ネットゼロの有志たち 「五ゼロ」の達人を募集中

私は今後さらに三十年、百一歳まで環境教育に携わり、より多くの人々に脱炭素の実行を促したい。

人類が摂氏一・五度という平均気温の上昇幅を死守する様子を、この目で見られると信じている。 —陳哲霖

「ある時、私はSUV(スポーツ用多目的車)を運転して、環境保全について学生に講義しに行きました。その後で振り返ってみると、中小学生たちはまだ車を運転できないことに気づきました。彼らと自分のどっちが省エネ、脱炭素生活をしているのでしょう?」環境教育の講師であり、国立台湾師範大学環境教育研究所の大学院生でもある陳哲霖(チェン・ツォーリン)さんは、一般市民よりも頻繁に政府機関や学界、民間団体が提唱する環境保全活動と接触している。省エネと脱炭素を推進するため、ある機構は五十から百項目もの行動様式を掲げているが、経験豊富な彼は、実行し易い幾つかの項目から始めた方が良いと考えている。最も重要なのは、「理解して」しかも「実行する」ことだそうだ。

彼は正直に、自分も理解しているのに、行動に移さなかった時期があったことを振り返った。大きな車に乗って環境保全を口にし、言動が一致しない矛盾した生活を送っていた。その時から彼は脱炭素に合致した交通手段に切り替えた。自転車で片道二、三十キロ走るのも、慣れれば疲れを感じない。彼が自転車で軽快にやって来て教師や生徒の目の前に現れた時、それは既に無言の教えとなっていた。

今年の六月二十八日、彼は第八回国家環境教育賞の個人優等賞を受賞した。「以前にどんな事をしたのかは既に忘れましたが、今回の参加をきっかけに、十六年前に慈済のリサイクルボランティアを始めた時の初心を思い出しました」と言った。

二〇〇五年、若干五十五歳だった彼はIT業界を退職し、高雄市仁武区にある慈済八卦寮リサイクルセンターでボランティアとなった。その時、参観に来る大衆への資源の回収に関する解説が、ボランティアによって区々であることに気付いた。そこで彼は、雑多な回収項目を「瓶、ボトル、缶、紙、家電一三五七」と覚え易いようにまとめることを発案した。暗記し易い合言葉は皆に受け入れられ、彼は各県や市の慈済リサイクルステーションや学校、機関に招かれて講演するようになった。

自分の環境保全に対する知識と環境教育に関する能力を充実させるため、彼は二〇一八年に国立台湾師範大学の環境教育を学ぶ大学院生となり、最も年長で唯一の、シニア割引チケットが利用できる学生となった。この環境保護署の環境教育講師ライセンスを持っている達人にとって、修士号の取得も重要だが、知識を構築し、時代の潮流を掴み、自分が学んだことをシンプルで実用的に、しかも面白い方法で実践し、そして人に環境保護を正しく行えるように教えることが、彼の最大の関心事なのである。

陳哲霖さんは、この10数年間ずっと環境保全の問題について活発に人々の心に訴えてきた。千本のペットボトルで「水立方」というオブジェを組み立て、水資源の大切さを説明した。(写真提供・陳哲霖)

いったい誰のため環境を護るのか

この二年来、各国は次々に「2050ネットゼロ」を掲げて推進している。フリードマン(Thomas L. Friedman)は、人類は近い将来を『温暖化、フラット化、人口過密化する世界』という著書で予言した。太陽光や風力などのクリーンエネルギーが化石燃料に取って代わる。そこからエネルギーの使用や経済モデルの構造的な転換に繋がり、既に多くの政府関係者や企業経営者に「今日やらないと、明日後悔する」という切迫感を抱かせている。

彼も同感で、政策面からグリーンエネルギーの使用や建築、輸送における炭素排出の削減などの措置を推し進めるべきであると考えている。公的部門や産業界はその責任を免れることはできず、それらがハードウェアを改良すれば、省エネ・炭素排出の削減比率は五十パーセント以上に達することができる。しかし、個々人の考え方の切り替えと実行による影響力も無視できない。「五十パーセントに達しなくても、三十パーセントはできるはずです」。

大衆が生活習慣を変えることを促すために、彼は長年培ってきたアイデアを発揮して、人々に身近な基本から一歩一歩前進し、達人の秘訣を「五ゼロ」にまとめ上げた。

「一つ目のゼロは生ごみゼロで、二つ目のゼロは環境保護署が推進しているグリーンライフに呼応した、ゼロ・ウェイストです。三つ目のゼロは循環型経済に求められているゼロ廃棄です。近頃は皆、大気汚染や海洋汚染などの公害問題を重視しています。従って、四つ目はゼロ汚染と位置づけました。最後は地球の永続を達成すべく、『ネットゼロエミッション』の世界です」。

陳さんはしみじみとした口調で言った。もし人類に自覚がなく、省エネや脱炭素の努力を余計なことと見なし、積極的に協力せず、更に申し訳程度に行動するなら、ネットゼロの進捗は遅れに遅れ、「間に合わなくなる」かもしれない。

どうやって日常生活の中に根付かせるかについて、陳さんは「一プラス五の実行、一・五を死守」と言う基本的行動方法を示した。

先ず、地球の平均気温の上昇を摂氏一・五度以下に抑えるのは、世界的に公認されている「生存の下限」であることを理解しなければならない。二〇五〇年以前に、あらゆる温室効果ガスの排出量をゼロまたはマイナスに抑えれば、この災害を減らす目標を達成することができ、人類が災害の中で生存でき、相対的に安全な世界で、持続可能な生存と発展を追求することが確保できるのだ。

次いで自分から始められることを挙げてみよう。先ず「箸一本分の節水法」、即ち蛇口をひねった時の水量を箸一本程度の太さにコントロールすること、第二は、毎日少なくとも「一食」または三食とも菜食にすること、第三は、「絶対に」食べ物を浪費せず、物を大切にすること、第四は「使い捨て」食器を使わず、「携行五宝」即ちマイカップ・マイ食器・マイ箸・ハンカチ・ショッピングバッグを持ち歩くこと、そして第五は、使わない電気を「必ず」消してエネルギーを節約することだ。第六として、「いつも」出来る限りカーボンフットプリントが減らせる交通手段を利用することも追加しよう。「結論として、持続とネットゼロは少数の人でできるわけではなく、皆で一緒に行動しなければならないということです」。

慈済人は率先して「水量が箸一本ぐらいの太さ」の節水法を実践している。手を洗ったり、食器を洗うのにはそれで充分である。(撮影・黄筱哲)

未来を変える行動

陳哲霖さんは暗記しやすい環境保全の合言葉と簡単で分かりやすい補助的な教材をたくさん考え出した。例えば、慈済人がよく知っている、千本のペットボトルで組み立てた「水立方」がある。「千本のペットボトルで世界全体の水の量を表しました。人類が実際に手に入ることができる水は、ペットボトル一本の量しかなく、水資源の大切さがそこから理解できます。私はこの作品を創作した後、『水量箸一本分の節水法』という考え方に辿り着きました」。

「私は百一歳まで、さらに三十年間、環境教育を続けたいのです。その三十年間で三千人の、『自分で実行するだけでなく、人々に呼びかける』ことができる『五ゼロの達人』を育成したいのです」。今年七十一歳になる陳さんは、三十年にも満たない二〇五〇年には、自分の目で、人類が気温の上昇を摂氏一・五度の関門に抑えるのを目にすると共に、地球の永続と、清浄な世界という理想を達成することができると信じている。

「もし大きな環境から見て希望がなくなれば、人々はより消極的になります」。陳さんは、今の若い世代が貧富の格差や気候危機による何重ものショックを受けており、多くの人が結婚や出産を望まず、消極的になったり、静かに無力感を感じていたりするのだと十分に理解している。しかし、環境教育を通してネットゼロのグリーンライフを牽引し、まだ未来に期待できると彼は信じている。

「一・五を死守してこそ、地球の永続が可能になり、どんな変化も、永続の始まりなのです」と陳さんは心を楽観的に保ちながら語った。


(慈済月刊六六九期より)

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