マレーシアの経験 数字は語る

マレーシアは長期化する厳しいコロナ禍にあって、「健康チャレンジ21」活動を開始した。この一年間で千八百人余りが参加し、果敢に「三つの生活習慣病」に立ち向かった結果、血液検査結果の数値に感動した。

二〇二〇年十一月に、マレーシア・セランゴール慈済人医会とボランティアが始めた「健康チャレンジ21」活動の参加者は、今年の九月上旬までに千八百七人に達した。年齢層は七歳の子供から八十五歳の高齢者まで幅広く、その半数はベジタリアンではなかったが、現在も多くのコミュニティで人々に活動をバトンタッチし続けている。

「皆さんの血液検査の報告を見てとても感動し、心が奮い立ちました。これまで二十年間医師をやってきましたが、三週間でこんなに多くの人に改善が見られたのは初めてです。それに、改善したのは一つの項目だけではなく、全ての項目についてでした」。

昨年初めてオンラインで最終日の報告会が行われ、林磊君(リン・レイジュン)医師は五十人分の血液検査報告を見て、興奮気味に語った。第一回から現在に至るまで、ボランティアチームは豊富な経験と八百人余りの血液検査結果を手にした。また、オンラインでその成果を発表し、海を隔てた台湾や各国のボランティアたちも驚き、直ちに活動を始めた。この健康チャレンジの実績がコロナ禍の間に蓄積されたということは、ニーズが高まっていることを意味している。

慢性疾患が新型コロナウィルス感染症の重症化や死亡リスクを大幅に高めている、という報告は既に実証されている。マレーシア政府の統計によると、新型コロナウィルスで亡くなった人のうち、約九割が一つ以上の慢性疾患を抱えているそうだ。そのうちの六十五%が高血圧で、約半数が糖尿病、四分の一の患者が心臓病、二割が腎臓病、十七%の患者はコレステロール値が高かった。

特に今年の七月から八月にかけて、マレーシアでの感染は急拡大し、八月下旬には新規感染者が一日平均二万人に達し、九月の統計では累計二百万人を超え、死者は二万二千人だった。マレーシア国立大学病院の救急外来顧問の専門医である陳沱良(チェン・トゥオリャン)副教授は、毎日新型コロナウィルス感染症の重症患者の救命を行っているが、メディアのインタビューに際し、新型コロナウィルス感染症の重症患者は、溺れた時のような呼吸困難に陥っており、挿管の苦しみにも耐えなければならない人もいると語った。「誰も望まないことです」。

当面の急務は感染を予防して、ワクチン接種を行うほか、何としても慢性疾患がもたらす重症化のリスクを下げることである。「どうしたら高血糖と高血圧、高コレステロール、高尿酸血症を同時にコントロールできるだろうか?」とセランゴール人医会の招集者で、長年、壇上で菜食と健康について語ってきた陳成亨(チェン・チョンホン)医師が言った。彼は小児科の専門医であるほか、栄養医学、生活医学及びアンチエイジング医学の顧問でもある。その彼が数多くの研究レポートを読んだところ、植物性飲食は慢性疾患をコントロールし、ひいては改善できることに気がつき、積極的にこの考えを広め始めた。

親子・嫁姑・夫婦など千人あまりの挑戦者には千を超す家庭の存在がある。健康状態の改善による喜びで、更に多くの人々に健康的なベジタリアンの実践方法を知ってもらっている。

食習慣の選択肢の一つであるが、
医療に取って代わることはできない

一年以上にわたるコロナ禍の波で、マレーシア政府は行動制限令を数回発令し、多くの地域ではロックダウンが続いている。陳医師はセランゴールの慈済人医会とコミュニティボランティアの力を合わせ、二〇二〇年十一月から食事管理を通して慢性疾患と体重をコントロールし、参加者に健康を取り戻してもらえるよう、コミュニティで全植物性飲食の推進を始めた。

マレーシアは多民族国家で、料理にはスパイス、辛味、酸味、甘味、そしてソースが欠かせない。この活動でチャレンジしたことの一つとして、どうやって要求に合致した食事を作ったら良いのか分からない多くの人や、よく外食する人に対して、プロジェクトチームは二十一日間の健康チャレンジプロジェクトを考えだしたのだった。

・毎日の昼食と夕食は、アメリカン・ライフスタイル医学院(American College of Lifestyle Medicine)が提唱しているヘルシーミールプレートを基準にレシピを作り、レストランに食事の提供を交渉する。

・協力するレストランは、弁当を参加者のオフィスや自宅に届けるか、場所を決めて受け取れるようにし、参加者は菜食の朝食を用意するだけでよい。

・血液検査を通して、全植物性飲食をする前と後の変化を理解してもらう。

「活動を始める前、食材品質管理チームは試食を行い、各レストランのメニューや量、盛り付け、味などを確認する必要があります。試食を四、五回行っても不合格となるレストランもありましたが、それは、全植物性飲食に対する認識の違いから来ています」。「健康チャレンジ21」中央チームのコーディネーター姜志濠(ジアン・ジーハオ)さんは、ベジタリアンになって十七年経っており、ベジタリアンレストランで働いていたこともある。彼は、「地元のレストランはこの全植物性飲食についてよく知らないので、作るのも苦手なのです。活動を通してレストランと一緒に学んでいこうと思っています」と語った。

セランゴール州にあるクアラルンプールからクチンなどの場所に至るまで、各地のコミュニティで続々とチームが結成されて活動が開催された。コロナ禍のためリモートコミュニケーションの方式を取ったが、各地のボランティアは距離があることを感じることなく、中央チームの後ろ盾の下に、相談受付チーム、調整チーム、医療チーム、運営チーム、飲食管理チーム、広報チーム、イベントチームのボランティアの協力を得て活動を実施した。中でも飲食管理チームは、料理人や栄養士、医師などの専門家で構成されていて、参加者が健康で美味しい食事をとれるよう厳しく管理を行った。

毎週末のオンライン交流会では、参加者が自分で準備している朝食について発表し、健康的な食事の知識について学んだ。二十一日目の終了日の報告会では、医師が参加者全体の成果を分析して表彰することにし、「最優秀血圧改善賞」、「最優秀コレステロール値改善賞」、「最優秀体重改善賞」、「最優秀血糖値改善賞」そして「最優秀中性脂肪改善賞」を授与した。回を重ねるごとに慢性病のトリプルリスク指数を低減させる成功率も大きく高まり、また多くの想定外の収穫も得ることができた。

「今はもう以前の写真を見たくもありません。以前はお腹が出ていましたが、今はなくなりました」。六十歳の実業家である黄漢明(ホワン・ハンミン)さんは、事業に奮闘する精神で二十一日間のチャレンジに参加し、食事方法を守り、お酒は一滴も口にしなかった。二回目の血液検査では、LDLコレステロール値と中性脂肪値が大幅に改善し、体重も五キロ減った。

黄さんの血液検査報告を見た医師は、この活動が彼の命を救ったと語った。彼の中性脂肪値は非常に高く、LDLコレステロール値は高すぎて測定不能なほどだった。このような状況では様々な心血管疾患を引き起こすリスクが非常に高いのだ。

二十一日間のチャレンジを終え、黄さんはベジタリアンになることを学び、彼の妻も黄さんの変化を見て、活動に申し込んだ。黄さんは、「この食事方法で健康になることができました。これからも必ず継続していきます」と語った。

ボランティアであり、飲食管理チームのメンバーでもある栄養士の余奕倩(ユー・イーチエン)さんは、健康状態の改善に成功した多くの事例を目の当たりにして、夫と一緒にチャレンジすることにした。余さんは、「現代医学は一般的に薬に頼ってコレステロールや高血糖、高血圧、高尿酸血症をコントロールするしかありません。食事制限は脇役でしかなく、病状が改善する事例は少数でしかありません。しかし、『健康チャレンジ21』では、皆が高かった数値を大幅に改善しているのです」と語った。

余さんはドイツのボン大学で人類栄養学の修士課程に学んでいた時、多くの栄養研究レポートを読み、植物性食物を多く摂取する人は、慢性疾患にかかる確率が低いことに気付いた。植物が含む栄養は、皆さんが知っている以上に多いのである。そこで、彼女は五年前からベジタリアンになった。

ボランティアチームは、全植物性飲食は生活の一部に過ぎないことを参加者に伝える。「健康チャレンジ21」では実際の体験と食習慣の選択肢の一つを提供するものであり、治療に取って代わるものではない。元々、薬を飲んでいる参加者は、引き続き薬を服用し、定期的に受診する必要がある。

良い食べ物を知り、自力で生まれ変わる

二十一日間の健康食プロジェクトは、参加者を励ましただけなく、健康に関する情報も広めている。どんな食べ物が体に良いのか、どう調理すればよいのかなどを参加者に知ってもらい、活動終了後も「自力で生まれ変われる」よう支援している。

現在、この健康チャレンジ活動はマレーシアだけなく、台湾、中国、シンガポール、アメリカ、カナダ、インドネシアなどに住むボランティアたちが推進している。先行したマレーシアの「健康チャレンジ21」が積み上げたデータが現地の大学の目に留まり、慈済セランゴール支部と連携して活動を行うことで、科学的な研究の対象となっている。サラワク州政府衛生部の医療スタッフも、如何にしてこの健康的な食習慣プロジェクトを病院に取り入れ、医療チームの健康ケアを行うかを検討している。

陳医師の率いるチームは、健康的な植物性の食事が多くの機関や地域に広まることを願い、「より多くの人が植物性の食事で健康状態を改善できることを理解し、社会に変化が生まれることを期待している」と語った。

今夜は何を食べたらいいか?

文、写真提供‧龍嘉文(マレーシアの医師)
訳・田中亞依

二十一日後、料理一品に塩はどれだけ入れるか?
コーヒーに砂糖は?その揚げ物は食べるのか?
今夜は何を食べたらいいか?

二カ月以上に亘り、私はクアラルンプール静思堂のワクチン接種会場で医師として問診を担当し、接種に来た人に慢性疾患が無いかどうかを問診している。四十代から六十代の中年の人が、もれなく血圧や血糖値、コレステロール値が高すぎる問題を抱え、多くの人が一日に少なくとも三種類の薬を服用しているのを知った。

人々は皆、美味しい物を食べたいと願い、糖質や塩分、脂質の摂り過ぎによる心血管疾患を見過ごしている。

八月五日、マレーシアでは一日の新型コロナウィルス感染者数が二万人を超え、この一年半の間に亡くなった人は一万人を超えた。しかし二〇一九年にマレーシアで心血管疾患により亡くなった人は一万一千三百三十人に上り、新型コロナウィルスによる死亡者数とほぼ同数である。

人々はウィルスに恐怖を抱くが、トリプルリスクの問題には目を逸らしている。新型コロナウィルスは皆の顔色を一瞬で変えるが、いまだに治療法はない。しかし、トリプルリスクは、食習慣を変えることでコントロールできるのだ。

医師として、トリプルリスクを抱える患者に対し、食習慣を改善するよう薦めてきた。しかし私自身、真の健康的な食習慣について深く理解していなかった。ベジタリアン生活を続けてきたこの十年来、私はベジタリアンであれば健康だと思っていたが、ベジタリアンでも肥満の人はいるし、トリプルリスクがあることに次第に気付いた。

この活動が、たったの三週間で医師を悩ませている慢性疾患患者に改善をもたらしたと聞いた時には、自らこの活動を理解しなければならないと思った。自分の食習慣を変えるだけでなく、より説得力を持って患者を導き、食事からトリプルリスクの問題を改善したいと考えた。

昨年一年間に、心血管疾患で亡くなった人の数は新型コロナウィルスの死者とほぼ同数である。新型コロナウィルスと聞くと顔色を変え、いまだに治療法はない。しかし、トリプルリスクは食生活からコントロールすることができる。

体を大切にすれば、体は裏切らない

私はマレーシア人だが、半分は客家人の血が流れており、平日は濃いめの味付けを好み、毎日夕食後には熱いお茶を飲むのが習慣だ。夕食は、基本的に白米は食べず、おかずだけ食べているが、食後はいつも消化が悪いと感じて、プーアール茶を飲んでさっぱりさせる習慣がついている。

チャレンジ期間は、昼食と夕食は普段よりかなりあっさりしたものになり、油も控え目になったが、野菜の甘みが感じられた。この二食には白米もあり、腹八分目まで食べたが、消化が悪いと感じることはなかった。食器を洗う際も、洗剤がなくても綺麗になり、食後のプーアール茶も飲む必要がなくなった。

朝食はジンスー雑穀パウダーと豆乳パウダーで植物性ミルクを作り、オーツを加えて食べている。早く起きなければならない日には、前日の夜に作って冷蔵庫に入れて置き、食べる時に果物やナッツを盛り付けて、見た目も栄養も抜群な食事で元気な一日をスタートしている。

ただ二十一日間の活動では毎日、基準を満たした昼食と夕食を摂っていたが、活動が終ったらどうすれば良いのか?自分で作るのは簡単に続けられることではない。これからは、ジャンクフードは一切食べてはいけないのだろうか?

これは多くの人が心配する問題でもある。私は、このチャレンジで重要なのは三週間で「数値」が改善したことではなく、食習慣にはもう一つの選択肢があり、その選択肢こそが自分の健康を決めるものだと理解したことである。

数字を目の前にして、この三週間の食生活で体重やトリプルリスクを改善することができた。これは、健康は自分自身に委ねられていることを意味している。それゆえ二十一日後、どう味付けするか、コーヒーに砂糖を入れるのか、揚げ物を食べるのか?その決定権はあなた自身が握っている。

非常に多くの人が、健康は味気ないものだと思っている。しかし、このチャレンジで健康的な食事でも彩り豊かで五味を味わうことができると教えてくれた。栄養士が監修した献立を異なる料理人が作ることで、どんな味付けが健康なのかをより知ることが出来る。そして健康的な食事は必ずしもご飯に三菜ではなく、日本料理やターメリックライス、ビーフンなど幅広いのだ。

このチャレンジで重要なのは、意識を変えることである。健康は我々自身の責任であり、自分の体をねぎらえば、体が貴方を裏切ることはないのだ。


(慈済月刊六五九期より)

    キーワード :