私にできればあなたもできるはず

辰睿君は母親が色とりどりの野菜と果物でつくった折りたたみキンパを楽しんでいる。

辰睿君は小動物が母親を亡くさないように、これ以上肉を食べたくないと言った。両親が彼の慈悲心と決心に共鳴し、一家揃って菜食することで彼をサポートした。

「動物は可愛いから、僕らが小動物を守るの」。「僕らが肉を食べたら、鶏の赤ちゃんはお母さんがいなくなるでしょ」。「お母さん、僕たち食べなくてもいい?」と辰睿(チェンルイ)君は子供ながら自分の言葉で言った。

辰睿君は二〇二一年からクアラルンプールにあるパンダンインダ大愛幼稚園の四歳児クラスに通っている。学校が始まって三週間後のある日、彼は家に帰ってから、「うちでは肉を食べないようにしようよ」と両親に言った。

父親の洪商領(ホン・シャンリン)さんと母親の王憓芬(ワン・フイフェン)さんは、それを聞いてどうせ三日坊主だと思い、その言葉を本気にしなかった。しかし、一家で食事する度に、母親に「これは肉なの?」と聞き、もし正直にそうだと返事すると、辰睿君はそれを全く口にせず、不愉快な表情をした。

夫婦は子供のために、肉食を次第に減らし、ついに食卓には菜食だけがのるようになった。しかし、菜食はこの家庭にとって全く新しい課題であり、王さんは学校に授業の内容を尋ねた。「先生によると、菜食についてのテーマは授業で一度触れただけだそうで、子供がそんなにしっかり心に刻んでいたと聞いてびっくりしていました」。

もし辰睿君がもっと野菜を食べたいのであれば、親としてその願いを叶えてあげないわけにはいかないと王さんは考えた。「いずれにしろ、彼を大愛幼稚園に入学させて教育を受けさせたのも私たちの選択だったのですから」。

菜食で命を守る、小さな動物園

辰睿君に合わせるために、王さんは試しに菜食を作り始めた。しかし、洪さんは大の肉好きなので、妻と話し合って子供がいない時だけ肉食することにした。ある日、洪さんがうっかりしてテイクアウトで買った料理に入っていたエビを口にした。学校では子供たちに、肉食は健康によくないと教育しているにも関わらず、自分が子供の前で肉を食べているのはよくないと後で思い返した。

「後になって思ったのですが、慈済ほどの規模の大きな慈善団体がずっと菜食を推奨し続けているということは、必ずそれなりの科学的根拠があるはずです。食べるというのは一つの選択に過ぎませんが、私たちはどうして肉食を選択するのでしょう?菜食するという選択肢もあるはずです。植物もタンパク質を提供してくれます。子供にできるのなら、私にもできると信じています」。

二〇二一年九月のある授業で、先生が「六回菜食すれば魚を一匹殺さずに済み、十二回菜食すれば鶏を一羽救うのと同じで、四百回菜食すれば、豚を一匹救うことになります」と話した。そして子供たちに、今まで何回菜食して、どれだけの動物を救ったかを数えてみるように言った。

その時、辰睿君はすでに菜食を百回していた。彼は母親に折り紙で立体の動物を折ってもらい、日々の積み重ねで、間もなく小さな動物園ができ上がった。学期が終わる前、学校は彼に菜食エンジェル賞、命を守る小さなベジタリアン賞、そして愛の心を捧げる小さなヘルパー賞の各賞を与えて励ました。

洪さんは、初めは子供が菜食を続けられるとは思っていなかったので、わざと肉料理を誘ってみたりしたが、辰睿君は「動物は可愛いから守ってあげるんだ」と口にし続けたので、彼の気持ちを大切にしたのだそうだ。「これまでの食習慣を変えるのは大変なことでした。私自身も旧暦の一日と十五日だけ実行していた菜食が毎日に変わり、そして家族全員が菜食するようになったのです」。

菜食の回数を積み重ねると、いろいろな動植物を救う事になる。辰睿君は菜食をする度に記録カードに印を付け、去年9月に始まってすでに百食を超えた。

親子三代の共鳴 滋味に富む

いつだったか家族三人で本屋に行った時、辰睿君が菜食料理の本を手に取ると母親に、この本を見て作ってね、と言った。毎日学校から帰ってくると彼はその日の給食で何を食べたかを母親に話した。「お母さん、トマトスープ、海苔スープ、卵のニンジン炒めを食べたい」と辰睿君は毎日のように注文し、王さんは一つ一つのリクエストに答えた。

王さんは、もともと料理は上手な方だ。食卓の上に海苔とキノコの三色ピーマン炒め、レタス、新鮮なトマト、ご飯などの食材があるのを見れば、今日は折りたたみキンパであることが分かる。彼女は海苔に食材を置くと二回折り畳み、ラップに包んでから半分に切った。これで大人も子供も喜ぶ、色とりどりの美味しい菜食キンパができ上がった。辰睿君がそれを手に取って、「美味しい」と微笑みながら言った。

「家内の料理の腕前は凄いです。彼女の作った菜食は肉食よりも美味しいのです」と洪さんは遠慮なく言った。「よく考えてみると、多くの場合、人々はただ口の欲を抑えきれないだけです。しかし、肉食の環境によくない面や細菌が付き纏うこと考えれば、次第に肉を食べる気がしなくなります」。

祖母は辰睿君が菜食していると聞いて、鶏のシチューを作ってからジャガ芋だけを取り出して与えた。なんと、辰睿君は肉と一緒に調理した野菜も食べることができなかった。祖母はどうしたらいいか分からなかったそうだ。そのことがあってから、辰睿君が祖母の家に行く時は、王さんが菜食の弁当を持たせた。意外だったのは、彼の従兄弟たちが菜食弁当に興味を持ったことだった。

その後、皆で食事をする時、祖母は特別に菜食をいくつか用意した。そうすれば、辰睿君がお腹を空かす心配がないからだ。同じテーブルに着いた従兄弟たちもその菜食を食べたいと言い出したので、彼はとても喜んだ。辰睿君は大人たちに、菜食を薦めることは難しくないことを示してくれた。誠心誠意でもって実践すれば、周りに自分と共に良いことをする人が現れるのである。

孫に喜んで菜食してもらうために、祖父は心を込めて野菜畑を作り、家の外の空き地にサイシンやヒョウナ、苦瓜など色々な野菜を植えた。また、庭にはあちこちにパッションフルーツの木も茂っている。

祖父は日焼けした手で辰睿君を抱き上げ、彼に好物の苦瓜を取らせた。「孫は野菜を食べたいと言うので、私はどんな野菜を食べたいのかと聞きました。その種を買ってきて植えたのです」。

孫の喜ぶ顔を見て、祖父は満足そうに孫と一緒に菜食を食べた。すると心に飴のような甘さが溢れた。「孫の影響で菜食をするようになったのです」と祖母が笑いながら言った。

洪商領さん(左)と王憓芬さん(右)は辰睿君を連れて、祖父の野菜畑で野菜を採った。

節水と節電、僕の真似をして

菜食は地球を愛する証しだ。食卓の上に変化をもたらし、辰睿君も両親に環境保全の実践を促した。学校の先生が環境保全に関する授業を行う時、子供たちにこう言っている。「地球という母なる星が病気になっています。だから地球の資源を大切にし、節水、節電をしなければいけません。ではどうやって節電したらいいでしょうか?」辰睿君はお父さんに、「エレベーターに乗るのは電気を浪費するの?」と訊いた。「そうだね、確かに地球のエネルギーを消耗する行動の一つだよ」と洪さんは正直に答えるしかなかった。

「それなら僕はエレベーターに乗らない。階段で家に帰るよ」と辰睿君はきっぱりと父親に言った。洪さんは驚きながらも、子供の気持ちを無にすることが忍びなく、彼と一緒に階段を上った。
 
家は何階にあるのかと辰睿君に尋ねると、彼は無邪気に「三十六階」と答えた。「彼がそうしたいと言うので、私は付き合っているのです。力尽きた時に、エレベーターに乗って家に帰ります」と側にいた洪さんが苦笑いしながら言った。背丈の小さな辰睿君はお父さんと手を繋いでゆっくり上って行った。八階まで来て、体力がほとんど底をついた。その時、洪さんは彼を少し休ませてから、エレベーターで上がった。

ある時、辰睿君は椅子に上って電気を消そうとした。洪さんは悪戯しようとしていると思い、安全を心配して、一瞬大声をあげてしまった。その時、辰睿君は節電のために電気を消そうとしていたのだ。洪さんはすまないと思ったそうだ。「この子の願力はとても強い!先生が言ったことを彼は家で実践しています。実はこの子の方が私よりも環境問題に詳しくて、私にその知識をたくさん教えてくれました」。

辰睿君はまた両親に、紙おしぼりの代わりに自前のハンカチを用意して欲しい、食器洗いの水量は箸一本ぐらいの太さにして欲しいと念を押している。王さんが「こんなに水量を小さくして、どうやって洗うの?」と文句を言うと、辰睿君は自ら手本を見せたのだが、全身がビショ濡れになった。体を張って手本を示そうとする子供の姿を見て、王さんも彼と一緒に節水と節電をする気になった。

母親から見ると、辰睿君は思いやりのある子供だそうだ。夫と話しているうちに声が大きくなったので、辰睿君から「話す時は声を小さくして優しく話して。思いやりはどっちが強いか比べてもいいけど、どっちが怖いかは比べないでね」と注意されたそうだ。

辰睿君が先生から教わった良い習慣を家庭に取り入れたことで、一家の食生活がより健康的になり、お互いに睦まじくなった。「彼を慈済大愛幼稚園に入園させたのは最も正しい選択でした」と洪さんが言うのも無理はない。

(慈済月刊六六四期より)

    キーワード :