道理を人に話しても、
心に入れることができるとは限りません。
愛と善を発揮し、
真心が伴った行動が最も人を感動させるのです。
行動、学術、実践
七月四日、医療関係者が上人を訪ねた時、人の心臓と脳の構造は似ているが、思考や行動はまちまちである、という話になりました。医学界はその二つの臓器に対して深く研究をしていますが、そこから人の思考や行動に関する答えを見つけることはできていません。「例えば、皆一緒に座禅して瞑想している時、各自それぞれが考えを巡らせており、本当に心を沈めるのはとても難しく、皆の考えを講師の言う通りにするのは困難を極めます。ですから、講義は学術的で、言葉を用いて知識を伝授しますが、人の思考と行動は全てまちまちなのです。それで、学術と実践がよく乖離するわけです」。
「慈済人が世界で様々な善行をしているのは何故でしょう?彼らは別に事前に訓練を受けてから世界各地に出向いているわけではなく、災害が発生した国によっては、台湾から慈済人が支援に赴き、そこでの慈善支援を通して現地の人と知り合うようになるのです。人性(じんせい)の善により、現地の人は土地に不案内なこの団体を見て、熱心に現地政府との交渉や通訳の役割を買って出ています。その時から慈済が行っていることを理解し、感動して賛同すると共に、慈済人と友情を結ぶようになるのです。緊急支援の後に、中長期的支援プロジェクトがある場合、彼らは喜んで連絡係になり、関係事務を手伝いますが、そうやって人間関係が出来上がるのです。ですから、慈済は学術界やそこの国の政府と交流するのではなく、愛と善を発揮して、各方面の人と共に慈善を行っているのです」。
上人は学術と教育が結合し、慈済人が実践していることが学術理論になり、それを学習に提供すると共に、学ぶ者が思想理論を実践するよう導くことを望んでいます。以前は先ず慈善活動をしていたため、行動が理論の前にありました。しかし、今の国際社会は、学術的に慈善を理解してから、群衆に混じって実践するようになっています。
上人はこう指摘しています。「以前は教育が行き渡っていませんでしたが、家庭と社会が人々に親孝行や善行を教えていました。しかし、今の人は学問や地位を重視し、価値観が異なっています。しかし、未来の世の中が道徳観を欠き、ハイテクによって権力と利益を奪い合うことで、社会が混乱に陥り、危険な状態になる危機を孕んでいます」。
どうやって偏った観念を正しく導いたら良いのでしょう?上人はこう言いました。「ただ道理を話すだけでは、相手はそれを聞いても心に留めるとは限りません。縁のある人なら、軽く言った一言を重く受け止め、人生を変える良薬になりますが、縁のない人にどれだけ重い話をしても、心に感ずることはなく、子供が吹くシャボン玉のように、直ぐに消えてなくなってしまいます。ですから、衆生を正しい方向に導く最も良い方法は、自分から実践して、人に伝えたい道理を示し、身でもって人々の模範になることです」。
「慈済人の真心からの善意は、言葉と行動に現れています。例えば、福祉用具の回収ですが、民衆から使わなくなった電動ベッドや車いすがある、という知らせを受けると、慈済人は出向いて回収し、丁寧に整備や修理をしてから大事に保管し、それらを必要とする人が現れた時にその家に届け、ちゃんと使えるように設置し、使い方まで教えます」。
「慈済人は物の寿命を有効活用し、生命を愛護しています。人も物も心から惜しむため、その行いの全ては愛と善があることを教えています。「愛と善」は簡単に聞こえても、一人ひとりの心に行き渡らせるには、生活や行動の中にそれを発揮させるべきですが、非常に難しいことでもあります。しかし私は、世界中の慈済人が志を一つに、大衆の良い模範となっていることにとても感謝しています。誰もが慈済と聞けば、善行する団体だと分かり、一旦慈済と接点を持てば、感動を与えられ、自発的に投入するようになって、全ての慈済人と同じように行動して、同じ方向に向かい、同じような生命の価値を持つようになるのです」。
独りぼっちではなく、体を動かし、楽しく余生を送る
七月五日、教育志業の教師たちの報告で、若い時に勉強ができなかったお年寄りが学校に通いたいと思っている、という話をしました。それに対して上人はこう言いました。「今は定年退職の年齢が六十五歳で、六十五歳以上は老年と定義されています。実は六十歳や七十歳はまだまだ活動でき、定年退職して暇を持て余しているため、何かすることを見つけなければなりません。オンライン講座をお年寄りの終身学習の場にするのはいいことですが、人との接触が足りません。医療専門家によると、人体の老化や反応の衰えは、人との接触不足が関係しています。今の家庭は、若い人と子供が日中、仕事や学校に出かけ、家にはお年寄りしかいないため、相手になる人も話し相手もなく、体の動作や思考反応が容易に退化してしまったり、心が生理にも影響して自分は歳だから役に立たないと思い込んで、悲観的になったりするのです」。
「各地でお年寄りのための講座を開いて、同世代の人たちと一緒に勉強する機会を与えているそうですが、これはとても良いことです」。そして、上人はこう言いました。「慈済のリサイクルステーションでは年齢や生活背景の異なる人たちが来ていますが、皆一緒に回収した資源を分別し、互いに良好な交流をしているため、彼らにとって心身の健康の促進になっているのです」。
「ステーションには、暇で何もすることがない人たちが行くだけでなく、多くの人は仕事を終えてから出向いています。特に週末はもっと多くの人が来て奉仕しています。それは、リサイクルステーションにいる人たちは皆、誠意を持っているので、気軽に接することができるからです。少なからぬ高学歴の人たちによれば、リサイクル活動に参加して初めて、普段自分が捨てている廃棄物が実は回収して再利用でき、以前は資源を浪費していたことを知ったそうです。従って、これは非常に現実的な教育と言えるのです」。
上人は教師たちに、「今、世界中で環境保全をとても重視しています。慈済は環境保全を始めて三十年余りになり、既に国際的にも注目される成果を出しています。そこで、教育志業が環境保全に関する教育講座を開いて、それを口先で語ったり民間団体のスローガンにしたりするだけでなく、学術教育への賛同や推進になることを期待しています」と言いました。
(慈済月刊六八二期より)