心が清らかになる起点

(絵・林順雄)

菜食で衆生を護ることが心が清らかになる起点です。 清らかな心を培うには、生命を傷つけないことから始めるのです。

ハイチで八月十四日の午前中、マグニチュード七・二の強烈な地震が発生し、死者千人余り、負傷者五千人余りの被害が出たところへ、ハリケーンが接近しました。風雨の中にいる苦難の人たちを思うと気が気でないのです。ハイチは普遍的に貧苦な状態にありますが、数人の慈済人が志業精神を以て長期に亘って現地を護り、アメリカのチームも関心を寄せています。しかし治安が悪く、毎回の支援は容易ではありません。

科学技術が発達したと言っても、地震が発生すると、数秒前に警報を出すことぐらいしかできず、人々は避難するのに充分な時間はありません。気がつく前に大地は激しく揺れ動きます。災難の多い世の中では人生は無常であり、瞬時に発生する事は知るよしもありません。平穏な日々の一分一秒にも感謝しなければなりません。私たちは事、人、時の全てで恩恵を受けています。感謝の気持ちがあれば、煩悩は自然と軽くなります。常に感謝の念を持てば、心が安らぎ、幸福や平穏、自在を感じることができるのです。

世界中に新型コロナウイルスの感染が広まっている中、とりわけ海外の状況は厳しく、人々は恐怖で神経が張り詰めています。今、人々はこの危機意識の中で、目覚めているでしょうか。警戒を高めなければなりません。コロナ禍はどうやって出現したのでしょう。この状況は人の欲念から来ており、ぼんやりして道理を理解せず、口の欲を貪るがために、無数の生き物の命をその口に呑み込んでいるのです。統計によると、五百個の肉食の弁当を作ろうとすれば、三十八羽の鶏、或いは一頭の豚が殺されるそうです。世界八十億の人口で計算し、もし誰もが肉食ならば、五百人の一食でこれだけですから、どれほどの生き物を殺すことになるでしょう?殺生の業は非常に重いものです。世の中の災難が無くなるわけがありません。

無量無数の生きものの総称が「衆生」です。空を飛び、海を泳ぎ、陸地を走り回る、活き活きしたあらゆる生命が衆生であり、捉えられた時に網の中でもがき、殺された時に鮮血が地面を赤く染めます。人として生を授かっても、必ずしも一つ一つの生命を絶たなければ、生活を維持できないとは限らないのです。

私たちは人、事、物の全てに感謝し、生命の滋養になっている「五穀雑糧」に対しても感謝しなければなりません。天と地の間で、野菜や根菜、果物で人のお腹は満たされます。何も残酷な心を起こして動物を死に追いやることはありません。

肉食は健康的な食べ物ではなく、動物の体には細菌やウイルスが存在しているため、食べなければ、病が口から入ることを避けることができます。今回、コロナ禍の下で、少なからぬ医学専門の人たちが菜食を研究し始め、栄養バランスのよい菜食は健康を促進し、体質を改善するため、有益無害であることを証明しています。ですから、私たちはこの縁を把握して、菜食するという教育を推し進めるべきです。

五十年ほど前に出た、慈済創設の一念は衆生を救うことであり、それは「人間」に対してだけではありません。人と人の間で互いに励まし合い、共に力を合わせて「人」を苦難から救い出し、またその「人」を感化してあらゆる衆生を愛護することです。

菜食は自分の中に欠点のない愛を護ることができます。殺生せず、肉を食べないことは即ち、生き物を救い、放生と護生をすることです。それは清らかな心になる起点であり、一切の善の源なのです。善良な心を培うには、人、動物、天地など、あらゆるものを傷つけないことから始めなければなりません。

仏陀の教育でも科学の実証でも、全てが慈悲心をもって殺生しないこと、生きとし生けるものを愛護することを教えています。世間の道理はこのように明らかなのに、人は口の欲を抑えるのが難しいため、その生命を使って天下の生命を食べ尽くしているのです。世界中の肉食の人に供給するために、少なくとも八百億以上の生き物を飼育しています。これほど大量の動物に水と飼料が消費され、温室効果ガスが排出されることで、さらに生態系に影響を及ぼしています。

現代科学技術が発達したおかげで、私たちは多くの情報を吸収することができるため、一層多くの人が力を合わせることで、慈悲を世界に広め、智慧を人間(じんかん)に広めるべきです。智慧は世に福をもたらしますが、聡明は欲念を追求して、手段を選ばず貪り取ってしまいます。聡明であっても智慧がなければ、愚かな行為に走り、環境を破壊したり、空気の汚染や生命の殺生によって、衆生の共業を作ってしまいます。

外に向かって追求する心を引き戻して欲念を抑え、生命を正しい方向に修正して、心に溜まった貪瞋癡を祓い清め、新たに清らかな心にすることが即ち、「大いなる教育」なのです。菜食の呼びかけには、誰が欠けてもならず、人々の心に善の清流を啓発し、その善の念と信心が清流となって人の心を浄化するのです。人類は萬物の長であり、人間(じんかん)の苦難を取り除き、あらゆる動物を庇護することができるのです。菜食を広めると、空気も大地も清められ、体が健康に、心も善良になります。皆さんの精進を願っています。


(慈済月刊六五八期より)

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