大学卒業後、本を出版し、TEDで講演し、自宅でマーケティング事務所を立ち上げることが、脊髄性筋萎縮症患者である陳景維の夢リストである。
彼は、全身で唯一動かせる右手の人差し指が硬直してしまったため、マウスを制御することができず、本の執筆は一時難しくなったが、十月にやっと順調に出版された。維維は次の夢の実現に向かって進んでいる!
『小さな僕が世界を変えたい』は慈済基金会のサポートで出版され、脊髄性筋萎縮症の少年、陳景維(チェン・ジンウェイ)の本の出版という夢を実現させた。彼、維維(ウェイウェイ)は自分がいつまで生きられるか分からない。人生がカウントダウンする中で難病と付き合いながら、毎日様々な宿題が課される。前に進むことが困難に満ちていても、彼は笑顔で向き合うと本に書いている。「逃げ出すよりも、向き合う方がいい。向き合うことで、希望が見えてくるのだ」。
その難病は、維維から全ての自立生活能力を奪い、魂を体の中に閉じ込めてしまった。しかし、彼が無気力と苦痛から抜け出し、自信を持って輝いていくのを目にすることもできた。実際、私たちは皆、人生のカウントダウンに入っているのではないだろうか。人生とは、毎日、望む通りにいくわけではなく、誰もが困難や挫折に直面する。挫折というブラックホールにも似たものに絶えず熱意が吸い取られ、息ができなくなって、無気力になっていくような時、この本をお勧めしたい。彼の生命のストーリーを知って気がついてほしい。人生は時に突如、困難にぶつかるが、考え方を変えることでその隙間から抜け出すと、美しい出来事がいつもあなたの周りを取り巻いているのだと。
この本の四十七篇の心温まるストーリーには、心に沁みる言葉がたくさんある。その中の一つをあげてみよう。「ずっと自分の世界はこんなにも小いものだと思い込んでいました。本を出版することで、少しは広くなるかもしれない。慈済の人たちに出会ってから、心の大きさに比例して世界があることを知りました」。殆どの人は、自分が欲するものや成果、富、享楽を追求するために非常に多くの時間を費やし、自分で自分を枠にはめている。周囲の環境がそうするのではなく、他人が評価するのでもなく、自分で評価しているのである。維維は夢を追いかけることに始まって、自分が向かうべき方向を見つけた。また、その過程で多くの恩人による成就があったことに気づき、それに感謝の気持ちを持ったからこそ、より多くの人に影響を与え、共に人生を大切にし、人の役に立つようになったのである。
「呼吸は人がこの世界に存在している証である」。それはありふれた道理に聞こえるかもしれないが、この本を読んで維維の人生を理解すれば、全く異なった体得が得られるはずだ。例えば、スムーズに呼吸し、毎日変わらず健やかに目を覚まして自由自在に歩くことが、当たり前のことだと思われがちだが、実は得難い幸せなのだ!
無常は日常的に存在するのだから、生きていることは幸せだ。維維の物語はそのような力に満ちている。
「なぜ本を出版したかったのですか?」。夢の実現プロジェクトを担当した私は家庭訪問した時に、最初に維維にそう尋ねた。
「自分の人生のストーリーで、より多くの人に影響を与え、励ましたいと思ったからです」。維維の眼差しは澄み切っていて、自信に溢れ、未来にあこがれる顔をしていた。明るい笑顔だった。初めて会った時のことを思い出した。電動車椅子を運転して興奮気味に出発する姿勢が、私の目には、人の心を癒す絵のように写った。
大学4年生の陳景維は生まれて初めて本を出版し、その印税を慈済基金会のコロナ予防に寄付すると共に、脊髄性筋萎縮症協会、希少疾患基金会などにも恩返しをした。読者が一緒になって公益に参加することを願っている。
過去十カ月間、本の執筆と編集は数多くの変化球に見舞われた。維維は病気の進行を遅らせるために頻繁にリハビリ治療を必要としていた上に、学業と講演、資格試験の勉強で忙しく、執筆する時間は多くなかった。二〇二一年の三月初めには、唯一動かせる右手の人差し指が突然硬直し、マウスが使えなくなってしまった。このようにスケジュールが大幅に遅れ、何度も困難に遭遇したが、幸いにも維維と編集者が努力したおかげで、本はようやく完成した。
一本の指で本を出版するという感動的な心温まる奮闘の物語は、あらゆる人生には温かい愛と真の理解が必要であることを証明した。自分を助けてくれる恩人に出会わなかったことを恨むような人には、恩人に出会う前に先ず自分の恩人になればいいのだと、維維のストーリーが教えてくれる。維維はあらゆる物事を誠実に行い、かつ親切に周りの人に接する。するとその姿に感動して、誰もが必要な時に喜んで助けてくれるようになるのである。どんな困難に遭遇しても、維維は生命の忍耐強さを発揮し、それが他の人を啓発していくことがわかる。この本の価値はそこにある。
この本を唯一無二のあなたに捧げ、維維のストーリーから真の自分を見つけ、常に初心に戻り、無限の可能性を実現してほしいと願っている。
(慈済月刊六六〇期より)