コロナ罹患後・回復のための手引き

この二年半のコロナ禍で、感染確定者の人数は台湾の人口の一割を超え、家庭や学校、職場に大きな影響を与えた。

療養して回復に至るまでの経験と医療スタッフによる専門知識が役立って、社会全体はこの災厄からの回復へと向かっている。

1カ月以上続いた感染ピークを経て、6月になると、公共の場では人の流れが徐々に戻り、人々はウイルスとの共存を学ぶようになった。

五月中旬、台北市に住むサラリーマンの呉さんは、退勤して家に戻った後、呑み込む時に喉に違和感を覚え、熱があるとも感じた。簡易検査をして、翌日に病院でPCR検査を受けた結果、新型コロナウイルスに感染したと診断された。「喉に引き裂かれるような痛みを感じ、声が出なくなり、食事をする時も喉が痛みました」。呉さんの症状は三〜四日続き、ひどい風邪にかかったような感じだった。

自宅療養していた間、呉さんはのど飴、市販薬、健康食品以外に、毎日二リットルの水を飲んだ。「静養して一週間後、回復したと感じましたが、体力は以前ほどでないことに気づきました。疲れやすく、時には息苦しくなり、一日に二回ほど咳をしました」。呉さんは、「これからはもっと運動して、規則正しい生活をして体調を整え、体力を取り戻したいと思います」と言った。

同じ五月に感染した五十一歳の陳さんは、回復後に体力が以前よりも無くなったと感じ、以前ほど多く仕事していないのに、直ぐ休憩したくなり、時には咳が出ることもあった。この病を経験して、彼女は、「新型コロナ肺炎は風邪ではありません。ウイルスが体内を動き回って、体の弱い部分を攻撃しているように感じます」と結論づけた。

感染者数が激増した4月と5月、病院ではPCR検査を受ける人が後を絶たず、コロナ病床と簡易検査キットの供給が一時逼迫し、国民全体が陣痛のような時期を共に歩んだ。

回復後の新たな課題

台湾のコロナ感染は五月にピークに入り、数カ月続いて、陽性者が三百万人を超えた。以前のアルファ株とデルタ株に比べ、増えているのはオミクロン変異株であり、重症化率と致死率は低く、陽性反応が出た人の九十九・六パーセントが軽症或いは無症状である。しかし、国内外の研究報告によると、一部の人は回復後に後遺症が残っているという。

昨年十月に、WHO(世界保健機関)がコロナ感染後の罹患後症状(Post COVID-19 condition or Long COVID)について定義したことを受け、台湾では「長期新冠肺炎」(略して長新冠)症候群という言葉が生まれた。通常新型コロナに感染してから三カ月以内に症状が現れ始め、最低二カ月間続く。よくある症状は、呼吸器系の症状、脱毛、湿疹、憂鬱な感じ、不安、不眠、動悸、胸の痛み、脳の霧など神経や認知障害などの後遺症である。

花蓮慈済病院呼吸器内科の張恩庭(ツァン・エンティン)医師は次のように説明した。新型コロナウイルスは全身の細胞に侵入するため、宿主の細胞に免疫反応が起き、臓器やシステムに炎症を起こす。急性期が過ぎて徐々に回復すると、一部の患者は炎症反応が完全に消えないために、症状が慢性化する場合もある。

高名な医学雑誌『ランセット(呼吸器内科)』が今年四月末に掲載したイギリスの研究報告によると、二〇二〇年から二〇二一年の間に入院した二千三百二十人の成人患者を追跡調査した結果、七割以上の陽性患者は退院して一年経っても、「完全に回復した」という感じがなく、しかも罹患後症状が重い人は、体内の炎症が悪化しているのが見られた。

軽症者或いは中等症患者にも後遺症が出る可能性がある。全米医師会(AMA)はこう指摘している。コロナの罹患後症状は大きく三種類に分けることができる。第一種は、肺線維症のように、ウイルスにより体内の臓器が直接的ダメージを受ける場合、第二種は、長期間の入院に関わる症状で、筋力や体力の低下などである。第三種は、回復後に現れる症状である。

昨年、感染した葉さんは、六月に病院で隔離治療を受け、十日後に回復した。「退院後に様々な後遺症が相次いで現れた感じがします。胸の痛みや咳、よく眠れない、記憶力の低下等です」と、心配そうに語った。お湯を沸かしていることを忘れて鍋を二つも焦がしたことや、更には、買物をしてお金を払ったのに、品物を持って帰るのを忘れたこともあるそうだ。

以前の健康状態をとり戻すため、葉さんは飲食を調整し、肉食を菜食に変え、毎日胸を広げる体操をして、午後は自転車に乗るようにしている。それに十分な量の水分を摂取し、常に血液中の酸素濃度を測っている。「現在の私は、以前よりずっと健康管理に注意しています」と彼は言った。

自宅療養を終えた回復者こそ、屋外で適度な運動をする必要があり、人と交流を続けることで、徐々に正常な生活に戻れるのだ。

規則正しい生活に戻り、ストレスを解消する

新型コロナウイルスと共存する環境では、まず感染しないように身を守るべきであるが、ワクチン接種は中等症や重症になるリスクを抑えてくれる、と張医師は説明した。回復した後に、日常生活の中で息切れや倦怠感を感じ、時に咳も痰も出るという記録もあるのは確かだが、このような症状に対する初期治療として、まず炎症反応を減少させ、その後に痰を取ることを主体にする。症状が改善されれば,心肺機能のリハビリに進み、毎日有酸素運動をしてもらっている。少なくとも三十分間は続けて欲しいので、ウォーキングや太極拳などがとても適しているそうだ。

飲食の方面では、気管支の収縮を引き起こして咳の症状が悪化するので、冷たい飲み物を飲まないようにと、台中慈済病院呼吸器内科主任の沈煥庭(シェン・ホワンティン)医師が注意を喚起している。

生理的な症状以外に、心理的にもストレスを受けることは避けられない。昨年陽性となって自宅療養中に症状が悪化し、一時は集中治療室で治療を受けた、曽さんには、多くの人が関心を寄せた。回復後、周りの人に励まされて、自ら医療スタッフと世話になった人たちに感謝の意を表したが、心の中にはまだ暗い影が残っていた。「自分は感染した」、「外は危ない」、「再感染するかも」、というように。退院して二カ月過ぎても、まだ怖くて外出できない状況が続いた。その後、友人の寄り添いと、仏法にも触れたことで、徐々に正念に転じることができた。「自分は健康を取り戻した。今、お世話になった人にお礼を言わなければ、いつできるのか?このタイミングを逃してはならない」と思った。

回復の道のりで体を休めることは必要だが、精神面でも癒しが必要である。もし「心の病」にかかったなら、周りの人の寄り添いが殊更必要だ。花蓮慈済病院精神医学部心理療法及び相談センター主任の林喬祥(リン・チァオシァン)医師がこう話してくれた。回復した人の中には、心的外傷後ストレス障害(PTSⅮ)に悩む人も少なくないが、注意力散漫、不安、気が塞ぐなどの原因は、生活のリズムが元の状態に戻っていないことによるものである。

林主任によると、治療中或いは療養の間、多くの患者はベッドで休み、以前の規則正しい生活とは全く違う生活を送って来たので、回復後はまず規則正しい生活に戻り、自分が快適に感じる方法でリラックスできるようになることが大切なのだそうだ。例えば、深呼吸、瞑想或いは久しく会っていない友人と会うことなどである。これらは全て、感染してパニックになった情緒やストレスを和らげることができるのである。

回復後の心身調整には時間が必要だ。引き続き日常生活に支障をきたす後遺症がある場合は、衛生福利部中央健康保険署が二〇二一年末に発表した「新型コロナ感染回復者外来往診統合医療プロジェクト」をもとに、大衆は地域の最寄りの病院に、呼吸器科、感染科、心身内科、リハビリ科、栄養科などによる回復後の患者に対応する総合的な外来があるかどうかを、予め検索することができる。そこでは、専門医師の診察によって、関連したいくつもの科の医師たちが合同で診察してくれる。

日常生活では、漢方医や栄養士の専門的なアドバイスを取り入れることで、感染した自分や家族のその後の体調を管理し、運動やリハビリなどの方法で、体力を回復させることだ。感染後の新生活では、感染による影響を軽減するよう努め、より良い心身状態にして回復への道を歩もう。

(慈済月刊六六八期より)

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