基礎教育|シッダールタ小学校の一日

生徒の身だしなみが乱れていれば、彼は積極的に整えてやる。
生徒の鉛筆が折れたら、鉛筆削りを手伝う。
毎日放課後、彼は校門に立って皆にさようならを言う……
子供たちはそんな校長先生の優しさを感じている。
だから、毎日の登校が待ちきれない!

ネパールの一般の学校は、午前十時から授業が始まる。ルンビニ‧ガーデン志業パークの北側にあるシッダールタ小学校は、朝、校門が開く前から子供たちがそこで待っている。中には待ちきれず、校門の下の隙間から学校にもぐり込む痩せた小柄の子供もいる。

校門が開き、生徒たちは教室に入って鞄を置くと、環境の清掃を始める。校庭でゴミ拾いをする子供もいる。小さな校庭は清潔で整頓されているが、昨年まではこうではなかった。

二○二二年八月、慈済ボランティアが初めて訪れた時、校庭には雑草が生い茂り、教室の窓は壊れていた。寒い冬になると、冷たい風を遮るために、学校側は編んである袋を掛けるしかなかった。子供の中退率は五割にも達していたし、教師不足や粗末な設備等、様々な課題にアダフ校長は無力感を抱いていた。

この十カ月間、慈済ボランティアは教室の修繕と文房具の配付以外に、子供たちに、手洗いの習慣や食事の時の衛生習慣、身だしなみを整えることを教え、ゲーム感覚で子供たちに静思語の意味を体得させた。シッダールタ小学校で四カ月間余り科学と数学の先生をして来たアジェさんは、子供たちの変化に気づいていた。「以前、子供たちは汚い格好でしたが、今そういう子はいません」。

教師不足のため、シッダールタ小学校は五年生クラスまでしかない。慈済が教師二人の追加採用を支援したお陰で、四月から始まる新学年には、六年生クラスが増設された。五年生の子供たちは転校する必要がなくなり、中退する可能性も低くなった。一方、生徒が増えたことで、厨房を教室に変えたため、昼食は教室の裏で準備しなければならなくなった。

午後、空に雨雲が現れると、校長先生は下校時間を三十分早めた。彼が校門に立つと、子供たちが次々に手を挙げて、「バイ、バイ」と言いながらハイタッチをして下校した。

アダフ校長は多くの学校に、「慈済基金会の中途退学者ゼロ計画」に参加するよう呼びかけると共に、慈済教師懇親会の制服を恭しく着て、ボランティアと一緒に家庭訪問をしている。かつてボランティアをしたこともあるアダフ氏に、なぜ慈済人をそれほど信頼するのかと聞いたことがあった。彼は、シンガポールとマレーシアの慈済人が、家族と仕事を置いて自費を負担してまでネパールに飛び、私に会いに来て、学校のグラウンドでゴミ拾いまでするなどとは、考えてもみなかったそうだ。「多くの宗教の信者は、善行はしますが、身を以て実践していません。しかし、慈済ボランティアが身でもって模範を示したことは、黄金を手に入れるよりも価値がありました」。

学校の雰囲気が変わった。アダフ氏はもはや、叱ったり叩いたりすることはなく、愛でもって子供に接している。教育の熱意に満ちた彼は、自らをルンビニ教師組合の会長に推薦し、より多くの学校が教育上の困難を改善できるよう指導したいと考えている。

シッダールタ小学校の生徒たちは毎日、登校すると自発的に教室を掃除している。人文教育は教科書に書いてあることだけではなく、日々、知らず知らずのうちに感化されるものである。(写真・楊文輝)

サンジャナちゃんはシッダールタ小学校の三年生だ。父親は一カ月前にマレーシアに出稼ぎに行っているが、母親のスニタさんは、子供の変化を大いに称賛した。「以前は、学校から帰るとカバンを放り出して人形遊びを始めていましたが、今は、自分の持ち物を整理してから、自発的に習ったことを復習するようになり、弟とも喧嘩しなくなりました」。

「ボランティアたちが学校に来てから、娘は、物を大切にすること、身の回りを清潔にすること、笑顔で人に接することが大切なのだと私に話してくれました」。スニタさんは、娘が新しい知識を学んで、それを生活で実践していることが一番嬉しいそうだ。

サンジャナちゃんが毎日学校を欠席しないのは、「学校に通うのはもっと良い人間になるためです」と校長先生が言ったからである。ボランティアはサンジャナちゃんに、「なぜ学校に行くのが好きなの?」と聞いた。すると、

「校長先生も、先生も、前より優しくなったのです。私たちを叱ったり、叩いたり、大声を出したりしなくなって、同級生たちの間では、文房具を貸し借りするようになったからです」。

スニタさんは、シッダールタ小学校に大いに期待を寄せている。「私は娘の将来を手伝うことはできません。彼女が自分で夢を叶えるには、教育が一番必要なのです。学校に十二年生クラスまでできることを望んでいます。村の子供たちが安心して学べ、交通の問題で中退する必要もなくなるからです」。

(慈済月刊六八一期より)

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