が生活する上での障害を減らし、安全性を高めることができるのである。家庭で高齢者が寝たきりになれば、介護には一対一の人的負担が必要になるのだ。
アメリカ、スウェーデン、アイルランド、日本などの国々では、高齢化に対応するために在宅高齢者向けの住宅改修支援制度が整備されており、補助金が支給される。工事の人件費は無料で、部品や材料費のみを負担すればよい。これらの国は、住宅改修によって高齢者の自立生活を促進し、介護サービスにかかる社会的コストを削減できることを知っている。これは、慈済基金会が提唱する「予防型の慈善」理念と一致している。
台湾でも長期介護政策の一環として、二十一項目の在宅バリアフリー化に対する補助がある。これらは工事が簡単でありながら、高齢者の安全を守り、老化を遅らせる効果がある。
台湾のエデン基金会は、二○一七年に「安居修繕グループ」を立ち上げた。その後、台湾社会において、退職者や再就職希望者、セカンドスキルを学びたい人が増えたことに対応し、修繕技術講座を開設した。資格試験はなく、簡単な住宅の左官、木工、塗装、電気・水道工事などを学ぶことができ、高齢者支援にも活用されている。「ドライバー(工具)」ボランティアと称して、募集も積極的に行っている。
新北市新店区屈尺で、慈済は二○二五年初頭に古いリサイクルステーションを「エコ福祉用具拠点」に改装し、毎日台北市と新北市の慈済ボランティアが忙しく働いている。朝から回収された各種福祉用具を一つひとつ分別し、大型のものは洗浄・消毒・乾燥を行う。「天気にも恵まれないといけません」。別の地区から来た徐建發(シュー・ジェンファ)さんは、細部まで丁寧に洗浄していた。彼は、資源の再利用によって物の命を延ばすことに感謝すると共に、次に使う人に安心と祝福を届けたいと願っている。
基隆で長年福祉用具の修繕をしてきた呉文讚(ウー・ウェンヅァン)さんも支援に駆けつけ、小さなネジ一本に至るまで、他のボランティアに手取り足取り教えている。使用困難な古い福祉用具は、部品として再利用するために解体される。
わずか半日で、10人以上のボランティアが数10脚のシャワーチェアを洗浄し消毒した。天気の良い日を利用して日光に当てて乾燥させた後、屋内で一つひとつ点検と細部の修繕を行う。地域の奉仕には十分な人手が必要だ。
市民全員が「ドライバー」ボランティア
近隣地域で十年以上にわたり奉仕活動を続けている徐建発(シュー・ジエンファー)さんは、こう気づいたそうだ。近所の人が皆年を取り、老いた台湾社会の状況を呈していく中で、かつては尋ねて来る人は少なく、ほとんどの場合、ボランティアに家庭訪問してもらい、こちらから提供していたが、「今では口コミで広まり、どこで中古の福祉用具を回収・提供しているかを知っていて、自分でネットを使ってプラットフォームで申請するようになりました」。
新しい福祉用具は高価なため、エコ福祉用具をレンタルするのが一般的になりつつある。高齢者の人生の余生の時間は長短さまざまであるが、福祉用具プラットフォームに申請が入ると、大型の医療用ベッドは機能確認のために三〜五日ほどかかる以外、車椅子や手すり、歩行器などはいつでも準備されており、数時間以内に配送することができる。彼らの作業は、行政機関で手続きするよりも迅速かつ柔軟である。
ボランティアはエコ福祉用具をトラックいっぱいに積み、どんなに遠くても各家庭へ届けることを厭わない。それによって、支援が必要な家庭の人に直接会うことができ、他に何か必要としているものはないか、と尋ねることができるからだ。「おせっかい」は屋内から屋外にまで行きわたり、あらゆる安全状況を確認し、全体的な環境を点検する。安全は一つの要素が崩れると全体に影響し、心身ともに影響するのだ。
百年以上の歴史を持つ菁桐駅とローカル線は、かつて石炭輸送に使われ、後に旅客・貨物兼用になった。詹明珠さんとご主人の仕事と生活になくてはならないものだったが、視力を失った今彼女は聴覚を頼りに、列車の往来を感じ取ることができる。
手すりで保たれる尊厳
二○一一年、台湾が高齢化社会に進む中、慈済ボランティアは花蓮をモデル地区とし、自主的に村長や里長に頼んで里長の案内の下に訪問を行い、居住環境の改善が必要な家庭を報告してもらう、という地域の自発性とレジリエンスを高める取り組みを進めた。これは二○一九年まで続いた。二○二○年には「安美プロジェクト」が正式に始動し、宜蘭・花蓮・台東から台湾全土へと拡大し、これまでに二十二県の二百九十七の郷鎮で活動が展開され、一万一千三百六十五軒の修繕を完了した。福祉用具は十三万八千六百三十九件が提供され、延べ九万一千九百三十一世帯が恩恵を受け、節約できた社会的コストは十一・六億台湾元に上った。
私たちが求めているものは多くない。洗面台に取り付けられた小さなW字型手すりや、壁に設置された折りたたみ式シャワーチェアがあれば、高齢者は毎日便利で快適に、すっきりした時間を過ごすことができるのである。手すりが一本あれば、トイレや部屋の出入りを自力で行うことができ、「誰か」に頼らなくても済む。これも、人として最低限の尊厳ではないだろうか。
担当者の陳珮甄(チェン・ペイヅン)さんは、感想をこう語った。台湾は小さなところだが、地域ごとに高齢者の生活ニーズや特性は異なる。都市部では選択肢も資源も豊富だが、南部の農村では高齢者が分散して一人暮らしをしており、ましてや「手が届きにくい」離島などでは、民間団体による地域密着型の支援が必要である。手を伸ばして掴める一本の手すりがあるかどうかから、心の奥に潜む、老後の孤独や無力感といった課題を発掘することこそが、安美プロジェクトの次なる段階─「家族が家族を支え、隣人が隣人を支える」取り組みなのである。
(経典雑誌三二四期より)


