安美プロジェクト・万一の時の予防

二〇二〇年三月、慈済は「安全な住まい・善美なコミュニティ(略して安美)」というプロジェクトを始動した。その中の「安全な住まいへの改善」という項目では、村長や里長たちと一緒に、一人暮らしの高齢者や身障者、弱者世帯に関心を寄せ、「予防」という観点から「家での安全」プロジェクトを始動させた。昨年末の統計によると、既に三千七百五十世帯で改善工事が完了した。ケア世帯は台湾全土十六の県と市に及び、数百の里に上る。 

この住居安全サ―ビスは、大半は小さな取り付けや修繕で済む。例えば、高齢者の家の風呂場や廊下に手すりや滑り止めを付けたり、高齢者が上り下りできるスロープを付けたりすることや照明設備の改善、和式トイレから洋式への改装、使わないバスタブの撤去など様々である。日常生活におけるちょっとしたことで、社会の表には出ないが、極めて厳粛な問題なのである。

政府衛福部の二〇二一年の統計によると、六十五歳以上の高齢者が事故で死傷する原因の一位は「交通事故」で、二位が「転倒」である。調査する過程で分かったのは、主な転倒の原因は、「滑ったりつまずいたりすること」によるものだ。ということは、転倒防止がとても重要であり、さもないと高齢者の自立した生活が奪われ、寢たきりになったりして、その後は介護が必要になって、家庭や社会、国の健康保険などに大きな負担を掛けることになる。

手すりや滑り止めマット或いはバリアフリ―のスロープなどの設置は、あまり多くのお金がかからない。東山区のような田舍の高齢者たちは、経済的に問題がなく、生活で多少の不便を感じても、往々にして現状に慣れてしまい、変化することを嫌ったり、どう支援を求めたらいいのか分からなくなったりするのだ。

台湾は、超高齢化時代を目の前にして、一人暮らしの老人、老老介護、高齢で自立した生活ができない、という状況やその流れは、より現実味をもって迫って来ている。高齢者が日常の立ち居振る舞いをする中で、滑り止め防止などの安全措置は最も基本的且つ重要なことであり、「未然に怪我を防ぐことができる」最も簡単な方法と言える。

高齢者の一人住まいや弱者世帯向けの様々な居住環境での修繕など、慈済は半世紀以来、早い段階からこの慈善活動を行ってきた。その主な対象は、慈済がリストアップしたケアを必要とする世帯で、あちこちに散在した案件をケアしている。しかし、この三年間行ってきた「安美プロジェクト」は、一つひとつのコミュニティを主体にして進められてきており、積極的に町長や村長及び有志者と連携して、自分たちのコミュニティにいる独居高齢者や弱者、身障者を守ることに期待を寄せている。

楊お婆さんは一人暮らしだが、ボランティアが訪問してアセスメントをした後、庭と浴室、お手洗いに通じる廊下を作った。その後、特別に再訪して検査し、さらにビスで補強した。お婆さんは嬉しそうにボランティアと記念写真を撮った。

慈済はケア世帯数の上限を設けることはなく、ひいては大勢のボランティアを動員し、グル―プに分かれて各地域に出向いているのである。慈済のこうした家庭訪問や実地調査に基づいて修繕するという方式は、台湾全土でほぼ同じように行われている。それだけでなく、今では一歩踏み込んだ慈善奉仕も行われている。例えば、台湾全土のコミュニティで長期介護、愛心弁当、更には無償で回収して修理した福祉用具などを提供している。

慈済は台湾全土二十一の県や市と協力の覚書を交わしている。公私の協力を通して、慈善、防災、環境保護、公益などの方面で、夫々のコミュニティが安全防護ネットを立ち上げ、幸福且つ健康で永続的な住みやい街作りを目指している。

居住の安全に関する些細な修繕でも、「共善協力」プロジェクトの小さな一環であり、高齢化社会では、日常で最もよく見られると同時に、実感できる奉仕の一つである。プロジェクトは現在進行形で、慈済は、人々が隣人に関心を寄せて助け合うことで、高齢化社会における「繋がりネットワーク」を構築しようと呼び掛けている。

(慈済月刊六七八期より)

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