慈済は一九九〇年より環境保全志業を推進して来たが、やがて到来するカーボンニュートラル(二酸化炭素排出実質ゼロ)の実現に備え、更に一歩踏み込んで、温室効果ガスの排出を総検証し、改善項目を絞って、精進の契機とする。
「多くの人は、慈済の環境保全に関する取り組みは末端の資源回収だけだと思っています。実はそうではなく、私たちの重点は教育にあるのです」と慈済基金会環境保全推進部の張涵鈞(チャン・ハンジュン)部長が説明した。
慈済基金会の統計によると、一九九八年時点で慈済が回収したゴミの量は全台湾の三十五パーセントを占めていたが、今は二%足らずにまで下がっている。三十数年間に、政府と民間団体が力を込めて宣伝した結果、ゴミの減量と資源のリサイクルは国民の常識となり、どの家でも行うようになった。行動する人口が増えれば増えるほど、慈済の占める割合が小さくなってもおかしくない。
二〇一〇年、慈済環境保全二十周年を機に、證厳法師はボランティアたちに、下を向いてリサイクルするだけでなく、頭を上げて環境保全を語るべきだと呼び掛けた。「自分たちがやって来たことを語り、語ったことを実行に移すのです」。参観者にリサイクル活動を体験してもらい、環境問題の重大さとボランティアが地球を愛する精神を理解してもらうのである。
二十一世紀に達成を目指すゼロエミッションへのチャレンジを目の前にして、慈済は「2050ネットゼロ」という目標を掲げた。その第一歩が、自分たちが排出している温室効果ガスの排出量の総点検である。
「これまで慈済は、台湾における環境保全や環境教育方面の先駆者的存在でした。今、世界百カ国余りが脱炭素を宣言し、台湾政府、企業、民間団体もその列に加わっているので、慈済が力添えするのは当然のことです」。慈済慈善事業基金会の顔執行長は、慈済が台湾のNGOにおいて先頭をきって脱炭素を宣言する意気込みを語った。
慈済基金会はゼロエミッション2050を宣言し、温室効果ガス排出の総点検を花蓮静思堂から始めた。(撮影・黄筱哲)
慈済人の環境保全DNAを検出
二〇二二年、慈済基金会は地元にある花蓮静思堂に目標を定め、前年度における温室効果ガスの排出量を総点検した。その範囲は、静思堂、静思精舎の分室と職員及び花蓮静思堂を拠点として活動するボランティア団体を含む。点検項目は、ガスコンロを含む固定された熱源、公用車のような移動可能な熱源そして一人当たりの平均排出量である。その他、冷媒や消火器が温室効果をもたらす合成ガスが使われているか否かもチェックすべき点検ポイントの一つである。
「私たちは昨年から温室効果ガスの排出を点検する管理顧問会社を探し始め、今年四月から総点検を始めました。繭の生糸を一本ずつ抽出するように、各部署の排出源を割り出し、改善の契機を探りました」。総点検の責任者である慈済基金会職員の曾詩茹(ツン・スールー)さんは、「減量する前に先ず体重を測る」という業界でよく使われる言葉を引用して、点検の目的を説明した。
「健康診断を受けなければ、どうやって健康かどうかが分かるのですか?この過程から改善すべき点が見つかったのです」と曾さんが言った。簡単な検査では問題が見つからない時もある。例えば、総務部を点検し初めて分かったのだが、静思堂の水冷式エアコンの室外機は、冷却する時の技術問題を改善すればエネルギー効率をよくすることができる、ということである。
電気の使用だけでなく、交通手段のカーボン・フットプリントも点検の重点項目である。職員の出張や通勤による排出量点検については、人事部で二〇二一年のあらゆる職員の出張と駐車場使用記録をまとめ、顧問会社の統計のために提出した。
曾さんによると、顧問会社がその会社の職員の交通手段を調べる時は通常、実際のデータを根拠にする。例えば、ある人が会社の駐車許可証を申請すれば、車通勤だと見なされる。しかし、慈済の職員の場合は、駐車許可証を申請していても、いつもはシャトルバスを利用したり、誰かの車に相乗りしたり、自転車通勤をして、なるべく車の使用を減らしているのだ。
個々人の行動は記憶に頼るしかないが、職員たちはそれを計算に入れるよう顧問会社に要求した。調べる記録がないので、顧問会社は皆に記録表を作り、そのような低カーボンやゼロカーボンでの通勤距離も全て記録してもらい、将来交通によるカーボン排出量を調べる時の根拠として使えるようにした。
職員たちは、こういう正式な記録のない脱炭素行為も点検対象となることを希望している。曾さんは、これは慈済特有の組織文化の表れだと考えている。環境保全を徹底し、脱炭素に努力する精神が既に職員たちの心に沁み込んでいるのである。「多くの職員は自宅から慈済病院や花蓮駅まで歩いて行き、そこからシャトルバスで精舎に出勤しています。明らかに不便だと分かっているのに、どうしてそうするのでしょう?彼らの環境保全DNAがそうさせているからです」。
訪問ボランティアのフットプリントを追跡
職員の通勤や出張による温室効果ガスの排出量を点検するだけでも容易ではないのに、ボランティアが家庭訪問する際に使う交通手段のカーボン排出量も点検対象とするのは、前代未聞の挑戦である。
点検責任者である顧問会社のCTO陳峙霖(チェン・ズーリン)氏によると、同社はISO基準に沿って、ボランティアの家庭訪問行動における使用交通手段から排出される温室効果ガスを、第五種の「製品使用段階」における排出部類に入れた。「それは組織のバリューチェーンにおける『川下』に属し、慈済が提供している核心の奉仕や価値だと言えます」。
慈善ケア活動でのカーボン・フットプリントをより合理的に算出する為に、慈済基金会職員と顧問会社は、ボランティアの移動軌跡を如何にして計算するかに知恵を絞った。「私たちは何度も討論し、考えた結果、ボランティアの軌跡を温室効果ガス排出の検証対象に入れました。何故なら慈済は何万人もの職員を家庭訪問させることができないので、ボランティアが代わって第一線で訪問しているからです」。
曾さんは慈済ボランティアを点検対象に入れた経緯を語った。そうなると、花蓮在住のボランティアが車や列車で秀林、鳳林、光復、玉里などの偏境を訪問する時のカーボン・フットプリントも慈済慈善業務が直接、排出した温室効果ガスの量に加算されることになる。
目下、花蓮静思堂の温室効果ガスの点検は既に五十パーセント強進んでおり、予定として、今年十月に第三者の公正機関による再点検と認証を経て、十一月初めには集計したデーターをレポートにすることができる。その時、温室効果ガスの排出量がどれだけ「重い」かが分かるのだ。
初めて温室効果ガス排出を検証した慈済にとっても、初めて大規模なNGO組織のイベントリーを請け負った顧問会社にとっても、お互いが協力して歩みを進めながら体制を整えて来たのである。
「私たちは今、道を切り開いているのです。花蓮静思堂が模範を示せれば、台湾全土の静思堂が追随するでしょう」。環境保全推進部の張涵鈞部長が、慈済が約束したカーボンニュートラルについて報告した。「一から百千万が生まれる」という展望は、一歩ずつ歩む愛や善の足跡であり、持続可能な未来を作り出すのに貢献するだろう。
(慈済月刊六六九期より)