「感謝」と「祝福」が日常における最高の言葉です。
愛と感謝の循環
五月二十日、インドネシアの石毓達(シー・ユーダー)師兄(シーシォン)らと話をした時、上人は二十五年前のことを思い出しました。インドネシアはアジアの金融危機に見舞われ、極端に貧富の差が起きたため、マレー人と中華系の人の間に衝突が起き、経済的にも不安定になりました。しかし、慈済人は社会に動乱が起きても慈善救済の歩調を緩めることはありませんでした。そして、「愛で憎しみを解消しなさい」という上人の教えを聞いて、大規模な配付活動を行いました。その年の配付活動が成功を収めたのは、黃奕聰(ホワン・イーツォン)氏と多数の現地の中華系企業家が共感して参加したからでした。住民は、中華系企業が心から彼らを思いやり、守ろうとしていることを知って、気持ちが落ち着き、社会は次第に安定し、平和を取り戻しました。今、インドネシアはとても繁栄し、底辺にいる大衆の生活も大きく改善しました。
「愛のみが憎しみを解消することができますが、どうすれば人から愛されるようになるのでしょう?私たちが先ず、人を愛して初めて、人は私たちを愛するようになります。企業のオーナーと従業員が言葉を交わすのも同じで、先ずオーナーが従業員に感謝の意を表し、愛し、彼らに気配りすれば、従業員はオーナーのために働くことで喜びを感じるようになるでしょう。オーナーが従業員の生活の面倒を見れば、彼らは安心して働くことができ、企業が一層発展するようになります。ですから、先ずこちらから奉仕してこそ、社会に愛と感謝の気持ちが循環し、温かみのある平和な雰囲気をもたらすことができるようになるのです」。
また、上人は石師兄に語りかけました。
「生命の貴さは、大金を儲けることではなく、この世で善行することにあります。もちろん、お金がなければ、何もできませんが、私は五十数年前、少人数で毎日五十銭を貯めて慈善活動を始めました。私は一度も誰かに寄付を求めたことはありませんが、その時にしていたことを人々に話して聞かせ、模範を示しました。人々がその行いに感動し、とても有意義だと感じれば、自然に呼応するようになり、喜んで支持するようになるのです」。
「慈済志業に賛同し、自らそれに投入する人は、庇護してもらう考えは持っていないでしょう。というのは、皆、正知と正見を持っているからで、それが自分の人生の方向であり、当然すべきだと思っているからです。行動に移せばよいのです。見返りを求めないその心はとても敬虔なのです」。
「慈済人は盲目的に追随することはなく、正しい信仰を持って、仏法で説いている道理を心に聞き入れ、生活の中で実践しているのです。皆さんが発心立願して、正しい方向に精進することを願っています。お金を寄付するだけでなく、生命を志業に投入して、時間の経過と共に、慧命を成長させるのです」。
知識を智慧に変える
七十年前、ニュージーランドの登山家ヒラリーと登山ガイドのノルゲイは、エベレストの登頂に成功し、人類史上初めてエベレストに登頂した記録を打ちたてました。七十年後の今、人々は登山の日にその偉業を讃えますが、エベレストは気候変動の影響で危機に直面しています。科学者によると、エベレストの氷河は、融解速度が速まって黒い岩石が露出するようになり、影響が顕著になっているのです。
五月三十日のボランティア朝会で、上人はため息交じりにこう言いました。「今、全世界で気候変動という重圧を感じています。これは衆生の共業(ごうぐう)なのです。人類は無知ゆえに、欲のままに振舞い、欲を追い求め、開発を続け、それを享受してはごみを捨て続ける、という悪循環を作り出しました。実は、大自然が人類に供給してくれる資源で十分足りるのです。人類による過度の開発と享受が、山林や大地を破壊して災害をもたらしているのです」。
ヒマラヤ山系の峰々は長い間、白い雪に覆われていましたが、今は黒い岩石が露出するようになっているというニュースの中では、登山客が益々増えて、列を作ってエベレストに登るのを待つ状態にまでなっていることも報じていました。人類の活動が氷河を危機にさらしているのです。上人は、またため息をついて、こう言いました。
「多くの人は高い山を征服したいという気持ちで山に登っていますが、実は人類が到達する所では、必ず破壊と汚染が起きています。高い山を征服する人が増え続ければ、自然の生態は破壊が続きます。『人類は天に打ち勝つ』と言うのであれば、人類が環境破壊と気候変動をもたらしていることは、確かに天に勝利しているでしょうが、この世に災害ももたらしているのです」。
昨日、シンガポールとマレーシアのチームがインドのサールナートで、環境の現状を説明していたことに、上人は言及しました。「現地には数多くの仏塔と寺院の遺跡があります。それらは仏陀の入滅後、数百年してから建てられたものですが、この二千年の間に建てられては破壊され、今、目にすることができるのは壁の一部や柱の基礎だけです。今はハイテクの録画設備やネットで視聴でき、直ちに映像を送って来ることができる上に、その場の人物や出来事を真実の記録として後世に残すことができるのです。千年後、二千年後の人たちが今日の映像を見ることができるかもしれません。これは人類の智慧による発展の成果です」。
現代テクノロジーは、人類の英知により発展されたものです。上人は、人類がより深い仏性の叡智を使うことで、是非や善悪を識別することを願っています。欲望を満たして享受するだけのために、知識でテクノロジーを駆使して大自然を破壊するなど、断じてあってはいけないのです。気候変動は益々激しさを増し、地球環境は悪化の一途を辿っています。一人ひとりが知識を智慧に変え、善を広めて悪を止め、やってはいけないことに対して警戒心を持たなければなりません。そして、すべきことは、時間を無駄にせず、速やかなる実践です。
(慈済月刊六八〇期より)