編集者の言葉
七月末、彰化県立体育館で三日間にわたって八回行われた経蔵劇「無量義 法髄頌」の公演が、無事に終了した。その後、北部の桃園、新竹、花蓮、宜蘭のボランティアがバトンを引継ぎ、十月下旬に台北アリーナで上演する為に、毎週末と休日に集中的な練習を重ねている。
世の人々に経典を親しみのあるものにするために、芸術を演じるのも、弘法の一つである。中でも「優人神鼓」は変わらず、太鼓の音が心を震わせるだけでなく、メンバーは経典の芸術的理解から境地を見事に描き出し、動作にも音楽創作にも優れている。台湾オペラの唐美雲歌劇団は、歌謡による芸術的技法で具体的に表現している。現代の歌劇スタイルだが、伝統的な戯曲形式も失われていない。
三年をかけて経蔵劇の内容は絶えず修正されており、三時間の公演は長いように思えるが、二千五百年の時を超えた物語が演じられている。シッダールタ王子が成長した古代インドの情景と現代社会の生活を結び付け、「自覚覚他」(自分が悟り、他人をも悟らせる)を実践する仏陀と、人々を導いて世を救う證厳法師の姿を表す。仏陀は苦集滅道という真理を説き、法師は貧困に苦しむ人を助けて裕福な人を善行に導く。仏陀がこの世に来られた一大事因縁と、證厳法師が創建した静思法脈慈済宗門が、深い縁で結ばれていることを描き出している。時空を超えた真理が世の出来事に結びついた経蔵劇によって、視聴者は知らない間に経蔵の世界に引き込まれてしまう。
経蔵劇が終わると、苗栗、台中、彰化、南投のボランティアは、台中の静思堂を訪れていた證厳法師と心得を分かち合った。年配のボランティアは感無量で、十二年前に経蔵劇「慈悲三昧水懺」を演じた時に比べると、体力は大分落ちていたが、人生の最後のチャンスを掴み、再び参加できた事に感謝した。若いボランティアたちもチャンスを見逃さなかったことに喜びを覚え、三時間の公演の中で、五十七年にわたる慈済の歴史を辿ることができ、道を切り開いてくれた先輩たちに心から感動し、感謝した。そして、自分たちの人生の方向もこれで定まったそうだ。
静思人文叢書所から出版された最新の《證厳上人衲履足跡二○二三年夏之卷》の中で、六月三日に述べられた證厳法師のお言葉がある。「これは私たちの歴史で、非常に貴重なものです。この《無量義経》は、様々な仏法経典の中から見つけたもので、日本語の『法華経大講座』でしたが、私が一字一句を写経したものです。それは私が若かったからできたことで、今は視力も体調も良くなく、座って字を書くことさえ体力的に難しくなっています。ですから、この経典がこの世にあることを、皆さんは大切にしてください。若しもあの時、私がこの経典を書き写さなかったら、《無量義経》をこれほど多くの人に接してもらうことはできなかったでしょう」。
證厳法師は《法華経》を主軸とし、《無量義経》を以て修行の方向とした。慈済人は《無量義経》を読み、実践し、演じて伝えているのだ。舞台で次から次に演じられるのは実際にあったことであり、同時に自分の人生を再点検するきっかけにもなる。今まで證厳法師と共に歩んだことで、この一生がとても豊かであったことが分かる。会場に描かれた線に立っている全ての人が主人公であり、最も真実を語っている演技でもある。
(慈済月刊六八二期より)