ワクチン接種会場をすぐ近くに設けることで、人々はバスを乗り継ぐ手間もなく、密集した病院での感染リスクも避けることができる。
慈済ボランティアは良質な環境を作って、近所の住民が安心してワクチン接種を受け、皆でウィルスの感染拡大を防ぐことができるようにしている。
六月末は、頭がくらくらするほど真夏の太陽が照りつける。慈済板橋志業パークは、新北市政府を支援して新型コロナウイルスのワクチン接種会場を設置した。曹聰賢(ゾン・ツォンシエン)さんと詹龍禎(ジャン・ロンジェン)さんたち約二十人のボランティアは、静思堂前の歩道に三つの大型テントを増設するのに忙しかった。
「私たちは六月十五日の第一回ワクチン接種から今日まで、異なる接種対象や人数に合わせて、何度も移動経路を調整しました。接種に訪れた人たちがここに来て安心できるようにと考えたのです」。接種開始の通達を受けてから曹さんは、昼間は板橋静思堂を家とし、屋内の床にベニヤ板を敷く作業、会場の整理、テーブルや椅子の配置などの準備作業から、ワクチン接種の実施まで、ほとんど全過程に参与してきた。また、他のボランティアたちと一緒に、台北慈済病院看護部主任から、正確な感染防護装備の着脱方法を学んだ。
ワクチン接種の初日、曹さんはマスク、フェースシールド、隔離ガウン、手袋、キャップなどの全身防護装備を着用し、第一線に立って来場者に奉仕した。慈済板橋志業パークに来たのは初めてという年配者が多かったので、ボランティアは親切に誘導して福慧ホールの席に案内した。医師の問診を受けてから、看護師によってワクチン接種を受け、その後、薬剤師から解熱鎮痛剤をもらい、接種後の経過観察をして異常がない人は、家族に付き添われて帰って行った。
福慧ホールの左側出口に立っていた曹さんは、消毒用アルコールスプレーを手にして、「手を広げてください。アルコールで消毒して、皆さんの健康を守りますから」と声を掛けていた。車椅子を押していた介護者には、「斜面に注意してくださいね」と注意を促し、自然と車椅子に手を伸ばして年配者の移動を手伝った。
側にいた陳明月(チェン・ミンユエ)さんは、静思精舎の尼僧から頂いた縁結びの香ばしい豆乳パウダーを人々に配った。あるおばあちゃんが「これは何ですか?」と聞いたので、曹さんは、「これは、精舎の師父たちが皆さんの健康を祈る豆乳パウダーですよ。お湯を注げば、すぐに飲めます。栄養満点の食品ですよ」と答えた。「なんて思いやりがあるのでしょう。ワクチンを接種した上に、師父たちの祝福まで頂くなんて、本当に良かった!」とおばあちゃんは喜んだ。
静思堂でワクチン接種を受ける人たちが強い日差しや雨に濡れるのを避けられるよう、板橋区のボランティアが、入念に配置と移動経路を調整していた。
百年に一度の挑戦
忙しかった午前中にやっと初日のワクチン接種が終った。昼食後、曹さんは来場者が使ったクリップボードとボールペンをアルコールで消毒するのに忙しかった。その時、スマホが鳴り、話を聞き終わると直ぐに屋外に向かった。「瑞発(ルイファー)さん、來成(ライチェン)さん、終わった後も残ってくれませんか。お昼に台北慈済病院の趙院長が板橋の接種状況を視察に来られた時、移動経路を調整した方がいいという提案があったのです……」。
あの日、会場のボランティアは全員残って、八人が一組となって歩道に立ててあったテントをアーチ橋の上に移し、年配者が日差しに晒されないようにした。もう一組は接種会場の椅子の配置を調整した。「私たちは年配者が椅子に座って問診と接種、接種後の経過観察をする間、付き添いの家族が側で立ったままなのに気付きました。そこで、待機エリアに家族の椅子も置くことにしました」と丁度椅子を運んでいた曹さんが言った。
六月半ばのAZワクチン接種が円満に終ったのに続いて、七月初めからモデルナワクチンの接種が始まり、接種年齢層も七十五歳に引き下げられ、前もってネットで予約してから地域の接種会場に行くようになった。六月末、家で休んでいた曹さんはメッセージを受け取った。「七月二日から四日に板橋志業パークのワクチン接種は、毎日千五百人以上の予約が入り、…」。彼はすぐに陳火全(チェン・フオチュエン)さんに電話し、改めて移動経路をアレンジした。
三倍近い接種人数に対応するため、趙院長は医療チームを率いて、再度板橋志業パークを訪れ、新しい配置をボランティアと相談した。翌日、サポートチームは歩道脇に集合し、一時間も立たないうちに、三つの大型テントが南大門脇に出現した。予約者らが到着した時、先ずテントの下で待ってもらうが、大型扇風機を使うので、多少は暑さを和らげることができる。
三日間で三千人余りの接種を終え、スムーズな移動経路と満足そうな人々を見て、「何度も意見を交わして指導してくれた台北慈済病院の医療チームに感謝します。それに板橋チームが直ちに必要な場所を補填し、一部の人が午前中に医療ボランティアをしたあと、午後は防護服を脱いでサポートチームに変身し、いつでも状況の変化球を受け止めていました。多くの人がワクチンに守られるのを見れば、どんな挑戦でも喜んで受けたいと思っています」と曹さんが言った。
難民支援は一朝一夕にして成せることではない
話し終わった途端、曹さんのスマホにワクチンチームからメッセージが入った。「生鮮野菜市場でクラスターが発生しそうな状況なのです。新北市政府はコロナ対策に対応して、慈済板橋志業パークに支援を要請してきました。明日、板橋・樹林・新荘の市場出店者と行政人員のワクチン接種を行います」。ワクチン接種が追加されると聞いて、陳さんは「大した問題ではありません。皆でこの三日間の努めを完成させたではないですか。このような百年に一度の災難に遭遇したのですから、政府に協力して、全力を尽くせばいいのです」と豪快に笑いながら言った。
太った体つきをした李瑞発(リー・ルイファー)さんは、接種会場の配置を手伝い、接種が始まると外で来場者を誘導した。一日中防護装備に身を固めていると汗だくになり、その辛さは言葉では言えないほどだが、その中にも喜びを感じている。「コロナ禍で大勢の人が不幸にして亡くなっているのを目の当たりにして、もっと多くの人が早くワクチン接種を受けることで、感染拡大を抑えることができれば、私たちが流す汗には価値があるのです」と彼が言った。
一日も欠席していない曹さんの体力と気力に周りの人は感服している。防護装備で固めた痩せ型の体に雨のように大量の汗をかきながらも、会場の至る所で人々に奉仕していた。「防護装備を着用すると、隔離病室にいる医療スタッフの大変さが一層理解できるのです。皆さんも積極的にワクチン接種を受けてください。防疫力を向上させ、コロナ禍が弱まるように期待しています」。
夕方、太陽の光が板橋静思堂の後方から射しこみ、和やかで温かい感じがした。 ボランティアは三つの大型扇風機と木陰の下にあった椅子をテントの下に収納した。曹さんと呂秋霞さん夫婦も、汗を拭いて乾いた服に着替えてから家に帰った。明日の任務が待っている。
(慈済月刊六五七期より)
- 慈済人として、第一線に立たなければ気がすまないのだ。匹夫の勇をひけらかすのではない。自分の身を護ることは他人を護ることにもなるのである。丁度ワクチン接種会場でボランティアを募集していたので、私は年配者への奉仕というこのチャンスを逃さず、温かく接して喜んでもらいたいのだ。それで自分にも達成感が得られ、また慈済人としての責任も果たすことができるのだ。
─ 慈済ボランティア 謝秀華さん - 私は看護スタッフではないので、最前線で患者の面倒を見ることはできないが、遠くからでも医療スタッフの世話をして、彼らの休息時に飲み物等を出す手伝いぐらいはできる。コロナ禍の非常事態になった時、慈済は私たちを守ってくれるが、慈済人、それも委員として慈済を守れるのかと私はいつも思う。だから生活チームの一員として静思堂の環境の防疫やトイレの消毒などの仕事は、ワクチン接種が終わるまで頑張って続けるつもりだ。
─ 慈済ボランティア 葉水盆さん