昨年一月下旬に台湾で最初の新型コロナウイルスの域内感染者が発見されて以来、慈済はコロナとの戦いの手を休めたことはない。今年五月にコロナ禍が深刻化し、感染拡大防止のために外出が自粛されるようになったことを受けて、慈済はすぐに慈善活動の内容を見直した。
スクリーニング検査体制を強化するため、地域や病院の屋外検査ステーションの設置を支援。
恵まれない家庭の子どもにオンライン学習のための設備を提供。生活支援のための「安心生活ボックス」を配付。社会が必要とする限り、慈済は常にそこにいる。
慈済のコロナとの戦いは、数えてみると五百日を超えていました。その間、私たちは手を休めたことはありません」。
昨年一月二十八日、旧暦の正月四日に、台湾で初めて域内感染者が発見された。慈済基金会の顔博文(イェン・ボーウェン)執行長はこう振り返る。
「あの時以来、毎日午前中、静思精舎では『慈済世界防疫調整総指揮センター』の会議が開かれています。四大志業の責任者は、世界的なコロナの流行と変化に対応して、走りながら考えるローリング方式で対応策を話し合ってきました。そして、台湾の深刻なマスク不足を受けた緊急の布マスクの製造、自宅隔離者への安心祝福セットの提供、コロナ禍の影響を受けた家庭や子どもたちへの支援などを行ってきました」。
台湾では、適切な感染拡大防止措置によって、去年の感染状況は比較的落ち着いており、世界の慈済人は、そのリソースやエネルギーを、感染状況が深刻な海外地域の支援に注いできた。ところが、今年五月から台湾の状況が深刻になってきたため、慈済は焦点を再び台湾に戻すことにし、毎日午前八時ちょうどからオンライン防疫会議を開いて、何らかの行動を取ってきた。医療スタッフは病棟や検査ステーションで奔走し、警察や消防、軍は社会の安全を守る重責を担って昼夜を問わず働き続けた。慈済ではボランティアの人数を絞り、最前線でコロナと戦う人たちや恵まれない人たちに対する支援を行い、集会人数の制限を守りつつ、防護具や生活物資、緊急見舞金等を届けてきた。
台北市聯合病院陽明院区救急外来の外で、医療スタッフが市民の検体を採取していた。多くのコロナ感染流行地区では簡易検査の定員がほぼ即座に埋まってしまう。最前線で働く医療スタッフや警察官、消防隊員の負担のほどがわかる。(撮影・蕭耀華)
長い間、地域の警察官をねぎらうボランティアをしてきた翁千恵(オン・チエンフイ)さんはこう語った。
「ステイホームをするにしても、ずっと怖がってばかりいるのではなく、『自分に何ができるだろうか?社会のために少しでもできることはないだろうか?』というふうに考え方を変えなければいけません」。
そこで、彼女は自分から警察や消防に必要なものはないかと尋ね、「慈済警察官・消防士とその家族の懇親会」にある資源を集めた。政府の感染拡大防止措置を遵守するため、ボランティアは少人数にとどめ、フェースシールドとマスクでしっかり防護して、専用車両で感染予防に必要な物資を前線に届けた。
慈済が長期的に支援しているケア世帯に対しては、差し迫った必要のない限り、原則としてボランティアは電話訪問に切り替えた。五月中旬から下旬にかけて、ボランティアがケア世帯にかけた近況伺いの電話は、北部地区だけでも五千本を超えた。その他、高雄のフェースシールド製造の場所を、静思堂から各ボランティアの自宅へと柔軟に変更した。一切の「愛の行動」が、常ならぬ中でも変わることなく「愛を伝えた」のである。
雪中に炭を送り、不足を補う
政府の感染防止策の規定により、店内での飲食が禁止され、テイクアウトのみとなると、慈済ボランティアは理念に賛同する飲食店と協力し、愛心弁当を作って菜食の推進を続けた。台北市の慈済ボランティア・紀雅瑩(ジー・ヤーイン)さんは、最前線でコロナと戦う「戦『疫』部隊」を励ますため、慈友会、北区慈済名誉董事会と共に資金を集める一方、菜食レストランを支える意味もあって、協力してくれる飲食店と話し合い、コロナ対策の大変な仕事を担う人たちに、二カ月間にわたって無料の弁当を届けた。台北市東部のあるレストランの相談役は、「植物性のパワーあふれるお弁当で、皆さんに元気と活力を届けたいのです」と語った。
「愛心弁当」を受け取った台北慈済病院からも心温まるお礼のメッセージが届いた。病棟看護師長の陳美慧(チェン・メイフイ)さんは、カードにこのように書いた。
「みなさんがコロナ対策の医療チームに届けてくださった昼食で、おなかがいっぱいで幸せな気持ちになっただけでなく、コロナと戦うエネルギーにもなりました。本当にありがとうございました。五行の考えを取り入れたバランスのよい健康野菜料理はどれもおいしくて、ベジタリアンではないスタッフも毎日楽しみにしていました。みなさんの心遣いと愛が伝わってきて、胸がいっぱいになりました。みなさんのおかげです!」
紀さんも感激してこう言った。
「全身に防護具を着けた医療スタッフが、食事もトイレもままならない中で長時間勤務しているのを見て、『彼らのために何かできないだろうか』と思いました。それで、彼らが『鎧』を脱いだ後に、すぐ食べられるものがあったらいいなと思ったのです」。
彼女はほかにも、生き物を守り、殺生を減らす菜食を広めることで、一人一人に愛の心が湧き、コロナ禍が一日も早く終息するよう祈って欲しいと願った。
各自治体の警察官は、感染拡大防止への調査協力、市民へのマスク指導、さらに日常の取り締まり、パトロール、交通事故や治安事件の処理などで、常に不特定多数の人と間近で接触しなければならないことから、高い感染リスクに晒されている。そこで、ボランティアは急いで防護服、手袋、アルコール等を届け、勤務時の「より一層」の安心を提供した。
台湾全土で検査を必要とする人数が急増したことから、各地の検査体制が逼迫し、地方自治体からプレハブ検査場の増設が次々と打診された。慈済では土地の広さを詳細に検討し、長期的に協力できるメーカーを急いで探し出し、それぞれの場所に合った検査ステーションを建てていった。六月中旬現在で、十一の自治体に二十五棟の検査ステーションが次々と完成した。
台北市聯合病院陽明院区に建設したプレハブは、二十四坪のハイグレードな検査ステーションである。順番待ちエリアや接種後の経過観察のための待機エリアなども設置されている。この工事を担当した慈済基金会建設処スタッフの鄧乃仁(ドン・ナイレン)さんは、こう話してくれた。
「メーカーさんは人手不足にもかかわらず、社会が必要としていることだと分かってくれて、すぐに建てられるよう、連日急ピッチで材料の発注や納入、そして、残業して組み立ててくれたのです」。
同じ頃、慈済は台南でも検査ステーションの建設支援を進めていた。建設処関係者と作業員らは雨の中、五日足らずで新化体育公園と台南松柏育楽センター駐車場の二棟のプレハブを建設し、台南市衛生局に寄贈した。
恵まれない家庭に救いの手を
五月十五日、台北市と新北市のコロナウイルス警戒体制がレベル3に引き上げられ、外出の自粛が呼びかけられた。低所得世帯は外での買い物もままならないうえに、さらに収入まで失ってしまった。これを慮った新北市社会局は真っ先に慈済に連絡し、社会福祉センターが必要としている物資について話し合った。慈済はすぐに物資を調達し、たった四時間足らずで包装して箱詰めまで済ませた。即席麺やビスケット、『静思語』など十種類以上の生活必需品が入った「安心生活ボックス」と、一世帯につき十キロの白米が五日とかからずに北部へと運ばれた。そして、新北市三重区社会福祉センターなどに到着し、社会局のソーシャルワーカーによって管轄内の低所得世帯に届けられた。
新北市政府社会局の黄逢明(ホワン・フォンミン)専門委員は、感動してこんな話をしてくれた。
「安心生活ボックスのおかげで家族の状況は変わりました。ある孫育て中のお祖母さんは、孫に食べさせるお米がないことを心配していましたが、安心生活ボックスのおかげで、収入のない期間も孫におなかいっぱい食べさせられるとほっとしていました。身内が陽性と判定されて全員が自宅隔離となった家では、何気なく『静思語』を開いて読んだ時、不安だった心もだんだんと落ち着いてきたそうです」。
最前線のソーシャルワーカーによって届けられた安心生活ボックスが困難な家庭の状況を改善したことは間違いない、と黄さんも確信している。感染が深刻化する中で、政府と民間が手を携えて取り組んだこと、また社会で立場の弱い人への奉仕に対する揺るぎない意志、それらに何よりも感動を覚えたのだそうだ。
教育部は、五月十九日から台湾全土の学校で全面的にオンライン授業に切り替えると発表した。慈済ボランティアは電話慰問を通じて、多くの低所得世帯の子どもたちがオンライン学習用のパソコンを持っていないために授業を受けられないこと、あるいは、スマートフォンの小さな画面で授業を受けるほかなく、効率が悪いことが分かった。そこで、慈済のボランティアとソーシャルワーカーたちは具体的に検討し、ノートパソコンの購入費用を補助することにした。
慈済基金会北部地区のソーシャルワーカー・陳宜適(チェン・イースー)さんは、あるケア世帯の例を挙げてこう教えてくれた。その家には職業高校の広告デザイン科で学んでいる娘さんがいるのだが、家にパソコンがないため、いつもクラスメートのノートパソコンを借りて宿題をしていたそうだ。前向きに頑張る娘さんの姿を見かねて、学校の先生が慈済ボランティアに報告してきたのだった。ボランティアたちは、彼女が安心してオンライン学習ができるように、デザイン専門の学生にふさわしいパソコンを選んであげた。
ソーシャルワーカーの魏伶娟(ウェイ・リンジュエン)さんによると、慈済ボランティアが長期ケア世帯に電話で近況を尋ねる際は、いつもの会話に加え、「お仕事に影響はないですか?」、「お子さんは在宅学習で何か困っていませんか?」、「生活はどうですか?」などと尋ねることにしているそうだ。新住民家庭や隔世家庭の中には、経済的に打撃を受け、すぐに子どもたちの学習に必要な物を揃えることができない家庭も少なくない。そこで、子供が安心して勉強できるよう、ボランティアたちは古いノートパソコンを整備して、必要としているケア世帯に寄付すると共に、補助の申請を手伝ったり、三カ月分のブロードバンドの設置を支援した。
また、長く教育問題に取り組んできた台湾大学電機学科の葉丙成(イエ・ビンズン)教授らの調査で、ステイホーム期間中、家にネット環境がない貧困世帯の子どもが二万人いることが分かった。そこで教授は、慈済と協力して4Gのルーターを提供する資源を探した。その過程で旅行会社のケイケイデイ(KKday)や無線ルーターメーカーの桔豊科技公司(jetfi)などからも協力してもらえることになった。慈済は一万五千台のルーターを二カ月間レンタルし、六月七日に各自治体の教育局に届け、貧困家庭に無償提供した。これにより子供たちも快適にオンライン学習に取り組めるようになった。
警戒レベル3が六月末まで延長されることになった。まもなくやってくる二カ月の夏休み期間に子どもたちがきちんと食事が摂れるよう、慈済は六月十一日、まず基隆市政府と協力して、市内二千世帯余りの恵まれない家庭に「安心満腹ボックス」と「健康野菜果物ボックス」を提供することにした。「安心満腹ボックス」の中身は「安心生活ボックス」とほぼ同じで、「健康野菜果物ボックス」は、地元の農民の応援も兼ねて地産地消とし、七月と八月に一回ずつ配送することにした。現在、他の自治体とも支援について協議をしているところだという。
「このコロナ禍にあって慈済はどこへ行ったのか、と少なからぬ人に聞かれました。私は、『慈済はずっとここにいるし、忙しくて休む暇もありませんよ』と答えました」。顔執行長によると、感染拡大防止や支援のための活動は続けられており、この期間中、恵まれない人たちへの「安心生活ボックス」も、自宅隔離者への「安心祝福セット」も、物資の手配から包装まで全てが一大作業なのだが、ボランティアも動員できない今、重くて大変な梱包作業の大半は、静思精舎の尼僧たちや花蓮本部のスタッフが担っているのだという。
「静思精舎は本当に世界の慈済人の後ろ盾なのです」。
顔執行長は、慈済は着実にやるべき仕事をし、ひたすら自己の無私と他者の愛を信じ続け、希望を持ち続けていると言う。
「六月中旬までの統計で、慈済が寄贈した感染対策物資や救援物資はすでに二百万点余りに上っています。この数字からも、私たちが支援の手を休めていないことが分かっていただけたと思います。コロナが収束しない限り、慈済のコロナとの戦いも中断することはないのです」。
(慈済月刊六五六期より)